絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

あんたはどこまで

 神様の気まぐれ?気遣い?悪戯?によって俺達は日本へとやってきた。今の俺にとってはこっちが異世界になるのか?

 ともかく、皆焦った。俺ですら焦った。十人の集団でその内八人は美少女(クーは美幼女)なので周りの視線も凄い。

 とりあえず移動しようと適当に歩いていると、ズボンのポケットの中に何かが入っているのが分かった。メモと財布だった。メモにはここに向かえと地図が書いてあり、財布からは諭吉さんが二人ほど顔を見せた。多分神様が寄越したものだろう。

 幸いにも俺が住んでいた場所の近くだったので地図で指定された場所にすぐ着いた。なんてことない一軒家だ。きっと神様が用意してくれた俺達の家だろう。財布の中に入れられていた鍵を挿して中へと入る。

 どうやら中は清潔に保たれているようで家具も一通り揃っている。軽く探検してみたところ3LDKのようだ。十人が住むにしては狭いけど用意してもらえただけありがたい。

 ひとまずリビングダイニングルームに集まるとテーブルの上には一冊の本が置いてあった。その本の題名は

『異世界人でもわかる! 世界のあれこれ解説します! 神様監修♡』

「レオンが頭抱えてる……」

 いやだって何これ……神様の寡黙なイメージがどんどん崩れていくんだけど……

「ふむ、どうやらこの世界について書いてあるようだな」

 頭を抱える俺をよそに、アリスが本を読み始める。皆も横から覗き見はじめ、完璧に俺はスルーされていた。……俺も読も。

 本の内容はこちらの世界に住む人からしたら常識的なことばかりだった。地球の事、様々な国の事、文化の事や観光スポットまで。更に俺達には認識阻害のようなものがかけられており、周りから奇異の目をむけられることはないらしい。確かにこっちの世界ではピンク髪とか珍しすぎるしな。

「お、これは……」

 本の最後の方のページになぜか預金通帳が挟まっていた。神様がこっちでの活動資金として用意してくれたものであろうと開いてみる。

「一、十、百………マジか」

 まさかの十桁も入っていた。多分一人当たり一億としたんだろうけど流石に多すぎる。

 とりあえず今日は何もすることが無いので適当に出前を頼みそれを食べて、風呂やキッチンなどの使い方の説明をした。その後、皆は既に落ち着きを見せており、本を見ながらどこを巡るか話し合うらしいので、俺は一足先に寝ることにしたのだった。

※※※

 翌朝、少し遅めの起床だった。やばい寝坊だ!と思ったがよく考えたら鍛錬する必要はないし仕事もない。皆は夜遅くまであれあこれやと話し合っていたようで起きる気配が無いので散歩でもしようと着替えて外へ出た。

「おぉ……」

 昨晩はあまり余裕がなかったが、今改めて「帰って来たんだ」という実感が湧いた。それと同時にはっきりとこの辺りの地理を思い出した。

「目指す場所は一つってな」

 俺の前世の職場である保育園へと足を運ぶ。ちょうど始業らしく親に送られた子供達の笑顔が眩しい。それを気付いた。

 そうか……まだそんなに経ってないってことか……神様は要らない気遣いしやがって。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「え?」

 感慨深く保育園を見ていたら子供に話しかけられた。どうしたのって、どうもしてないんだけど。

「なんで泣いてるの?」
「泣いて……?」

 目元に手を当てると冷たい何かが触れた。すぐにこれが涙なのだと分かった。

「あらあら、子供の前で泣いてる変人がいるわね。私が面倒みるからお嬢ちゃんは早く戻りなさい」

 なぜか止まらない涙を腕で拭っていると聞きなれた声が聞こえてくる。

「カレン……?」
「あんたの愛しのカレン様よ。ほら、さっさと泣き止みなさい」

 ぎゅっとカレンが俺を抱き締めた。身長差のせいでカレンが俺の胸に顔を埋める形になるが、嗅ぎ慣れた匂いが俺の心を癒してくれる。
 そのせいなのか、俺は自然と気持ちを口にしていた。

「ここにいる子供達が……俺が死んだ時にいた子ばっかりで……守れた、守ることが出来たんだって……」

 俺が死ぬことになった原因は保育園で働いていた時に突如現れた不審者。手には包丁を持っていた。俺は子供を守ろうと不審者に抱き着くようにして動きを抑えたが、その時に包丁が腹に刺さって死んでしまったのだ。神様にその後のことは聞いて子供は無事だったと分かったが、実際に自分の目で見て、改めて安心し泣いてしまった。

「良かった……本当に良かった……」

 俺の犠牲によって子供達を救えたのだ。こんなに嬉しいことは無い。

 今なら分かる。あの時は必死だったとはいえ、俺が死んでしまったら悲しむ人だっているのだということを。両親だって、親友だって、きっと悲しみに暮れたと思う。だからこれは俺の自己満足だ。

「あんたはどこまでもお人好しね」
「分かってる……分かってるよそんなの」
「私はそんなあんたが好きになったのよ。さっさと帰りましょ、皆が早く出かけたくてウズウズしてるわよ」
「あぁ」

 そうだ、泣いてる場合なんかじゃない。俺は既に別の世界の住人で、俺には俺の、子供達には子供達の未来があるんだ。

 だから

「早く皆の顔が見たいな」

 俺を待ってくれてる人たちのところへ戻ろう。胸を張って堂々と。

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