とある英雄達の最終兵器

世界るい

第117話 エルフの頂点

 こうして、全員が揃ったところで――。


「はい、じゃあいただきましょ。皆さんどんどん食べてくださいね?」


 と、結局エリーザは、食べ始めてしまったリリスとレーベに気を使い、形式張った挨拶を省き、なし崩しに食事を始めることとした。


 テュールは、ローザの言っていたお酒という単語にやや不穏な未来を思い浮かべてしまったが、流石にこの場で羽目を外す酔いどれはテュール達一行の中にはいなかった。


 そして、和気藹々と時間が過ぎてくると、やはりと言うべきか――。


「おい、セシリアぁ~? お前はこいつのどこがいいんらぁ~? ひっく、あぁぁん?」


 ローザが出来上がってしまった。そして、テュールの肩を抱きながら、セシリアに詰め寄る。


「え、そ、それはその……言葉にすると安っぽくなってしまうので言えません」


 モジモジしながらも意思は固く、エルフ最強の叔母に一歩も引かない姿勢でセシリアがそう答える。


「ほぅ。セシリアは彼のことが好きなのかい? ……でも、僕が見る限り妻子がいるようだが?」


 そこにグラス片手に少し顔を赤らめたイアンがやってくる。


「そ、それは協定がありますからっ!」


 これに対し、必死に反論するセシリア。しかし、その言葉に――。


「「「協定?」」」


 イアンとローザ、そしてテュールの声までもが重なる。


「い、いえ、なんでもありませんっ! さ、さぁて、私はウーミアちゃんと少し遊んできます!」


 イアンとローザだけでなくテュールまで追求しようとしたところでセシリアは脱兎のごとく逃げた。


「なんだったんだぁ?」


「さぁ、なんだったんでしょうか? あ、それと君がテュール君だね? 風の噂で君のことは聞いているよ。いつもセシリアがお世話になってるみたいで、どうもありがとう」


 ひとまず逃げたセシリアは置いておき、くるりとテュールの方を向いて話しかけるイアン。


「いえ、こちらの方こそいつもセシリアさんにはお世話になっています」


 優しく柔和なイアンに、テュールも自然と肩の力が抜け、挨拶を交わすことができる。


 そしてイアンは、そんなテュールに笑顔を崩さず一歩近づき、手を肩にポンッと乗せる。


(大きくて、温かい手だな……。これが父親の――ののの!?)


 ガシッ。ギギギギギ……。


「イ、イアンさんっ!! か、肩! か、肩に! そのっ指が! ががががが!!」


 そして、スッとイアンの口元がテュールの耳に触れるか触れないかのところまで近づく。そして――。


「テュール君。これは秘密にして欲しいんだが、恥ずかしながらこう見えて僕は子煩悩でね? あの子の悲しむ姿を見るくらいなら世界なんて壊れてしまえばいいとさえ思えてしまうんだよ。君はとても聡明だと聞く、であるならば言いたいことは分かるね? 僕に世界を壊させないでくれ」


 イアンは最高にブッ飛んだ親バカ発言をテュールの耳元に残すとスッと引き下がる。そして、最後にニコッと笑い――。


「男同士の秘密ができてしまったね♪ ハハ、では、よろしく頼むよ~」


 と、言って他の者に挨拶をしに去っていった。残されて茫然とするテュールは目を泳がし、その場にいたローザと目が合う。


「あぁ、あれは本気だぞ。ユグドラシルを代々守るあたし達の一族が弱い奴を婿にとるわけねぇだろ? 本気で殺り合ったことがないから分からねぇが多分あたしより強いんじゃねぇか?」


「ハハ、ハハハ……。そ、そうなんすね……」


 ローザのマジっぽい回答に渇いた笑いしか出ないテュールであった。こうして概ね平和な食事会は進んでいき、皆が皆もう食べきれないというほどに満足したところでお開きとなる。


「もう食べられないのだー……」


 食べ終わるとテーブルにぐでーっと倒れ込むリリス。


「うーもたべられないのだー」


 それを見て、真似をするウーミア。


「真似するななのだー」


「まねするなのだー」


「むぅうううう!!」


「なのだなのだ~♪」


 こうして二人は暫く真似っこゴッコをしながら言い合う。


(知ってるか、リリス? 争いは同じレベルの者同士でしか発生しないんだぞ……)


 それを見て、テュールはそっと涙を一粒流すのであった。


「さてっ、皆さん満足いただけたでしょうか? そうですかそうですか、よかったです」


 そして皆が食休みモードとなりくつろぎだしたところでエリーザが皆を見渡し、そう問いかける。もちろんその問に対しての返事は、肯定。皆が首肯する。


「えぇ、では私から重大発表があります。ぱんぱかぱんぱんぱーん♪」


 やけにテンションが高いエリーザが自らの声で効果音までつけて、話を切り出す。当然皆は訝しげに感じる。


(なんだ? あれか……そのご懐妊とかかな?)


 エリーザの隣でニコニコしている最強子煩悩パパ――イアンを見ながらテュールはそんなことを考える。


「はい、お気付きですか? 今、この部屋には我々しかおりません。また、外部からちょっかいを出されないように結界まで張ってまーす」


(……ん)


 当然、テュールを始め第一団の面々は気付いていた。いや、訂正しよう。リリス以外は気付いていたようだ。そしてリリスも前後左右をキョロキョロ見渡し、すぐに気付いたようで当然気付いていたとばかりにドヤ顔になる。


「フフ、流石は皆さんです。というわけで、今から話すことは他言無用でお願いします。もし、迂闊なことをしてしまえばリエース共和国――いえ、リエース共和国を皮切りに全世界が未曾有の危機に陥ってしまうことも考えられます」


 先程までのふざけた様子から急に口調と態度を変えたエリーザが話し始める。ただ事ではないと悟った面々は先程までの少しゆるんだ姿勢を正し、静かに耳を傾ける。


「まずは皆さん、ラグナロクという言葉は聞いたことがあるでしょうか?」


 そう言ってエリーザはひとりひとりの顔を見渡す。


(ラグナロク……。聞いたことがないな……)


 テュールは、その言葉を思い出そうとするが、自身がこれまでこの世界――アルカディアで過ごしてきた期間の記憶にその言葉は見当たらなかった。


「あら、ママ、本当に教えてなかったのね」


 そんなテュールの様子を見て、エリーザがルチアに話しかける。


「はぁ……。だから教えてないと言ったさね。あと、こいつらの前でママは頼むから止しとくれ」


 これに対しうんざりした様子でルチアはそう返す。


「そうね、他の子も聞いたことがなさそうだからまずはラグナロクの説明からしましょうか。ラグナロクは、一つの組織です。正式名称を終末教ラグナロク。質の悪い秘密結社とでも言おうかしら」


(秘密結社……、終末教……、なんだその厨二病全開の組織は……)


「はい、かっこ悪いですよね……。いい大人が集まって終末教なんて名乗っちゃうんですから。ただ、それが笑い飛ばせるだけの規模だったら皆さんにこんなお話しはしません。このラグナロクは五大国以前から存在……、いえ、何百年、下手したら何千年レベルで続いている組織です。そして直近で起こしたことと言えば、ロディニア五種族大戦ですね。えぇ、あれを裏で糸を操っていたのがラグナロクなのです」


(なっ――)


 その発言にテュールを始めとし、他の面々も多かれ少なかれ衝撃を受けている。まさかそんなふざけた集団がロディニア大陸全土を巻き込んだ戦争の黒幕だとは誰も思っていなかったのだから。


「ラグナロクの恐ろしい点はその狡猾さと隠密性、情報力、そして煽動力にあります。彼らの組織の体制は割れていません。幹部の素性もです。私達が探ろうとするとどこかからその情報を受け取り蛇のようにするりと逃げてしまいます。彼らはそんな組織を気が遠くなるほどの時間をかけて育て、民衆の心に種族差別を植え付けました。そして自分たちの思うがままに世界を操ってきたのです」


 エリーザの話がそう続くと皆の顔が苦々しいものへと変わる。しかし、その気持を上手く口に出すことができないのか皆、一様に口を噤む。そんなテュール達を見てルチアが口を開く――。


「あぁ、情けない話だがあたしら五輝星もヤツらには散々煮え湯を飲まされたさね……。ヤツらのせいで失うものも多かった。けど、諦めちゃいないさね。死んでいった者達を報いるためにもあたしらは命尽きるまでラグナロクを追い続けて、必ず潰してやるさね。……なんて威勢のいいことは言っているが、あたしらはイルデパン島で15年近く動けなかったからねぇ。またこれも後手さ」


「そ、それって――」


 もしや自分のせいで? そう思ったテュールは慌てて口を開くが――。


「あぁ、違うよ。むしろあんたが沸いてきてくれて助かったさね。じじいばかりじゃ退屈でしょうがないからね、カカカ。あたしらが離れられなかった原因は島の地下に封じ込めたやつを片付けるためさ」


(地下……? そんなとこがあったのか……?)


 テュールは、島で一緒に育ったアンフィス、ヴァナル、ベリトを見る。が、3人とも首を横に振る。どうやら知らないようだ。


「ん、あぁ、もうここまで言ったら全部言っちまうが、ラグナロクはその構成員が戦闘に出てくることはほぼないさね。出てくるのは、召喚された――」


(召喚された……?)


「天使どもだよ」

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