とある英雄達の最終兵器

世界るい

第11話 エブリデイ死ぬ思いでした

 そして五年の月日が流れテュールたちは十五歳となっていた。


 子供たち四人は子供と呼べないほどに身体つきは大人になり、また精神面も落ち着き、心身ともに成長した。まぁもともとテュールはおっさんであるが……。


 テュールは身長が百八十cm程、アンフィスはそこから更に大きく百九十cm程だろうか、ベリトはテュールよりやや低く、ヴァナルはそれより低い百七十五cmというところだ。


 ちなみにテュールはベリトに、身長で勝っているので契約の勝負は俺の勝ちでいいな? と言ったことがあるが、バエル王の前でそれを言えるなら、とニッコリ返された。執事には未だ敵わない。


 さて、そんなテュール達の身体が出来上がってきたということは当然、訓練の激しさも増す。倍プッシュに次ぐ倍プッシュ。その度にテュールがざわざわしながらどいつもこいつも狂っていやがると叫んだものだ。


 というわけで、この世界──アルカディア一の学校と言われるハルモニアに行く前に全てを教えきるつもりで指導していた親兼師匠達はもはや狂っていた。ブラックモアブラック修行だった。


 どんな修行をしたかって? テュールの四肢がもげる程度は日常茶飯事レベルの修行だ。実際に何度も何度も何度も、もげた。ルチアがいなければテュールは学校に行くとか言っている場合じゃなかっただろう。


 そんな壮絶な修行を経たおかげでテュールは、モヨモトやリオンともある程度戦えるようになっていた。


 また、弟子の強さランキングにも変動はあり、ベリトが圧倒的なのは変わりないが、テュールが本来の姿のアンフィス、ヴァナルを圧倒するまで強くなったのだ。


 もちろん十歳の時と比べればヴァナルやアンフィスだって強くなっている。その差を縮め、追い越すのはそれこそ四肢が一回、ニ回もげたくらいじゃ到底ムリだっただろう。


 そんな強くなったテュールの悩みはやはりベリトである。差が縮まっているのかどうかすら分からない。底を見せないベリトに対し焦燥感は募る一方である。テュールの寿命は割と本気で後三年かも知れない。


 なのでテュールは、とりあえず在学中に何か良い方法はないか探してみようと考えた。これ人を行き当たりばったり、思考放棄という。


 そして旅立つ日まで残りニ週間、修行も最後の追い込みにかかっている。


「テュールや、おんしは本当に強くなった。わしもまさか十五で全てを託せるようになるとは思わなんじゃわ。おんしならモヨモト流剣術の秘剣を使いこなせるじゃろて……。これを使いこなせたらおんしはモヨモト流剣術免許皆伝じゃ。ちなみにモヨモト流免許皆伝はまだ一人もおらん。つまり、おんしが最初の免許皆伝になれるかもしれんの、ホホホ」


(いや、それ単にモヨモトの作った剣術で、習ったのが俺だけだったからだろ?)


 テュールは心の中でそう思ったが口には出さなかった。だってテュールは大人だもん。そして、そんなことを考えながらも真面目な表情でモヨモトに応える。


「あぁ、モヨモト。俺がモヨモト流剣術の看板を背負ってやるさ。モヨモトにそんな物騒な棒っきれは似合わない。おたまとしゃもじの方がよほど似合うさ」


「ホホホ、そうじゃの。わしの剣術を継ぐ者など考えたことがなかったが、存外目の前に現れるとなると嬉しいもんじゃの……。ではテュール、秘剣『不殺ころさず』体得してみせぃ」


 そう言うとモヨモトは剣をしまい、無手となる。そして両手に魔法陣を重ね、二十m程の魔法陣が空に浮かぶ。その魔法陣から生まれたのは一本の刀。幻想級の魔力が圧縮され形となった魔力刀。


「ホホ、久方ぶりの本気じゃ、身体よ持ってくれよ? テュールや、今からの攻撃防いでも良いぞ・・・・・・・?」


(上等だ……)


 テュールはモヨモトの挑発を受け、その目に闘志を燃やす。一挙一投足を見逃すまいと意識を針のごとく澄まし集中する。


 モヨモトがゆっくりと右手を挙げた。と、テュールが認識した瞬間にはモヨモトは消えていた。まばたきをした訳でもない。意識を割いたわけでもない。


(どうやって消えた?)


 モヨモトの姿を探しながら、どこからか襲いくるであろう斬撃に備える。しかし、そう思った時点で・・・・・・・・テュールの胸から刀が生えていた。


 痛みもなく、苦しみもなく、そしてただゆっくりと眠るように意識が遠くなる。そんな不思議な感覚を味わいながらテュールは倒れる。


 モヨモトは刀を霧散させ、地面に倒れ込むテュールを抱える。ゆっくりと地面に寝かすと──。


「喝ッッッ!!」


「ふべらッッ!! いってぇ!! って、あれ? 俺意識……。あぁー……やられちまったの、か」


 強烈なビンタを頬に食らい、そこをさすりながら現状を把握しようとテュールが頭を働かせる。


「ホホホ、わしもまだまだ捨てたもんじゃないじゃろ? 何をされたか分かったか?」


 嬉しそうにモヨモトが笑いながらそう問う。


「んー、まず、初動。右手を挙げた後は歩法『浮動』による無音の移動だろ? だが、浮動にしても起こりさえ見えないのはおかしい。ということは右手を挙げたことに意味があるわけだ。なにかしらの方法で意識の隙間・・みたいなもんを突かれた?」


 ふむふむと頷くモヨモト。


「で、その後の斬撃だが痛みどころか斬られた感触すらない。身体が元からその刀を通すように作られてたのかと錯覚する程だった。斬撃が身体の隙間を縫ったような……」


 今一度自分が刺された場所を指でなぞるがやはり傷はない。そして貫いた場所は──。


「魔力刀は魔力器官を貫いて魔力の流れを止めたってところか……。どの種族も魔力の循環は身体の維持に必要だからな。そこをついて魔力欠乏由来の失神ブラックアウトを引き起こす、こんなところか……?」


「ホホホ、まずまず正解じゃ。まずは『瞬隙しゅんげき』じゃな。人の意識は連続しているようだが、極わずかな隙間があるんじゃ、そこを捉える。わしは捉えやすいように右手をゆっくり挙げ、おんしの意識の隙間を広くした。そしておんしの眼球の揺れ、呼吸、筋の緊張、ほんの刹那のタイミングの隙間に最速の『浮動』を入れたわけじゃ」


 身振り手振りを加えながら大げさにモヨモトが解説を始める。


「この最速の浮動が難しいんじゃよ。音もなく、風もなく、殺気も闘気も剣気もなく、ただ浮かぶ雲の如く泰然と、それでいて雷の如き速さで、じゃ」


 そう言うと、モヨモトは本当に音もなく、周りの空気すら動かさずテュールの後ろに回り込む。


(今の俺には……このレベルは無理だわな……)


 ゴクリと唾を飲み、テュールは自分の浮動とモヨモトの浮動を頭の中で比べてみる。そこにはまだまだ大きな差があった。


「……そして最後の斬撃。あれも瞬隙を利用して、おんしが動き始めようとする意識の切り替えの隙間をついて刺したものじゃ、ちなみにこの斬撃『不殺』は、魔力刀でしか為し得れん。魔素一つ分の薄さ、それでいて剣を成すための強固さが必要じゃからな」


 テュールの目の前で魔力刀を水平にしてみせる。その角度から見ればまるで細い糸のようだが、その存在感は凶悪だ。


「……この刀で身体の隙間を縫うように魔力器官を貫き魔力の流れを止める。ホホ、魔力欠乏による意識消失は防げないからのぅ。そして魔力刀を消せば傷跡も残らず後遺症もない。それでいて相手の意識を確実に刈り取れる。これが『不殺』じゃ」


 そして一呼吸置き、モヨモトが静かに想いを託す。


「……散々命を摘み取ったわしにこんなことを言う資格はないが、出来るなら人が死なない世の中であって欲しい。それが例え命を懸ける戦いであっても、じゃ。テュールおんしは強い。そして優しい子じゃ。誰かを守るために戦うこともあるじゃろう。そんな時は相手すら守れる強さを持ってほしい。わしはそう願っとるんじゃよ」


「モヨモト……。──あぁ、確かにその想い受け取った。俺もモヨモトの言う世界の方が好きだぜ? 甘っちょろい考えって言われるかも知れない。けどそんな考えを貫き通すだけの強さを身につける。そしてモヨモトの……師匠の後継者として全てを守れる剣であり続けたいと思う」


「テュール……、嬉しいのぅ……。おんしの親であり、師匠で本当に良かった……」


「ですがテュール様、出立までニ週間程ですが体得できますでしょうか……?」


 不意に、行く末を見守ってたベリトがそう呟いた。


 ピクッ。モヨモトの少し震えてヨヨヨヨとなっていた身体が静止する。


「あぁ~、モヨモト、逆だ、逆に考えよう。二十四時間×十四日。つまり三百時間以上もある。さ、始めよう」


「そうじゃな問答する時間も惜しい。今から二週間くらい寝ないで修行すれば会得できるじゃろ。死ぬ気でついてくるんじゃ」


「あぁ、死ぬ気で、か。それなら問題ない。修行を始めてからの十四年間はエブリデイ死ぬ思いだったからな」


 ホホ、カカと笑い合い、イルデパン島での最後の追い込みが始まる。


 そして見事、十三日後にモヨモト流剣術免許皆伝という肩書をもった男がこの世に生まれる──。

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コメント

  • ペンギン

    すげぇ...13日で出来たんだ...
    14日かかってないw

    1
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