とある英雄達の最終兵器

世界るい

第40話 が、がんばれクルード君!!

「すみません、少しよろしいですか?」


「何だ貴様は?」


 突然目の前に現れた執事は静かな声だが有無を言わさぬ威圧感があった。クルードはそんな執事に問う、お前は何者だ、と。


「えぇ、私はベリトというしがない一執事で御座います」

 
「ベリト……聞いたことがあるな。僕の聞いたベリトという男はギルドの依頼で夜会の給仕を務め、その有能さからいつしか指名依頼を引き受けてもらえることが貴族の中のステータスになる程までの執事だと、そのベリトで間違いないか?」


 クルードは、その執事の佇まいや雰囲気に思うところがあり、そう尋ねる。十中八九このベリトが噂の執事であると当たりをつけながら。


「えぇ、ありがたいことに貴族の方々からは指名依頼をいくつか頂いたことがありますね」


「ほぅ。それでそのベリトが何の用だ? 僕の家に仕えたいという話なら後で考えてやってもいい。だが今はそんな場面ではないことが分からないのか?」


「いえいえ、それには及びません。私が仕えるのは生涯ただ一人と決めておりますので。──そして、そんな私の主への暴言、見過ごすにはいささか私の忍耐が足りなかったようです。たかだが一人族がテュール様に弓を引いたことを後悔させてあげましょう。一度死んでみますか?」


 ニコリと笑いながらベリトがクルードに死刑宣告を言い渡す。


(ひぇぇーーー、ベリト超こえぇぇえーー!!)


 主はかつて見たことがないベリトの怒る場面にビビっていた。ブルっていた。そして、チラリと横を見る。


「……こえぇ」


「アハハ……、ベリトは怒らせちゃダメだねー」


 長年の付き合いであるアンフィスとヴァナルも珍しく動揺し、コメカミから一筋の汗を流している。だが、そんな執事に対してもクルードは尚も強気で言葉を投げる。


「……平民に仕く執事か、所詮噂は噂だな。貴様らSクラスに入れただけで思い上がっていないか? 同じクラスなだけで自分の力が同様だと思っているのならその違いを正してやる。おい執事、貴様から言い出したんだ。逃げるなよ? お前に戦いというものを教育してやる。先に言っておくが僕の入試の成績は次席だ、落ち込むことはない。貴様は負けて当然の戦いに挑むのだからな」


「言いたいことはそれだけでしょうか? ではテュール様、今まで世界の広さを知らず思い上がっているこの愚者に現実というものを教えにいってまいります」


「う、うん」


 ベリトの強さはイヤというほど知っているテュールは、教育してやるという言葉を使ったクルードにある種の敬意すら覚えた。そしてベリトの有無を言わさぬ教育返しに、頷くしかなかった。


 ガラララ。


 そんな時に教室の扉が開く。


「うーし、ガキども座れー、私の言うことは絶対だー。逆らうやつは鉄拳制裁だかんなー。これがウチのクラスの絶対的ルールだ。分かったなら従えー、三つ数える。いーち、ってなんだこの空気は」


 獣人。耳と毛長な尻尾は綺麗な小麦色をしており、色、形から狐族であろうことが分かる。そんな担任教師と思わしき女性が異様な空気にあてられる。


「申し訳ありません。今から私闘を行いますので私ベリトはホームルームを欠席させていただきます」


「申し訳ありません。同じくこのクルード、エスペラント王国公爵家に名を連ねる者の務めとして平民に教育を施さねばならないためホームルームを欠席させていただく」


 他のクラスメイトは何と説明していいか困惑している中、渦中の二人は悪びれもせず担任教師にそう言い切る。


「は? え? お前ら、入学初日から喧嘩って正気か? いや普通にそんな理由で、はい、いってらっしゃいって言う教師がいると思ってるのか? ダメだ、大人しく座れバカモノども」


 教師のもっともすぎる言葉にベリトとクルードの二人は閉口するが、そこで後から入ってきた思いがけない人物から声が上がる。


「ルーナよ、いいじゃねぇか、学園の決闘システムはまだ残ってるだろ? 俺が立ち会ってやる。ガキども存分に戦え、ただしつまんねぇ戦いにすんなよ? よーし、他のガキどもも見学にいくぞー。ほれ、ついてこい」


「な! 勝手に決めるなカイン!」


 そんな女性教師ルーナの言葉を無視して、物事を進めるのはカイン。テュールの入試試験を担当したバトルジャンキーカインだ。


「カイン先生有難う御座います。おい、執事、今ここで僕は正式に貴様に決闘を申し込む」


「カイン先生有難う御座います。はい、その決闘、確かに承りました」


「よし、立会人は俺だ。お前ら名前は? ──ふむ。んじゃ、クルードとベリトの決闘をここに認める」


 カインはそう宣言するとツカツカと歩き出す。それに付き従うようにベリトとクルードも歩き出す。


「やれやれ、仕方ありませんね。こうなったら止まりませんね。私達も大事にならないよう付き添いましょうか」


 カインの後に入ってきたもう一人の教師。青白く線の細い優男が苦々しい表情で、ルーナにそう進言する。


「ったく、毎年Sクラスってのはどうしてこうも……」


 ブツブツ言いながら動きはじめてしまったカインを止めるのは困難だと悟ったルーナもカイン達の後を追う。


 そして、クラスメイト達も一人、また一人と後を追うように付いていく。残されたのは──。


「ベ……ベリト怖かったのだぁ……。ちょっと漏らしそうだったのだぁ。もうあんまり無茶を言うのはやめるのだ」


「……ん。私も久しぶりに毛が逆立った」


「う、うんっ。普段はベリト君優しいからね。怒るとあぁなるんだね……」


「……ハッ! 一瞬気が遠くなってました! クルードさんという方は、まだ、その、生きてらっしゃいますか?」


「フ。セシリア、いくらベリトでも流石に本当に殺しはしないさ」

 
 そんなレフィーの発言にテュールは頭を傾げる。


「殺さない、かな……?」


「……ちょっと分からん」


「うんー。ただ死んでもおかしくないよねー」


「えっ、お前んとこの執事って何なん? 本能が逃げろって叫びだしたぞ? てか、クルードってやつよくあんな啖呵切れたな……。いやぁ、流石ハルモニアだ。いろんなヤツがいるなぁ」


 本気でクルードの心配をし始めるテュール達であった。そして、そんなテュール達もようやく足を動かすことができるようになり、慌てて追いかける。


 カインに引き連れられてクラスの皆が向かった先は訓練場。学園内には大小様々な訓練場があり、今から使う訓練場はその中でも頑丈さと広さが売りで成績上位者の決闘によく使われる訓練場だ。入学式の日のため本日は使用の予約が入っていなかったようだ。


「んじゃクルードとベリト以外のガキどもは上の観客席に行ってろ」


 訓練場は直径二百メートル程の円形で、ニ階部分に観戦スペースが設置されている。また、観戦席と戦闘場所はガラスのようなもので仕切られており、カイン曰く高性能魔術障壁だから安心していろ、とのことだ。


 コンコンッ。


 テュールが観客席に上がり、障壁ガラスをノックしてみる。


(あ、これ一撃で壊せるわ……)


 テュールが一撃で壊せるということは、当然ベリトも一撃で壊せる。ベリトが手加減をしてくれることを只々祈るばかりである。


 そして、そんなガラスの眼下、戦闘場所では──。


「それでベリトとやら貴様一人でいいのか? なんなら無能な主と一緒にかかってきてもいいんだぞ? 自分の従者が戦うというのに上でのんびりと眺めているだけの無能な、な」


「と、仰っていますがテュール様如何なさいますか?」


 上を見上げ、主と目が合った執事がそう問う。


「いや、それで負けたらかなり恥ずかしいだろ。一人でやってやれ」


 と、クルードがこれ以上恥を上塗りすれば、明日から学校に来れないだろうと心配し、テュールはそう答える。


「畏まりました。テュール様は無礼を働いた相手にもお優しいんですね」


 そして、ニコリと微笑んで礼をしてからクルードに向き直る。そんな主と執事のやり取りを見て、何を勘違いしたのかクルードは──。


「ハハハハ!! とんだ腰抜けだな! ニ対一で負ければ面目も立たないからな。執事だけの敗北であればその執事を無能と切り捨て自分を守れる。いかにも身勝手な平民の発想だな。もういい、貴様にはとことん失望した。始めてくれ」


 尚も、自分の首を締める発言をする。


 そして一階には五人だけが残された。当事者であるベリトとクルード。そして教師三人だ。その中の一人カインが説明を始める。


「んじゃ、まぁルールの説明だ。命は奪うな。以上だ。まぁあまりにも見てられなくなったら止めてやるよ」


「な、そんな適当な決闘があってたまるか! 禁則事項や決闘時間の制限をだな──!!」


 狐族の女教師がカインのあまりにも自由な振る舞いに声を荒げる。だが──。


「ルーナ、黙れ。俺が臨時講師を受けた際の条件は聞いているはずだ」


 その威圧感は、流石はSSランク冒険者とあり、ルーナも二の句を継げないでいる。


「──ッチ。……危険な場合は私も止めに入るからな」


 それだけ言ってルーナはやや離れた位置へと下がる。そして、もう一人の青白く線の細い男性教師も反対側へと下がった。


 一方、二階では──。


「テュールくん、今更だけどごめんなさい! 私が皇女だって言ってなかったから──」


「あぁ、カグヤそこまでだ。別に俺はクルードに対してもそんなに怒っていないし、もちろんカグヤに対しても怒っていない。それに皇女だからって友達をやめる気はなかったんだ。遅かれ早かれこうなったさ。それとも──平民の俺とは友達でいられないか?」


 そう言って笑いかけるテュール。もちろん冗談で言った発言だが──。


「もう怒るよっ? 冗談でもそんなことは言わないで。私は一人の人として──」


「分かってるよ。ごめんて。でも、それ以上は……な?」


 先程からそんなテュールとカグヤのやり取りを見て、ニヤニヤしているクラスメイト達。もちろんその中にはテップ達もおり──。


「はぁー。なんだよ、俺狙ってたのにテュールの女だったのかよー。ってか、もしかして王族みんな……」


「あぁ、そうだ。うちの大将は世界を牛耳る気だからな」


「だねー。ハハハ、あながち冗談にも聞こえないのが怖いよね」


 盛大に冷やかされるのであった。その状況を察し、カグヤは耳を赤くし、慌てはじめる。


「ったく。お前ら、いい加減にしろよ。で、カグヤ、クルードって強いのか?」


 この何ヶ月間か、からかわれ続けて耐性が出来つつあるテュールは話題を変えるため、カグヤにそう聞く。


「ん、ありがとっ。……えとね、強いよ? それこそエスペラント王国で十五歳未満の闘技大会では負けたことがないし、騎士団の訓練にも参加させてもらっていて団長とも打ち合えるほどの実力だよ」


 そして、カグヤは気を遣ってくれたテュールに小さくお礼を言い、クルードの実力を紹介する。お世辞でもなんでもなくハルモニア校次席と言うのは、金や権力だけでもぎ取れるものではないのだ。


「けどリリスはベリトが勝つと思うのだー!」


「……ん、私もそう思う」


「私もそう思いますね~」


 しかし、そんなカグヤの話を聞いていたリリス、レーベ、セシリアは口々にそう言う。


「俺はそうだな、ベリトの負けるところを見てみたい、が……無理だろうな」


「そうだねー、ベリトが負けるとこ一度も見たことないもんねー」


 アンフィスとヴァナルにいたってはいっそクルードの勝利すら願ってしまっている始末だ。


「フ。賭けにもならんな。ほら、始まるようだぞ。しっかり見ておいてやれ」


 レフィーが決闘の結果には興味がないと言い切るが、何のためにベリトが戦っているかを思い出し、きちんと見届けろと、そう言う。


 戦闘場の中央では、クルードの隠す気などない闘気が昂ぶっているのが分かる。だが、それはベリトも同じで──。


「私、久しぶりに不快感を覚えましたので覚悟してくださいね?」


「フン、それはこちらのセリフだ。世間の常識というものを教育されていない平民の相手は本当に疲れる。少し手荒に教育させてもらうぞ」


 あの飄々とした執事が珍しく闘る気を見せている。そして、両者は十メートル程離れる。流石にこの時ばかりはテュール達や他のクラスメイトも口をつぐみ、訓練場全体が緊張感に包まれる。


「はじめっ!」


 そしてついにカインの声が訓練場全体に響き渡り、決闘が始まる──。

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