とある英雄達の最終兵器

世界るい

第85話 モヨモトもろともモルモット

「というわけで第一回テュール様の腕の中に収まるのは誰だ選手権です」


 わーパチパチ。


 おい、親族ども止めろよ。結構いい年の男女だぞ? もっとこう節度とか説教しろよ……。


「はい、では勝負の方法ですが、今宵は宴の席です。暴力など無粋なものはやめましょう。というわけでお酒一気飲み早口言葉対決はいかがでしょうか?」


 ベリトが笑顔でカグヤ達5人にそう提案する。


「いいよっ? わらしは、ック、それでいいよっ? ヒック」


 カグヤは既に目が据わっており、時折肩を震わせながら返事をする。ゆ~らゆら揺れてるけど大丈夫ですかね?


「私もそれでいいです。いいんです。抱っこです」


 片や呂律はしっかりしており、シャキっとしているように見えるセシリアだが、頭のネジはブッ飛んでいるようだ。


「ナハハハー!! 断るのらー!! 早い者勝ちなのらー!!」


 リリスさん……。あなたは本当自由ね……。


「わらしは……。わらしは……。わら……」


 レーベ……? 寝ないで? いや、寝るなら寝るでいいんだけどさ?


「私もそれで構わないぞ」


 そして唯一酔わないお前は止めろよ。


「「「アウッ」」」


 もう、ツッコミ追いつかねぇよ。つーか、本当に参加するのか? ポメ?


 そんなテュールのツッコミなど知ったこっちゃない執事はカグヤ達の返事に満足そうに頷き、ゲームを進行していく。


「では、詳しいルールです、ちゃんと聞いて下さいね? えぇ、まず皆さんの前にあるお酒――はい」


 パチンッと指を鳴らすとテーブルに5つの透明なグラスが現れる。お酒もきちんと同量となっている。流石執事力の無駄遣いに定評のあるベリトだ。ちなみに床にはポメ用の水入れが用意されていた。まさかポメにもお酒を飲ますなんてことは……。いや中身は……あえて聞かないでおこう。


「はい、こちらを一気飲みして早く飲みきった順に、早口言葉でモヨモトもろともモルモットと三回言って下さい。見事言えた方先着二名様がテュール様のそれぞれ腕の中に収まることができます。ちなみに早口言葉に失敗しても再度注がれたお酒を飲み干せば再挑戦できます」


 な、なんだよ、モヨモトもろともモルモットって、恐ろしい……。つーか、キャバクラかココは! いや、地球でもキャバクラとか怖くて入ったことなかったからイメージだけどさ……。うぅ、どうせビビリですよ……。チキンですよ……。


 そしてベリトはルール説明を酔っ払い達に熱心に教える。酔っぱらい達も熱心に聞いている。何度も何度もルールを確認しながら……。マジ酔っぱらい大変……。


「ふぅ。では、準備はよろしいですか?」


 ベリトがいい汗かいたとばかりにハンカチで頬を拭き最終確認をとる。コクリ。5人と一匹は静かに頷く……。いや、良くないやろ、ポメちゃん言えないやん……。


「では、用意……、ドン! と、言ったらスタートし――。おやおや、お約束無視で始めちゃいましたね。……もういいです。どうぞ」


 執事の小粋なイタズラをガン無視して最初からクライマックスの勢いでゴクゴクと酒を飲み始める5人と、ペロペロペロペロとすげぇ速さで舐め始める一匹。


「おーい、これ死者出ませんかー? やめませんかー?」


 とりあえず無駄だと分かっているが、止めのポーズは見せておく。当然無視される。ひどい……。


 そして、酒を飲み干し早口言葉に挑戦する者が出る。


「おっと、まさかのトップはポメベロスですね。では、どうぞ」


「「「アウアウアウアウアウアウアウッッ!!」」」


 …………。


 一瞬、全員が飲んでいる酒を止め、視線をポメに送る。そして、執事へ……。


「……おい、ベリト。これは判定どうなんだ?」


「うーん、惜しいですね。3つの口で同時に言うことにより3回分にしようというアイデアは容認できたのですが、モヨモトもろとも食べちゃいたいは、アウトです」


 判定はアウトだったようで、ベリトの発言が終わる頃にはカグヤ達は酒をガブガブと飲み始めていた。どうやらポメベロスの発言内容云々というより勝者の椅子が奪われたかどうかが気になっていたみたいだ。犬相手でも本気になるって……。


「というかポメ……。そんなこと言ってたのか……。モヨモトはきっと美味しくないから食べちゃダメだぞ?」


「「「アウ~?」」」


 うん、分かってないようだ。モヨモトすまん!


 そして、二番手はお酒は飲んでも呑まれるなを地で行く女、レフィーだった。


「おっと、次はレフィー様ですね。どうぞ」


「モヨモトもろともモルモット。モヨモトもろともモルモット。モヨモトもろともモルモット。これでいいか?」


「はい、文句の付けようがありませんね。まずは一枠目ゲットです。おめでとうございます」


 そして、あっさりとゲームに勝ちやがった。なんというか手加減とかそういうの一切なかったな……。


「あぁ、すまないな。では、失礼するぞ。……ふぅ、あまり座り心地のよくない足だな。まぁいい。私はリラックスして飲みたいからきちんと支えておいてくれよ?」


 右太ももの上に座って、右手を背もたれにしてレフィーがそんなことを言う。そしてそれを見てカグヤ達は――。


「「「「ぐぬぬぬぬ」」」」


 下唇を目一杯噛んで睨んでいた。


「皆様、淑女らしからぬ声が出ていますのでご注意を。まだ左が残ってますからね? はい、カグヤ様」


 酒を飲み干したカグヤがふら~っと立ち上がり、すごい眼力でベリトを睨み、息を吸い込む。


 そして、カッとその両眼を見開き、結ばれていた口を一気に開くッ――。


「もよもろもろもろもろろろろ! もろもろもよもよもろろろろ! ももよももろもろもよもっと!」


「はい、全然ダメです。再挑戦しますか?」


「しますっ!」


 すごいシャキっとした声で返事したけどカグヤさん……この泥沼ゲームを続けるんですか?


「はい、頑張って下さい。お、リリス様ですね? どうぞ」


「んー? なんて言うんだっけ? モヨモト……? モヨモト、モヨモト、モロモヨ! ナハハハハー!! 言えたのらー!」


 すごい得意げな顔でバンバンと執事を叩きながら、ほれ勝者宣言しろとせっつくリリス。


「いえ、お題の言葉も違いますし、且つ言えていません。次回の挑戦お待ちしております」


 リリスはゲーム説明を何度も聞いたのに、結局こうなってしまった。しかし、驚きはしない。俺もベリトもこうなると予想していたからな。そして、その後もゲームは続き――。


「モヨモロ――」「モロロヨ――」「モロロロロ――」「モヨモト……きらいなのら」「「「アウアウアウアウッ」」」「モロ……うぅ」


 当然クリアできる者が出るはずもなく――。


 バタッ、バタッ、バタッ、バタッ。全員机に突っ伏して沈黙となる。


「……はい。では、皆様ギブアップということでレフィー様のみ抱っこ権ゲットです」


「あぁ、では存分にこの椅子を使わせてもらおう。さてテュール? 足が痺れたら言ってくれ」


「……もう既に痺れているんだが」


 レフィーが珍しく殊勝な態度で気遣ってくれたので遠慮なく言う。


「ん? すまない。ココか? それともココか?」


「ひぅ。やめぃ! ひぁう! くすぐったいわ!!」


 だが、どうやらただのフリだったようで、痺れているところを強めにくすぐって――強い! やめてっ!


「あぁ、すまない。私のような手折れそうな女を乗せておいて痺れるなどという軟弱な足はどんなものかと興味があって、つい、な」


「…………。痺れてないし……」


 そんな茶番をしていると一人の男が立ち上がる。


 つかつかつかつか、ドカッ。


「…………。おい、ブラザー? なんのつもりだ?」


 左太ももに座ってきた男に対し、その真意をはかろうと尋ねてみる。


「……妬ましい。貴様が妬ましいのだ……」


 えぇー……。


「だからと言って、俺の足に座る? ねぇ?」


「早く左手で俺の背中を支えるんだ」


「え、イヤだけど? つーか、リーシャ先輩の話聞いてご機嫌だったじゃん?」


「それはそれ、これはこれだ。目の前でこんなキャバクラごっこされた日には俺の怒りは天をも貫く」


 なんかものすごい勢いで怒っているらしいが覇気が全くない。彼はどうしてしまったんだ? そして反対を見るとレフィーが難しい顔をしながら支えてやれと言ってくる。それ分かってるからな? 必死に笑いを堪えるためにしかめているの分かっているからな?


「…………はぁ。これで満足か……?」


「…………。うぅ。うぅぅ」


 テュールの言葉に顔を上げ、見つめること数秒。突如両手で顔を覆い、泣き始めてしまうテップ。こ、こいつもたちの悪い酔っぱらいだったんだな……。


「や、やめろ。俺の膝の上で泣くなよ。俺が悪かったって……。明日リーシャ先輩のとこ行こうな?」


「うぅ、ぐすん……。いぐ……」


 ガチ泣きやめてもらえませんかねぇ……。あと、レフィーさん心底楽しそうにニヤつくのやめよ?


 こうして、酔っぱらいどもの夜は更けていく――。

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