とある英雄達の最終兵器
第71話 告解
テュールは階段を上がり、セシリアの部屋の前まで行くと深呼吸を一つして扉を叩く――
コンコン
「セシリア。俺だけど少しいいかな……?」
テュールは扉の前でそう声をかけ、返事を待つ。
「テュールさんですか? す、少し待ってて下さい!」
「了解だ」
テュールはそう返事すると腕を組み、目を閉じたまま扉の前で静かに待つ……。5分程経ったろうか、目の前の扉が――ガチャ
「す、すみませんっ。お待たせしました。そのっ、どうぞ……」
慌てて出てきたセシリアが部屋の中へ入るよう促す。急いで振り返って部屋に通そうとするセシリアの目がまだ少し赤く、潤んでいることにテュールはひどく罪悪感を覚える。
「すまないな、邪魔するよ」
テュールはそれに気付かれたくないであろうと考え、短く入室の言葉だけ発しセシリアの部屋へと入る。初めて入るセシリアの部屋は物が少なく、綺麗に整頓されていた。あまり見回すのも失礼なので視線を泳がせないよう前だけを見て歩くが、どうしても色々な物が目に入ってくる。その中でも小さなハーブポットがあることに少し驚く。
(……部屋でハーブを育てていたのか。こんなことも知らなかったんだな……)
いくら隣の家に住んでいてるとは言え、個人の部屋の行き来は少なく、むしろ女性陣の部屋に入ることなど初めてのテュールはやや緊張していたが、優しく爽やかなハーブの香りが気持ちを少し落ち着かせてくれる。
「どうぞ。……それでどうしたのでしょうか?」
部屋の扉をテュールが後ろ手で閉めたところで、セシリアが部屋にある唯一の椅子をテュールに勧め、自分はベッドへと腰掛ける。
テュールは一言ありがとうとそう言い、勧められた椅子に腰掛ける。今さっきの出来事を思い出せば無理もないが、セシリアの表情と声は固い。そしてテュールはそんなセシリアに今もっともされたくないであろう話を切り出す――
「……あぁ、すまない。セシリアに少し話があって邪魔したんだ。その……、今日のデザートの件だ」
ピクリッ。セシリアの顔に緊張が走ったのが分かる。そして動揺しているのも……。やや震えがちにセシリアが口を開こうとする。その前に――
「本当にすまなかった」
椅子から立ち上がり、頭を深く下げるテュール。数秒そうしていたろうか、一度顔を上げ、椅子に座る。その時に見えたセシリアはなんというか放心状態に近い状態だった。
「セシリア……。ルチアから聞いたよ。エルフ族は味覚が違うんだってな……。そうなのか……?」
テュールの言葉に、驚いた表情を見せるセシリア。そしてやや時間を置いてセシリアは今まで隠していたイケナイ事がバレてしまった子供のように話し始める。
「…………。……そうです。私達エルフ族は、他の種族の方と比べて味覚が鈍いんです……」
テュールは一つ頷き、その先に続く言葉を無言で待つ……。
「…………。仲間外れがイヤだったんです……。お前は俺たちと味覚が違う、おかしいと言われることが怖かったんです……。私一人が我慢すれば……そうすれば楽しく食事ができるって……。作るときもすごく注意して作っていたんです……けど……けどダメでしたね。あんな料理出しちゃいました。本当ダメですよね私ってば……」
セシリアは次第に涙を滲ませ、心の内を吐露しはじめる。そんなセシリアにテュールは謝り――
「我慢させててすまなかった。気付いてあげられなくて――いや、気付こうとしないですまなかった……」
そして――
「……俺たちもだ。俺たちもセシリアの作る料理が時々甘すぎたり、辛すぎたり、しょっぱすぎたりすることを言わずに我慢していた。セシリアを傷つけたくないからってな。でも、ルチアに言われたよ。そんな上っ面の気遣いだけでお互いを理解し合えることができるのかってね。俺たちは誰一人セシリアが何でそんな料理を作ってしまっているのか理解しようとしなかったんだ……。恥ずかしかったよ。今まで俺は第一団のみんなを信頼できて心を許せる仲間だと思っていたけどそれは独りよがりだったんだなってね」
心の内を正直に打ち明けた――
「……フフ、私ももっと早く皆さんに言っておけばよかったです。私は味音痴だから料理失敗しますよって」
やや自嘲気味にそんなことを言うセシリア。それに対し――
「今からでも遅くないさ。それにセシリアは味音痴なんかじゃないよ。それを言うなら俺たちエルフ族以外の種族が味音痴って言える。どっちかが悪いってわけじゃないんだ。ただ違うだけ。それ以上でもそれ以下でもない。そして違うなら違うということを理解して歩み寄ればいい。俺はセシリアと、第一団のみんなとそうやってこれからも仲間であり続けたい」
「テュールさん……」
「ハハッ、恥ずかしいことを言っちゃったな。今夜の会話はセシリアの胸の内に留めておいてくれ。こんなこと言ったなんてアンフィスやヴァナルに知られたら絶対からかわれるからな」
さっきまでの空気を吹き飛ばすように笑いながらテュールはそう言う。
「フフ、分かりました。二人だけの秘密ですねっ」
そう言って、ニコリと笑う笑顔。やっぱりセシリアは笑顔がよく似合う。
「じゃあセシリア。今度からは些細なことでも教えてくれ。俺も自分の考えを教える。それで理解し合おう。どうだ? 今まで言えなかったけど、実は言いたかったこととかないか? 遠慮せずに言ってくれよ?」
テュールのそんな言葉にう~ん、と目を閉じて考え込むセシリア。そして、あっ、と思い出したように目を開き、テュールをまっすぐ見つめる。
「実はテュールさんに言いたいことがあったのですが、その、怖くて言えなかったことが一つ……」
「ふむ、そういうのだよ! よし、聞こうじゃないか! ドンと来い、ドンと! だが、その、なるべくなら言い方はソフトめにな?」
前半は自信満々だったが、やはり怖くなってしまったテュール。ましてセシリアが言わずに我慢していたことだ。結構傷つくかも知れない……と日和ったテュールは情けない言葉を最後に付け足す。
それに対して、セシリアはフフッと笑い、その可愛らしい唇で言葉を紡ぐ――
「実は私、前からテュールさんのことが好きでした」
はにかんだ笑顔でまっすぐに好意を伝えてくるセシリア。
「…………」
「………………」
「……………………っえ?」
たっぷり1分程固まったテュールがようやく口にできたのはそんな一声だけであった。
コンコン
「セシリア。俺だけど少しいいかな……?」
テュールは扉の前でそう声をかけ、返事を待つ。
「テュールさんですか? す、少し待ってて下さい!」
「了解だ」
テュールはそう返事すると腕を組み、目を閉じたまま扉の前で静かに待つ……。5分程経ったろうか、目の前の扉が――ガチャ
「す、すみませんっ。お待たせしました。そのっ、どうぞ……」
慌てて出てきたセシリアが部屋の中へ入るよう促す。急いで振り返って部屋に通そうとするセシリアの目がまだ少し赤く、潤んでいることにテュールはひどく罪悪感を覚える。
「すまないな、邪魔するよ」
テュールはそれに気付かれたくないであろうと考え、短く入室の言葉だけ発しセシリアの部屋へと入る。初めて入るセシリアの部屋は物が少なく、綺麗に整頓されていた。あまり見回すのも失礼なので視線を泳がせないよう前だけを見て歩くが、どうしても色々な物が目に入ってくる。その中でも小さなハーブポットがあることに少し驚く。
(……部屋でハーブを育てていたのか。こんなことも知らなかったんだな……)
いくら隣の家に住んでいてるとは言え、個人の部屋の行き来は少なく、むしろ女性陣の部屋に入ることなど初めてのテュールはやや緊張していたが、優しく爽やかなハーブの香りが気持ちを少し落ち着かせてくれる。
「どうぞ。……それでどうしたのでしょうか?」
部屋の扉をテュールが後ろ手で閉めたところで、セシリアが部屋にある唯一の椅子をテュールに勧め、自分はベッドへと腰掛ける。
テュールは一言ありがとうとそう言い、勧められた椅子に腰掛ける。今さっきの出来事を思い出せば無理もないが、セシリアの表情と声は固い。そしてテュールはそんなセシリアに今もっともされたくないであろう話を切り出す――
「……あぁ、すまない。セシリアに少し話があって邪魔したんだ。その……、今日のデザートの件だ」
ピクリッ。セシリアの顔に緊張が走ったのが分かる。そして動揺しているのも……。やや震えがちにセシリアが口を開こうとする。その前に――
「本当にすまなかった」
椅子から立ち上がり、頭を深く下げるテュール。数秒そうしていたろうか、一度顔を上げ、椅子に座る。その時に見えたセシリアはなんというか放心状態に近い状態だった。
「セシリア……。ルチアから聞いたよ。エルフ族は味覚が違うんだってな……。そうなのか……?」
テュールの言葉に、驚いた表情を見せるセシリア。そしてやや時間を置いてセシリアは今まで隠していたイケナイ事がバレてしまった子供のように話し始める。
「…………。……そうです。私達エルフ族は、他の種族の方と比べて味覚が鈍いんです……」
テュールは一つ頷き、その先に続く言葉を無言で待つ……。
「…………。仲間外れがイヤだったんです……。お前は俺たちと味覚が違う、おかしいと言われることが怖かったんです……。私一人が我慢すれば……そうすれば楽しく食事ができるって……。作るときもすごく注意して作っていたんです……けど……けどダメでしたね。あんな料理出しちゃいました。本当ダメですよね私ってば……」
セシリアは次第に涙を滲ませ、心の内を吐露しはじめる。そんなセシリアにテュールは謝り――
「我慢させててすまなかった。気付いてあげられなくて――いや、気付こうとしないですまなかった……」
そして――
「……俺たちもだ。俺たちもセシリアの作る料理が時々甘すぎたり、辛すぎたり、しょっぱすぎたりすることを言わずに我慢していた。セシリアを傷つけたくないからってな。でも、ルチアに言われたよ。そんな上っ面の気遣いだけでお互いを理解し合えることができるのかってね。俺たちは誰一人セシリアが何でそんな料理を作ってしまっているのか理解しようとしなかったんだ……。恥ずかしかったよ。今まで俺は第一団のみんなを信頼できて心を許せる仲間だと思っていたけどそれは独りよがりだったんだなってね」
心の内を正直に打ち明けた――
「……フフ、私ももっと早く皆さんに言っておけばよかったです。私は味音痴だから料理失敗しますよって」
やや自嘲気味にそんなことを言うセシリア。それに対し――
「今からでも遅くないさ。それにセシリアは味音痴なんかじゃないよ。それを言うなら俺たちエルフ族以外の種族が味音痴って言える。どっちかが悪いってわけじゃないんだ。ただ違うだけ。それ以上でもそれ以下でもない。そして違うなら違うということを理解して歩み寄ればいい。俺はセシリアと、第一団のみんなとそうやってこれからも仲間であり続けたい」
「テュールさん……」
「ハハッ、恥ずかしいことを言っちゃったな。今夜の会話はセシリアの胸の内に留めておいてくれ。こんなこと言ったなんてアンフィスやヴァナルに知られたら絶対からかわれるからな」
さっきまでの空気を吹き飛ばすように笑いながらテュールはそう言う。
「フフ、分かりました。二人だけの秘密ですねっ」
そう言って、ニコリと笑う笑顔。やっぱりセシリアは笑顔がよく似合う。
「じゃあセシリア。今度からは些細なことでも教えてくれ。俺も自分の考えを教える。それで理解し合おう。どうだ? 今まで言えなかったけど、実は言いたかったこととかないか? 遠慮せずに言ってくれよ?」
テュールのそんな言葉にう~ん、と目を閉じて考え込むセシリア。そして、あっ、と思い出したように目を開き、テュールをまっすぐ見つめる。
「実はテュールさんに言いたいことがあったのですが、その、怖くて言えなかったことが一つ……」
「ふむ、そういうのだよ! よし、聞こうじゃないか! ドンと来い、ドンと! だが、その、なるべくなら言い方はソフトめにな?」
前半は自信満々だったが、やはり怖くなってしまったテュール。ましてセシリアが言わずに我慢していたことだ。結構傷つくかも知れない……と日和ったテュールは情けない言葉を最後に付け足す。
それに対して、セシリアはフフッと笑い、その可愛らしい唇で言葉を紡ぐ――
「実は私、前からテュールさんのことが好きでした」
はにかんだ笑顔でまっすぐに好意を伝えてくるセシリア。
「…………」
「………………」
「……………………っえ?」
たっぷり1分程固まったテュールがようやく口にできたのはそんな一声だけであった。
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