絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

ブトウタイカイ

 武闘大会当日。ついに魔族との決戦の日となった。
 なったわけなんだが……

「潰す。絶対に潰す。ふふふふふふふ」

 カレンが怖い。物凄く不気味な笑い方をしている。シャルも「レオン君は私のモノです。うふふふふ」と頬に手を当て微笑んでいるが目は笑っていない。

 二人がこんなことになっているには訳がある。
 この前の顔合わせパーティにて他所の選手と揉めたからだ。
 エルフ国側のメンバーに巨乳主義を掲げた奴がいたらしく、カレンの胸を見て嘲笑ったやつがいたらしい。あの場にはカレンの他にシャルとソフィ先輩がいたから比べられたのかもしれない。それでカレンはそいつを試合で倒すことに躍起になっているようだ。
 一方シャルはエルフ国の第一王女でもあるクラリリス様に、俺を賭けての対決を挑まれたらしい。勝手に景品にされた俺に人権はないようだ。俺を渡すまいとこちらも躍起になっている。

 そんな二人はパーティの夜に俺の部屋にやってきて一緒に寝ることになった。ナニかをやったわけではないが、俺の両隣に寝て腕を抱き枕にし「俺はカレンの胸、好きだよ」とか「俺はシャルの傍を絶対に離れないよ」などと囁かせられたのは辛かった。
 甲斐性を発揮する場面だと思い頑張ったが、疲れた。

 とまあそんな訳で今日はその原因となった相手と決着を付けられるため、気合が入っているようだ。
 アリスにミーナ、それにリリィにも因縁の相手とやらがいるようだが二人よりは落ち着いている。
 ただ皆、魔物と戦ってもらうということを忘れていないかが心配だ。

 そんな屋敷一行を連れて会場へと向かう。途中でリーゼさんとも合流しお馴染みの第一訓練場へと向かおうとするがその道中には多くの出店が並んでおり、人混みが出来ているせいでスムーズに進めない。本当にお祭り騒ぎだな。
 そんな状況に辟易しているとどこからか「皆! うちらの希望のお通りだ! 道を開けろ!」と声が上がる。
 一斉に人が皆端に寄り、道が出来た。なにこれ?凱旋パレードかなんか?てか希望って?

「これは毎年あることなんですよ」

 この状況を説明したシャルは、その道を優雅に歩いていく。俺達もとりあえずは後に続いた。

「代表として、是非とも勝ってくれよー!」
「そうだそうだ! お前たちに賭けてるんだからな!」
「俺の生活がかかってんだ! 絶対に勝てよ!」
「死ねー! このハーレム野郎! 短小! 男の敵!」

 王女様もいるってのにお前たち呼ばわりとはどんだけ気分が高まってるんだよ……。それに希望って賭けのことかよ。大の大人が学生に賭けるなよ。
 そして最後の! 言った奴はどこだ!
 声がした方を見てみると、ニヤニヤした男がそこにはいた。俺はそいつの隣にいる小さな女の子にアイコンタクト――は無理なので魔力コンタクトをした。すると俺の伝えたいことが分かったのか、足を思い切り後ろに上げた後

 隣にいる男の脛に、思いっきり蹴りをした。

 声にならない声をあげてのたうち回る男。悪は滅びた……

 そんな馬鹿を見ていた影響か、大分進んでいたようで、すぐ訓練場前の選手用の受付へと辿り着くことができた。
受付を担当していたのはなんとリーフェさんだった。隣には同僚であろう人もいる。

「アイン魔法学園選抜メンバー、全員揃いました」
「本人確認の為、学生証の提示をお願いします」

 うちの代表であるシャルが報告をするとリーフェさんは王女の前だからかいつもより緊張した面持ちで対応を始める。
 各々学生証を提示するがクーは持っていない。なのでとりあえず顔だけでもしっかりと確認させられるようにクーの後ろから脇に手を差し込んで持ち上げる。
 高い高いをする形となり、クーはキャッキャッと楽しそうにしている。
 それを見てリーフェさんが「私も子供欲しい……」と呟いた。王子様が一刻も早く現れるのを願うばかりである。

 そしてついに武闘大会が始まろうとしていた。
 出場する選手全員が舞台の上に集まり、王様の開始の宣言を待つ。
 観客席も満員であり、まだ始まってもいないのにかなりの盛り上がりを見せている。

 魔族が攻めてくることを知らない者からしたらこれ武闘大会はただのイベントである。そして俺達はそれにしっかりと取り組む義務がある。

 問題はいつ攻めてくるかが分からないこと。だが普通に考えれば終わり際に来るであろうことは予測できる。
 その方が出場メンバーに疲れが残っているからだ。
 相手が全快の時よりも疲弊してる時を狙うのは定石であろう。

 なら今は周りにいるお客さんの為に頑張ることにしよう。
 それに、俺とクーとリーゼさん以外のうちのメンバーは戦いたい相手がいるようだしな。

 ザザ……とノイズのような音が聞こえた。どうやら宣言が始まるようだ。

「ガルーダ王国、国王のダフィズ=フィル=ガルーダだ。今年は我が国で武闘大会を行えること、心より感謝する。……こういう挨拶ってやっぱりめんどくせぇな。全員、健闘を祈る!これより――」

 武闘大会の開始をここに宣言する。きっとそう続いたのであろう。俺も含めてこの場にいる誰もが相変わらずだな王様は、と思いながら聞いていたであろう。だが宣言は最後まで続くことは無かった。
 なぜなら――

「血で血を洗うブトウタイカイ? の始まりだね!」

 突如として響き渡る声。それは武闘大会ではなく、魔族との決戦の始まりを意味するものだった。



 

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