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とある英雄達の最終兵器

世界るい

第116話 どうもイアンです。最近めっきり冷え込んで布団が恋しい季節となりました。さーて、来週の

 コンコン――。


「テュール様、お食事の準備ができました。食堂の方へお願いいたします」


 テュールの耳に扉越しに聞いたことのない声が届く。


(ん……、なん……、あぁ、今セシリアん家か……)


 寝ぼけた頭が徐々にはっきりしてきて、今自分の置かれている状況を思い出すテュール。


「テュール様?」


 しかし、意識がはっきりするまでしばしの時間を要したため、扉の外側にいる者から再度不安そうな声が掛けられる。


「あ、はーい。大丈夫ですー! すぐ行きますー!」


「畏まりました。よろしくお願いいたします」


 テュールの返事を聞いて安心したのか、声色から固さがとれる。そしてそのまま気配は遠ざかっていく。


「さって、食べにいきますかっと」


 テュールは誰もいない部屋で頭をぐるりと回し、肩を一揉みするとようやくベッドから立ち上がり、食堂へ向かう準備を始める。そして、扉を開き、いざ――。


 カツカツカツ……。


(…………そう言えば食堂ってどこだ?)


 部屋を出て数歩歩いたところでテュールは気付く。どこが食堂か知らなかったことに。


(ふむ、どうしようか。手当たり次第部屋を開けていくか? 俺の目指した異世界主人公ってのは大抵こういう時物怖じせず扉を開けてくよな。そしてラッキースケベに遭遇する。しかも、遭遇した後もなんだかんだお咎めなく許される……。いや、しかし、流石に人様の家で勝手に扉開けるとかどうなんだ?)


 そして結局、悩んだ末に異世界主人公になりきれないテュールであった。そして、テュールはそのまま当てもなく歩き続ける。歩いていればいつか誰かに遭遇するだろうと信じて。


 カツカツカツ……。


(おかしい、なんだこのエンカウント率は……。バグか? この家はバグがあるのか? いや、しかし気配はそこかしこから……)


 そう、テュールは各部屋の中にいる人の気配は感じ取っていた。だが、いくら修行を積んだ身とは言え、誰が誰の気配かなど分かるはずもない。そして、仕方なく誰でもいいから頼ろうと適当な扉をノックしようとする――。


(ん?)


 そして、扉の寸前で拳を止める。隣の部屋の扉が少し開いており、明かりが漏れている。


(ゴクリ……)


 なんとなしに興味が沸いてしまったテュールは左右をキョロキョロと見渡し、人影がないことを確認してから気配を完全に絶ち、無音で隙間へと近づく。


(開けてた方が悪い……開けてた方が悪い……開けてた方が――悪いッッッ!!)


 そして、覗く――。


「ヒッ!?」


「…………見たな?」


 中を覗くと椅子に座り、糸を使い編み物をしているレフィーと目が合う。しかしレフィーの形相はそんなほんわかするような場面を凍らせるのに十分なものであった。


「パパー! えへへーいまねママがうーの服つくってくれてうのー!」


 一方、ウーミアの方はテュールだと分かると駆け寄ってきて扉を開け、嬉しそうにそんな報告をする。


「あは、あははは、ミア良かったなぁ?」


「うん!」


 とりあえずなし崩しに部屋に入り、ウーミアを抱えて苦笑いを浮かべるテュール。その視界の端にはレフィーが映っているが決して目を合わせようとはしない。が、レフィーの方はテュールへの視線を外さない。そして――。


「フフ、テュール覗いてしまったな? そうだ私があの時助けられた龍だ。龍鱗を編み込んだこの糸、龍糸でミアに暖かく丈夫な服を作ってあげたかっただけだったが、覗かれて正体を見られてしまったからには帰らなければならない。達者で暮らせ、ではな。ミアも許せ」


 芝居がかった身振りでそんなことを言い始める。


「おい」


「!?」


 すかさずツッコむテュールと驚きに染まるウーミア。それからテュールは、素材が素材だけに編みかけでも数千万ゴルドになった服を売り、ウーミアといつまでも仲良く暮らしましたとさ。


 めでたしめでた――。


「めでたくねぇ! つーか、こっちにも鶴の恩返しあんのかよ!?」


「おいテュール地文にツッコむな。メタい発言は読者離――ゲフンゲフン。で、鶴? なんだそれは? これはお祖父様が広められた物語『龍の恩返し』だ。寝る前によくミアにも聞かせてるやつだな」


「ん! りゅうをいちまんにんの獣人がいじめてたところをエルフがたすけてくれうおはなし!」


(な、なんだそのぶっ飛んだ設定は……。いや、そうかファフニールが鶴の恩返しを元に作ったからか。リオンが一万人くらい束にならないとやられないっていう逆に強いぞアピールだろうな。そして、エルフが登場するのはきっと最後にルチアがあたしも良い役で物語にいれろとか言ったんだろうなぁ……)


 そして、そんな茶番に興じていると、開いたドアの前に人影が立つ。


「レフィー様、ウーミア様、あ、テュール様もこちらにいらっしゃったんですね? お食事の準備ができましたので食堂まで――」


 テュールが先程聞いた違う声の主が話しかけてくる。すかさずテュールは――。


「連れてって下さい!!」


 娘の前で勢い良く頭を下げるのであった。


 こうして、無事食堂まで辿り着くと食堂には既に全員が集まっており、テュール達が最後のようだ。そして、皆の目の前には――。


「す、すげぇぇ……。満漢全席ってこういうのを言うんだろうなぁ……。さ、流石王族……」


 何十人も座れる長いテーブルの上に所狭しと並べられている料理の数々。


「い、いえ、私もこの家で15年育ってきましたが、こんなに豪華な料理が出たのは初めてかと……」


 テュールの驚きの声を聞いて、セシリアも動揺したようにそんなことを言う。


「うっひょー! なんでもいいじゃん! まぁ、ほら俺らって一応王族と皇族とかすごいパーティーじゃん? だからだって!」


 と、王族でも皇族でもないテップが自信満々に叫ぶ。


「カカ、そうさね。おまいさん達はあたしの大事な弟子であり、家族だ。これくらい当然さね!」


「ええ、そうですわ。皆さんはうちの娘の友達ですもの、日頃お世話になってますからね、遠慮なんてしないで下さいね? ホホホホ」


「おう、そうだな。ガキが遠慮するな! ほれ、食え食え! そういやお前らはもう15越えてんだろ? 酒も飲めるよな? うっし、飲め飲めっ!!」


 そして、奥の方に座るルチア、エリーザ、ローザが満面の笑みで手招く。


「怪しいな」


「怪しいね」


 アンフィスとヴァナルは警戒心を高めた。


「……」


「……」


 カグヤとレフィーは無言でテュールを睨んだ。


(え? 俺? いやいや、ルチアにはツッコめるけど、エリーザさんとローザさんには無理だって)


 その無言の視線に身振り手振りでツッコむことを拒否するテュール。


「ありがとう! いただきまーすなのだー!」


「ん、いただきます」


 そして、リリスとレーベは、恐らくこの後あるであろうエリーザの歓迎、乾杯の挨拶を待たずして食べ始める。


(自由かよ! 王族自由かよ!)


 いただきますと同時に既にもぐもぐしている二人を止められないままテュールの手は空を切る。


 そして――。


「ただいまー」


 そんなタイミングで食堂の扉が開き、エルフの男性が入ってくる。線の細い二枚目エルフだ。優しい顔つきをしている。


「お父様っ! お久しぶりです!」


「やぁ、セシリア。久しぶりだね。ハハ、なんだその喜び様は。たかだが半年ちょっとじゃないか。まだまだ子供――」


 カチッ。


『なぁ、エリーザ? いつセシリアは帰ってくるんだ? 明日か? 今日帰ってくるんじゃないのか? どこをうろついているんだ? あぁ、まさか何か危ないことに巻き込まれていたりしないだろうか……。はぁ、捜索隊からの報告はないのか? あぁ、セシリア……』


 カチッ。


 無言でエリーザの手の中の魔道具のスイッチが押され、何事かと静まり返った食堂には今しがた聞いた男性の声と酷似した声が流れ、そしてカチリッという二度目の音の後、再び静寂が支配する。誰もが止まったままでいたが、一人の男性が一つ咳払いをして、静寂を打ち砕く。


「…………コホンっ。さて、私の名前はイアン。イアン・ユグドラシル。セシリアの父親であり、ユグドラシル家のお婿さんだ。皆さんどうぞよろしく。おぉ~、今日は夕飯が豪勢だねぇ。何かあったのかな?」


 イアンはそう言って爽やかな笑顔でその場を華麗に流したのであった。

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