とある英雄達の最終兵器
第100話 仲間外れ仲間
「うぐっ……えぐっ……」
遂に出立の朝となり、5日間親と子が離れ離れになることに耐えきれず泣きじゃくる者が一人。
「はいはい、泣かないの。良い子なんだから、ね?」
カグヤは泣きじゃくるその子の頭を撫でて優しく慰める。
「なかないのー。よしよし」
そして、カグヤの腕に抱かれたウーミアもその者の頭をぽんぽんと撫でる。では、泣きじゃくる者は誰かって? それはもちろん――。
「テュール? いい加減にしろ。ほら、時間がない、出るぞ。ミアまた後でな」
「あーい!」
レフィーがウーミアの頭を撫でて、そう言うとカグヤはウーミアをルチアへと預ける。
「カカ、そのバカを引きずってでも連れてってやりな」
「ほら、行くよ。テュールくんっ」
「行きますよ? テュールさん?」
「イヤだァァァァ!! 寂しいぃぃぃぃいい!!」
カグヤとセシリアに両腕を掴まれ、ズルズルと引きずられていくテュール。その断末魔はしばらく聞こえ続けたとか続けてないとか。
「ふぅ。やかましいったらありゃしないさね。大のおとなが情けない……ん?」
ルチアがようやくテュール達一行が出立し、静かになったと一息つこうとしたところで扉が物凄い勢いで開く。
「ハァ……ハァ……! みんなは!?」
「ホホ、今出たとこじゃが?」
「マジか!! あいつら薄情者かよ!! いってきます!!」
モヨモトが答えると、赤毛のお調子者は着崩れた服、ボサボサの頭で風のごとく走り去っていく。
「やれやれ……」
そして、ルチアはもう一度頭を大きく振るのであった。
ハルモニア校では、集合時間になると校庭に一学年300人が集まり、その前方でルーナが出立の挨拶をしている。
「ふむ、流石に遅刻した者はいないな。まぁ若干一名ギリギリだったようだがな……」
服はなんとか整えたもののただでさえ天然パーマでふわふわの赤毛の男は、その頭を寝癖という火薬で爆発させていた。
(おい、テュール、なんで起こしてくれなかったんだよ!)
注目され、衆目の嘲笑を浴びたテップがテュールに小声で毒づく。
(いや、俺とベリトが交互に起こしたぞ? そしたらお前はニヤニヤしながら鞭ぃー鞭ぃーって起きようとしないからさ)
(うぐっ! けど退学だぞ!? 俺がいなくなったら寂しいだろ!?)
(……)
(寂しいって言ってくれよぉぉぉおお)
「ステップ私語を慎め!! いい加減にしないとその頭を全部刈るぞ!!」
「ひゃい! 申し訳ありませんです!」
(ぐぬぬぬぬぬ)
その後は口を開くわけにはいかず、口を真一文字に閉じ、唸るしかできないテップであった。
「――というわけで、各々の団に地図は渡ったな? 現在地と目的地がマッピングされる魔道具だ。これで迷うようなバカはこの学校にいらん。毎年早い団は10時間ほどで到着する。遅い者でも次の日の朝8時までには着くだろう。それ以降に到着するようなたるんだ者達には帰ったら特別に補習をくれてやる。楽しみにしておけ。おっと、丁度良い時に着いたな」
ティティティロ、ティロ~、ティーティロティロティロ、ティティ~♪
(ん? なんだ? このどこかで聞いたよう――な!?)
「ぬぁぁぁぁごぉぉぉ!!」
そこに現れたのは、左右6本ずつ、計12本の足をうねうねと連動させ、走ってくる。巨大な猫型のバスだった。
「さて、我々教師陣はこのにゃんこバスで先に現地に入っている。そうだな、このにゃんこバスより速く着いた者には特別に褒美をやろう。ではな」
そしてルーナ含む教師陣は、そそくさと魔力で駆動する猫型のバス――魔導にゃんこバスに乗って軽やかに去っていった。
(い、異世界で著作権がないことをいいことに好き放題だな……。あのメロディをわざわざスピーカーから流すあたり製作者はノリノリだったんだろうな。犯人はあの5人の誰か……、いや、多分5人で盛り上がってる内に作っちまったんだろう……)
「す、すごいね。あれ」
カグヤも無駄に高い技術で作られているであろうにゃんこバスを見て、呆れ半分、驚き半分でボソッと呟く。
「あ、あぁ。俺はあの元ネタを知っているが、ディティール半端ないんだぜ? ドアの開き方から、行き先の表示方法から、更には絶対に乗り心地が良くない飛び跳ね方まで完璧だった……。つまり製作者は……」
「それ以上は言わないで……」
呆れているカグヤに追い打ちをかけるようテュールがそう言うと、カグヤは天を仰ぐ。恐らく祖父の笑い顔が空に映って見えるのだろう。
こうして謎の演出で教師陣が去った後は生徒達のざわつきは大きくなり、皆が皆、周りを見渡して誰が先陣を切るか探り合ってるようだ。
そんな中、先陣を切り開こうと口火を切る者がいた――。
「行くぞーーー!! 我に続けぇぇぇぇ!!」
一学年全生徒300名がその声に振り返る。当然この空気の中こんなバカなことを言えるのは赤毛の彼しかいない。
「フハハハハハ――は?」
そして第一団――つまりテュール達、を除く生徒達が一斉に駆け出した。あの赤毛の後ろをついていくのだけは嫌という意思で統一されたのだろう。
「テップかっこ悪い」
「テップダサイのだー」
1人腕を組み、高笑いしていたテップに冷たい風が吹き付ける。レーベとリリスがそんなテップに追い打ちをかけたところでテップは両手足を地面に投げ出し、ずーんとうな垂れた。
「さ、バカやってないで、俺たちも行こうぜ? 一番に到着していい部屋に泊まりたいし。なんならマジであのにゃんこバス追い越すか!」
赤毛のお調子者を無視してテュールがそう提案する。
「「え?」」
やけに大きい荷物を背負っているテップと、コウモリの羽の飾りがついた小さいリュックを背負っているリリスが何を言ってるの? といった表情でテュールに聞き返す。
「いや、え? ってなんやねん。つかテップお前、その荷物は多すぎるだろ……何を持ってきたんだ?」
テュールは嫌な予感をヒシヒシと感じながら、テップに尋ねる。
「え? テントだけど? 今夜はキャンプだろ?」
ウィンクしながら親指を立てて満面の笑みでそう言うテップ。
「キャンプなのだー!」
はしゃぐリリス。
「俺釣り道具持ってきたぜー?」
「ボクもー」
アンフィスとヴァナルは魚を調達するための釣り道具を持ってきていた。
「私もちゃんと調理道具持ってきました!」
そしてセシリアは家から使い慣れている調理道具を一式持ってきたとのこと。
「サンドバックもってきた……」
(いやいや、君のはおかしいから。それは置いてこ? ね?)
またしても自分の知らない所でキャンプ計画が進められていたことに頭が痛くなったテュールは目を覆う。そして、自分の執事であるベリトに尋ねる。
「……ベリト知ってたのか?」
「えぇ、もちろん把握しておりました。私も虫除けの結界を張る魔道具を持ってまいりました」
ニコリ、さらりとそんなことを言う執事。
「……私、知らなかった。レフィーは知ってた?」
キャンプ計画を聞かされていなかったカグヤが愕然とし、仲間外れ仲間と思わしきレフィーに確認をとる。
「フ。当然だ。そして、カグヤは反対するから黙っとけと言ったのは私だ。というわけでのんびり行こうじゃないか」
不敵な笑みを浮かべ、レフィーはそう返す。仲間外れ仲間だと思っていた人が、まさかの元凶だったことに更に驚き、カグヤは力なく項垂れる。
「カグヤ……、仲間外れ仲間いらっしゃい。な? 俺はいつもこれなんだ。ツライだろ?」
いつも知らないところで物事が勝手に進むことが日常茶飯事となっているテュールは、カグヤも同じ境遇であることにある種のやすらぎまで感じており、優しい声で仲間へと引きずりこもうとする。
そんなテュールの言葉を聞いたカグヤの表情はそれはそれは複雑な表情だった。
遂に出立の朝となり、5日間親と子が離れ離れになることに耐えきれず泣きじゃくる者が一人。
「はいはい、泣かないの。良い子なんだから、ね?」
カグヤは泣きじゃくるその子の頭を撫でて優しく慰める。
「なかないのー。よしよし」
そして、カグヤの腕に抱かれたウーミアもその者の頭をぽんぽんと撫でる。では、泣きじゃくる者は誰かって? それはもちろん――。
「テュール? いい加減にしろ。ほら、時間がない、出るぞ。ミアまた後でな」
「あーい!」
レフィーがウーミアの頭を撫でて、そう言うとカグヤはウーミアをルチアへと預ける。
「カカ、そのバカを引きずってでも連れてってやりな」
「ほら、行くよ。テュールくんっ」
「行きますよ? テュールさん?」
「イヤだァァァァ!! 寂しいぃぃぃぃいい!!」
カグヤとセシリアに両腕を掴まれ、ズルズルと引きずられていくテュール。その断末魔はしばらく聞こえ続けたとか続けてないとか。
「ふぅ。やかましいったらありゃしないさね。大のおとなが情けない……ん?」
ルチアがようやくテュール達一行が出立し、静かになったと一息つこうとしたところで扉が物凄い勢いで開く。
「ハァ……ハァ……! みんなは!?」
「ホホ、今出たとこじゃが?」
「マジか!! あいつら薄情者かよ!! いってきます!!」
モヨモトが答えると、赤毛のお調子者は着崩れた服、ボサボサの頭で風のごとく走り去っていく。
「やれやれ……」
そして、ルチアはもう一度頭を大きく振るのであった。
ハルモニア校では、集合時間になると校庭に一学年300人が集まり、その前方でルーナが出立の挨拶をしている。
「ふむ、流石に遅刻した者はいないな。まぁ若干一名ギリギリだったようだがな……」
服はなんとか整えたもののただでさえ天然パーマでふわふわの赤毛の男は、その頭を寝癖という火薬で爆発させていた。
(おい、テュール、なんで起こしてくれなかったんだよ!)
注目され、衆目の嘲笑を浴びたテップがテュールに小声で毒づく。
(いや、俺とベリトが交互に起こしたぞ? そしたらお前はニヤニヤしながら鞭ぃー鞭ぃーって起きようとしないからさ)
(うぐっ! けど退学だぞ!? 俺がいなくなったら寂しいだろ!?)
(……)
(寂しいって言ってくれよぉぉぉおお)
「ステップ私語を慎め!! いい加減にしないとその頭を全部刈るぞ!!」
「ひゃい! 申し訳ありませんです!」
(ぐぬぬぬぬぬ)
その後は口を開くわけにはいかず、口を真一文字に閉じ、唸るしかできないテップであった。
「――というわけで、各々の団に地図は渡ったな? 現在地と目的地がマッピングされる魔道具だ。これで迷うようなバカはこの学校にいらん。毎年早い団は10時間ほどで到着する。遅い者でも次の日の朝8時までには着くだろう。それ以降に到着するようなたるんだ者達には帰ったら特別に補習をくれてやる。楽しみにしておけ。おっと、丁度良い時に着いたな」
ティティティロ、ティロ~、ティーティロティロティロ、ティティ~♪
(ん? なんだ? このどこかで聞いたよう――な!?)
「ぬぁぁぁぁごぉぉぉ!!」
そこに現れたのは、左右6本ずつ、計12本の足をうねうねと連動させ、走ってくる。巨大な猫型のバスだった。
「さて、我々教師陣はこのにゃんこバスで先に現地に入っている。そうだな、このにゃんこバスより速く着いた者には特別に褒美をやろう。ではな」
そしてルーナ含む教師陣は、そそくさと魔力で駆動する猫型のバス――魔導にゃんこバスに乗って軽やかに去っていった。
(い、異世界で著作権がないことをいいことに好き放題だな……。あのメロディをわざわざスピーカーから流すあたり製作者はノリノリだったんだろうな。犯人はあの5人の誰か……、いや、多分5人で盛り上がってる内に作っちまったんだろう……)
「す、すごいね。あれ」
カグヤも無駄に高い技術で作られているであろうにゃんこバスを見て、呆れ半分、驚き半分でボソッと呟く。
「あ、あぁ。俺はあの元ネタを知っているが、ディティール半端ないんだぜ? ドアの開き方から、行き先の表示方法から、更には絶対に乗り心地が良くない飛び跳ね方まで完璧だった……。つまり製作者は……」
「それ以上は言わないで……」
呆れているカグヤに追い打ちをかけるようテュールがそう言うと、カグヤは天を仰ぐ。恐らく祖父の笑い顔が空に映って見えるのだろう。
こうして謎の演出で教師陣が去った後は生徒達のざわつきは大きくなり、皆が皆、周りを見渡して誰が先陣を切るか探り合ってるようだ。
そんな中、先陣を切り開こうと口火を切る者がいた――。
「行くぞーーー!! 我に続けぇぇぇぇ!!」
一学年全生徒300名がその声に振り返る。当然この空気の中こんなバカなことを言えるのは赤毛の彼しかいない。
「フハハハハハ――は?」
そして第一団――つまりテュール達、を除く生徒達が一斉に駆け出した。あの赤毛の後ろをついていくのだけは嫌という意思で統一されたのだろう。
「テップかっこ悪い」
「テップダサイのだー」
1人腕を組み、高笑いしていたテップに冷たい風が吹き付ける。レーベとリリスがそんなテップに追い打ちをかけたところでテップは両手足を地面に投げ出し、ずーんとうな垂れた。
「さ、バカやってないで、俺たちも行こうぜ? 一番に到着していい部屋に泊まりたいし。なんならマジであのにゃんこバス追い越すか!」
赤毛のお調子者を無視してテュールがそう提案する。
「「え?」」
やけに大きい荷物を背負っているテップと、コウモリの羽の飾りがついた小さいリュックを背負っているリリスが何を言ってるの? といった表情でテュールに聞き返す。
「いや、え? ってなんやねん。つかテップお前、その荷物は多すぎるだろ……何を持ってきたんだ?」
テュールは嫌な予感をヒシヒシと感じながら、テップに尋ねる。
「え? テントだけど? 今夜はキャンプだろ?」
ウィンクしながら親指を立てて満面の笑みでそう言うテップ。
「キャンプなのだー!」
はしゃぐリリス。
「俺釣り道具持ってきたぜー?」
「ボクもー」
アンフィスとヴァナルは魚を調達するための釣り道具を持ってきていた。
「私もちゃんと調理道具持ってきました!」
そしてセシリアは家から使い慣れている調理道具を一式持ってきたとのこと。
「サンドバックもってきた……」
(いやいや、君のはおかしいから。それは置いてこ? ね?)
またしても自分の知らない所でキャンプ計画が進められていたことに頭が痛くなったテュールは目を覆う。そして、自分の執事であるベリトに尋ねる。
「……ベリト知ってたのか?」
「えぇ、もちろん把握しておりました。私も虫除けの結界を張る魔道具を持ってまいりました」
ニコリ、さらりとそんなことを言う執事。
「……私、知らなかった。レフィーは知ってた?」
キャンプ計画を聞かされていなかったカグヤが愕然とし、仲間外れ仲間と思わしきレフィーに確認をとる。
「フ。当然だ。そして、カグヤは反対するから黙っとけと言ったのは私だ。というわけでのんびり行こうじゃないか」
不敵な笑みを浮かべ、レフィーはそう返す。仲間外れ仲間だと思っていた人が、まさかの元凶だったことに更に驚き、カグヤは力なく項垂れる。
「カグヤ……、仲間外れ仲間いらっしゃい。な? 俺はいつもこれなんだ。ツライだろ?」
いつも知らないところで物事が勝手に進むことが日常茶飯事となっているテュールは、カグヤも同じ境遇であることにある種のやすらぎまで感じており、優しい声で仲間へと引きずりこもうとする。
そんなテュールの言葉を聞いたカグヤの表情はそれはそれは複雑な表情だった。
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