とある英雄達の最終兵器

世界るい

第01話 いらっしゃいませー、はい、次の方どうぞー

「いらっしゃいませ。貴方は死にました。混乱するのもわかります。ですがこちらも無限の時間を生きる神とはいえ、日夜貴方みたいな方々を捌くのに忙しい日々です。申し訳ありませんが貴方に割ける時間はニ分四十秒程です。ご了承下さい」


 何もない真っ白な空間に一人の壮年男性が浮かんでいる。非常に事務的な口調で恐らく何百、何千、いや何兆? 何京? 想像を絶する回数口にしてきた言葉であろうことが窺われる。


 そしてその事務的な言葉を受けたであろう男は当然混乱する。


(ここはどこだ? 彼は誰だ? 神? 何を言ってるんだ? というか怪我は? トラックは? 少女は? 何がどうなってるんだ?)


 混乱している男がそんなことを考えている内に壮年の男は言葉を続ける。


「では、今後のことを説明させて貰いますね。簡単に言いますと、貴方はツライ事に耐え続けて生き、そして良い事をして死にました。そのため格を上げて輪廻転生の輪を巡る機会が与えられます」


(ツライ事というのは仕事のことだろうか……? 確かに平均十七時間勤務で月に休みが一日か二日、これはもはや苦行、修行と呼んでいいんだろう。そして良い事をして死んだ。考えるまでもない少女の命を救えた。それは誰から見ても良いことだろう。いや、運転手の兄ちゃんには……)


「はい、というわけで格を上げたことによりある程度の選択肢が貴方に生まれます。が、いちいちそれを聞いている程私暇じゃありませんので……」


 思案している男などまるで無視するかのように壮年の男はそう言うと、男の頭に手を起き、フムフム、フムフムと一人で頷きはじめた。


「分かりました。しかしこの時代の地球の人間、特に日本人というのは面白い位に剣と魔法の世界に転生したがるのですね。いいでしょう。もう慣れたものです。いってらっしゃい。残り時間は五秒程ですが、何か質問や言っておきたいことはありますか?」


「あ……」


「はい、時間となりました。では良い人生を」


(人生、とりあえず人に生まれることはできるのね……)


 そう思ったところで男の意識は暗転し、次に目覚めるときには……。


 ◆


 とある島、とある家の玄関に、それは突如姿を現した。


 日課の早朝の畑仕事を魔法でこなそうと玄関先を出た老人男性は”ソレ”を見つける。そして老人は──。


「うぉっ!! なんじゃ!? ……子供っ? どうなっとるんじゃ……。おーい、リオーン、ツェペシュ、ルチア!! 子供じゃー! 子供じゃー!!」


 玄関先で騒ぎ立てると家、と言っても非常に広いため屋敷と呼べるであろう建物から三人を呼ぶ。


「ん? 何を騒いでいる? 子供? ガハハハ、ついにボケたかジジィ?」


 一人目はリオンと呼ばれた獣人、獅子の獣人であろうその男はオレンジ色の髪と髭をたずさえ、獅子のタテガミを思わせる。年齢が高齢のためか顔にいくつか皺が刻まれているが、背筋はピンと伸びており、頑強な身体に衰えは見られない。


 ニmを超す身長と筋肉隆々な身体、そして年齢を重ねたからこそ纏うオーラは普通の人間を寄せ付けるものではない。


「どうしたのー? モヨモトー? 子供? なんの? 牛ー? ぶたー? ニワトリー?」


 二人目はツェペシュと呼ばれた吸血鬼、太陽光が眩しいのか目を細めている。金の髪、陶磁器のような白い肌、赤い目、中性的な美しさを纏う青年風な吸血鬼。身長は百八十cm程あるが、体型もスリムなため、リオンと並ぶととても小さく感じる。だが彼も同様に常人を寄せ付けがたいオーラを纏っている。


「はぁ、朝っぱらから何を言っとるんだい? ついにボケちまったかい? このジジィは……」


 三人目はルチアと呼ばれた老年期の女性。耳が長く尖ってやや垂れ下がっている。エルフと呼ばれる種族だ。ルチアは銀の髪をしており、誰が見ても若い頃はさぞ美しかったと思う均整のとれた顔、体型をしており、そしてそれは年をとった今でも何も衰えていない。女性にしては身長が高く百七十cm程だろうか。非常に綺麗な歩き方で騒いでいる老人の元へ向かう。


「おんしら、見ろ! 人の子じゃ!! というか、リオン、ルチア酷いのぅ……」


 先程モヨモトと呼ばれた老人は、背は曲がっていないがやせ細っており、頭は禿げ上がり、顔には深い皺と仙人のような白い髭をたずさえている。身長はルチアと同じ程度か。


 さて、そんなモヨモトの元には小さい木編みのバスケットが一つ、その中には綺麗な白い布が敷き詰められており、一人の赤ん坊が寝かされていた。


「あら、ホントさね。どこの子かねぇ?」


「というかこの島に俺達以外の人間は出入りできないはずだぞ? 例え出来たとしてもこの家の前まで来て存在を感知できないのはあり得ない」


「そうだねー。ん? これは……手紙? ……アハハハー、はいモヨモトこれ」


「なんじゃ? どれどれ、ふむ……。」


 その手紙には、『貴方達ならこの子を立派に育てあげられるでしょう? よろしくお願いしますね』と、そう書かれていた。


「ガハハハ!! 面白れぇじゃねぇか!! ジジィとババァだけだったこの家にとっちゃ──」


 リオンが言葉を紡げたのはそこまで。ルチアの右手が音速を越え、リオンの腹部に突き刺さる。ニヤニヤとした笑みを浮かべたままリオンは玄関から何度も地面をバウンドし、実に数十mもの距離を吹き飛んでいく。


「リオン、言葉には気をつけな。さて、あたしもそうさね、賛成さ。こんな可愛い子を放り出せるほど耄碌もうろくしてないからねぇ。あんた達はどうなんだい?」


「ボクも賛成だよー。賑やかになっていいんじゃないかなぁ~」


「ワシも賛成じゃ。というわけで全員の意見が一致したところで、この子を立派に育てあげるとしようかの」


「いててて、そうだな。で、こいつの名前はなんなんだ?」


 リオンが腹をさすりながら戻ってきてそう言うと、モヨモトは赤ん坊の着ている服やバスケットなどに名前が書いていないか探し始める。


 そして数分探したところで名前がどこにもないことを確認すると──。


「では、まずは名前じゃな。この子の名前をつける会議を行う! 全員居間に集合じゃ!!」


「OK~、モヨモト~ボクお腹空いたからパンとスクランブルエッグと牛乳ね~」


「あたしゃサラダとヨーグルト、あと食後のデザートも頼むよ」


「ガハハハ! 俺は肉だ! 肉! あと酒だ!」


「おんしら……」


 こうして居間では忙しく朝食を用意するモヨモトと楽しそうに名前をあーでもないこーでもない、と言い合う三人の姿があった。

「とある英雄達の最終兵器 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く