とある英雄達の最終兵器

世界るい

第08話 執事が一匹……執事が二匹……。

 翌日──。


 昨日も宴会は夜更けまで続き、なんとかベッドに辿り着いて意識を失うように眠ったテュール。


 そんなテュールであるが何かの気配を感じ、夢の世界から半分抜け出す。


(……ん? なんだ……? って、なっ!?)


 夢半分で薄目を開けるとそこには満面の笑みで立っているツェペシュがいた。これには流石に目が覚める。


「……ど、どうしたの? ツェペシュ?」


「テュール、今日はボクの番だよ! みんながテュールの友達を探してくれてるのにボクだけ何もしてないのは寂しいからね!」


 きっとテュールが起きるのを暫く待っていたのだろう。テュールが起きたのが分かるとツェペシュにしては珍しい勢いで捲し立てはじめる。


「あ、ありがとうツェペシュ嬉しいよ?」


「そう? よかった! アンフィスとヴァナルで十分って言われちゃったらどうしようと思ったよ! じゃあ早速庭に出よ?」


「……え、まだ、朝の五時だよ? きっと……そのお友達も寝てると思うし、俺も寝てると思うし……」


 そんなツェペシュの調子に合わせてあげたい気持ちがテュールにはもちろんあったが、如何せん戸惑いの方が大きい。そして、眠い。


「フフフ、大丈夫! まだ夜が明けきらないこの時間の方が都合がいいんだよー! さ、いこ! それ!」


 テュールのちっぽけな抵抗虚しく、ツェペシュはテュールの小さな体を抱えると窓から飛び出す。部屋はニ階だ。庭への最短距離は確かにそのルートであった。


 ッタ。テュールを抱えたまま窓から飛び降りたツェペシュは音も衝撃もなく静かに着地する。そしてテュールをゆっくりと降ろすと、ツェペシュは嬉しそうに右手を掲げ──。


「フフ、リオンは左手だったよね? ボクはこっち」


 茶目っ気のあるウィンクをしながらそう言う。そして右手の甲に今までなかった魔法陣が浮かび上がり、先日のリオンと同じように空へ投射される。


「リオンのは幻獣界、そしてボクは魔界からのパートナーだよー。それじゃ、いくよ? ──サモン、バエル!」


 ツェペシュが得意げにそう唱えると、幻獣界の紋様とも違うように見える魔法陣が光り輝く。当然テュールには読解不能であった。


 そして光が止むと、そこに一人の男が現れる。長身痩躯、眉目秀麗、黒髪の執事服の男。なんと眼鏡までしている。


(め、眼鏡なんてあるんだ……。魔界の技術力恐るべし……)


 異世界にまさか眼鏡があると思わなかったテュールは思わず驚いてしまう。だが、そんなテュールなどまるで目にも留めないで執事服の男はツェペシュに挨拶をする。


「ご機嫌麗しゅう御座います。ツェペシュ様、本日は一体どのようなご用向きでしょうか?」


 人を魅了する色気のある澄んだ声がそう尋ねる。それに対しツェペシュはとても驚いたようだ。


(ん? ツェペシュどうしたんだろう?)


「フフ、バエル? 一体何の冗談だい? ツェペシュ? 本来、様をつけなければいけないのはこちらだろう? それをバエルの気まぐれで関係を対等にと言ったから甘んじてたのに、驚きを通り越していっそ可笑しいね。フフ、で、次はどんな気まぐれだい?」


「フフフ、ツェペシュ様、貴方様も知っておられる通り、私は魔界では序列一位の悪魔の王。つまり仕えるという感覚を知らない存在。そして周りの者は全て私に伏し、崇める始末……。つまり、仕えるどころか対等と言える関係の者もいませんでした。そこで──」


 執事服の男は勿体ぶるように、あるいはからかうように言葉を続ける。


「私は忠誠の厚い臣下の者に聞きました。なぜ、私の下に付く? なぜ、私に成り代わろうとしない? なぜ、そこまで媚び、へつらい、崇めることができるのか、と。……その者はこう答えました。偉大すぎる者に仕える。それは誇りであり、至上の喜びであり、生きる意味にもなり得る。仕える喜びを知らない王に唯一私がお教えしたい気持ちです、と。私はこれを聞き、仕えるというものが何なのか知りたくなりました」



 そう言って執事服の男はとても愉快そうに微笑む。



「と、言うわけでツェペシュ様? 貴方には私が仕えたいと思えるような方に成って欲しいと思います。それまでは練習がてら執事ごっこを続けますので。そうですねぇ、五百年。五百年以内に達成して下さい。出来なかった場合は貴方の存在を契約の代償として頂きます。フフフフ」


(な、なんなんだ! このサイコパス野郎は……! ヤバイ! なんつーかとびっきりヤバイ奴だ!! さらっと言ったけど、悪魔って言っちゃってるし、しかも序列一位の王とか言っちゃってるし……)


 目の前の変態的なやりとりをしている執事服の男を見て、テュールは本能的な恐怖心を感じる。これは関わってはいけない類の存在だ、と。しかし、そんな相手に対してもツェペシュは飄々と──。


「フフ、バエルも相変わらずだねー。了解したよー。君は気まぐれを全て推し通すだけの力があるからねー。五百年か、ボクもまだまだ隠居できないね」


 そう答えるのであった。そして──。


「さて、バエル。君の気まぐれ執事の件は分かった。そんな執事にボクからお願いがある。この子、ボクの家族であるテュールに悪魔を紹介してくれないかな?」


 さらっと本題へと突入するわけだが、その内容にテュールは耳を疑う。


(え? ツェペシュ? 俺友達は欲しいって言ったけど、悪魔は欲してないよ? 存在を切り売りするような関係はちょっとゴメンだからね? 気持ちだけね? ツェペシュの気持ちだけ受け取るから、さ? ね?)


「あ、あのー。ツェペシュ? ありがたいんだけ──」


「ほ~ぉ、ツェペシュ様のご家族! では坊ちゃまとお呼びしなければなりませんね! 坊ちゃま、私魔界というココとは別世界で王をさせてもらっています悪魔のバエルと申します。よろしくお願いしますね」


 またしてもテュールの意思は無視された。そして有無を言わさぬ迫力で迫ってくるバエル。


「テュ、テュールと申します。よ、よろしくお願いします……」


 当然、流される元日本人のテュール。そして口を挟む間もないまま事態はドンドン転がり落ちていき──。


「それで悪魔の紹介ですね? 他ならぬ私の契約者ツェペシュ様のお願いとあらば中途半端な者は紹介できませんね……。いいでしょう。私の部下でもとっておきの秘蔵っ子をご紹介しましょう。……ベリト来なさい」


 パチンッ。


 指を鳴らしたバエルの眼前に魔法陣が展開され、ベリトと呼ばれた悪魔が召喚される。


 そこに現れたのはテュールと同じくらいの背丈で執事服を着たサラサラ金髪の少年であった。ちなみに眼鏡はしていない。


「バエル王、喚ばれて参りました。ベリトです。何用で御座いましょうか?」


「ベリト、貴方はそこの坊ちゃま──テュール様に仕えなさい。私の契約者であるツェペシュ様の家族、失礼のないように」


「はい、畏まりました。テュール様、不肖このベリト貴方様に命を賭して仕えたいと思います。どうか宜しくお願い致します」


 この時点でテュールは断るという選択肢がなくなったことを受け入れる。


「え、あ、うん、そのよろしくね? その仕えるとかじゃなくて、もっと軽い感じ……、あの……、友だ……、いぇ、……なんでもないです」


 そして、終始ニコニコこちらを見つめるバエルの無言のプレッシャーに言いたいことが言えないでいるテュールであった。


「それで契約内容はどうしようかー? バエル」


「そうですね。私達と同じでよいでしょう。坊ちゃまはベリトより強くなる。と、期限は……、坊ちゃまは人族ですので八年以内にいたしましょう。八年以内にベリトに一勝でもすれば何の代償もなしです。逆に一度も勝てず八年経ってしまった場合は、存在をベリトに捧げてもらいましょう。……ちなみに勝負の内容はベリトの頭の中を私が覗くので不正を働くのであれば、その時は存在を失いたくなる程の夢を見せてあげましょう。フフフ」


「フフ、大丈夫だよバエル、テュールは不正なんか絶対にしないよ。そしてあっという間に強くなって、ボクや、もしかしたらバエル、君よりも強くなるかもね。その契約内容でいいよー。いいよね? テュール」


「あ、うん」


(もうどうにでもなーれ)


 テュールは死んだ魚の目で返事をし、その口からは言葉と一緒に魂が抜かれてしまったかのようだ。


「では、契約を……坊ちゃま、ベリト、右手を。……はいっ、これにて契約完了です」


 バエルがテュールとベリトの右手に同じ魔法陣を刻む。するとテュールとベリトの魂に回廊ができ、存在を感じることができる。


「そうだ、バエル。ベリトの強さはどのくらいなんだい?」


「現在は序列二十八位ですね。生まれてまだ十年という若輩ながら、公爵位の悪魔です。才能や成長速度を言えば私を越える逸材かと……」


「十歳で公爵位? それはすごいね……。ボクも公爵位と戦うのは覚悟がいるからなー」


「え? ツェペシュより強い……の?」


「んー、どうだろ? ただ手を抜いて勝てる相手ではないってことは確かだねー。けどボクもバエルに勝たなきゃいけないし、無茶加減は同じくらいだよ。これからはお互いもっと頑張らないとね、フフフフ」


(わ、笑うとこなのか? つか、自分で無茶加減って分かってるじゃねぇか! もしやツェペシュは既に悪魔に魂を売ってしまっているのか……?)


 やはり常識人っぽいツェペシュもどこか壊れているんだと改めて認識し、師匠たちに常識を誰か説いてくれと願わずにはいられないテュールであった。


「さ、話もまとまったことですし……ベリト。貴方はこちらの世界で坊ちゃまに仕えなさい。ツェペシュ様申し訳ありません。私も側で仕えたいのですが、如何せん魔界を管理しなければならないため席を長く空けられないのです。お許し下さい。何かあればすぐに呼ぶか、ベリトに言付けをお願いします」


「うん、分かったよー。バエルいい子を紹介してくれてありがとうねー」


「いえいえ、私も楽しめま──おっと。では、また。失礼します」


 そう言うとバエルは一瞬の内に消える。そして、ようやく強烈な存在が消えた所でテュールがホッと一息つきベリトに話しかける。


「あー、ベリト? その仕えるって言ってるけどあくまで対等でいいからね? 俺が欲しいのは友達だし」


「いえ、テュール様、バエル王から仕えよとの命ですので、それは覆されることはありません」


(仕えるって言いながら、俺の言葉は無視かーい)


「わ、分かった。もうそれでいいよ。じゃあ今日からよろしくベリト」


「はい、よろしくお願いしますテュール様」


「うんうん、良かった良かったー。さて、日も出てきたし、朝ごはんにしよっかー。ベリトをみんなに紹介しないとね」


 こうして朝日が立ち上る中、三人は家へと戻り、起きはじめてきた皆にベリトを紹介する。そしてリオンが急遽朝食を豪勢にしろと言い始め、結局朝からどんちゃん騒ぎとなり、そうなるとやはり──。


 ──モヨモト、おかわりっ!──


「え、執事ぇ……。執事の役目ぇ。……もうええわい」


 涙目で食事をよそるモヨモトの背中は哀愁を感じずにはいられなかった。

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