とある英雄達の最終兵器

世界るい

第129話 当物語はフラグを立てて即回収をモットーにしております

 そして、テュール達が温泉でのんびりしている一方、リエース共和国の某所では――。


「お疲れ様です、カミラさん。首尾はどうでしょうか?」


 長身痩躯の優男ノインが、薄暗くひと気のない森の中で闇に向かって話しかける。


「はい、ノイン様ご報告いたします。――現在、召喚の陣の設置ポイントを全て決め、地図を作成しました。今から魔術師団による陣の書き込みに移るところです。ただ……」


 闇の中から音もなく現れたのは一人の少女。白銀の髪の毛を短く切り揃え、美しく整った顔。表情が変わらないため、まるで精巧に動くアンティークドールだ。


 そして、そんな少女からの報告を受け、何かを察したノインは目尻を下げ、微笑む。


「ふむ。ユグドラシルの方は調査が難しかったというところでしょうか? えぇ、想定の範囲内です。あそこには現在、ルチア、エリーザ、ローザ、イアンがいます。この四人の目を掻い潜って近付くのは無理でしょう」


「はっ。申し訳ありません」


「いいんですよ。それよりも良いことがありました。クク――」


 そして、ノインは可笑しくて可笑しくて堪らないという様子で片手で顔を覆う。その手の下、覆えていない口元は三日月のように大きく吊り裂けている。そんな様子を見て、カミラは僅かに体を硬くする。


「いい器が見つかったんですよ。今、この国に来ている遊楽団とかいう集団。えぇ、予てから報告では伺っていましたが、昨日初めて実際に見たら、とても良い素材が一人いたんですよ。その者の名は――」


 ノインが小さく、小さく、口唇を動かし声には出さずその者の名をカミラに伝える。


「というわけでカミラさん、以降のリエースでの作業は魔術師団に任せます。貴女はリバティへ行き、彼女たちの観察を命じます。あくまで観察のみですよ。あ、それと気をつけて下さい。恐らく遊楽団の護衛には――」


「護衛には……?」


「――禁眼がついています」


「……禁眼、ですか?」


 その名前を聞き、カミラは極僅かに目を見開き、言葉を繰り返す。


「えぇ、禁眼です。彼女たちに接した時にどこからか視線を感じました。それこそ蚊に刺された程度の違和感ですがね。ただその細い糸のような視線は私の全てを見透かそうとしましたよ。このような芸当ができるのは相当上位の魔眼ですし、王族を複数人護衛するには最上級の者をつけるでしょう」


「なるほど。了解しました。では気取られないよう細心の注意を払います」


「えぇ、そうして下さい。なに大丈夫ですよ。禁眼と言えど心を読むことなどはできないですし、その存在の秘匿性から表に出てくることもないでしょう。ただ貴女が捕まると少々厄介です。その時は分かりますね?」


 コクリ。カミラは表情を変えずに一つ頷く。


「よろしい。では、頼みましたよ」


 そして、その言葉に再度頷くと、カミラは現れた時と同様、音もなく闇の中へ消えていく。


(禁眼……。ギルドが秘匿に秘匿を重ねる秘蔵っ子。SSSランクでありながらその名前、容姿が全く外に漏れていない。ただ少女であると噂では聞きましたが、自分の目と耳で確認するまでは情報としては使えませんね。しかし、驚きました。私の中まで見通そうとする者がいるとは……。クク、クククク。器と禁眼、是非セットで手に入れたいものです)


 ノインの顔には狂気を孕んだ愉悦の笑みが浮かんでおり、僅かに周囲の景色が歪む。


「おっと、私としたことがいけない、いけない」


 慌てて、顔をスッと一撫でし、いつもの優男でにこやかな表情に戻す。そして、吊り上がりそうな口をなんとか抑えながら彼もまた音もなく闇へと溶けていった。


 そして、夜が明け、場所はセシリア邸。


 コンコンッ。


「ベリトです。失礼しますね?」


 ベリトはテュールの部屋をノックし、名乗る。この間に数秒の時間を置き、返事が返ってこないことを確認した後、ガチャリとドアを開け、主の部屋へと入る。


「テュール様、朝ですよー」


「……ぉ」


「お?」


 テュールが目を閉じたままモゴモゴと何かを喋ろうとしているため、ベリトは耳を主の口元へと寄せる。


「……おっぱいが……いっぱい」


「おや、とても良い夢を見ているようですね。では、多少強引に起こさせてもらっても釣り合いが取れるでしょう。というわけで――」


 掛け布団をサッと外す。しかし、尚も体を丸め惰眠を貪ろうとするテュールに対し――。


 ガシッ。


 執事はベッドシーツを掴む。そしてそのまま一気に引き抜きながら、テュールを宙へと飛ばす。


「……おっぱいが……くるくるぅ」


 テュールは天井ギリギリまで飛ばされながらも、寝言を口にし、目を閉じたまま伸身ドッペル二回ひねりを決め、華麗に着地を決める。


「おはようございます。テュール様」


「ん……。あぁーベリトおはよう。寝坊しちった?」


「いえ、まだ朝食前ですよ。女性陣の方々も皆眠そうでしたね。そして先程のテュール様の寝言……。いえ、深くは言及いたしませんが、テップの前では注意して下さいね?」


「んぐっ……。あ、あぁ」


 先程見ていた夢。つい数時間前に実際に起こったおっぱい温泉ワールドを夢にまで見てしまっていたテュール。そして、この件に関してどうやってかは分からないがベリトは察しているであろうことを悟り、気遣いに感謝する。


「では、支度を済ませたら食堂へお願いします」


「ん、了解。ありがとう」


 その言葉にベリトは返事をせず、ただ微笑んだまま一礼し去っていく。


 テュールは起き抜けでボサボサの髪をクシャッと一掴みし、小さくあくびをすると客室についている洗面所へと気だるそうに足を進める。


 さて、本日はリエースでの研修旅行三日目である。


「今日は何をするんだっけ?」


 食堂には、ルチア、エリーザ、ローザ、イアンがいないため、テュールは気軽に口を開く。


「んー。三日目は確かこっちの学校の生徒と模擬戦じゃなかったか?」


 ――っ! テップのその発言を聞いた一同に動揺が走る。


「え? 違った?」


 いや、まさかテップ君がちゃんと日程を把握しているなんて――、そんなテップが――、いやテップさんだってちゃんとしている時は――。


 正しいことを言ったことに対してざわついていたのであった。


「お、お前らぁ……! ぐぬぬぬぬ!」


「あー、模擬戦かー。おもしれぇ奴がいるといいな」


「そうだねー。テップみたいな人がいるといいねー」


「フフ、それはとても面白くなるでしょうね」


 テップのぐぬぬぬを無視して模擬戦について話し合う一同であったが、結局テップの話しに戻ってしまうのであった。


 こうしていつも通り賑やかな朝食を終え、エリーザらへと挨拶を済ませると遊楽団の面々は集合場所であるリエース共和国の学園――中央リエース学園へと歩く。道中トラブルもなく、集合時間の15分程前に到着することができた。


 そして、しばらくするとルーナが現れ、グラウンドに集まるハルモニア校の生徒たちに説明を始める。


「今日は姉妹校である中央リエース学園に協力してもらい、交流と訓練を兼ねた模擬戦をすることとなっている。くれぐれも失礼のないように。場所はカントワの森で行う。自然への配慮を考え、魔法はペイントボールのみとする。当然それを結界等で防ぐのは可だ。そして各クラスを大隊、各団を小隊として学年まるまる連隊としてぶつかり合う。どうだワクワクするだろ?」


 ルーナはドヤ顔で生徒たちを煽るが残念ながらここで雄叫びを上げる生徒はいなかった。



「チッ、なんだノリが悪いな。あー、それで武器は模擬戦用のものをこちらで用意したためそれを使え。生成魔法は禁止とする。罠や近接戦なども当然ありだ。また、勝ち負けの判定だが、ペイントボールや一定以上の衝撃を受けるとアラートが鳴り、背中のパトランプが光る戦闘スーツを着用する。アラートが鳴った者は速やかに退場だ。そして各校総大将を倒すか、拠点のフラッグを取られたら決着となる」


 そして、後半はどことなく投げやりで早口に説明を終える。


(いや、あんたが失礼のないようにって言ったんだろう。こんな他所様の学園のど真ん中で雄叫び上げれるかよ……)


 テュールは内心で毒づく。多かれ少なかれ皆も同じ気持ちを抱いているだろが、ここでそれを口にする者はいない。


「では、大講堂に移動する。そちらには既に中央リエース学園の生徒たちが集まっている。くれぐれもバカな真似はするなよ? 特に赤い髪のヤツは気をつけるように」


 既にこの学年で赤い髪と言えばテップを指す程までには彼の知名度は高かった、いい意味でか悪い意味でかは置いておこう。また、この際に他の赤髪の者は死んだ魚の目をしているのは意識を飛ばしたいからだろう。


 こうして一同は大講堂へと移る。そこには既にリエース校の生徒たちが左半分に粛々と待機していた。


 そして、ハルモニア校の生徒たちが右半分を埋めるとリエース校の教員が司会を務め、歓迎の挨拶や偉い人の話が始まる。


「皆さん、これで会うのは二度目ですね。リエースはどうでしょうか? あっ、申し遅れました。学園長のエリーザですっ」


 偉い人はこの三日間で大分見慣れたあの人であった。


 そして、今回はマジメに挨拶をし、セシリアに絡むことなく壇上を降りる。テュールはチラリと横目で様子を窺うと、セシリアは胸を撫で下ろし、心底ホッとしているようであった。


「続きまして、宣誓の言葉に移ります。ハルモニア校代表カグヤ・マイヤード・エスペラント。中央リエース学園代表シャルバラ・エット・ユグドラシル。両名は壇上へ」


 この司会からの言葉を受け、右半分、左半分から一名ずつが返事をし、壇上へと歩いていく。


 そして、それを見た右半分からは騒ぎを起こすことに定評のある赤髪が――。


「ぬぁあああ!! なんだあのすげぇ美人なエルフは!? おい、テュール見ろ!! サクラだ!! サクラ色の天使がいるぞ!!」


 と、立ち上がり――。


 そして、左半分には珍しい青髪のエルフが――。


「うぉおおお!! エスペラント!? 人族か!? 人族にはあんな美人がいるのかぁああ!!」


 と、立ち上がる。


「「ん?」」


 ほぼ同時に声を上げた両者は、これまた同じタイミングで視線を真横へとズラす。


 そして何故か二人共自信に満ち溢れた誇らしい顔をしていた。


 が、直後、同時に仰け反る・・・・


「大変失礼いたしました。この者は少々問題児でして当校でキツく指導いたしますので、どうかご無礼お許し下さい」


 直ぐ様ルーナが魔力弾で額を撃ち抜き謝罪をする。ちなみにテップが後ろに吹き飛ばないようにテュールは座ったまま腕だけ伸ばし、シャツの胸元を握りしめている。


「いえ、こちらこそ失礼いたしました。お互い元気の有り余る生徒を持つと苦労いたしますね」


 同じタイミングで魔力弾で額を撃ち抜いたリエース校の教員がハルモニア校に対し謝罪を行う。恐らく担任であろう。


「フフ、テップ君とザック君は元気が有り余っているようなので罰として総大将をマ、ジ、メ、に、務めて下さいね? はい、ではカグヤさん、シャルバラさん中断させて申し訳ありませんでした。宣誓の言葉をお願いします」


 そして、ニコニコと笑顔でエリーザはそう宣言し、やや引き攣った顔でカグヤとシャルバラがそれぞれ宣誓を行う。


 そんな時にも――。


「クク、おい、向こうにもテップがいたな」


「フフ、面白くなってきたねー。しかも総大将なんて」


「プフッ。んん、失礼。えぇ、実に愉快な模擬戦になりそうです」


 声を殺してヒソヒソと話し合う三人は実に楽しげな様子であった。そんな中テュールだけは一人つまらそうな顔で――。


(つーか、テップ、俺の名前呼ぶなよ……)


 先程の騒ぎで自分の名前が呼ばれたことを気にしていたのであった。

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