絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

新婚旅行は異世界旅行?

 季節は夏。ジリジリと肌を焦がしにかかる太陽が恨めしい季節だが今は夜のため顔を出してはいなかった。
 耳に届くのはガヤガヤとした人々の話す声と、ガタンゴトンと客を運ぶ電車の音。甲高い客引きの女性の声も聞こえる。

 グルーっと周りを見渡せば首が痛くなるほどに見上げないといけないぐらいの高さを誇るコンクリート製の建物たちが並んでいる。まさにコンクリートジャングル。

 交差点を渡る仕事終わりのサラリーマンや遊び盛りの若者達は特に俺達を気にすることは無く――――いや、俺の近くにいるカレン達をちらちら見てるな。見せ物じゃねーぞ。

 …………うん、とりあえず現状把握終了。いっちょ叫んでみるか、心の中で。

 せーのっ

 ここ日本じゃねえかああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

 ※※※

「「「新婚旅行?」」」

 無事に結婚式も終わり、数日が経った。慌ただしかった日々を落ち着きを見せ始めたのでそろそろ新婚旅行についてでも考えてみるかと皆に提案したところ、ほぼ同時に首を傾げられた。これが意味すること

「この世界では新婚旅行なんて概念はなかったと……マジか」

 つまりそういうことだ。久しぶりに異世界カルチャーショックを受けた。

 ならば説明してやろうと思ったが、新婚旅行の説明ってどうやるんだ?新婚さんがハワイとかに旅行するイメージしかないし、そもそも言葉の意味そのまんまでやる理由なんてのは知らない。

 結局新婚さんが結婚記念&仲を深めるために行く旅行なんだよって説明したら不思議だなぁという顔をしつつも皆は賛同してくれた。まさに異世界。

「んじゃ行きたいところ募集」

 俺主動で案を募りながらどんどんと内容を決めていく。ちなみに行先に関して出たのはこんな感じだ。

 ・料理が美味しいところ(料理が趣味になった専業主婦)
 ・家にいたい(休日は家に引きこもる駄妹)
 ・温泉があるところ(前に入って以来温泉にハマった王女)
 ・温暖なところ(日向ぼっこ大好き犬っ娘)
 ・獣人国(戦いたいだけの良妻脳筋エルフ)
 ・愛する夫の腕の中(からかい上手の王女さん)
 ・自然豊かなところ(心を穏やかにしてくれる元公爵令嬢)
 ・美容ツアー(お肌を気にし始めた受付嬢)

 見事にバラバラ。ていうかリリィとシャルに至っては案を出す気ないだろ。

 結局最終的な決定は俺がすることになった。かといってすぐに浮かぶわけないので明日までには考えとくということで解散にした。

 自室に戻りベッドへとダイブする。天井を眺めながらどこにすっかなーとぼんやり考える。

 気付いたら眠りに落ちていた。ベッドさんの癒し半端ねえっす。

 ※※※

(……こんにちは)
「おう」

 気付けば神様の世界へと呼ばれていた。一面白に染め上げられたこの場所は、最近暇だからと神様に何回も呼び出されているせいで慣れてしまった。

「今回はどんな用だ?」
(……お手伝いする)
「はい?」
(……新婚旅行のお手伝い。ふふ)

 なんだその含み笑いは。少し不安になるだろ。

(……行く場所決まってないはず。オススメの場所に送る)
「オススメの場所?」
(……ふふふふふ。一ヶ月後までのお楽しみ)

 え、こわっ。

 抗議の声をあげようとした瞬間、タイミングをはかったかのように俺の意識が薄れていった。

 最近の悩み。神様がお転婆になりつつあること。どうしてこうなった。

 ※※※

 とりあえず神様のいうことを信じて皆の休日が合うように調整した。空間魔法のおかげで荷物を持つこともないので身軽だ。皆の荷物をしまう時に渡された下着をじろじろ見てたらカレンに叩かれたのは内緒だ。

 よく考えるとオススメの場所に送る以外には何も伝えられていないのでひとまず屋敷前に集まってみた。するといかにもな魔法陣が地面で光っていた。

「多分アレに乗れってことだよな」
「でしょうね」

 ぞろぞろと魔法陣に乗っていく。全員が乗り終わると魔法陣は輝き始め、眩しさのあまり目を開いていられなくなる。

 そして目を開いた次の瞬間――――

 俺達は見知らぬ場所にいた。いや、俺だけは知っている。

 ここが俺の前世の世界であると。


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