とある英雄達の最終兵器

世界るい

第37話 おしおきれす! おしおきが必要なんれす!

 酔いが回って思考が霞がかってきたテュールはソファーの方で少し休もうとする。


 そんなテュールがソファーの方へ歩いていくと、ムクリ、リリスが起き上がりキョロキョロ周りを見渡す。テュールと目が合うと、ちょいちょい、こっちへ来いとのハンドサインだ。


 元々ソファーで休むつもりだったテュールはリリスの前まで歩いていく。ポンポン、ソファーを叩くリリス。どうやらココへ座れとのことらしい。指示された通り座るテュール。むふー、と笑顔になり、パタンとテュールの膝に倒れこみ膝枕で再度寝始めるリリス。カワイイもんだ。


 酔いが回っているテュールも眠くなってきており、このまま寝ちゃうか、と目を閉じた時に、セシリアの声が耳に届く。


「テュールさ~んっ、うぅ……、テュールさ~ん、私はいらない子ですかぁ~? テュールさんまでいなくなっちゃうんですか~……うぅ」


 泣きながらフラフラとこちらへ近付いてくるセシリア。そしてリリスと反対側──テュールの隣へストンと座り、しなだれかかってくる。


「ちょ、セシリアさーん? その、ちょいと近くありませんか?」


 酔っ払った頭の中に残っている理性を総動員してセシリアを離そうとするテュール。しかし、これが悪手だった。そんな言葉と態度にセシリアが──。


「やっぱり……! やっぱりテュールさんも私がいらないんですねっ……! うぅ……お願いです、行かないで下さい、私を捨てないでください! イヤです、イヤです! うぅ……」


 テュールに密着し、ギュッと腕を抱え込み、泣きついてくるセシリア。


(そ、その、着痩せするタイプなんですね……、色々と柔らかいです……)


 酔っ払った頭で強い抵抗もできず、状況に流されるテュール。


(ッハ!?)


 テュールは殺気を感じ、背中にイヤな汗をかく。この世界では危険を察知できないノロマから死んでいく……。


「てゅーるくんっ♪」


 ギギギギと油の切れたブリキロボットよろしくな動きで振り返るテュール――。


 ひっくっ、ひっくっ、という鳴き声を発する顔を真っ赤にした大魔王が笑顔で立っていた。


 大魔王はつかつかとソファーを回り込み、テュールの真正面に立つ。座っているテュールはそんな大魔王を見上げる形となる。


「いいれすか! 私はずーーーっと前から言いたかったんれす!! てゅーるくんは女の子にでれでれでれでれでれでれしすぎれすっ!! ひっくっ」


 左には太ももの上で外界での事象を全てシャットアウトできるほど深く幸せそうに眠るリリス。


 右には腕を抱え込んだままテュールさん捨てないでください……、と、うわ言を繰り返しながら半分眠りについているセシリア。


 目の前には絡み酒の大魔王。


(誰か助けて……)


「聞いてるんれすか!?」


 グイッと顔を近づけてくるカグヤ。


「近い、近い、近い、近い!!」


 鼻と鼻が触れそうな距離だ。もともとソファーの背もたれによりかかっていたテュールはそれ以上逃げようがない。


「ほかのみんなにはでれでれして、わたしがちかづくのはイヤなんれすか!?」


「ちょちょちょちょちょ!! 危ない危ない、これ以上はマジで危ない!! ちょ、誰かー!! へーるぷ!! へーるぷみー!!」


 首を限界まで後ろに回して叫ぶがレフィーと男どもはこちらに背を向け、無視を決め込んでいるようだ。飲むペースを落としてのんびりと食事をつまみながら談笑している彼らを見ていると、まるで向こうがテレビの中の出来事のようだ。


 グイッ。


「いだっ」


 後ろを振り向いて現実の世界から逃げ出していたテュールの顔を両手で挟み、真正面に戻すカグヤ。目が据わっている。これアカンやつや。


「おしおきれす! 悪い子にはおしおきが必要なんれす!!」


 両手で頬を挟んだままテュールに近付いていくカグヤ──。


(おい? ……おい? 待て待て待て、まずい、流石にこれはまずいって! う、え、あ、あ、え)


 テュールはあまりの状況に思考回路がショート寸前になる。そのまま体が硬直してしまい、近付いてくるカグヤをどこか他人事のように眺めてしまう。

 
 「待っ──んんんぷっっ!?」
 

 最後の力を振り絞り制止の言葉をかけようとしたテュールはそのまま言葉を塞がれる。


 そしてカグヤは、おしおきれす……と、小さく呟くとそのままテュールの足の間にズルズルと膝をつき、胸に顔をうずめて寝始めてしまった。


 テュールは自分の唇に一度指で触れ、真正面から抱きついたまま眠る少女の唇を見つめて思考回路がショートし、もうどうにでもなーれ、とあまりの非現実的な状況に意識を手放すのであった……。


 チュンチュンチュン。


 翌朝──。


「おはようございます。おや、お三方とも頭を抱えてどうされたのですか?」


 朝食を準備しながらベリトが三人の青年、少女たちに声を掛ける。


 朝からリビングの椅子に腰掛け、テーブルに肘をつき、頭を抱える三人。そう、テュール、カグヤ、セシリアだ。


「頭痛い、頭痛い、きもぢわる゛い゛……」


「覚えていない、私は覚えていない、昨日の私は私じゃない。私以外私じゃないの? いや違う私じゃない」


「恥ずかしい……、あんなに取り乱してしまうなんて……、私ったら……、お祖母様ごめんなさい、私淑女になんてなれていませんでした……」


 それぞれ頭を抱えながらブツブツ言っている。一名は身体に重度のダメージを負い、残る二名は精神に重度のダメージを受けていた。


「おっはよーなのだ! どうしたのだ? 三人とも?」


「おはよー。ん?」


 リリスとレーベがケロっとした様子で現れ、不思議そうに顔を見合わせる。それはそうだ、ログアウトするのが早かった分受けたダメージも少ない、身体的にも精神的も。


「まったく酒に飲まれて前後不覚になるとは情けないな……」


「「「うっ……」」」


 少女たち五人の中で唯一無傷で最後まで飲み続けたレフィーの言葉にお三方はぐぅの音も出なかった。そんなレフィーの後ろから──。


「「ゆうべはお楽しみでしたね」」


 ニヤニヤしながらアンフィスとヴァナルが現れる。口を開くのも億劫なテュールは手でシッシと追い払う。それを無視して椅子に腰掛けるアンフィスとヴァナル。


 それから数分で朝食の準備が終わり、ベリトがテーブルへ食事を並べる。大人グループは早くから出かけたようだ。そして、お三方はほとんど食事が喉を通らず青い顔をしたままだ。


 食事を終えると各自帰宅を始める。また来るのだー! ししょー、また来る。では、またな。リリス、レーベ、レフィーの三人が出ていく。


 それを見届けた後、……帰ろっか。えぇ、そうしましょう。とノロノロ準備を始めるカグヤとセシリア。


 そして帰宅の準備を終えた二人が最後にお互いを見つめ、忘れよ? えぇ忘れましょう。力なく頷きあってから外へ踏み出すのであった。


 残されたテュールは明日の入学式休みにならないかなぁ、なんてことを思いながらソファーで呻き続けるのであった──。

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