絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

二人で歩む道程

「……それでは定例会議を終わります。お疲れ様でした」

 リリィの言葉を最後に続々と人が部屋を出ていきました。私が学園長の座に就いてから何度目かの定例会議ですが、今のところ学園に問題は起こっていないようでよかったです。

 学園長用の執務室へと辿り着くと私はコートを着て外へ出る準備を済ませます。既に季節は冬を迎えており、外に出るのが億劫になりがちですが、私の心は弾んでいます。

「………シャルはこの後レオンとデート?」
「お仕事ですよ!」

 王女として街の様子を確認しに行くだけです。護衛としてそれに騎士団長が付いてくるだけで。
 ………ごめんなさい、私もデートだと思っちゃってます。公私混同、悪いとは思ってますけど今回は許してほしいです。

 リリィに見送られ、私は待ち合わせ場所まで早足で移動します。一分一秒でも早く着けるようにと。
 やがて目的の人物を見つけると、すぐさま胸へと飛びつきました。私の人生を変えてくれた愛しの人の胸の中は温かく――――はなかったです。すごく冷たいしこれは……

「待ちましたか?」
「さっき来たばっかりだよ」
「嘘です。本当のことを言ってください」

 じーっと見つめると観念したようです。素直に白状し始めました。

「……一時間前だよ。シャルと時間が合う日ってのは中々無かったから楽しみすぎて早く屋敷を出ちまった。……なにこれ羞恥プレイ?」

 寒いはずにも関わらずレオン君の顔は赤かったのが私の理性を揺さぶってきます。誠実な男の子が見せるギャップというのは大ダメージです。今夜は宿に直行ですね。

「さて、早く行きましょうか」
「え? まさかの反応なし? 言わせただけ?」

 何か言っているレオン君と腕を組んでいざ出発、ウィンドウショッピングの始まりです。
 適当に歩いて店頭に並んでいる商品を見ていきます。

 その中で私が気になったのがエメラルドのペンダント。私の瞳と同じ色で、透き通るようなその輝きに魅せられてしまいました。
 値段は……かなりしますね。買えないわけではないですが、必要なものではないですし出費は出来るだけ抑えたいですね。私の財産だって既にレオン君と共有のものなのですから。

 あまり眺めていても仕方ないですね。さっさと次へ行きましょう。
 この時、レオン君がなにかを考えるようにしていたのに私は気付いていませんでした。

「……あ」
「どうかしましたか?」
「リリィに何か買っていかないとなあ。後の仕事を任せてるんだろ?」
「ああ、そうですね」

 この時間を作るためにリリィに今日の残りの仕事を任せてきましたからね。頭が上がりません。レオン君の提案通り何か買っていきましょうか。

「せっかくだからどっちがよりリリィを満足させられるか勝負するか?」
「いいですね、やりましょう」

 ふふふ、最近はリリィと一緒にいる時間が長かったですからね。好みもちゃんと把握しています。

 一時間後にディナーの予約をしていたレストランの前に集合することにして、解散しました。

※※※

 なかなか良いものが買えました。きっとリリィはレオン君より私に懐くようになること間違いなしです。

 冗談はさておき、今はディナータイムです。レオン君にしては珍しく洒落たレストランのコース料理です。私は何度か機会があったので大丈夫ですが、マナーとかは大丈夫なのでしょうか?

「一応勉強してきたから大丈夫だ。それに立場上こういう場所での食事は増えてきそうだしな。心配してくれてありがとう」

 これから付き合いで来るでしょうからね。なるほど、今回はお試しのようなものですか。今のところミスはありませんし大丈夫でしょう。

 食事も終わり、支払いはレオン君がしてくれました。律儀ですねぇ。

 帰る前に少しだけ歩こうと言われ、この街が一望できる高台へとやってきました。私はそもそも帰るつもりはありませんでしたけど。

 すっかり暗くなる時間ですが、ここから見る夜景は素晴らしいものでした。

 目の前に広がるのはキラキラした光、多くの人が行き交い活気に溢れている街並み。レオン君と繋いだ手からは温もりと安心感が伝わってきます。

 しばらく私達は無言で眺めていました。

「俺さ、たまに不安になることがあったんだ」
「え?」

 急に何でしょうか?

「やれ『英雄の息子』やら『絶対守護者』やら、持て囃されてさ。当時は皆の支えがあったからなんとかなってたけど、今考えてみるとよく耐えれたなって。前世ではただのクソガキだったのに世界を救えなんて普通は無理だと思うだろ」
「それは……」

 否定はしません。レオン君は望んでこの世界に来たわけでもありませんし、何もしないという選択肢も選べたはずです。なのにそんな重荷を背負わせたのは元からこの世界にいた私達。スケールの大きな話になってしまいますが、本来なら私達がどうにかしなければいけない問題でした。

「自分で言うのもなんだが、危機が去ってしまえば俺は用済みで、国にとっては強大すぎる力を持った危険分子だ」

 強すぎる力は恐怖を生む。それも否定はしません。

「本当は怖かったんだ。俺を受け入れてくれる人はいないんじゃないかって。シャル達は別だぞ? でも誰もが俺を温かく迎えてくれた。こんな若造を団長として慕ってくれて、街の人達は優しく接してくれて」

 握った手に力が入りました。それはまるで私の存在をしっかりと確かめるように。

「だから改めてシャルには感謝しておきたかったんだ。ありがとな」
「私は何もしてませんよ?」
「シャルが傍にいるだけで助かってたんだよ。皆に信頼されているシャルがいてくれていたおかげで俺は認められていたんだ」
「それは違います!」

 何を言ってるんでしょうかこの人は。間違いを正してあげるとしましょう。

「いいですか? 民は皆、しっかりとレオン君を見てきたうえで認めているんです。普段のレオン君の頑張りが評価されているんです。私がいるからじゃなく、レオン君がレオン君であるからこそなのです」

 目を見てはっきりと教えてあげました。はっと目を見開いているレオン君の顔に少し笑ってしまいました。

「ほら、しゃきっとしてください。じゃないと刈り取りますよ?」
「どこを、って……どこ見てるんだよ」
「後でお世話になる棒ですかね?」
「棒言うのやめい! ………でも、そうか」

 レオン君は夜景を見渡しました。その瞳には力強い光が灯っています。

「これはケジメだ」

 レオン君は愛用の刀を取り出すと、横にして私に差し出してきました。よく分からずにそれを受け取ると、彼は私の目の前で片膝をつきました。いわゆる騎士が忠誠を誓う姿勢。

「俺が絶対に護ってみせます」

 ……なるほど、そういうことですか。

 私は刀の刃をそっとレオン君の肩に置きます。正式な場ではないのでなんちゃって忠誠ですが、心の持ちようです。

「これからも私と共に、この国を支えていってください」
「御意」

 これで完了。レオン君は刀をしまうと、私の後ろに回り込んで首に腕を回してきました。

「これは……」

 レオン君によって私の首にかけられたもの、それは気になっていたエメラルドのペンダントでした。
 ふふふ、キザなことをしちゃって。

「さ、帰りましょうかお姫様」
「ええ、ホテルへと帰りましょう。そしてしっぽりしましょう」
「雰囲気が台無しだなぁ……」

 文句を言いながらもレオン君は付いてきてくれました。途中で降ってきた雪が、まるで私達を祝福してくれているかのように感じたのは、流石にロマンチストすぎますかね?


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