とある英雄達の最終兵器
第109話 青春はいつだってレモン味
「はいなのだー! はいなのだー! リリスなのだー!」
ものすごい勢いで王様アピールをしてくる幼女がそこにはいた。
(ん、リリスか。まぁ、リリスなら可愛い命令だろ……)
ホッと油断し、飲み物を飲みながらフラグ建設に勤しむテュール。そしてゴクゴクと喉を鳴らしながらリリスの言葉に耳を傾けていると――。
「んー、リリスもテューくんの子供が欲しいのだー!」
「ブッー!!」
盛大に吹き出す。
「おまっ! いや、もう色々ツッコミたいことが多すぎて混乱するわ! とりあえず名指し指定とかどんな権力だよ、おい! ルール把握して――」
「1番――。じゃあ1番との子供が欲しいのだ」
リリスの瞳孔が細まり、猫科を彷彿とさせるその眼はテュールの握りしめたクジを見透かすように射抜く。
「マ、マジかよ……。ど、どんな特殊能力だよ……こえぇな。いや、俺が1番なのは置いておこう。それにしても子供が欲しいは無理だ! そもそもどうやって子供を作るのかも――」
「え? 知ってるのだ? セッ――ぎゅむぅ」
急いで口を手で押さえ込むテュール。
「いかん、いかんぞ、当作品は健全を謳っているわけではないが、それでもお前がその単語を言うのはダメだ。なんというかアウトなんだ。そもそもその行為はこんな人前でする行為ではないし、かつお互いの気持ちがだな? うん」
ヘタレテュールは精一杯の正論を振りかざす。
「むぅー。じゃあいいのだ。1番が王様にチューするのだ。それで許すのだ」
(ホッ。良かった)
「って、いやいやいや、なんも良くねぇよ。お前ら唇大バーゲン中かよ。もっと大事にしよ? ねぇ?」
「いーやなのだー! ずーるいーのだー! レフィーや、セシリアやカグヤはチューしたことあるのに、リリスだけしてくれないのはズルいのだ! それともテューくんはイヤなのか?」
テュールの服の裾を引っ張りながら上目遣いwith涙目でゴリゴリと何かを削りにかかってくるリリス。
「うぐっ……、いや、嫌というわけじゃないが、その……、なんというかこんな簡単にキスはしちゃいけないもんだ、と……」
クイックイッ。つかつかと近寄ってきたレーベが、リリスと反対側の服の裾を引っ張る。
「ししょー、私もキスしたことない」
(こら、君はややこしくなるから引っ込んでなさい)
なんとか目と首の動きで撤退するよう求めるが、頑として動かない。
「レーベは何番なのだ?」
「……ん」
ずずいとリリスの目の前にクジを差し出すレーベ。そこには3と書かれていた。
「じゃあ、1番が3番と王様にチューするのだっ!」
(なっ――!? な、なんでもありかよっ!?)
あまりの自由な王の振る舞いに愕然とするテュール。幼女二人が顎を持ち上げ、スタンバイフェイズへと移行する。
「ちょっと、テンポ悪い人いなーい? こういうのはぱっぱ済ませてテンポよく次に行きたいんですけどー」
テップがうんざりした表情で煽ってくる。
(ぐぬぬぬぬ、いいのか? この絵はいいのか? 犯罪じゃないか? 俺は犯罪者になってしまうのか? 全世界のロリ愛好会の皆様から刺されやしないか……?)
「ほら、テュール、男をみせろ」
「そうですよ、テュールさん、女の子が勇気を出して言ったんです。あまり待たせるのは可哀想ですよ?」
レフィーとセシリアまでもが煽ってくる。カグヤはうぅーと唸ったままどこか苦々しい顔をしている、が、止める気はないようだ。
「だぁーーー!! ほれっ!!」
ヤケになったテュールは、素早く幼女二人にキスをする。
――。――。
………………。
「むぅー」「……」
リリスとレーベは目を開け額を押さえながら不満げな顔でテュールを睨みつける。
「ヘタレ」「ヘタレですね」「ヘタレだな」「あぁ、ヘタレだ」
「うるせぇ!! 唇とは言われてねぇからなっ!? ほれ、次行くぞ!!」
――。
――――。
こうして、王様ゲームはしばらく続く。
が、しかし、結局テュールと女性陣がイチャつくだけの展開が続き、テップのフラストレーションは溜まり続けた。
結果テップはスネ始め――。
「はぁ、もういい。パトゥラッシュ、僕はもう疲れたよ……。次で最後にしよう。はい、おーさまだーれだ」
「あ、はい、私だねっ……」
カグヤが最後のゲームにして、初めて王様になる。
「えと……どうしようかなっ」
普段から皆のブレーキ役となっていたカグヤ。かと言って空気を壊すこともしたくない彼女は迷っていた。
チラッ。
上目遣いでテュールを見る。今までの流れであれば思いを寄せる人と近づくチャンス。ましてや最後ということで多少踏み込んだことを言っても許される空気だ。
しかし、やはり勇気の出ないカグヤは、諦めたような顔で――。
「えっと、にば――」
「ちょっと待て。カグヤ。喉が渇いたろ? お前は喉が渇いているはずだ」
レフィーがカグヤの言葉を遮り、急にそんなことを言う。
「え? 別にそんなことは――」
「ありますよね? あれあれぇー? 丁度いいところに水がありました! どうぞ」
「え、そう? じゃあ……」
セシリアも一緒になって強引に勧めてくるためカグヤは訝しげな表情をしながらもその飲み物を呑む。
「――!? これって!」
一口飲み、中身が水じゃないことに気付き、慌てて顔を上げるカグヤ。
「フフ、カグヤ、たまにはバカになれ。良い子ちゃんになりすぎると後悔するぞ?」
「そうですよ? それにカグヤさんばかり真面目ポイントを稼ぐなんてズルいです。一緒にわがまま言っちゃいましょ?」
レフィーとセシリアが笑いながらカグヤの背中を押す。
「二人とも……」
「そうなのだー。カグヤもテューくんに甘えたいってこっそり言って――むぐぐぐ!! ……もぐもぐ。おいひい」
素早くテップが幼女の口にパンを詰め込む。
「お前はそれを食ってろ。続き言ったらあの御方に殺されるぞ? それは開いちゃいけないパンドラの箱だ」
「んー……私もたまには甘えたい」
そして、なかったことにするはずの下りをブチ壊しレーベがそんなことを言う。
「『も』って言っちゃいましたよこの子、パンはどこだ、パンは!」
テップは慌ててパンを探したが時既に遅く、全てリリスの胃袋へと消えていた。
そんな少女達を見て、カグヤは笑顔になる。
「みんな……。うん、ありがとう。私……今日はバカになるねっ」
そして、手の中のグラスを空にする。
レフィー、セシリア、リリス、レーベ、テップ、ベリト、アンフィス、ヴァナル。皆が優しく頷き、その手にあるクジを掲げる。
そこには1~8の数字が並んでいた。カグヤはスゥーと、細く深く息を吸う。
「9番が王様を後ろから抱きしめて耳元で好きだよって呟いて王様がえっ?って振り向いたところを唇にそっとキスをするっ!」
………………。
さっきまで笑って応援してくれていた面々の表情がピシリと固まり、得も言わぬ空気感が漂う。
「……え、あれ? え、何か、間違ったかなっ……!?」
カグヤは狼狽え始める。
「ふ、ふむ、カグヤの趣味はそういうのだったんだな。いや、いいと思うぞ。私も憧れがないわけではないしな」
「そ、そうですねっ! 王様ゲームですし、これくらい、そのー、はっちゃけていた方が楽しいですよ! うんうん!」
「うはー。カグヤは乙女なのだー……」
「ん……。お花畑」
「おい、レーベお前は言いすぎだ」
少女4人がそれぞれ感想を言い、テップが最後にツッコむ。カグヤはうぅーと唸り、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。
「まぁ、けど命令は命令だからな。チッ、俺は8番だ、惜しかったなー。で、誰が9番なんだ? ニヤニヤ」
「あぁーボク、7番だー。いやー、9番になりたかったなー。ニヤニヤ」
「おや、私は5番ですね。実に残念です。このような素晴らしい命令を受けられる9番はどなたなのでしょうか? ニヤニヤと」
アンフィス、ヴァナル、ベリトがニヤニヤとわざわざ口に出しながらニヤニヤし煽り始める。当然の流れだろう。
そして、顔を真っ赤にしたカグヤがチラリと上目遣いで――。
「あの……ダメかなっ……?」
テュールに消え入るような声で尋ねてくる。
今の今まで目を閉じ、腕を組んで静観していたテュールは、ふぅと一息ついてゆっくりと目を開ける。
「ベリト、酒」
「はい、畏まりました。――テュール様、どうぞ」
「ん、ありがとう」
テュールが掲げた手には一瞬でグラスと氷、そして琥珀色の液体が。そして、それを一気に煽る。
「ふぅー。うしっ、カグヤ。これで俺もバカ。お前もバカだ。ま、王様ゲームだしな」
そう言ってテュールは立ち上がる。それを見たカグヤもゆっくり立ち上がり、皆が円になっている中心まで歩み寄る。
「じゃあ、後ろを向いて?」
コクリ。俯いたまま小さく頷き、後ろを向くカグヤ。テュールはそこから更に一歩踏み出し、そっとカグヤを抱きしめる。
「あっ……」
触れられた瞬間にカグヤが小さく声を漏らす。しかし、そんな相手の反応を待たずしてテュールは素早く耳元に口を寄せる。
「好きだよ」
「えっ……」
振り向くカグヤ。そして――。
「ん――」
1秒、5秒、10秒――。
二人の唇は重ね合わされたまま時が止まる。
そしてゆっくりと唇が離れ、潤んだ瞳のカグヤと見つめ合――。
「ップ」
った所で誰かが吹き出す。
「ダハハハハハハッッ!! 無理ッ! ダメッ! これは笑い堪えれないわっ!! くっさ!! くっさ!!」
テップが堪えきれず笑い始める。そして、それに釣られて他の者も笑ったり冷やかしたりと大騒ぎになる。
「て、てめぇら!! 笑うなぁぁぁあ!! こちとら死ぬほど恥ずかしかったんじゃぁあああ!! オラッ、テップ死ね!! てめぇもかアンフィス! おらヴァナルてめぇもニヤニヤしてんじゃねぇぇ!!」
テュールは近くにあった枕を手当たり次第男性陣に投げつけ始める。
「わぷっ!! い、いやだって。腹いてぇ。いや、お前……ップ。ダハハハハハッ!!」
テップはクリーンヒットを貰いながらも笑い続けていた。そして、男性陣はそのまま枕投げバトル二回戦へ突入する。
一方、女性陣の方は――。
「フ。良かったぞ?」
「フフ、素敵でしたよ」
「リリスもドキドキしたのだー!」
「ん……カグヤ可愛かった」
カグヤを取り囲んで口々にそんなことを言う。
「みんな……。ヘヘ、ありがとねっ。恥ずかしかったけど、うん、バカになって良かったかも」
まだ頬の赤みが取れないカグヤが笑顔でそう答えるのであった。
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コメント
世界るい
2018年初投稿です!作者も青春時代にこんな王様ゲームしたかったぁぁああああああ!!!!