とある英雄達の最終兵器
第13話 黒龍種、黒龍科、学術名:鼻水海水龍
「……」
ザザーッ。
今、テュール達はロディニア大陸に向け飛行中であり、眼下には大海原が広がっている。テュールはじっと前を向きながら波の音に揺られている。
「泣いちゃったねぇ~テュール♪」
「……ププ、おいヴァナル、言ってやるな。テュールは家族が大好きなんだ、しょうがないさ……ププ」
そんなテュールの横に近づいてきてからかうヴァナルを努めて無視するテュール。アンフィスはその巨大な角を生やした頭をぐるりと後ろに向け、嗤いながらそう言う。
「…………」
テュールは、尚静かに水平線の先を睨み続ける。だが、そんな主の元に執事までやってくる。
「えぇ、からかうのは失礼ですよ? プ……ん、コホン。プ……しかし、まさかテュール様の男泣きを見れるとはプ、大変プププ、珍しい……ププ、ンハッ、ゴホッゴホッ、失礼……、むせてしまいました」
「…………」
そして、テュールは静かに水平線ではなく三人を睨む──。
「テュール怒っちゃったの~? 無言で魔法陣出すのやめよー? しかもそれ結構数が多いから大きそうだよ?」
「……、テュール、あー、そのなんだ? 悪かったって? な、それしまえ? な? ほらこんな上空で暴れたら落ちちゃうぞ? あと俺の背中の上ってことを思い出してくれ、な?」
「テュール様、大変申し訳ありませんでした。貴方様の執事でありながら貴方様を怒らせる失態……、心より反省しております……。ププ、あ、思い出したら、つい、失礼」
プチンッ。
「沈め、重力千倍」
テュールの目の前で幾重にも重ねられた魔法陣が一枚に合わさり二十m程の大きさとなる。そしてアンフィスを中心に半径五十m程の球状に空間が歪む。そしてテュール達四人は歪んだ空間ごと海へと叩きつけられる。
「ぐべらっ!! ごぼぶっべばばばっぶばっぼぼぼぼ……」
「アハハハハハバババババババ……」
「おぉ~、そう言えば海の中は初めて見ますが、綺麗なものですねぇ。これは良いものが見れました!」
「…………ぶくぶくぶく」
パチンッ。
そして十秒程で魔法を解き、浮上する。
全員びしょぬ……、いや若干一名は海の中に入ったにも関わらず濡れてない者がいる。それに関しては他の三人は見て見ぬふりだ。そう執事が謎の力に守られているのは今更である。
「オ゛エ゛ェェェ……。しょっぺぇ……。海水飲んじまった……。ぎもぢわり゛ぃぃ……」
誇り高き空の王者、黒龍が海水を飲んでえずいていた。
「……ップ、アハハハ!! アンフィスかっこわるー! テュールもずぶ濡れで、ボクもずぶ濡れ! おっかしいや! アハハハ!!」
「……ッフ、ハハ。……そうだな、アンフィスださいな! お前はダサダサだ! 龍ともあろうものがたかだが千倍の重力如きに負けよって! 精進せぃ、精進せぃ、ナハハハ!!」
「ック、テュール……。てめ、覚悟しろよゴラ?」
「鼻水海水龍などちっとも怖くないな、フハハハ!!」
するとアンフィスの顔がくるりとこちらを向き、口から魔法陣の光が──。
「ちぇい!」
ブレスを出される前にヴァナルが背中から頭に飛び乗り、その眉間を踏み抜く。
一瞬目を回すアンフィス。しかし、すぐさま頭を振って意識を取り戻すと、目を血走らせ吠える。
「て、てめぇら、ニ対一か、上等じゃねぇか。後悔させてやる」
わー! きゃー! そこからはニ対一で龍退治が始まる。上空で魔法陣が色鮮やかに光り輝き、炎が風が氷が吹き荒れる。
(まったく本当によく気を回すヤツらだ、そんなに気を使うなっての……)
テュールはこれが友人の気遣いであることはわかったが、それを言葉にするのは無粋だと考える。ならば全力の拳と魔法で応える。それがイルデパン流儀だ。
「フフ、では、私も混ぜてもらいましょうか」
「「「お前はダメだ(よ)」」」
そして、最後は三人仲良く同時に振り返り、真剣なトーンでそう答える。
「おやおや、仲間外れとはヒドイですね……」
こうして夕焼けの空を一匹の龍と三人の青年が笑いながら翔ける。
そして夜も更け、水平線の遥か先には唯一大陸であるロディニア大陸と朝日が同時に見えてくる。都市国家リバティまであと少し。
それからロディニア大陸へと辿り着いたテュール達は、ルチアから教わった街や大陸の位置関係を思い出して都市リバティを探す。
そして空の上から探し続けること数時間──。
「んー……あれじゃないか? ほら、円形の都市だろ? 大きさもルチアの言ったくらいの大きさだし、城壁もあるし、それにシンボルであるハルモニアの時計塔だろアレ」
テュールが指差した先には、高さ二十m程の城壁がぐるりと囲っている城郭都市があった。その都市には大小様々な建物があるが、中でも特に目立つ建物がニつ。
恐らく都市統治者が住んでいるであろう城。そしてもう一つが大陸一の学校と言われているハルモニア校と思しき建物だ。その建物には赤土色のレンガ造りでとても立派な時計塔がそびえている。
「フム、恐らくそうでしょうね。四方の街や土地の特徴も一致しています。流石テュール様、お見事で御座います」
「おぉ~、テュールお手柄ー! 早速入ろーよ」
ベリトは小さく拍手をし、ヴァナルは徹夜明けでややテンションが高くなっているのか、少しハイになって急かす。だが、テュールがそれに待ったをかける。
「いやいや待て待て、五種族がいる街と言っても純龍は珍しいってことだし、黒龍が降りてきたとなったら騒ぎになる。少し離れた所に降りて歩いて行こう」
「そうですね。確かにここまで龍と遭遇しませんでしたしね。まぁ私達と同じように認識阻害の魔法を使っているのかも知れませんが……」
「うんー。そうだねー。じゃー、あそこらへんに降りるー?」
「そうだな。アンフィス頼むー」
「あいよ」
ヴァナルが指さしたのはリバティから少し離れた森。アンフィスは了承の返事をすると大きく旋回し、森へと降りる。
バサッ、バサッ、ッタ。
翼をはためかせ、ゆっくりと地面へと足を降ろすアンフィス。そしてその背から三人が飛び降りる。
そこでテュールは一歩を踏みしめ──。
「つ、遂にイルデパン島以外の土を踏んだわけだ! ……この一歩は小さな一歩。そう小さな一歩だ! だが──だが!! 我々にとっては大きな──!!」
「なに言ってるのテュール~、置いてくよー?」
人化したアンフィスを含め三人はテュールを取り残して既に移動を始めている。
(む、風情がないヤツらだ。アームストロなんちゃらさんごっこくらいさせてくれても良いだろうに……)
「へいへーい」
と、余計なことを考えながら駆け足で合流するテュール。
そして、四人は暫く歩く。上空からリバティの方向は分かっていたため、特に迷うことなく辿り着き、その市門が見えてきた。そして市門の前には武装した衛兵らしき者が二人いる。
(ちょっと緊張してきた……。いきなり攻撃されないよな? ……いや、それはないだろ)
テュールが十何年振りかの他人に対し、コミュ症スキルを発動させ、心の中で一人ボケツッコミを入れている間に、ぐんぐん門は大きくなり──。
「おい、そこの四人止まれ」
衛兵とのコンタクトミッションが発生する。
ザザーッ。
今、テュール達はロディニア大陸に向け飛行中であり、眼下には大海原が広がっている。テュールはじっと前を向きながら波の音に揺られている。
「泣いちゃったねぇ~テュール♪」
「……ププ、おいヴァナル、言ってやるな。テュールは家族が大好きなんだ、しょうがないさ……ププ」
そんなテュールの横に近づいてきてからかうヴァナルを努めて無視するテュール。アンフィスはその巨大な角を生やした頭をぐるりと後ろに向け、嗤いながらそう言う。
「…………」
テュールは、尚静かに水平線の先を睨み続ける。だが、そんな主の元に執事までやってくる。
「えぇ、からかうのは失礼ですよ? プ……ん、コホン。プ……しかし、まさかテュール様の男泣きを見れるとはプ、大変プププ、珍しい……ププ、ンハッ、ゴホッゴホッ、失礼……、むせてしまいました」
「…………」
そして、テュールは静かに水平線ではなく三人を睨む──。
「テュール怒っちゃったの~? 無言で魔法陣出すのやめよー? しかもそれ結構数が多いから大きそうだよ?」
「……、テュール、あー、そのなんだ? 悪かったって? な、それしまえ? な? ほらこんな上空で暴れたら落ちちゃうぞ? あと俺の背中の上ってことを思い出してくれ、な?」
「テュール様、大変申し訳ありませんでした。貴方様の執事でありながら貴方様を怒らせる失態……、心より反省しております……。ププ、あ、思い出したら、つい、失礼」
プチンッ。
「沈め、重力千倍」
テュールの目の前で幾重にも重ねられた魔法陣が一枚に合わさり二十m程の大きさとなる。そしてアンフィスを中心に半径五十m程の球状に空間が歪む。そしてテュール達四人は歪んだ空間ごと海へと叩きつけられる。
「ぐべらっ!! ごぼぶっべばばばっぶばっぼぼぼぼ……」
「アハハハハハバババババババ……」
「おぉ~、そう言えば海の中は初めて見ますが、綺麗なものですねぇ。これは良いものが見れました!」
「…………ぶくぶくぶく」
パチンッ。
そして十秒程で魔法を解き、浮上する。
全員びしょぬ……、いや若干一名は海の中に入ったにも関わらず濡れてない者がいる。それに関しては他の三人は見て見ぬふりだ。そう執事が謎の力に守られているのは今更である。
「オ゛エ゛ェェェ……。しょっぺぇ……。海水飲んじまった……。ぎもぢわり゛ぃぃ……」
誇り高き空の王者、黒龍が海水を飲んでえずいていた。
「……ップ、アハハハ!! アンフィスかっこわるー! テュールもずぶ濡れで、ボクもずぶ濡れ! おっかしいや! アハハハ!!」
「……ッフ、ハハ。……そうだな、アンフィスださいな! お前はダサダサだ! 龍ともあろうものがたかだが千倍の重力如きに負けよって! 精進せぃ、精進せぃ、ナハハハ!!」
「ック、テュール……。てめ、覚悟しろよゴラ?」
「鼻水海水龍などちっとも怖くないな、フハハハ!!」
するとアンフィスの顔がくるりとこちらを向き、口から魔法陣の光が──。
「ちぇい!」
ブレスを出される前にヴァナルが背中から頭に飛び乗り、その眉間を踏み抜く。
一瞬目を回すアンフィス。しかし、すぐさま頭を振って意識を取り戻すと、目を血走らせ吠える。
「て、てめぇら、ニ対一か、上等じゃねぇか。後悔させてやる」
わー! きゃー! そこからはニ対一で龍退治が始まる。上空で魔法陣が色鮮やかに光り輝き、炎が風が氷が吹き荒れる。
(まったく本当によく気を回すヤツらだ、そんなに気を使うなっての……)
テュールはこれが友人の気遣いであることはわかったが、それを言葉にするのは無粋だと考える。ならば全力の拳と魔法で応える。それがイルデパン流儀だ。
「フフ、では、私も混ぜてもらいましょうか」
「「「お前はダメだ(よ)」」」
そして、最後は三人仲良く同時に振り返り、真剣なトーンでそう答える。
「おやおや、仲間外れとはヒドイですね……」
こうして夕焼けの空を一匹の龍と三人の青年が笑いながら翔ける。
そして夜も更け、水平線の遥か先には唯一大陸であるロディニア大陸と朝日が同時に見えてくる。都市国家リバティまであと少し。
それからロディニア大陸へと辿り着いたテュール達は、ルチアから教わった街や大陸の位置関係を思い出して都市リバティを探す。
そして空の上から探し続けること数時間──。
「んー……あれじゃないか? ほら、円形の都市だろ? 大きさもルチアの言ったくらいの大きさだし、城壁もあるし、それにシンボルであるハルモニアの時計塔だろアレ」
テュールが指差した先には、高さ二十m程の城壁がぐるりと囲っている城郭都市があった。その都市には大小様々な建物があるが、中でも特に目立つ建物がニつ。
恐らく都市統治者が住んでいるであろう城。そしてもう一つが大陸一の学校と言われているハルモニア校と思しき建物だ。その建物には赤土色のレンガ造りでとても立派な時計塔がそびえている。
「フム、恐らくそうでしょうね。四方の街や土地の特徴も一致しています。流石テュール様、お見事で御座います」
「おぉ~、テュールお手柄ー! 早速入ろーよ」
ベリトは小さく拍手をし、ヴァナルは徹夜明けでややテンションが高くなっているのか、少しハイになって急かす。だが、テュールがそれに待ったをかける。
「いやいや待て待て、五種族がいる街と言っても純龍は珍しいってことだし、黒龍が降りてきたとなったら騒ぎになる。少し離れた所に降りて歩いて行こう」
「そうですね。確かにここまで龍と遭遇しませんでしたしね。まぁ私達と同じように認識阻害の魔法を使っているのかも知れませんが……」
「うんー。そうだねー。じゃー、あそこらへんに降りるー?」
「そうだな。アンフィス頼むー」
「あいよ」
ヴァナルが指さしたのはリバティから少し離れた森。アンフィスは了承の返事をすると大きく旋回し、森へと降りる。
バサッ、バサッ、ッタ。
翼をはためかせ、ゆっくりと地面へと足を降ろすアンフィス。そしてその背から三人が飛び降りる。
そこでテュールは一歩を踏みしめ──。
「つ、遂にイルデパン島以外の土を踏んだわけだ! ……この一歩は小さな一歩。そう小さな一歩だ! だが──だが!! 我々にとっては大きな──!!」
「なに言ってるのテュール~、置いてくよー?」
人化したアンフィスを含め三人はテュールを取り残して既に移動を始めている。
(む、風情がないヤツらだ。アームストロなんちゃらさんごっこくらいさせてくれても良いだろうに……)
「へいへーい」
と、余計なことを考えながら駆け足で合流するテュール。
そして、四人は暫く歩く。上空からリバティの方向は分かっていたため、特に迷うことなく辿り着き、その市門が見えてきた。そして市門の前には武装した衛兵らしき者が二人いる。
(ちょっと緊張してきた……。いきなり攻撃されないよな? ……いや、それはないだろ)
テュールが十何年振りかの他人に対し、コミュ症スキルを発動させ、心の中で一人ボケツッコミを入れている間に、ぐんぐん門は大きくなり──。
「おい、そこの四人止まれ」
衛兵とのコンタクトミッションが発生する。
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