とある英雄達の最終兵器

世界るい

第38話 ドンッ、キャ、あーっ!

「正に絶好の入学式日和ですね、テュール様っ」


 爽やかな笑顔でベリトが話しかけてくる。


「そうっすね……」


 二日酔いは抜けたものの入学式に心をときめかせるようなお年頃でもないテュールがおざなりに返事をする。


「ったく、枯れてんな……、やっぱ女がいないと調子が出ないのか? んー?」


「カグヤあたりに元気をチュウ・・・入してもらえばー?」


 アンフィスがニヤニヤし始め、ヴァナルも悪意ある強調でからかってくる。


「ヴァナル、俺の前だけならいいけどカグヤの前でそれ言ったらマジで消されるからな……?」


 そんな風に四人はハルモニア校までの道のりをのんびりと喋りながら歩く。制服はないため、それぞれが私服だ。テュールは自分たちの服装を見比べる。まぁ特段奇抜でもない、浮くことはないだろう。そう執事以外は。


(大丈夫かな……? 執事服浮かないかな……。まぁ似合っているからいいか。うん。ベリトはなんでもありだしいっか)


 だが、まぁベリトだしいっかと、考えるのを放棄してしまうテュール。そんなことを考えていると、正門が見えてくる。受付の事務員に合格通知を見せると中へと通される。入学式は校舎から少し離れた講堂で執り行うとのこと。


「さて、講堂はどこかなぁっと」


 受付で貰った案内図と目の前の景色を見比べながら目的地である講堂を探す。そして、案内図に目を落としたままテュールが曲がり角に差し掛かると、向こうの死角から飛び出してくる影が──。


 ドンッ。


「いたっ」


 相手はしりもちをついて転ぶ、大股を広げて転んでしまったためすぐさまに足を閉じる。


 テュールはすぐさま相手に謝り、起こそうと手を伸ばす──。


「す、すみません、大丈夫ですか──って、テップ~!?」


「あぁ、なんともな──って、テュールー!!」


「「あれ、俺達っ! 入れ替わって──はないな」」


 うん、安心した。そうだな。頷き合う二人。よいしょっ、テップの手を掴み立つのを助けるテュール。


 ぱんっぱんっ、ズボンのお尻の部分をはたいてからテップが驚いたように声を上げる。


「いやぁ、テュール受かってたんだな! よかった!」


「いや、それは俺のセリフだよ、テップも受かってたならなによりだ!」


 まずはお互いの合格を喜び合う二人。そして、ふんぬっ! 極々軽く冗談で済む程度のボディブローをテップに叩き込む。


 ぬぐわっ、大袈裟に声を上げるテップ。


「い、いきなり、なんだい? マイソウルブラジャー……?」


 脇腹を押さえながら、苦悶の表情を浮かべテップが抗議の声を上げる。


「誰がブラジャーだ、バカタレ。テップ胸に手を当てて考えるんだ。身に覚えがあるだろ? ほれ試験の?」


「ん? ……あ、あぁー! あれ鵜呑みにしたのか? ダハハハ! テュールお前あんなの五歳児でも分かる嘘だぞ? 五メートル級の魔法なんてのはそれこそ宮廷魔術師レベルだし、SSSランクの冒険者と引き分け? 各種族の最強レベルだぞ?」


「うっ……」


 何も言い返せずに黙るテュール。


「えっ、お前まさか……」


 テュールがあれを本当に鵜呑みにしてしまったと悟るテップ。


「ってことは今年の主席お前?」


「いや……、これだ」


 驚いた表情で主席か問うテップに、テュールは指を三本立てる。


「す、すげーな。まぁけど頭はそこそこだった──って、まさか、手を抜いて?」


 コクリ。


 その質問に頷くテュールを見て、両手をすり合わせ拝み始めるテップ。


「テュールの知り合いー?」


 そんな二人を黙って見ていたヴァナル達が話に加わる。


「あぁ、入試の時に隣になって友達になった」


「どうもーステップです。気軽にテップって呼んでくれ」


 相変わらずフレンドリーが売りのテップは普通ならたじろいでしまうアンフィスや執事にも気安い言葉と笑顔で挨拶を交わす。


「おう。俺はアンフィスだ、よろしく」


「ボクはヴァナルだよー。テップよろしくねー」


「フフ、ベリトです。どうぞお見知りおきを」


 こうして、お互い自己紹介が終わり、講堂へと向かう道中、他愛もない話に花を咲かせる。


「ほぇー、ってことは四人ともSクラスってことか。大したもんだなぁー。あぁ、ちなみに何を隠そう俺もSクラスだ、フフン。ま、順位は三十位でギリギリだったけどな! これからクラスメイトとしてもよろしく頼む」


 テュールは、この街に来てから同年代の男性の友人を得る機会には恵まれなかったため、テップがSクラスという言葉を聞き、喜ぶ。そんなテュールにテップはニヤニヤしながら話を続ける。


「お、そう言えばテュール、新入生の噂聞いたか?」


「ん? 何も聞いていないが? 何か面白い噂でもあるのか?」


「あぁ、どうやら今年の新入生の中に、五大国それぞれの国の王族がいるらしいぞ? しかも主席はその中の一人らしい」


「へー、王族か……。イメージが全く沸かないが自分のことを余とか言っちゃう系なのだろうか……」


 異世界転生したラノベでは大抵王族と仲良くなったり、喧嘩したりと巻き込まれることが多い。自分もついにラノベ主人公属性がついたのか、とテュールは不安と期待を抱くが、ミーハーだと思われるのは癪なため、態度には出さないでおく。


「なんだよテュール、そんなことより気になることがあるだろ? フッフッフ、聞いて驚け! なんと、その王族たちは全員──あっ、講堂はこっちだな」


 テップがもったいぶって話すため、話しの途中で講堂に辿り着いてしまう。そのまま会場スタッフに誘導されている間に先程の話は流れてしまった。


 講堂内は既に多くの生徒で埋まっており、着いた順に席に着席するらしい。というわけでテップ、テュール、アンフィス、ヴァナル、ベリトの順で腰掛ける。


 案の定、テップは可愛い子のチェックを始めた。


「おい、テュール! ほれ、あの子見ろよ。バインバインだぜ~?」


「…………」


 テュールは、テップのバカ話にノってやりたいのは山々だったが、周囲からの突き刺さる視線が痛すぎて応えてやることができなかった。というわけで、三年間この視線を浴び続けるのはツライと思ったテュールは、他人のフリをする。


(すまんな、マイソウルブラジャー)


 だが、そんな無視しているテュールを気にすることなく、テップはカワイイ女子や巨乳な女子を見つける度にうひょーとか言いながら一人で盛り上がっている。鋼のメンタルである。


 そうこうしている内に講堂には人が溢れ、定刻となる。入学式の始まりだ。


 始まってみれば、異世界の入学式と言っても大して日本と違わない。やたら長い挨拶を学園長がしたり、来賓の偉いっぽい人が長い話をしたり、と。


 そして、テップの言っていた主席になったという王族の挨拶が始まる。


 司会の教師が名前を呼び上げる。


「新入生宣誓、新入生総代カグヤ・マイヤード・エスペラント」


「はい!」


 新入生総代は、よく通る綺麗な声で返事をした後、壇上へと上がりマイク型魔道具の前に立つ。それを見たテップは流石に場を弁え小声にはしたが、興奮しながらテュールに唾を飛ばす。


(おぉー! テュール見ろよ! 黒髪美人だぞ! スタイルもいいじゃねぇか! おい、上玉だぞ? あれで王族だって? おいおい天に愛されたやつってのはいるもんだねぇ~。……って龍がブレス防ぎきられたような顔してどうした?)


 ぱーくぱーく。テュールは目を皿のように丸く見開き、金魚のように口を開けたり、閉じたりすることしかできなかった。そして、一旦テップは無視し、アンフィス達三人の方をゆっくりと振り向く。


 ──ニッコリ。


(こ……、こ……、こ、ここここここここ……こいつら知ってやがったぁぁああ!!)


 アンフィスとヴァナル、ベリトはそんなテュールを見て、肩をすくめると、やれやれ何を今更と欧米人風なリアクションをとる。


(なんだよ、どうしたんだよ! おい、テュール?)


(あ、い、いやなんでもない……)


 んんっ! 列席している教師の一人がこちらを睨みながら咳払いをする。


 テップとテュールは同時にペコリと頭を下げ、姿勢を正し、カグヤの方を向く。


 そしてテュールは色々と言いたいことはあったが、なんとか自分の内に留め、カグヤによる新入生宣誓を聞く。


「本日はこのような素晴らしい式を挙行して頂きありがとうございます。私達は今日からこのハルモニアの生徒としての歩みを始めることとなります。世界はいまだ五種族が手を取ることが叶わず、種族差別撤廃を謳っている国はここ自由都市以外にありません。私達はハルモニア校でお互いを認め、尊重し、助け合い、そしてともに成長し、ここを巣立つ時に五種族間の融和と協調に貢献できる者になっていることを誓います。新入生総代、カグヤ・マイヤード・エスペラント」
 

 カグヤが頭を下げると、会場から拍手が生まれる。隣にいるテップはガタッと立ち上がり、俺も誓っちゃう! カグヤちゃんが誓うなら俺も誓っちゃうよ!! と大はしゃぎして、あらん限りの力と速さで拍手をしている。


「おいテップ、さっき咳払いした教師が睨んでるぞ! やりすぎだ!」


 周りの見えないテップをなんとか椅子に座らせ、黙らせる。それ以降テュールは怖くて教師の方を見ることができなかった。


 こうして、波乱の入学式が終わる。この後は各々のクラスに行き、簡単にホームルームをした後、解散とのことだ。


 講堂を出たテュールはとりあえずカグヤの件をアンフィス達に聞くが、ビックリだなー、ビックリだねー、驚きましたねぇー、と明後日の方を向きながら抑揚のない声でシラを切り通される。


(もういい、こうなったら直接カグヤに……)


 そう思って教室へと向かうテュール。だが、この時テュールは失念していた。


 テップは、五大国それぞれの・・・・・・・・王族が入学すると言っていたことを。

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