とある英雄達の最終兵器

世界るい

第04話 重力で鍛えれば強くなるって鳥○先生が証明してくれている

 それから四年が経ち、テュールは五歳を迎える。


 日課である早朝の畑仕事や畜産の手伝いを終え、午前中は身体を動かす。今では重力も二十倍まで増やし、何時間も走っている。というか二十四時間年中無休、重力二十倍で過ごしている。ベジー○を越える日も近いのではないだろうか。


 そして剣術、格闘術をそれぞれニ時間ほど訓練すると昼食だ。昼食の後は魔法を使う練習。これはツェペシュとルチアに指導してもらい行う。指導がいいのか、幼少期の頭の柔らかさがいいのか、既にテュールは上級魔法は使いこなせるようになっていた。


 そして夕方以降は新しい魔法を覚えるために魔法辞典とにらめっこ、その後は魔法陣のお絵かきだ。


 というわけで、本日も剣術の稽古から始まる──。


「ホホ、良い剣さばきになってきたのぅ、テュール。じゃがまだまだ甘い」


 モヨモトからはまず型を教わり、それを無意識に正しく使えるまで反復する練習。その後はそれを実戦の中で実践する練習を行っている。モヨモト曰く型の習熟に終わりはない、毎日続けることが肝要じゃ。とのこと。


 そしてその実戦では、モヨモトに一撃を入れる。もしくは一歩でも動かせたら次の段階に進むとのことだが四年経った今でもそれは達成できていない。


 そして今日もその目標は達せられず──。


(だぁー! いつまで経ったら一撃入れられるんだよ!)


 悔しさを表情に出すテュール。それを見てモヨモトはニヤリと笑い──。


「ふむ、ここらで重力一倍の勝負をしてみるかのぅ。ほいっ」パチン


 そう言うと、急激にテュールにまとわりついていた重さが消える。


「うわっ、軽い! 羽のようだ! えぇー! こんな軽いと逆に動きにくいなぁー……」


「ホホ、軽く飛んでみぃ」


 先程までの閉塞感など重力とともに霧散してしまったのか、自分の体の軽さに年甲斐もなく、いや年相応にはしゃぐテュール。


「ん、せーのっ!」


 そう言ってかがんでから、一気に足を伸ばし、地面を蹴る。垂直に身体はものすごい速さで上がっていく、上がっていく、上がっ──。


(上がりすぎじゃね!?)


 気付いたら地面との距離は遥か数十m離れている。


 そして、頂点に達したであろうか、一瞬速度がゼロになり、そして落下を迎える。


(う~ん。これはあれだな。折角だ。滑り台で遊んでみるか!)


 そう決めるや否や、テュールの右手には五十cm程の魔法陣が浮かぶ。


氷の滑り台アイシクル・ピラー!!」


 魔法の名前は叫ばなくてもいい──が、そこは男のロマンということでテュールはなるべく魔法名を叫ぶこととしている。そして魔法が完成すると螺旋状の巨大な氷の滑り台が造られる。そこに両足で着氷し、滑り降りる。


「ひゃっふぅー!!」


「ホホホー!!」


 そんなテュールの後ろにはいつの間にかモヨモトがおり、正座で滑り降りてきている。


(足冷えたり、痛くはないのかな……?)


 ついつい老体を労ってしまうテュール。


 そして、いよいよ地面に近くなったところで、小さい魔法陣を右手に構え、氷のジャンプ台を作る。そして勢いをつけたまま飛び、伸身三回宙返りで着地を決める。モヨモトは正座のまま飛んでいく……。


「ふぅ。よしっ、モヨモト勝負の続きだ!」


「ホホ、かかってくるがよい」


 そう言って睨み合う二人。気まずい沈黙が漂う。だが、意を決してテュールは口を開く。


「……モヨモト正座でいいの?」


「……痺れて立てん」


 そこから地獄の気まずさを味わう五分を過ごし、ようやくモヨモトは立ち上がる。足をさすりながら……。


「ホホホ、仕切り直しじゃ! テュールいつでもきなさい」


「んじゃ、遠慮なくっ……! ほいっ!」


 先の五分をなかったこととし、訓練が再開される。テュールは疾風の如き速さで近づき、剣を振るう。常人では近づいたことさえ知覚できないレベルであろう。ましてやそこから振るわれる剣先を知覚できるころには身体は真っ二つだ。


 カンッ! 


 木剣と木剣がぶつかり小気味よい音とともに弾かれる。


「良い速さじゃ。じゃが、軽いのぅ~」


 そこからテュールはがむしゃらに剣を振るう。緩急をつけ、フェイントをつけ、ステップで惑わし、ある時は愚直に、ある時は虚をつくように、繰り出される斬撃は木剣と言っても当たればただでは済まない威力だ。


「じゃが、当たらなければどうということはない。ほいっ、ほいっ、ホホホホー。良い風じゃ~気持ちええのぅ」


 終始その調子で三十分程打ち合った結果、息が切れるのは攻撃に徹したテュールの方であり、老齢であるモヨモトは息切れや疲労はなくどこ吹く風だ。


「うむ、良い感じに育ってきておるのぅ。今日からは重力三十倍じゃ。おんしならいずれ音を置き去りにできるじゃろ」


 そう言うと、モヨモトは指を一つ鳴らし、魔法陣を描く。するとテュールの身体は先程以上に重くなる。


「あ、ありがとうございました」


「うむうむ。精進、精進、ホホホホー」


「んじゃ、次は俺の番だな。さ、テュール休憩を四十秒やる。その間に万全まで回復しろ。いいか? 戦場では四十秒も敵が待ってくれることはないからな? さ、数えるぞ! いーちっ! にー!!──」


「──よーんじゅー! そうだ、その目だ。弱いやつはまず目が折れる。目に力のねぇやつは生き残れねぇ。テュール、その目の輝きを失くすんじゃねぇぞ? よーし、まずは軽く殴り合いだ! 死ぬなよ?」


 リオンに言われた通り、モヨモトとの戦闘で疲労しきった体を無理やり奮い立たせ、戦闘態勢を取るテュール。


 そしてニmを越える筋肉隆々の身体が音を置き去りにし、消える。気付いたときにはテュールの目の前に拳が迫っている。これを全力で防ぐ。一切の考えを放棄し、生き残るため、その一点だけを考え、防御に専念する。


「──っ!!」


 インパクトの瞬間、呼吸を止め、全身を固めたテュールは声すら出ない。そしておよそ人と人との接触で起こる音ではない音を響かせ、弾かれる。テュールの目には景色がものすごい速さで後ろに流れていくのが映る。受け身を取らなければ全身がバラバラになるほどのその衝撃を──。


(んのっ!! バカ力っ!!)


 なんとか四肢を地面につき、速度を殺し、迎撃の体制を整える。そしてルックアップ。リオンの姿を探す。


「こっちだ」


 後ろから声が聞こえると同時に背中に悪寒が走る。


(避ける? 否!)


 避けることに意識を割いた瞬間、頭がスイカ割りのスイカよろしくグシャグシャになると分かっているテュールは前方へ全力で宙返りし、腕をクロスに固める。


 ちょうど頭と足が天地逆さまになり、視界にリオンが映ったところで、つま先が目の前に迫り、再度の衝撃──。


 先程まで後ろに流れていた景色を逆走していく。


(あぁ、ダメ、意識が……)


 パシッ。そして回り込んだリオンに掴まれ、軽い殴り合い・・・・・・が終了になる。


「ガハハハ!! 今日もニ発か! まぁ、軽くとは言え俺の一撃を凌ぐ五歳児なんかいねぇ。将来が楽しみだ! 早く俺を殴ってくれよ? ガハハハ!! よーしっ、四十秒で意識を取り戻せ? いくぞ! いーちっ! にーっ! さーん──」


 こうして午前中は身体をめいっぱい使い、訓練をする。


 そして午後からは魔法の訓練だ。


(こっちは楽だろうって? いや、こっちはこっちで大変なんだよなぁー)


 テュールは最近訓練しているニ重詠唱ダブルキャストを思い出し苦笑する。これはどういうものかというと、左右の手から別々の魔法陣を浮かべ発動するというもの。これが滅茶苦茶難しい。まず頭の中で二つの魔法陣を鮮明にイメージする。これが難しい。更にそれを右手、左手から魔素を動かし魔法陣を描く。これも恐ろしく難しい。つまり、難しい。


「さ、今日もいつも通り、初級のニ重詠唱を練習しようー。全くの同時でないと意味がないからね? さぁ、やってみて? 右手からは火を、左手からは水を」


 机の前で現実逃避していたテュールは、ツェペシュの言葉にハッとなり、頭をニ、三回振り集中を始める。


 まずテュールは頭の中を二つに区切るようイメージする。それぞれに直径五cmの魔法陣を思い浮かべる。それこそ一歳の頃から何千回、何万回と繰り返してきた魔法陣だ。そしてその魔法陣を魔素で描く。そして両手の魔法陣が発光すると右手からは火が、左手からは水が出る。


「う~ん、やっぱり、左手が若干遅いねー。左腕から出る魔素の扱い方が右手に比べて少し稚拙だからかなぁー。まぁ、今後も左手を右手と全く同じ感覚で使う訓練を続けようかー。夜の書き取りでは両手で別の魔法陣を全く同じスピードで書ききるという訓練を続けるんだよ? あとは日常生活動作は左手をメインに行おう」


 これができるようになると合成魔法というとてつもなく強い魔法が使えるようになるとのことだ。合成魔法は一つの魔法陣では意味をなさない魔法陣であり、魔法陣同士を重ねて初めて意味のある魔法陣となる。


 なぜ、こんなことをする必要があるのか――。


 そもそも人が描ける魔法陣は魔力の瞬発力とも言えるであろう出力に比例する。これが普通の人であれば三十cm程度が限界だ。宮廷魔術師レベルだと二m程。そこから先の限界は明確には分かっていないが各種族の中でも指折りの者達にしか使えないという。そのため、出力の限界以上の情報量が多い魔法──幻想級の魔法などは分割して魔法陣を描く必要があるということだ。


(つまり、強い魔法が使いたければ出来るだけ大きい魔法陣をできるだけ沢山合成しましょうってことなんだよなぁ)


 さて、そんな魔法陣をツェペシュはいくつ重ねられるのか疑問に思ったテュールはツェペシュに尋ねたことがある。


 その時の答えは──。


「ボクー? ボクは四回かなぁー。合計八つの魔法陣を合成していく四重詠唱カルテットって言われている魔法だねー。効果は無茶苦茶だねぇー。使う機会がない方がいい魔法だよー。まぁけど力を止めるには力を持つしかないっていうのも現実さー。誰かを救うにも、守るにも力はあるに越したことはないよー。後悔は先には立たないからねぇー」


 であった。それを聞いて自分には絶対無理だと落ち込んだテュールにルチアは──。


「ハハ、大丈夫さね、テュールは五歳児の中じゃそれこそ世界トップクラスだよ。それにまっすぐいい子に育ってくれている。きちんと力を扱える男になるさね」


 そう言って優しく頭を撫でてもらった。この時テュールはきっといくつになってもルチアには頭が上がらないな、と、そう思ったのである。


「コラー、テュール? ちゃんと集中しないとダメだよー?」


「!? う、うんっ!!」


 そんなことを思い出しながら練習していると両手から水魔法が出ていた。


(俺もまだまだ未熟なだなぁ)


 そして一つ深呼吸をし、今日も今日とて修行に励むテュールであった。

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