とある英雄達の最終兵器

世界るい

第43話 俺だけが間違えた……だと?

 班決めの件で飛び出したテュールは、ホームルームも終わっているため、結局そのまま家に帰る。しばらく家で昼食を作りながら待っていると、アンフィス達三人が帰ってくる。


 別に本気でスネていたわけでもなく、あのクラスの異様なノリの良さにあてられてのことなので、テュールは笑って三人を出迎えた。


「おかえりー」


「ん、ただいま。あ、テュールお前班長な」


「ただいまー。いい匂いだねー。あと、団長もテュールになったからー」


「戻りました。おや、昼食を作ってくれていたんですね? 有難う御座います。手伝いますね。ん? どうしたんですかテュール様? 震えていますが?」


 三人は戻ってくるなり、今晩の献立が決まった程度の軽さでその事実を伝える。当然テュールは──。


「何勝手に決めとんじゃああああ!!」


 先程までの笑顔と一転、激怒した。セリヌンティウスさんを人質にでもとられたくらいテュールは激怒した。


「クラスリーダーで、班長で、団長? うわぁぁあああ!!」


 そして、三人の何で怒ってるんだ? という表情を見て、それが極当たり前に決まったことを悟らされたテュールは四肢を地面に投げ出し、慟哭を上げた。社畜時代に散々手当の付かない名前だけの上長を務め、ひたすらにこき使われたあの苦い思い出がフラッシュバックする。


「何騒いでんだよ。心配すんな、団の相方になった二班の班長はリリスで副班長はレーベだ」


「あっ、ちなみにウチの副班長はテップだよー」


と、アンフィス、ヴァナルがドヤ顔で言ってきたので、とりあえず殴る。


「俺に全部やれってことじゃねぇか!!」


「まぁまぁ、いなくなってしまったテュール様も悪いということでおあいこにいたしましょう。それにクルード様がいらっしゃらなかったおかげでこうしてスムーズに団結成まで持っていけたのです。あぁ、クルード様との戦いで負った火傷が、ヨヨヨヨ」


 ベリトはそう言って、額に手の甲をかざし崩れかける。当然、小芝居であるが自分のためにクルードの前に出てくれた時は正直嬉しかったテュールは、ここで黙ってしまう。


「さて、テュール様……考えてもみて下さい。クルード様の目の前でカグヤ様と団を結成するなどとなったらどうなったでしょう。そしてテュール様の班と組めないとなったらカグヤ様はどんな反応をするでしょうね?」


「……ぐっ」


(確かに、クルードがいたらカグヤと団を結成する時にまた一悶着あっただろう……。それに対しリリスやレーベは絶対に文句を言う。レーベ辺りは喧嘩を売りかねないし、あの実力なら……クルードは……。で、その騒動の中心は俺? クラスメイトの視線は──)


 そこまで考えて、鳥肌が立つテュール。厄介事極まりないし、かつ三年間腫れ物を扱われるような視線で過ごさなきゃいけないのはツライ。ベリトにそう言われて、折れざるをえないテュール。


「う、うむ。仕方ない、な。それくらいは仕方ない。あと、その、クルードの件はすまなかった。ありがとう」


「いえいえ、執事として当然のことです」


 こうしてテュールは、決定されてしまったことは仕方がない。困ったらベリえもんに助けてもらおう、と気持ちを切り替え、昼食の用意に戻る。


 ──いっただっきまーす。


「むぐむぐっ。あぁーペペロンチーノうめぇ」


「ちゅるちゅる。ん~、この鷹の爪がピリリと美味しんだよねー」


「フフ、いい茹で加減ですねテュール様。芯がほんの少し残っていて、表面がベタついておらず、またオリーブオイルの量も適量です」


「あぁー。まぁ、ペペロンチーノはコスパ最強だからよく作ってたしな。ベリトの作ったサラダも美味いよ? 特にポテサラ」


「フフ、お褒めの言葉ありがとうございます」


 こうして、食事をしてしまえば大体リセットされてしまうテュール一行であった。


 そして、翌日──。


 四人とも寝坊をすることも、遅刻をすることも、事件に巻き込まれることもなく無事教室へと辿り着く。始業の鐘がなると、ガラララと扉が開き、ルーナが入室してくる。諸君おはようと挨拶した後、点呼を取り始め、アイリスから順に呼び上げられていく。


「──ステップ」


 ……。そう気付いていた。初日だというのに存在感をバリバリに放っていたテップ。クラスメイト達は皆今日はうるさいのがいない、と気付いていたのだ。


 ルーナは名簿から顔を上げ再度確認する。


「ん? ステップはいないのか!」


 ガラララッ。


「すんません!! ルーナセンセ! えぇと、産気づいたお爺さんが山でめでたしめでたしになってて!」


(おい、産気づいたお爺さんにもツッコミたいが、山でめでたしめでたしって召されてしまってんじゃねぇかよ! つか、山ってどこまで行ったんだよ! 僅か一文の中にツッコミどころが多すぎて逆にツッコミにくいわ!)


 睨み合うテップとルーナからは緊張感が漂っているため、迂闊にツッコむこともできないテュールは、心の中でズビシッとツッコむ。


 そんなテップに対し、クラスメイトは皆呆れている。当然入学早々に遅刻してくるテップに対し、ルーナも穏やかではない。


「ほぅ、二日目から遅刻とは良い度胸だ。午後からの訓練では遅刻がいかに愚かなことか分かるようみっちりとしごいてやる、覚悟しておけ」


「みっちりと……、しごく……?」


 ゴクリと生唾を飲むテップ。


(もうヤダ、この子……)


 テュールは頭を抱える。しかし他の男子生徒たちは、テップのその発言でそわそわしていた。思春期男子たちはルーナの肢体をじろじろと眺め、変な妄想に取り憑かれる。だが──。


 キッ。


 ルーナからの氷点下の視線はそんなテップと男子生徒たちを震え上がらせ、縮こまらせるのに十分であった。ルーナはそれ以上は口を開かず点呼を続ける。


「よし、全員来ているな。では、午前は座学、午後は実技が中心となる。ちなみに私の授業中に寝た馬鹿者はへし折るからな?」


 どこを? ナニを? と聞けずに震えている男子一同。クルードだけは窓際の席で腕を組み、下らん茶番だとばかりに冷めきった目で教師の話を聞いている。ちなみに入学前からの知り合いであろう取り巻きの男子が二人おり、そいつらとニ、三言葉は交わすものの他の生徒とは壁を作っており、既に浮きまくっている。当然テュールやベリトとも話す雰囲気ではない。


 そんなクラスの空気など知ったこっちゃないと言わんばかりにルーナは授業を始める。


「では、最初の授業を始める。最初の授業は、この学校の成り立ちだ」


 今からは授業だ、切り替えろよ? 私語と居眠りは許さないからな? そんな威圧感を放ちながらルーナは話し始めた。


「事の始めは七十年程前だ。この時、世界は最悪の時代と呼べるものだった」


 ──ロディニア五種族大戦……。誰かが極々小さく呟く。流石は獣人族であるルーナは、その狐耳をピクリと動かす。


「……そうだ。ロディニア五種族大戦と呼ばれる戦争が起こっていた。当時は五大国はなく、五大地方に各種族が固まり、小国が建ち上がっては潰され、吸収されの種族間内乱が繰り返されていた。そしてこれは五種族五地方に同時に起こっており、それぞれが内乱に明け暮れていた。そして内乱は一進一退を繰り返し、どの種族も統一国を成し得ることができないまま疲弊しきっていた。統一国を成せなかった原因の一つは内乱と同時に・・・他種族とも戦争を繰り返していたからだがな」


 当然、試験に出る内容でありSクラスの人間であれば詳細まで勉強しているであろうことだ。新鮮味などない。だが、ルーナの口から語られる話はどこか惹きつけられるような響きを持っていた。


「正に血で血を洗う日々だ。同種族の者を切り、他種族の者を討ち、信じられる者などそれこそ己以外になかった時代だ。そんな時代に五人の英雄が現れる。この五人の英雄の名前を書けと試験にも出たな。本来であれば入試に載せるべき問題ではない。当然全員が正答を書くからな。さて、名前を言えるかテュール?」


 突然指名されるテュール。イルデパン島にいた時に歴史書で何度も読み、ルチアからも細かく歴史の話を教わっていたテュールはすぐさま立ち上がり、自信を持って答えを言う。


「はい、この五人は名前を決して名乗らず、後世に伝わっていないので、名前は分からない、が正答です!」


(ふぅ良かった。これで今日の授業はもう当たらないだろう。いくつになっても指名され答えるというのはイヤなものだ。……って、あれ? なんかクラスメイトの様子が……? んん?)


 テュールが回答した後、クラスメイトは小さくであるがざわつき始める。微動だにせず授業を受けていたクルードですら目を見開いたくらいだ。なんだ? なんだ? と混乱するテュール。


「うむ、本気でそう答えているようだな。よく聞けテュール。二次試験を受けた千五百余人の内、正答を書けなかった生徒はただ一人だ。それが──お前だ」


「……え?」


(嘘だろ……? え? だって歴史書にも、ルチアにも……え?)


 そしてテュールはアンフィス、ヴァナル、ベリトを見る。同じ島で育ち、ルチアやツェペシュ、ファフニールから様々なことを教わった仲間だ。


 三人は普段はまず見られないような気まずい表情をして、視線を逸した。


(え? どういうこと……?)


 だが、そんな困惑するテュールを見て、ルーナは苦笑いしながらも授業を続ける。


「ふむ、私も毎年この授業を行っているが、知っている者に知っていることを教えるのは退屈でな。こんなことを言うとお前には失礼だが教え甲斐がある。何をどう間違えばそうなるかはさておき、な」


 そして、ルーナは表情を引き締め、クラスメイトのざわついた雰囲気を一掃するよう声を張る。


「さて、その英雄五人は冒険者であり、当時では考えられなかった異種族のパーティを組んでいた。パーティ名を【灯台離散ライトハウス・ディスクリート】という。世界がその方向性を見失った時に正しい道を示せる光になれるよう、遠く離れた地、散り散りになった全ての種族の希望となれるようその名を付けたという」


 ルーナはテュールに聞いたことあるか? と問う。首を静かに横に振るテュール。


「そしてこの異種族パーティの五人は人族、エルフ、魔族、獣人、竜族の五種族から成っており、この五人の英雄は各種族の内乱を治め、国を統一し、内政を正常化し、国境を定め、他種族との──五大国停戦協定を結んだ。正に世界を救った五人だな。そして、この五人こそが初代エスペラント王国国王、刀神モヨモト。初代リエース共和国最高指導者、魔導王ルチア。初代エウロパ領魔王、真祖の賢王ツェペシュ。初代パンゲア王国国王、個の頂点リオン。そして初代アルクティク皇国、皇帝、公龍皇ファフニールだ」


(………………は?)


「ん? どうしたテュール。何か気になる点でもあったか?」


 テュールあまりの間抜け面に自分の教えた点に不備があるのでは、と心配になったルーナが問いかける。


「い、いえ……、その続けて下さい」


 そう、テュールは失念していた。少女たち五人が王族・皇族に類する者だというのならば、その祖父や祖母である師匠達も王族・皇族であるということを──。

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