とある英雄達の最終兵器

世界るい

第75話 はじめの一歩

 ざわざわ。。。 ざわ。。 ざわ。。 ざわざわ。。。


 明らかに浮いている集団を見て、周りがざわついている。


 そこには――異様な集団がいた。ひどい色モノ9人組だ。一瞬異世界だということを忘れて10月31日のドン・○ホー○六本木店に来てしまったような気分だ……。


 あるマッチョは馬のかぶり物をしていた、尻尾はライオンのようだからマンティコアの亜種だろうか? ただひたすらにカッコ悪い。


 ある男はニットの帽子を顎まで・・・かぶっていた。目と口だけ空いているその帽子で銀行に行ったらまずアウトだ。が、ここでもアウトだ。帽子の下からは髪の毛ではなく白い立派な髭だけが見えている……。


 もう一人のマッチョは大仏のかぶり物を、いやこっちの世界に大仏ねぇだろ。おい元日本人。


 そして姿勢がやたら綺麗な女性は怪しげな舞踏会につけていくようなマスクを……。


 ある男は真っ赤なマントを羽織り、そして真っ赤なハットをかぶっている。ご丁寧に黒髪のカツラまで装備しているようだ……。いや、吸血鬼のコスプレする吸血鬼ってどうよ……。で、その隣の方とバトるんでしょか……?


 そう、その吸血鬼の隣には首から十字架をぶら下げ、神父服に着替えたメガネ執事が……って、あなた悪魔王でしょ? 神の代理人のコスプレしちゃだめでしょ……。


 で、お次は和洋のバランスをブレイクする人……。お世話になっている某旅館の女将が着物をビシッと着こなし、顔におかめのお面をして立っていた。もう台無し。ほんと台無し。


 で、狼のおっさんあんたプライドはないんか? なんで神獣王とも呼ばれるお方がシャ○猫のなりきりパジャマ着てんだよ!! 本当にここはワンダーランドだよちくしょう!

 
 ……ふぅ。いや、分かるよ? 五輝星がそのまま来ちゃマズいことくらい分かる。世間では消息不明扱いだし、変装は必要だろう。けどこれは変装じゃないよね……? そう仮装だ。


 そして、最後にそんな中でお前……お前……には心の底からツッコみたい……。


「てめぇぇぇナベリウス!! そこまでみんながやったならお前もちったぁ仮装しろやぁぁぁ!!!」


 全員が仮装している中、ポメベロスを抱き抱え、ぼーっとしているナベリウスはまさかの普通の格好だ。もう逆に浮いている。その異物感が余計にその集団の異常性を高めている。いや、抱いているのが三つ首の犬って時点でどうかとも思うが……もういいや、ツッコミ疲れたし……。


「はぁ……はぁ……。マジで誰だ、あのトンデモ集団を呼んだバカは……」


「どうどう」


 隣にいたレーベが取り乱した俺をなだめに入ってくれた。あぁ、すまない。久々にキレちまったぜ……。こんなふざけた展開誰が予想できるってんだよ……。というか誰だ、トーナメントを観戦できることをあの方々に伝えたおバカさんは――って、考えるまでもないな。


 ざわざわ。。。 ざわ。。 ざわ。。 ざわざわ。。。


 おっと、突然一人で騒ぎ出した俺までキチ○イ扱いされ始めてしまったようだ。俺をチラチラ見たり、指をさしたり、ざわつき始めている。が、幸い向こうのトンデモ集団との関係までは結びついていないようだ。他人のフリをしよう。


「おい、レーベ。絶対にあの集団とは関わるな。いいか? 手を振らない、喋りかけない、目線を合わせない、だ」


「なんで?」


「……なんでって、あの集団と関わりがあるとバレてみろ。明日からあだ名は”お前んちアダム○ファミリー”だ」


「ア○……ムス?」


「いや、いい。分からないネタを言ってしまってすまない。とにかく関わらないようにしてくれ。ただでさえ不名誉なあだ名が俺にはあるのだからこれ以上増やすわけにはいかない。すまないな」


「ん……ししょーがそう言うならわかった」


「ありがとう……。さ、気を取り直して受付に行こう」


 こうして、テュールはトンデモ集団を努めて無視することに決め、受付を済ます。


「はい、1-S代表は……。あ、第一試合ですね。対戦相手は2-E代表となります。がんばってくださいね」


 受付の人にそう言われ、礼を言ってからその場を後にする。そして、会場内のざわつきが少しずつ収まっていく。どうやら開会式が始まるようだ。


 ――――。


 学園長のありがたい話を聞き、3-S代表の人が選手宣誓をする。もう少しぶっ飛んだ宣誓を期待したが実に普通だった。スポーツマンヒップにもっこりくらい言ってほしかった。


 そして、開会式が終われば当然試合が始まっていく。テュール達は第一試合なのだからもう試合は目前だ。


(相手は2-E、成績順でクラス分けされているのだから二年の中でも上位ではない。だが、負けるわけにはいかない試合なのだから油断せずにいこう……)


「……レーベ。絶対勝ってリオンに自慢してやろうな?」


「ん」


 あの集団を見た後でもレーベのやる気は些かも萎えていなかった。


 あぁ、あんな馬をかぶって堂々と胸を張り腕を組んでいるマンティコア変異種のために頑張るレーベ……なんて健気なんだ。あんな祖父が観戦に来たらトラウマもんだって言うのにレーベはブレないんだなぁ。


 そんなことを考えている内に会場内にアナウンスが流れる。


『第一試合、2-E代表と1-S代表はリングの上に集合して下さい。繰り返します――』


「ふぅ、呼ばれたみたいだな……。まずは初戦、勝つぞ」


「もちのろん」


 レーベはどこで覚えたのかそんなセリフを言うと前をキッと睨む。気合十分のようだ。


 二人はリングの上に立ち、対戦相手を確認する。


「俺達は2-E代表のアレントと――」


「同じく2-Eのダグだ。よろしく頼む」


 テュールは名前と顔を記憶の中で照合するがヒットしない。初対面の相手だ。


「俺達は1-S代表のテュールと――」


「レーベ。よろしく」


 おい……。相手先輩だからな? 一応敬語らしきもの使お? って言ってもレーベにそれを期待するのは難しいか。けどほら、見ろ先輩達顔引き攣っちゃってるじゃん……。


「……あぁ、おもしろい子だな? ……で、お前があの・・テュールか……」


「アレント、あの・・テュールって、あの・・テュールなのか!?」


 どのテュールだよ、おい。なんだよ二年の間にどんな噂が流れてるんだよ……。


「えぇと、すみません、その、どんな噂を聞い――」


 テュールがどんな噂か聞き出そうとした時に館内にスピーカー型魔道具で拡声された声が響き渡る。


『さぁ、両者出揃いました!! 実況は放送部と言えば私! 私と言えば放送部! で、おなじみの3-S、メルチェロちゃんがお送りいたしますっ!! そして解説は学園長からの推薦があり急遽抜擢されました謎の覆面集団さんですっ!! よろしくお願いしまーすっ!!』


『ホホ、よろしくの』


「ブッッッ!!!!」


「うわっ、汚ねっ! なにすんだよ!!」


 先輩方二人が吹き出したテュールに文句を言う。


「すみません、失礼しました。つい、ありえない展開から絶対ありえてはいけない展開に発展したもんですから、はい」


 そんなテュールの弁明に先輩方二人は頭に疑問符を浮かべている。そりゃそうだわな。というか、どうしてこうなった? 学園長の推薦? 学園長には話が通してあるのか……。まぁそうなれば学園創立者である五輝星に解説を頼んでもおかしく……いやおかしいだろ。


 そして放送席では本当に解説があの集団に決まったみたいで、周りのざわつきも最高潮に達している。リング上にいるレフェリーの人もどうしていいか分からずオロオロしちゃっているし……。


『ふふ、観客の関心度も最高潮に達しているようですね。流石はあの・・テュール選手! ではレフェリーさん始めちゃって下さいっ!!』


 おーお、メルチェロさん? 恐らくざわつき勘違いしてますよ? 観客の関心度の最高点は恐らくその覆面集団ですよ? あと、どうやら俺の噂は学校レベルなのね……。まぁいい。あとで誰かから聞き出そう。今は――目の前の相手に集中する――


 そしてどうしていいか分からなかったレフェリーはメルチェロの声にハッと、正気を取り戻し試合の進行を再開する。


「……え、あ、はい! そ、それでは、今から第一試合を始めます! 両者指定の位置について、礼!」


 4人は互いに礼をする。そして――


「……よーいっ、はじめっ!!」


 テュールとレーベがともに目指すいただきへの一歩目が始まる―― 

 

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