絶対守護者の学園生活記
たまにはお休みを
「……なあアリス」
「む、どうしたレオン」
鍛錬の休憩時間、こちらを窺う様にしてレオンが話しかけてきた。
「たまには剣から離れてみないか?」
「? どういうことだ?」
「ほら、今日みたいに休日でもアリスは鍛錬を欠かさないだろ? ストイックなのはいいが、追い込みすぎても良くないぞ?」
「ふむ……」
レオンが言いたいことはよく分かる。鍛えるにあたっては適度な休養というのは大事であるし、やりすぎは体を壊す原因にもなる。たしかにそう言われると私は休んだ方がいいのだろう。
しかし私にとってはこれが普通なんだ。お姉様を守るために始めた剣もい今では趣味のようになっている。さらに今の私は国を守るという重大な責務を負った騎士団、その副団長だ。鍛えすぎても困るということは無いだろう。
少し考えた結果、今日の予定を決めた。
「今日は屋敷でのんびりすることにする」
愛する男が心配してくれているのだ。聞くことにしよう。
そう決め、屋敷へと足を進め始めるとレオンに呼び止められた。そして告げられたのは。
「そうか。ならこの後俺とデートしよう」
「……へ?」
※※※
今私はカップルが待ち合わせ場所としてよく使う噴水の前でレオンを待っている。既に何回もデートはしているが、ここに来るたびに初めてレオンとデートをした時の記憶が蘇ってしまい顔が熱くなる。あの時は私から誘ったが今回の私は誘われた側だ。しっかりとエスコートしてくれるだろう。
気合を入れた服装だからか周りの視線が少し多く居辛いが、それもすぐに終わりを迎えた。前方から小走りで近付いてくるのは待ちに待った男だ。
「悪い遅れた」
「一食分」
「おう」
たった一言、今度食事を一回奢ることで許してやるという意味を込めて言うとすぐに理解して頷いてくれた。
「それじゃ転移で行くぞ」
転移を使うなんてそんなに遠くまで行くのか?と思いながらもレオンと手を繋ぐ。男らしい大きくて硬い感触が伝わってくる。私はこの感触が好きだ。
一瞬にして変わった景色を見渡す。ここは……森?
「ここはエルフ国にある神秘の森ってところだ。なんとなく落ち着く雰囲気だろ?」
「ふむ……確かに」
自然と心が穏やかになってくる。木々の隙間からさす陽の光が輝きを放ち、澄んだ空気が美味しく感じる。涼し気な風が葉を揺らしてさわさわと微かに音を鳴らしている。神秘の森という名から、大自然の神秘というのはこのようなのかもなと普段なら考えないようなことまで頭に浮かんでくる。
「いわゆる森林浴ってやつだ。もう少し進んだところに開けた場所があるからそこでぼーっとして疲れを癒そう」
そう言ってレオンは手を差し出してくる。しっかりと繋ぎ、しばらく歩くとたしかに言った通りの場所があった。
レオンは汚れないようにと敷物をしっかりと持ってきていた。それを敷くとゴロンと寝転がり、隣をぽんぽんと叩く。ここに来いということだろうから素直に私はそこに寝た。レオンの腕枕付きで。
視界に広がるのは綺麗な青空。雲がゆったりと流れていき、私はぼーっとそれを眺めていた。普段から体を動かしてばっかりだったから、こうやって何もしないというのはなんだか新鮮だ。
ふと隣を見るとレオンは寝てしまっていた。レオンは私よりも偉い立場で仕事も多くこなしている。疲れてしまっているのはレオンも同じなのだ。
起こさないようにレオンの頭を撫でていると私も眠くなってきた。気持ちよく眠れそうだ。
少しずつ落ちていく意識の中で、私はレオンにぴったりとくっついた。暖かい……
目を覚ました後、レオンの手を借りて起き上がるとあることに気付いた。体が驚くほど軽いのだ。効果は抜群のようだった。
再び森の中を歩いていくとなんと温泉が見つかった。人工物である木の柵によって周囲を囲まれた岩風呂だ。しっかりと脱衣所もあるあたり、誰かが作ったのは明白だ。
「露天風呂、貸切だ。ここで夕飯の時間までのんびりしてよう」
断る理由もなかったのでレオンの誘いに乗ることにした。脱衣所は男女分かれていたので恥ずかしくはないが、体に巻くタオルは無いので隠すことが出来ない。そう、脱衣所に対して温泉は一つだ。混浴ということになる。
今まで何回もレオンに裸は見せたし、恥ずかしい姿も声を知られてしまっている。だがやはり慣れない。
意を決して脱衣所を出るとレオンは既に温泉に浸かっていた。そろりと隣に私も並ぶ。
「ふぅぅぅ……」
思わず声が漏れるほどに良かった。少し熱いがそれが逆に体に染み渡る感じで気持ちいい。
お互い無言、しかしそれが温泉に浸かるのとは違った別の心地良さをもたらしていた。熱い湯にも慣れ、脱力するとまた寝てしまいそうだ。予想以上に私の体も精神もボロボロだったのだろう。そして、レオンはそれに気付いていた。
「ありがとう」
「ん~~?」
私は感謝の言葉を口にした。気の抜けた声が返ってくるが続ける。
「私の事を考えてくれて、ありがとう」
「別に感謝されることじゃないさ」
さっきとは違ってはっきりとした声だ。
「俺はしたいことをしただけなんだよ。夫として愛する妻を想い、支えるのは当然のことだろ? だから気にするな」
レオンが微笑みかけてくる。のぼせていないにも関わらず顔は真っ赤だった。恥ずかしくても、私が喜ぶような言葉をレオンははっきりと伝えてくる。
嬉しかった。冷たいものが頬に伝っているのを感じる。
レオンはそれをそっと指で拭ってくれる。
「初デートの時にあげた指輪さ、ネックレスにしただろ? あれ、もうすぐ薬指に付けられるようにするから、だから――――」
レオンは真剣な顔で
「――――俺と結婚してください」
婚約ではなく、結婚。我慢の限界だった。
「あ、アリスさん?」
私はレオンの腕に抱き着いていた。普段は動く時に邪魔だと思っていた胸で腕を挟み込む。
「あの、出来れば返事をというか……そんな事されると色々と我慢出来ないというか.....」
むしろそれが私の狙い。あまりにも嬉しすぎて、幸せすぎて、この火照ってしまった体を鎮めるために。
「我慢、しなくていいんだぞ……?」
そして私達は夕食の時間に大幅に遅れ、カレンに説教をもらうのであった。
それでも私の心は幸せで満ち溢れていた。
「む、どうしたレオン」
鍛錬の休憩時間、こちらを窺う様にしてレオンが話しかけてきた。
「たまには剣から離れてみないか?」
「? どういうことだ?」
「ほら、今日みたいに休日でもアリスは鍛錬を欠かさないだろ? ストイックなのはいいが、追い込みすぎても良くないぞ?」
「ふむ……」
レオンが言いたいことはよく分かる。鍛えるにあたっては適度な休養というのは大事であるし、やりすぎは体を壊す原因にもなる。たしかにそう言われると私は休んだ方がいいのだろう。
しかし私にとってはこれが普通なんだ。お姉様を守るために始めた剣もい今では趣味のようになっている。さらに今の私は国を守るという重大な責務を負った騎士団、その副団長だ。鍛えすぎても困るということは無いだろう。
少し考えた結果、今日の予定を決めた。
「今日は屋敷でのんびりすることにする」
愛する男が心配してくれているのだ。聞くことにしよう。
そう決め、屋敷へと足を進め始めるとレオンに呼び止められた。そして告げられたのは。
「そうか。ならこの後俺とデートしよう」
「……へ?」
※※※
今私はカップルが待ち合わせ場所としてよく使う噴水の前でレオンを待っている。既に何回もデートはしているが、ここに来るたびに初めてレオンとデートをした時の記憶が蘇ってしまい顔が熱くなる。あの時は私から誘ったが今回の私は誘われた側だ。しっかりとエスコートしてくれるだろう。
気合を入れた服装だからか周りの視線が少し多く居辛いが、それもすぐに終わりを迎えた。前方から小走りで近付いてくるのは待ちに待った男だ。
「悪い遅れた」
「一食分」
「おう」
たった一言、今度食事を一回奢ることで許してやるという意味を込めて言うとすぐに理解して頷いてくれた。
「それじゃ転移で行くぞ」
転移を使うなんてそんなに遠くまで行くのか?と思いながらもレオンと手を繋ぐ。男らしい大きくて硬い感触が伝わってくる。私はこの感触が好きだ。
一瞬にして変わった景色を見渡す。ここは……森?
「ここはエルフ国にある神秘の森ってところだ。なんとなく落ち着く雰囲気だろ?」
「ふむ……確かに」
自然と心が穏やかになってくる。木々の隙間からさす陽の光が輝きを放ち、澄んだ空気が美味しく感じる。涼し気な風が葉を揺らしてさわさわと微かに音を鳴らしている。神秘の森という名から、大自然の神秘というのはこのようなのかもなと普段なら考えないようなことまで頭に浮かんでくる。
「いわゆる森林浴ってやつだ。もう少し進んだところに開けた場所があるからそこでぼーっとして疲れを癒そう」
そう言ってレオンは手を差し出してくる。しっかりと繋ぎ、しばらく歩くとたしかに言った通りの場所があった。
レオンは汚れないようにと敷物をしっかりと持ってきていた。それを敷くとゴロンと寝転がり、隣をぽんぽんと叩く。ここに来いということだろうから素直に私はそこに寝た。レオンの腕枕付きで。
視界に広がるのは綺麗な青空。雲がゆったりと流れていき、私はぼーっとそれを眺めていた。普段から体を動かしてばっかりだったから、こうやって何もしないというのはなんだか新鮮だ。
ふと隣を見るとレオンは寝てしまっていた。レオンは私よりも偉い立場で仕事も多くこなしている。疲れてしまっているのはレオンも同じなのだ。
起こさないようにレオンの頭を撫でていると私も眠くなってきた。気持ちよく眠れそうだ。
少しずつ落ちていく意識の中で、私はレオンにぴったりとくっついた。暖かい……
目を覚ました後、レオンの手を借りて起き上がるとあることに気付いた。体が驚くほど軽いのだ。効果は抜群のようだった。
再び森の中を歩いていくとなんと温泉が見つかった。人工物である木の柵によって周囲を囲まれた岩風呂だ。しっかりと脱衣所もあるあたり、誰かが作ったのは明白だ。
「露天風呂、貸切だ。ここで夕飯の時間までのんびりしてよう」
断る理由もなかったのでレオンの誘いに乗ることにした。脱衣所は男女分かれていたので恥ずかしくはないが、体に巻くタオルは無いので隠すことが出来ない。そう、脱衣所に対して温泉は一つだ。混浴ということになる。
今まで何回もレオンに裸は見せたし、恥ずかしい姿も声を知られてしまっている。だがやはり慣れない。
意を決して脱衣所を出るとレオンは既に温泉に浸かっていた。そろりと隣に私も並ぶ。
「ふぅぅぅ……」
思わず声が漏れるほどに良かった。少し熱いがそれが逆に体に染み渡る感じで気持ちいい。
お互い無言、しかしそれが温泉に浸かるのとは違った別の心地良さをもたらしていた。熱い湯にも慣れ、脱力するとまた寝てしまいそうだ。予想以上に私の体も精神もボロボロだったのだろう。そして、レオンはそれに気付いていた。
「ありがとう」
「ん~~?」
私は感謝の言葉を口にした。気の抜けた声が返ってくるが続ける。
「私の事を考えてくれて、ありがとう」
「別に感謝されることじゃないさ」
さっきとは違ってはっきりとした声だ。
「俺はしたいことをしただけなんだよ。夫として愛する妻を想い、支えるのは当然のことだろ? だから気にするな」
レオンが微笑みかけてくる。のぼせていないにも関わらず顔は真っ赤だった。恥ずかしくても、私が喜ぶような言葉をレオンははっきりと伝えてくる。
嬉しかった。冷たいものが頬に伝っているのを感じる。
レオンはそれをそっと指で拭ってくれる。
「初デートの時にあげた指輪さ、ネックレスにしただろ? あれ、もうすぐ薬指に付けられるようにするから、だから――――」
レオンは真剣な顔で
「――――俺と結婚してください」
婚約ではなく、結婚。我慢の限界だった。
「あ、アリスさん?」
私はレオンの腕に抱き着いていた。普段は動く時に邪魔だと思っていた胸で腕を挟み込む。
「あの、出来れば返事をというか……そんな事されると色々と我慢出来ないというか.....」
むしろそれが私の狙い。あまりにも嬉しすぎて、幸せすぎて、この火照ってしまった体を鎮めるために。
「我慢、しなくていいんだぞ……?」
そして私達は夕食の時間に大幅に遅れ、カレンに説教をもらうのであった。
それでも私の心は幸せで満ち溢れていた。
コメント
ノベルバユーザー118769
d(^_^o)