とある英雄達の最終兵器
第105話 牛の名は――
「よーし! 文句なしだかんな!? じゃーーーん、けーん!」
「「「「「ぽんっ」」」」」
……。
「い、いよっしゃぁぁぁああ!! お前の名前は今日からデュートリッヒ・ギルバーグ!! ギルだ!!」
ひゃっほうと叫びながらベヒーモスに頬ずりをし、大袈裟に喜ぶテップ。が、しかし――。
「ちょっと待って?」
「ちょっと待て」
「テップさん今のは……」
「卑怯者……」
「悔しいのだーーーー!! え?」
少女たちは何かに気付いたようで、喜ぶテップに待ったをかける。若干一名は結果を受け入れてしまっていたようだが。
「テップ君? 今後出ししたよね?」
「…………してないよ?」
カグヤの追求に目を逸らしながら答えるテップ。尖った口先からはひゅーひゅーと掠れた口笛を吹きながら。
「ふむ、テップ知っているか? じゃんけんで後出しをしたヤツは背後から執事に殴られるんだぞ?」
「なんだって!?」
レフィーの揺さぶりに対し、咄嗟に振り向いて身構えてしまうテップ。視線の延長線上には一歩も動く気配のない執事が笑顔で手を振っている。
「あ……」
ホッと一息ついたテップは、自分の失態に気付き、ゆっくりと少女達へと振り返る。
「フフ、どうやら間抜けさんは――」
「見つかった」
セシリアとレーベが宣告する。
「なにー! テップズルしたのかー! 卑怯なのだ! もうテップは抜きなのだ!」
プンスカとリリスが怒り、罪状を言い渡す。じゃんけん後出し罪、よってベヒーモス名付けじゃんけん資格永久剥奪、と。
こうして、テップを除く少女5人で改めてじゃんけんが行われる。テップは未練たらしく、ギルごめんな、ギルごめんな、とベヒーモスに頬ずりをしている。実に気色悪い絵である。
そして、厳正なるじゃんけんの結果――。
「ツヨシ。お前は今日からツヨシ。私はツヨシより強くなる。そしたらツヨシは私より強くなって」
そこには、誰よりも純粋に強さを追い求める少女の情熱があった。
「ぶるふぁーー!!」
また、ベヒーモス改めツヨシも強者として生まれ、強さにプライドがあった。それをこの小さい少女が越えようとしている。実に面白い、できるものならやってみろ、と気勢よくその宣言に応える。
そして頃合いを見計らったテュールがそんな1人と一匹に話しかける。
「ハハ、良かったな。レーベ。だが、さっきも言ったが――」
「無茶はしない……」
「ん、分かってるならいい。んじゃツヨシもよろしくな」
「るふぁっ」
こうして、新たにベヒーモスという強大な戦力を引き入れたテュール達一行。果たしてこれだけの過剰戦力を遺憾なく発揮する場面が来るのか、まだこの時は誰も知る由はない。
そして今は課外研修の最中であり、あくまでリエースを目指すために立ち寄ったのだ。それを思い出したかのようにテュールが指揮を取る。
「さて、んじゃ全部丸く収まったところで、リエースを目指すか。ツヨシに引かす車を作るけど、作りたい人ー」
「はいはいはーい! 私やってみたいです!」
勢い良く手を上げるセシリア。
「おう、じゃあセシリア頼むな」
「はい! その……上手く作れたら褒めてくれますか?」
上目遣いでご褒美をねだるセシリア。他の女子は、ピキンと表情が固まり、小さく拳を握りしめる。恐らく彼女たちはこう思っているのであろう――その手があったか、と。
「ま、まぁ、褒めるくらいなら。あと作り方は――」
「やたっ! 約束ですよ! 私は頭を撫でてもらうまでが褒めるという行為だと認識してますからね? あ、ちなみに作り方はモヨモト様やリオン様、ファフニール様などから教えて頂いてあります」
テュールの発言に食い気味でそうまくし立てるセシリア。それを見ていた少女達4人は潔く敗北を認め、見届けることとしたようだ。テュール? 彼はひどく面食らってボサっとしている。当然、他の男子はニヤニヤ――。いや、一人ツヨシに頬ずりし、慰めてもらおうとしている者もいたが。
そして、早速セシリアが魔法陣を描き始める。
「ほぅ」
その魔法陣を見て、執事が感嘆の声を上げる。テュールも見ていて予想以上の複雑な生成魔法に驚きを隠せないでいた。
(セシリア、すごいな……。流石はルチアの――。いや、本人の努力か……、料理にしても修行にしてもいつも一生懸命だもんな……)
ひたむきに努力を重ねる少女を見て、尊敬の念が沸いてくるテュール。同時に――も。
それから30分程かけて複雑な部品を何個も作り出し、組み合わせ、ようやく一台の車が完成する。
「できましたっ」
最後の部品をはめ込み、笑顔で振り返るセシリア。皆は自然と拍手とともに賞賛の言葉を送る。そして、テュールも約束通り――。
「いや、褒めるって言うけど、まさかこんなスゴイものを作るとは思わなかった。すごく頑張ったんだな……。セシリアに任すなんて偉そうに言ったのが恥ずかしいな……。俺じゃこんな風には作れなかったよ。本当に感動した」
そう言って、セシリアの頭を撫でる。
「フフ、頑張った甲斐がありました。テュールさんを驚かせれたなら大満足ですっ♪ それに、撫でてもらえましたし……」
至近距離で見つめ合い、頭を撫でられているセシリア。その耳や頬は、元が透き通るような白い肌なためはっきりと紅潮しているのが見てとれた。
「コホン。さ、平原を回り道するんだ。ツヨシがどれだけの速度で走れるか分からないからな、そろそろ出発した方がいいだろう」
「そうねっ。そうよねっ。キャンプどころか、間に合わないなんてなったら大変だもんねっ」
そんな二人を見て、わざとらしい咳払いをし、そう提案するのはレフィー。更に続くはカグヤ。そして、それを見て、ニヤニヤと頷くベリト、アンフィス、ヴァナル。その間もテップはツヨシと二人だけの世界で会話していた。
「そ、そうだな! よしっ、出発するとしよう! これをツヨシにくっ付けるんだな?」
「あ、はいっ! そうです! 私がやります、私がやります――あっ」
慌てた様子でテュールとセシリアは離れると、ツヨシにつける鞍の準備を始める。が、そこでも両者の手が重なり、見つめ合うことに――。
「んー! コホンッ!! テップがやりたいそうだ。おい、テップ?」
レフィーが有無を言わさぬ圧力を持った声でテップに指示をする。テップはすぐさま駆けつけ、はいはい、すみませんねっとテュールと、セシリアに一言声をかけ、その鞍をひったくるように奪うと素早くツヨシに取り付ける。
「「……」」
そして、お互い気まずくなったテュールとセシリアは、そっと車へと乗車し黙りこくるのであった。
しかし、車に乗り込んだら乗り込んだで次のトラブルが舞い込む。車の中は広く、全員が座れるだけのスペースがあるのだが――。
「リリスの特等席はここなのだー♪」
と、言って、テュールの膝の上に座るリリス。実に満足気である。が、そこに無言でトコトコと近付く者が1人――レーベだ。
「……んしょ」
そしてそれをどかし、そこに収まろうとする。
「早いもん順なのだ!」
「力こそ正義……。奪い取ればいい」
バチバチと睨み合う幼女二人に頭を抱えるテュール。
結局じゃんけんで順番を決め、交代で座ることに決まったようだ。当然テュールの意見などは一切取り合われず。
そして、ようやく車内が落ち着いたところでアンフィスとヴァナルが前方の御者席とも呼べる一名分のスペースに座る者に声をかける。
「んじゃ運転手さんよろしく」
「よろしくー」
「くっそぉぉおお!! イチャイチャしやがって!! 青春のバカヤロー!! ツヨシィィィ!! 胸のエンジンに火をつけろぉぉ!! 光の速さで明日へダッシュだ!! ハイヨォォォー!!」
「ぶるふぁぁっぁぁああ!!」
――ぅわっ!!
テップが怒号とともに手綱を振ると、ツヨシの四肢が大地をえぐりながら爆ぜる。予想を遥かに上回るスピードでの発進に車内の者は驚き、悲鳴を上げる。
「ざまぁぁぁぁああ!! ふはははははは!!」
そして、御者であるテップは、涙を流しながら高笑いし、手綱を振り続けるのであった。
「「「「「ぽんっ」」」」」
……。
「い、いよっしゃぁぁぁああ!! お前の名前は今日からデュートリッヒ・ギルバーグ!! ギルだ!!」
ひゃっほうと叫びながらベヒーモスに頬ずりをし、大袈裟に喜ぶテップ。が、しかし――。
「ちょっと待って?」
「ちょっと待て」
「テップさん今のは……」
「卑怯者……」
「悔しいのだーーーー!! え?」
少女たちは何かに気付いたようで、喜ぶテップに待ったをかける。若干一名は結果を受け入れてしまっていたようだが。
「テップ君? 今後出ししたよね?」
「…………してないよ?」
カグヤの追求に目を逸らしながら答えるテップ。尖った口先からはひゅーひゅーと掠れた口笛を吹きながら。
「ふむ、テップ知っているか? じゃんけんで後出しをしたヤツは背後から執事に殴られるんだぞ?」
「なんだって!?」
レフィーの揺さぶりに対し、咄嗟に振り向いて身構えてしまうテップ。視線の延長線上には一歩も動く気配のない執事が笑顔で手を振っている。
「あ……」
ホッと一息ついたテップは、自分の失態に気付き、ゆっくりと少女達へと振り返る。
「フフ、どうやら間抜けさんは――」
「見つかった」
セシリアとレーベが宣告する。
「なにー! テップズルしたのかー! 卑怯なのだ! もうテップは抜きなのだ!」
プンスカとリリスが怒り、罪状を言い渡す。じゃんけん後出し罪、よってベヒーモス名付けじゃんけん資格永久剥奪、と。
こうして、テップを除く少女5人で改めてじゃんけんが行われる。テップは未練たらしく、ギルごめんな、ギルごめんな、とベヒーモスに頬ずりをしている。実に気色悪い絵である。
そして、厳正なるじゃんけんの結果――。
「ツヨシ。お前は今日からツヨシ。私はツヨシより強くなる。そしたらツヨシは私より強くなって」
そこには、誰よりも純粋に強さを追い求める少女の情熱があった。
「ぶるふぁーー!!」
また、ベヒーモス改めツヨシも強者として生まれ、強さにプライドがあった。それをこの小さい少女が越えようとしている。実に面白い、できるものならやってみろ、と気勢よくその宣言に応える。
そして頃合いを見計らったテュールがそんな1人と一匹に話しかける。
「ハハ、良かったな。レーベ。だが、さっきも言ったが――」
「無茶はしない……」
「ん、分かってるならいい。んじゃツヨシもよろしくな」
「るふぁっ」
こうして、新たにベヒーモスという強大な戦力を引き入れたテュール達一行。果たしてこれだけの過剰戦力を遺憾なく発揮する場面が来るのか、まだこの時は誰も知る由はない。
そして今は課外研修の最中であり、あくまでリエースを目指すために立ち寄ったのだ。それを思い出したかのようにテュールが指揮を取る。
「さて、んじゃ全部丸く収まったところで、リエースを目指すか。ツヨシに引かす車を作るけど、作りたい人ー」
「はいはいはーい! 私やってみたいです!」
勢い良く手を上げるセシリア。
「おう、じゃあセシリア頼むな」
「はい! その……上手く作れたら褒めてくれますか?」
上目遣いでご褒美をねだるセシリア。他の女子は、ピキンと表情が固まり、小さく拳を握りしめる。恐らく彼女たちはこう思っているのであろう――その手があったか、と。
「ま、まぁ、褒めるくらいなら。あと作り方は――」
「やたっ! 約束ですよ! 私は頭を撫でてもらうまでが褒めるという行為だと認識してますからね? あ、ちなみに作り方はモヨモト様やリオン様、ファフニール様などから教えて頂いてあります」
テュールの発言に食い気味でそうまくし立てるセシリア。それを見ていた少女達4人は潔く敗北を認め、見届けることとしたようだ。テュール? 彼はひどく面食らってボサっとしている。当然、他の男子はニヤニヤ――。いや、一人ツヨシに頬ずりし、慰めてもらおうとしている者もいたが。
そして、早速セシリアが魔法陣を描き始める。
「ほぅ」
その魔法陣を見て、執事が感嘆の声を上げる。テュールも見ていて予想以上の複雑な生成魔法に驚きを隠せないでいた。
(セシリア、すごいな……。流石はルチアの――。いや、本人の努力か……、料理にしても修行にしてもいつも一生懸命だもんな……)
ひたむきに努力を重ねる少女を見て、尊敬の念が沸いてくるテュール。同時に――も。
それから30分程かけて複雑な部品を何個も作り出し、組み合わせ、ようやく一台の車が完成する。
「できましたっ」
最後の部品をはめ込み、笑顔で振り返るセシリア。皆は自然と拍手とともに賞賛の言葉を送る。そして、テュールも約束通り――。
「いや、褒めるって言うけど、まさかこんなスゴイものを作るとは思わなかった。すごく頑張ったんだな……。セシリアに任すなんて偉そうに言ったのが恥ずかしいな……。俺じゃこんな風には作れなかったよ。本当に感動した」
そう言って、セシリアの頭を撫でる。
「フフ、頑張った甲斐がありました。テュールさんを驚かせれたなら大満足ですっ♪ それに、撫でてもらえましたし……」
至近距離で見つめ合い、頭を撫でられているセシリア。その耳や頬は、元が透き通るような白い肌なためはっきりと紅潮しているのが見てとれた。
「コホン。さ、平原を回り道するんだ。ツヨシがどれだけの速度で走れるか分からないからな、そろそろ出発した方がいいだろう」
「そうねっ。そうよねっ。キャンプどころか、間に合わないなんてなったら大変だもんねっ」
そんな二人を見て、わざとらしい咳払いをし、そう提案するのはレフィー。更に続くはカグヤ。そして、それを見て、ニヤニヤと頷くベリト、アンフィス、ヴァナル。その間もテップはツヨシと二人だけの世界で会話していた。
「そ、そうだな! よしっ、出発するとしよう! これをツヨシにくっ付けるんだな?」
「あ、はいっ! そうです! 私がやります、私がやります――あっ」
慌てた様子でテュールとセシリアは離れると、ツヨシにつける鞍の準備を始める。が、そこでも両者の手が重なり、見つめ合うことに――。
「んー! コホンッ!! テップがやりたいそうだ。おい、テップ?」
レフィーが有無を言わさぬ圧力を持った声でテップに指示をする。テップはすぐさま駆けつけ、はいはい、すみませんねっとテュールと、セシリアに一言声をかけ、その鞍をひったくるように奪うと素早くツヨシに取り付ける。
「「……」」
そして、お互い気まずくなったテュールとセシリアは、そっと車へと乗車し黙りこくるのであった。
しかし、車に乗り込んだら乗り込んだで次のトラブルが舞い込む。車の中は広く、全員が座れるだけのスペースがあるのだが――。
「リリスの特等席はここなのだー♪」
と、言って、テュールの膝の上に座るリリス。実に満足気である。が、そこに無言でトコトコと近付く者が1人――レーベだ。
「……んしょ」
そしてそれをどかし、そこに収まろうとする。
「早いもん順なのだ!」
「力こそ正義……。奪い取ればいい」
バチバチと睨み合う幼女二人に頭を抱えるテュール。
結局じゃんけんで順番を決め、交代で座ることに決まったようだ。当然テュールの意見などは一切取り合われず。
そして、ようやく車内が落ち着いたところでアンフィスとヴァナルが前方の御者席とも呼べる一名分のスペースに座る者に声をかける。
「んじゃ運転手さんよろしく」
「よろしくー」
「くっそぉぉおお!! イチャイチャしやがって!! 青春のバカヤロー!! ツヨシィィィ!! 胸のエンジンに火をつけろぉぉ!! 光の速さで明日へダッシュだ!! ハイヨォォォー!!」
「ぶるふぁぁっぁぁああ!!」
――ぅわっ!!
テップが怒号とともに手綱を振ると、ツヨシの四肢が大地をえぐりながら爆ぜる。予想を遥かに上回るスピードでの発進に車内の者は驚き、悲鳴を上げる。
「ざまぁぁぁぁああ!! ふはははははは!!」
そして、御者であるテップは、涙を流しながら高笑いし、手綱を振り続けるのであった。
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