絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

馬鹿と馬鹿

 杉谷すぎや攻一こういち。前世の俺、桐谷きりたにまもるの親友である。二人共名前に同じ『谷』が入っているという共通点や、『攻』と『守』で最強コンビだ!と中二病全開で馬鹿ばっかりやっていたうちに自然と親友と呼べる間柄になっていた。

 時が経つにつれて消滅していく中学や高校の友達との繋がりもこいつには当てはまらなかった。大学に入ってもちょくちょく遊んでいたし、何よりオタク文化を俺に教えてくれた。そのおかげで転生してもそこまで慌てることは無かったし、色々とこいつには恩がある。

 そんな顔は結構いい方なのに二次元にのめりこんでいたり下ネタを遠慮なく言う性格のせいでモテなかった残念な親友が、彼女らしき女の子を連れている。ならここは応援せねば。

 その為にもチャラ男をどこかにやんないとな。恩返し兼親友の恋路の応援だ。

「だから清美さんが困ってるだろ!!」
「どこが? むしろ俺に声をかけられて嬉しそうだけどなー」

 いや、めっちゃおどおどしてますけど。その女の子。さっさと助けに入ろう。

「はいはい、少しいいか?」
「あ? なんだてめぇ」
「通りすがりの一般人です!」

 どこかのよく罪をなすりつけられるバイク乗りヒーローみたいなことを言ったのは俺ではない。俺の横にいつのまにか来ていたシャルのセリフだ。

「訳分かんねえこと言って……お嬢さん、この後お茶でもどう?」

 ギロリとシャルを睨んだかと思ったら急にナンパし始めたぞ。シャルは美少女だから気持ちは分からんでもないが、変わり身早すぎない?

「ね、ちょっとだけでいいからさ」

 そう言ってチャラ男はシャルの腕を掴もうとする。シャルは避けようとすれば簡単に避けられるはずなのに動く気配が一向に無い。

 どこぞの知らん男に触られるのは癪なので、俺はその伸ばされた腕を掴み、捻り上げた。

「いでででででででで!!!」
「俺の連れに汚い手で触らないでもらえるか? 大切な人なんだ」
「分かった! 分かったから離してくれ!」

 仕方なく掴んでいた手を放す。チャラ男は掴まれていたところを「いてて」とさすっている。そして懲りたのかそのまま去ろうとする素振りを見せ――

「バレバレだぞ」

 俺の顔目掛けて繰り出されたチャラ男の拳をパシッと受け止める。不意を突こうとしていたんだろうが、親父と戦ってる俺からしたら余裕で防ぐのは間に合う。親父のは気付いたら空を眺めることになるからなぁ……

 反省していないようなので受け止めた拳に力を加えていく。異世界チートスペックの力は絶大で、しばらくしてから手を離すと涙目で逃げ去っていった。

「俺の連れ、大切な人ですって。ふふふふふ」
「……忘れてくれ。思い出すだけで恥ずかしい」
「忘れませーん。ヘタレオンくんの本心を聞けるなんて中々無いですからねー」
「ヘタレオン!?」

 上手い事言ったとドヤ顔を披露するシャル。ヘタレは簡単には治らないんだよちくしょう。

「あの、助けてくれてありがとうございましたっ!」
「ああ、気にしないでください。それはそうと……」

 お礼を言ってきた清美さん?に少しだけ伝えときたいことがあったんだ。

「攻一は趣味はアレですけど、一緒にいて面白い奴ですから」

 久しぶりに親友と再会はしたが、俺はもう別人になってしまったし、あっちの世界に帰る日が来る。出来れば親友のその後の人生ってのも気になるが俺が知る機会はもう訪れないだろう。

 だからせめて、親友が笑っていられるように俺からの頼み事だ。

「今後ともあの親友バカのこと、よろしくお願いします」
「あなたは……?」
「あはは、知らん人が何言ってんだって話ですよね。それじゃ、俺はこれで」

 清美さんに背を向け、歩きだす。これが本当に最後の親友との別れだ。

 さようなら、馬鹿野郎攻一――――

「待てよ!」

 誰かを呼び止める声。聞き慣れたあいつの声だ。

 俺の肩に手が置かれる。

「お前……」

 親友が目の前にいた。真剣な目が俺の姿を捉えている。

「なんか、その、なんで俺もこんなこと思ったのか分かんねぇけど……」

 そう言って親友は一拍置いて――――

「俺が『攻』でお前が『守』。俺たち最強コンビはいつまでも不滅だ!」
「っ!?」

 ………なんだよ、それ。

「……それだけか?」
「ああ。聞いてくれてサンキュな」

 今度こそこの場から立ち去る。もう呼び止められることはなかった。

 なんだよ、なんなんだよ。これは神様のいたずらか?

 ――――でも

「ありがとう、攻一」

 さぁ、あいつらの元にさっさと戻るか。

「良いですね、男の友情っていうのは。涙も似合ってますよ?」
「……良い女ってのはそういう時は黙って寄り添うもんだぞ?」
「私が『良い女』程度に収まるわけないじゃないですか」
「はいはい、シャル様の言う通りですよ」

 これから先、俺には俺の、攻一あいつには攻一あいつの道がある。そしてそれは

「対応が適当すぎます。それでは良い男になれませんよ?」
「俺が『良い男』程度に収まるわけないだろ」

 皆とならきっと、楽しい道のりになるだろう。

 ※※※

 なぜあんなことを言ったのか自分でも分からない。あれはもうこの世にいない親友とよく言っていた言葉だ。

 なのに心は晴れ晴れとしている。身体が軽くなったような気がする。

 そうだ、どうせだから天国にいるあいつに何か言ってやるか。

「元気でやれよ! 親友!」

 はい終わり。よし、気合を入れよう。

「清美さん! 今度はあれに乗りましょう!」

 そして順調に交際を重ね、就職して生活が安定した頃にプロポーズ。俺は清美さんと夫婦になった。

 後に分かったことだが清美さんはあの男に攻一をよろしくと頼まれたらしい。なんだその謎の気遣い。

 まるで、顔はいいんだから性格をどうにかしろと何回も俺に言ってた親友みたいな――――

 ま、考えすぎか。


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