とある英雄達の最終兵器

世界るい

第127話 ここは地獄の三丁目。彼女は真っ赤な土管工

 テュールも激痛と血が吹き出すという脅し文句に嫌な汗をかき、不安そうに左右を振り向くと半分まで人が減っていた。
 
 
 並んでいるのはテュール、レーベ、アンフィス、ヴァナル、カグヤの五人のみ。


「……えぇ、とそっちは?」


 そして、テュールは明らかに並べと言われた列から外れている集団に話しかける。


「はい、テップとリリス様は体調が優れないということで逃げました。レフィー様はウーミア様と邪魔にならないよう隅の方で修行をしているそうです。セシリア様は樹界魔法を覚えてからゆっくりと感覚を掴むので今回は見学しているとのことです。あっ、ちなみに私は魔力で再生できる体ですので応援に徹したいと思います」


「……」


 答えたのはベリト。テップとリリスに至っては予想通りの展開であるため、何も言えなくなるテュール。だが、ローザは気にした様子もなく話を進める。


「カカ、まぁいいさ。五人も残れば上等だ。んじゃ、まず誰からやる?」


「……ん、私」


 ローザの脅しを聞いたからこそファーストバッターは誰しも避けると思っていたが、このバトルジャンキーはやはり相当の覚悟を持っていたようだ。しかし、レーベが手を上げるのを見て、テュールは考えた。


(あれ? なんかこれ、一応師匠である俺ダサくね? バッタービビってるぅ状態じゃん……。やはりここは俺が——)


 と、ほんの少しの逡巡を経て、テュールの目に覚悟が宿る。そして勢い良く手をあげようと——。


「あー、俺からやるわー。こん中じゃ一番タフだろうしな」


「えー? ボクがやるよ? それに幻獣にもマナ器官があるのか気になるし」


 した所で、アンフィスとヴァナルに先を越される。誰も気にしてなどいないのだが、テュールは周りからチキっていると見なれやしないかと焦りだす。そして出した答えが――。


「はいはいはい! 俺やります! 俺団長です! 全然ビビってないんで余裕です!」


 これである。周りは急に大声を上げ、懸命に挙手し始めるテュールを見て、目を丸くし、困惑の表情を浮かべる。


「……あー、どうぞ?」


「……うん、いいよー?」


「……ん、ししょーに譲る」


「あはは、私はちょっと怖いから最後でいいかなっ?」


 こうして、微妙な空気のままテュールがまず行うことが決まった。


「ん、じゃあテュールでいいんだな? 早速始めるぞ。スゥー……むぅん!!」


 ローザは細く長く息を吸った後、掛け声とともに右手に青白く光る球を作り出す。


「いいか、これは霊光——」


「ローザさん、それはマズイ。それはマズイです」


 慌ててツッコむテュール。


「カカ、冗談だ。ま、名前はさておき、この球を今から喰ってもらう。マナってのは呼吸で取り入れるからな、口から入れるのが最も感覚を掴みやすい。というわけで食え」


 んっ、と言ってその右手の球を差し出すローザ。


「……これどうやって食べるんですか?」


 テュールは実体のないバスケットボールサイズの球を食べろと言われて純粋に疑問が湧く。


「んなもん、こう、だっ!」


 ガシッと左手で頭をロックされ、そのまま右手の球を口に突っ込まれる。


「んぐ、むむむむむんー!! ……ん? んぐんぐ。……ぷはっ。不思議な食感だな。無味無臭のわたあ——ゴブハッ!!」


 テュールは喋ってる最中に胸から熱くこみあげるものを感じたが、その勢いはとてもこらえられるものではなくそのままに鮮血を吐き散らす。それはもう盛大に吐き散らす。


「うぇ、きたねぇ! おい、テュールあっち向いて吐けよ」


「あー、ボクもちょっとかかっちゃった。テュールあとでクリーニング代ね?」


「……ししょーすごい。龍のブレスみたい」


「え!? みんな結構余裕だけど、多分吐いちゃいけない量の血だよっ!?」


 皆がそう喋っている間にもテュールは、頭からも噴水のように血を吹き出す。遠くからは——。


「わー、パパおもしろいー! あれ、うーもやりたい!」


「フ、ミアにはまだ少しばかり早いな。それに血が出ると痛いんだぞ?」


「うー平気だもん! けど、痛いのはやー……」


「フフ、それでいい。さぁ、頑張ってるアイツを応援してやれ」


「ん! パパーがんばえー!」


 その声は血だるまになっているテュールにも届き、のたうち回りながらもテュールはウーミアに向けて親指をグッと立てる。父親としての精一杯の意地である。


 それから十分程その状態は続き、テュールの周りは一面真っ赤に染まっていた。皆は心配半分好奇心半分の目で遠巻きに見守っており、その中心にいるテュールはと言うと——。


「あー、慣れてきたわ。ローザさん、けどこれ明らかに出血死するような量が出てるんですけど、大丈夫ですか?」


「おぅ、今の状態は食べた霊光——「ローザさん? マナボールという名前にしましょう」……ちっ、マナボールが、マナ器官で絶えず血を作ってる状況だ。ちなみに腹をめくってみろ」


 テュールは、ローザにそう言われ、素直に服をめくる。


「あらあら」


「チラっ……」


「……ん」


 遠巻きに見ていた女性陣が僅かに色めき立つ。


 そして、そんな引き締まった腹部を注意深く見てみると——。


「青い?」


「そうだ。あれだけの量のマナを一気に入れるとマナ器官が即座に処理できないからマナ器官にマナが溜まる。それが青く光るんだ。ちなみに持続時間は一時間くらいだな。感覚を覚えるまでいくらでもおかわり自由だぞ。つーわけで——」


 くるりとローザが振り返り、四人分のマナボールを作り出す。


「さぁ、おあがりよ」


 そして、それを受け取った四人はそれぞれ一定の距離を空けてから食し始める——。



 モグモグモグ……ごくんっ。プシューーーー。


「だっはっはっはー、いてぇ。つーか、なんでお前は服脱がないんだ?」


「えー? だって、女性がいるのに失礼じゃないー? それにもうテュールのついちゃったからねー。あっ、ボクにもマナ器官はあったみたいだね〜」


 食べてしばらくするとやはり血を撒き散らした二人は尚も笑顔で会話を続ける。


「…………ん」


 レーベは時折唸る声を上げるが、真剣な表情でマナ器官の感覚を覚えようと集中している。そして、カグヤは——。


「私、その恥ずかしいから向こうでしてくるねっ?」


 そう言って、隅の方に生成魔法で壁を作り、修行を始めた。しかし、隠されると気になってしまうのが人の常であり、皆は自然とカグヤの方へ目が行く。当然壁に阻まれているため姿は見えないが、それがかえって時折響く異音を不気味に演出するのであった。


 そんなこんなで暫くおかわりをしながら修行は続く。まずはじめにコントロールできたのは——。


「……ん。できた」


 レーベだ。マナボールを食べてもマナ器官にマナを留めることができ、血を吹き出さなくなった。更にニコニコと手を上げるベリトに向かって——。


 拳を繰り出す。


 ——。


 拳が手に当たった瞬間、その刹那に音が止む。その後追いかけるように破裂音と衝撃波が生まれ、ベリトの手を弾き飛ばす。


「フフ、よいパンチです」


「……ん。ありがとう」


 レーベの手も無事では済まない威力であったが、その小さな手は綺麗なままだ。レーベはその拳を見て満足そうに頬を緩める。そして、ローザはそんなレーベに近付き、その頭に手をポンッと乗せる。


「カカッ。まっすぐなバカはこれだから面白い。こんな短時間でそこまで扱えるならお前は将来とんでもないバケモノになるよ。あたしが保証してやる。あとは呼吸の時に吸い込む量とマナ器官での圧縮、そして変換するスピード。これを鍛えていけ。それこそいつでもどこでもできる修行だ。地道さがものを言うがお前なら大丈夫だろうさ」


 そう言って、実に四時間半もの間、文字通り血反吐を吐き続けたレーベの修行は終わりを告げる。


 それから遅れること一時間。アンフィス、ヴァナル、カグヤがほぼ同時にこれを会得する。


「んじゃ、テュール先に上がってるなー」


「テュール頑張ってね〜。おやすみー」


「テュールくんっ、こんな格好でゴメンね! おやすみ!」


 真っ赤になったアンフィスとヴァナルは眠そうに眼をこすりながら声をかけ出て行く。カグヤは血まみれの姿が恥ずかしいのか、土管を生成して歩いている。しかし、セシリアに誘導されながら歩く土管は床に血痕を引きずって移動するため非常にシュールで恐怖を掻き立てられる絵面であった。


 一方会得に時間のかかっているテュールは既に血の池と化す鍛錬場で座禅を組んでいた。


(ヤバいヤバいヤバい。俺だけ会得できないなんてことになったら——バカにされるっ!!)


 ちっぽけなプライドのためにも必死な表情で血を吐き出しながら修行を続けていた。


「ぱぱー……がんばえー……」


 そして、その池のほとりではレフィーに抱えられながら半分寝てしまっているウーミアが応援を続ける。


「……ミア、ありがとうな? パパはもうちょっとここで頑張ってるから、ゆっくり寝てくれ。レフィー」


 コクリ。既にその言葉が届いたかどうかも怪しいウーミアを抱えてレフィーが一つ頷き、つま先を鍛錬場の外へと向ける。


「……まぁ、なんだ。懸命な姿ってのは三割増しでイイ男に見えるからな。お前はいつもそれくらいマジメでいろ。ではな」


 そして、去り際不器用な応援を残してレフィーが扉の外へと消える。


「……ふぅ。いっちょ気合入れますか。一応団長ですしね」


「えぇ、テュール様、私は応援しかできませんが、最後までお付き合いいたしますよ」


「あ、わりぃ。あたしは寝るな? 夜更かしは肌にわりぃし。マナボールは作り置きしとくから、腹が減ったら食べてくれ」


 そう言って、五つ程マナボールを残し、ローザが去っていく。


 そして、テュールはその後黙々と座禅を組み続け二つほどおかわりを平らげた頃、会得できるのであった。


「……あー、ベリトありがとな」


「いえいえ、テュール様お疲れ様です。私はここを綺麗に片付けていくのでどうぞお風呂へ行ってきて下さい。ちなみに王族専用の露店風呂を特別に使っていいと言付けられております」


「おぉー、露天風呂っ!! って、ベリト一人に片付けは——」


「いえ、これも執事の仕事ですから気になさらずに。明日も早いですから寝坊しないためにも早く行って下さい。ちなみに露天風呂の場所は本館の屋上です、ささ、どうぞ」


「分かった、分かったって」


 ベリトに押し出されるように鍛錬場を後にし、テュールは歩く。流石に深夜は人の気配がほとんど感じられず、時折巡回に周るメイドエルフとすれ違うくらいだ。そして、疲れきった体を運び目的地である露天風呂へと辿り着く。


「おぉー、ここか。ん? 男性使用時間は……二時から四時まで、だとっ? イ……イアンさんは露天風呂に入るにはこんな深夜の僅かな時間帯しか許されていないのか……。ふ、不憫だ……」


 ここにはいないイアンに同情しながら暖簾をくぐるテュール。


 脱衣所でいそいそと服を脱ぎ——。


「……この服はもう着れないな」


 浴衣があったためそれで帰ればいいと考え、テュールは元の色が分からない程になってしまった服を脱いで、そのまま捨てる。


「おぉーーー、素晴らしいな」


 そして、ガラリとガラス戸を開けば衝立の上に満点の星空が広がっていた。

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