とある英雄達の最終兵器

世界るい

第135話 執事よ完璧であれ

 リエース国某秘密アジトにて──。


「たいちょー。カントワの森の召喚陣を起動した際に生まれた人形スけど、なんかレファンドパオーヌに乗って、学生たちのとこに突っ込んでいったみたいスけどー」


 遠視の魔法を使い、召喚陣を監視していた魔術師の一人が異変に気付き、上司へと報告する。


「あ゛ぁん? 何寝ぼけ──マジかよ」


 リクライニングチェアを限界まで倒し、魔術書は顔に乗せ昼寝していた隊長はそのフザケた報告にイライラしながら起き、遠視の魔法を使ったところで──目が覚めた。


「どうしゃすー? カミラ副官に報告──」


「するわきゃねぇだろ! 第三魔術師隊のせいで国に勘付かれたとなりゃ俺たちは殺されるぞ。学生だけならなんとでも誤魔化せる! お前ちょっと行って人形だけ消してこい!」


「え……い、嫌ッスよー。あんなに人の目あったら絶対俺の姿見られるじゃないスかー。そしたら俺も殺されちゃいまスよー」


「つーか、なんで接触するまで気が付かなかったんだよ!!」


「いやー、それが召喚されてすぐに行方が分からなくなっちゃったんスよー。たははー。不思議スねー」


「あ゛ぁん? んだそりゃ! ふざけんじゃねぇ! てめぇの責任じゃねぇか! よし隊長命令だ。逝け」


「いや、しっかり見てたんスよ! てか今、イントネーションちょっとおかしくなかったスか?」


「えぇい、ごちゃごちゃうるせー! わぁったよ! 行ったら二階級特進させてやるから、な?」


「やっぱ殺す気じゃないスかーー!! たいちょーのバーカ!!」


「あっ、てめぇ、上司に向かって──!!」


 こうして、秘密アジトはわりと呑気に事態を見守っていた。


 一方、遠視の魔法を警戒し姿を消しながら誘導してきたテュールは──。


「よし、俺は一学生としてあいつを倒す。あーあー、コホンッ。あれれー!? おかしいぞー!? こんな森の中でレファンドパオーヌさんに出会ったぞー? よーし、みんなに危険が及ぶ前に帰ってもらおー!」


 実に白々しい演技をするのであった。そして、レファンドパオーヌを撃退しようと走り出した所で──。


「全員退避!! 模擬戦は中止だッッッ!! リエース校の講堂にて待機していろ!! 迅速に動けッッッ!!」


 ルーナが突如現れ、叫ぶ。両校の生徒は突然のことにキョロキョロと周りの様子を窺い、どうしたものかと戸惑っている。


「ハルモニア校、反転!! 殿しんがりを務めているAクラスを先頭に離脱!! 隊列を乱すな!! 次いでF、G、Bと続け!! 殿はSクラスが引き受ける!!」


 クルードの発言にハルモニア校の生徒は一斉に頷き、体を反転させ、離脱を図る。


「こちらもだ! 全員撤退! ザック、ほらもたもたするな! 行くぞ!」


 リエース校では総大将のお守りをしていたダルヴィスが指揮を取り、撤退を始める。


 その間、ルーナが全員を撤退するだけの時間を稼ごうとレファンドパオーヌを魔法で拘束しているが、その膂力はハルモニア校教師をもってしても完全に押さえきれず、その長く太くたくましい鼻を振り回し、周囲の木々を薙ぎ倒している。


「……チッ、このバカ力めが!!」


 それでもルーナはレファンドパオーヌをなんとかその場に留めることはでき、生徒たちが撤退する時間を稼ぐことに成功する。
 

「ふぅー……全員撤退したか。さて、テュール、アンフィス、ベリト、ヴァナル! いるなら出てきて手伝え!」


 そしてルーナは視界の端でコソコソしているテュールをはじめ、四人の生徒の名前を呼ぶ。


「はい、おりますっ!」


「うーい」


「はいはーい」


「畏まりました」


 当然、撤退などしていなかった四人は横一列に並び、返事をする。そして指示を待たずに──。


「んじゃ、俺が上のをいただき──」


 アンフィスが跳び、レファンドパオーヌに乗っているゾンビもどきを蹴り飛ばす──否、消し飛ばす。


「では、私も手伝いましょう」


 パチンッ。執事が空高く手を掲げ、指を鳴らす。


 ズンッ。


 途端に周囲の重力が何十倍にもなり、ルーナに拘束され続けているレファンドパオーヌは呻きながらその膝を折り、その巨体を地面に沈ませる。


「んじゃ、最後はボクだねー」


 トットット。何十倍となった重力を感じさせないヴァナルが小走りに近づいていき、文字通り、目と鼻の先に立つ。


「森へお帰り」


 ニコリと笑ってそう言葉を発したヴァナルは細められた目を僅かに開き、まっすぐに目を合わせる。その平坦な調子の言葉とは裏腹に眼光は鋭く、神獣と呼ばれる獣の頂点に立つ者の眼がそこにはあった。


 射竦められたレファンドパオーヌ──その血走った目には理性の光が戻り、次いで恐怖の色が浮かぶ。それと同時に赤黒く屹立した鼻もしおしおと萎れ、その重力により地面へとしなだれてしまう。


「勝負、あり、だな」


 腕を組み、仁王立ちとなったテュールが出来るだけ渋い声で決着を言い渡す。今回、彼がしたのはこの言葉を発するだけであった。言い換えれば何もしていないと言える。


 パチンッ。


 そんなテュールの言葉にも恭しく頷き、執事は再度指を鳴らす。途端に重力が軽くなる。ルーナもしばらく様子を見て、暴れる気配がないことを確認すると拘束の魔法を解く。


「ばいばーい」


 最後にヴァナルが笑顔で手を振ったところでレファンドパオーヌはのそりと起き上がり、ゆっくりと来た道を帰っていった。


「さて、お前らよくやった……とでも言ってやりたいところだが、テュール?」


「ひゃい!」


「さて、レファンドパオーヌという学生にはとても荷が重い魔獣が出現したわけだが、この模擬戦を監視していた私がここで接触するまで気付かなかった。これは私が間抜けだったのだろうか?」


 ジーッとテュールの目を見つめながらルーナは問いかける。その視線は当然熱っぽいものなどではなく、冷ややかなものであった。


「え、えぇーっと。ルーナ先生におかれましては常日頃から勤勉に教鞭を振るっており、いかな優秀な先生であろうとも疲労というものは存在し、人である以上見逃すということも──」


「なるほど。では、私が疲れて見逃した、とそう言うのだな? 二言はないな?」


「すみません。わたくしめが認識阻害の魔法をレファンドパオーヌにも掛け、ここに誘導し、これを返り討ちにしようと考えました。申し訳ありません」


 凄まじい勢いで地に額を擦りつけテュールが二言を紡ぐ。そんな主の清々しいまでの土下座を見て、執事が一歩前へ出る。


「申し訳ありませんでした。ルーナ先生、これは私が言い出したことです。叱責は私の方へお願いいたします」


 この状況でなかったら見惚れてしまうほどの綺麗な礼をし謝罪するベリト。だが当然ルーナは──。


「このバカモノども!! 何を考え──!!」


 ガミガミ、クドクド。


 こうして、カントワの森で正座するテュールとベリトに対し、数分説教を続けたルーナは、はたと講堂へ向かわねばならないことを思い出し、早口に言いたいことを言い、切り上げる。


「テュール、ベリト、それぞれ反省文を3,200字以上4,000字以内で書いて提出しろ」


「……あ、はい」


「畏まりました」


 思わずめんどくささを顔に出してしまうテュールと、涼しい顔で了承するベリト。


「テュール? お前の反省の気持ちはたった一話分も書けないのか? 作者は毎週火曜と金曜に書いて提出しているぞ? お前も見習えバカモノ」


 そうだそうだ! おっと失礼。というわけで、最後の最後まで叱られ続けるテュール。


「では、講堂へ向かうぞ。当然お前ら四人は何をしでかすか分からないから一緒にだ」


「へーい」


「はーい」


 ようやく正座から解放され、ズボンの土を払った後、しょんぼりと後ろから付いていくテュール。だが、こんな時でもテュールは見逃さなかった。あの執事は正座している時も浮遊魔法を使い、地面に執事服を接触させていなかったことを。


(そこまでして完璧を貫くかベリトよ……)


「ん? どうかされましたか? 私の顔に何か?」


「んーにゃ、なんでもない」


 テュールのジト目に対し、不思議そうな顔をするベリトだがその視線と言葉だけで何を指しているか分かったようだ。いつもの微笑みを浮かべ、汚れてもいないズボンの裾を払うのであった。

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