絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

閑話 ある日の風景 相棒

「そういやお前、剣でいいのか?」

 ダルクさん達の元で特訓を始めて半年がたったある日の朝、そんなことを言われた。

「どういうことだ?」
「いや、お前って最初から剣を使ってたけど、他の武器を使おうとは思わなかったのか?」
「最初に教えてくれてた人が剣を使う人だったからな。むしろそれしか選択肢がなかった」

 ガルムさんは剣を扱う人だったから、必然的に俺も剣になったんだよな。
 他の武器ねぇ……

「そろそろ俺の剣を鍛冶屋のおっちゃんに見てもらいに行くんだが、お前もついてくるか? そこで色々見てみればいい」
「ふーん。なら俺も行くよ」

 剣以外か……銃とか憧れるなぁ。
 流石に無いか。

※※※

 そんな訳でユフィさんの転移で来ましたるはドワーフ国の工業地区。
 ドワーフ国は武器防具の生産が盛んなだけあって、物凄い数の工房がある。
 どの建物からも煙が大量に上がっており、いかにもな風景が俺の中二魂を刺激してくる。

 ダルクさんの後について歩くこと数分。木造のボロい一軒家の前に着いた。
 ……本当にここなのか?

「ここだここ。おっちゃん!入るぞ!」

 ダルクさんがノックもせずに扉を開けて入っていったので、俺もそれに続く。
 内装は外見からは想像もつかないほどに綺麗なものであった。
 大きなカウンターに、武器が種類ごとにきっちりと整理整頓されている。

「……お前か」
「おう、お前だ。遊びに来たぞ」

 遊びに来たわけではないだろ。
 そんな親父の言葉はともかく、話しかけてきたのはドワーフ族であった。
 背は低いが、髭が地に着くんじゃないかと思うほど長い、ダンディなおじさんだ。
 これぞドワーフだ……と思わず感動してしまった。

「用件はなんだ」
「これの点検と馬鹿息子用の新しい武器を探しててな」
「息子……? お前、いつの間に」
「まぁ色々あってな」
「ふむ……」

 ダルクさんが剣を渡しながら紹介をすると、ドワーフさんはジロジロと俺を見てくる。
 ……そういう趣味ってわけじゃないよな?

「まぁいいだろう、好きに探せ。坊主、ワシのことは……あいつと同じように呼んでくれればいい」
「ありがとうございます、お、おっちゃん」

 初対面の人をいきなりおっちゃん呼ばわりするのはどうなんだろうか。
 おっちゃんとダルクさんは何やら剣についてあーだこーだと議論を始めたので、俺は店内を物色し始めた。

 剣に槍、投げナイフに弓……本当に色々あるな。
 しかしなんかこう……グッとくるものが無い。
 しばらく探していると、非売品と表示されている一振りの刀が飾られていることに気付いた。
 大きさや形などはいたって普通の刀なんだが……刀身に光が反射して虹色に輝いていた。
 その神秘的とも言える輝きに思わず見蕩れてしまった。

「それはワシと孫娘で造ったものだ。貴重な素材をありったけ使った趣味の刀だから、金額が付けられなくてな」

 いつの間にか傍まで来ていたおっちゃんに説明される。
 だから非売品だったのか……

「それ気に入ったんだろレオン。おっちゃん、ずっと飾っとくぐらいなら誰かに使ってもらった方がいいんじゃねぇの?」
「親父、流石にそれは……」

 確かに欲しいといえば欲しい。
 この刀には、なにか通じるものがあるというか運命みたいなものを感じた。

「その刀はかなりの力を秘めている。並大抵のものではまともに扱うことすら出来ないし、そもそも武器ってのは相手の命を簡単に奪えるものだ。それ相応の覚悟がない者には渡すことなど出来ん」
「覚悟、ねぇ……。なぁレオン。お前にはあるだろ? 覚悟ってやつが」

 俺の覚悟……
 そうだ、俺はカレンもリリィも、大切な人も場所も絶対に守る。そう決めたじゃないか。

「覚悟ならある。だからおっちゃん、これを俺に譲ってくれないか?」

 俺の想いを伝えられるように、おっちゃんを一心に見つめる。
 おっちゃんも俺の覚悟を確認するかのように見つめ返してくる。

「……実力はまだまだのようだが、合格だ。これは好きに使え」
「! あ、ありがとうございます!」

 飾ってあった刀を手に取り、俺へと渡してくる。
 やった……!

「なぁおっちゃーん。俺には無いのかよ」
「……はぁ、ちょっと着いてこい」
「おっ、話が分かるねぇ」

 二人は店の奥へと行ってしまう。ダルクさんもちゃっかり貰いそうだな。

 二人が戻ってくるまでの間、手持ち無沙汰になったので外に出て刀を振って感触を確かめてみよう。
 たしか店の横にスペースがあったよな?

 お、あったあった……って誰かいるな。女の子か?
 かなり小さいが……何歳なんだろう。

「誰?」
「あぁすまん。これの素振りでもしようと思ってな」

 俺に気付いたようなので、刀を見せながら用件を伝えた。

「それ、ルゥとおじいちゃんで造ったやつ」
「ということは君がおっちゃんの孫娘?」
「うん、それはおじいちゃんが認めた人にしか譲らないって言ってた。あなたは凄い人?」

 この子がおっちゃんの孫娘か。大人しい子だな。
 ていうかこの刀はそういう決まりがあったのか。認めてもらえたと思うとなんか嬉しいな。

「凄い人かは分からんが……認められたのは確かだな」
「そう。なら大事にしてね?」
「大事に使わせてもらうよ」

 そして俺はルゥちゃん?の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 ……はっ!?昔の癖で撫でてしまった。初対面の子にこんなことしたら単なる変態じゃないか。
 俺はすぐさま手を離してごめんなさいと謝る。

「ううん、気持ち良かった。もっとして?」
「え、いいのか? 気持ち悪くなかったか?」
「全然。だからもっと」

 そう言って頭をグイッと俺に向かって突き出してくる。
 お言葉に甘えて再び撫でさせてもらうと、ルゥちゃんは気持ち良さそうに目を細めている。
 なにこれ凄く和むな……

「む、ルゥがそんなに懐くとは珍しいな。お前、何をした」

 親父との用が終わったのか、店から出てきたおっちゃんに声を掛けられる。

「特に何もしてないですけど……」
「まぁいい。そろそろ帰るとあいつが言ってたぞ」
「教えてくれてありがとうございます。あとこの刀も」
「大事にしてくれよ?」
「あはは、孫娘さんにもさっき同じことを言われましたよ。それではまた」

 さよならの挨拶をし、去ろうとした俺の袖にルゥちゃんがクイッと引っ張ってきた。

「また会える?」
「会えるよきっと。なんかそんな気がする」

 不思議とルゥちゃんとはまた再会できる気がするんだよな。
 俺の言葉を聞いて、ルゥちゃんも静かに笑っていた。

 そんな不思議な出会いもありつつ、俺とダルクさんは帰途についた。
 これから先、相棒になるであろう刀と共に。

 帰った後、ダルクさんが真っ黒な剣を掲げて、お前の刀よりカッコイイだろレオン!とか言ってきたのでスネに蹴りをしておいた。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品