絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

合宿二日目

 合宿二日目。
 今日から武闘大会に向けた選抜が始まるため、どの生徒も気合十分と言った感じだ。
 そして俺は

「救え、かぁ……」

 昨日の夜にシャルに言われたこと、その意味を考えていた。
 救ってほしい。それは前にアリスにも言われたことがあったがそれはシャルの過去が原因だった。
 それなら今回はリーゼリットさんの過去に何かがあったのか?
 しかし仲がいいわけでもないのに、そんなことが聞けるとは思えない。
 とりあえずは保留にしとくしかないか……

 そんなわけで本格的に始まった合宿であるが、午前の内容はひたすら体を動かすものであった。
 魔法学園ではあるが、相手には身体能力の高い獣人族がいるので魔法だけでは勝ち目が無いからこそ、どれだけ動けるかというのを試すためだ。
 そしてそのために選ばれたのは

「「「「待てやこのハーレム野郎がああああああああ!!!」」」」
「待つわけねぇだろ!結界があったって痛いもんは痛いんだよ!」

 宿泊地のすぐ近くにあった山を使っての鬼ごっこだ。
 しかも俺以外全員が鬼という鬼畜仕様の鬼ごっこだったが、土魔法で周りに壁を作ってその中に引き篭ればよくね?と思っていた時期がありました。
 なのに俺は現在、Bクラスの野郎共に追いかけ回されている。
 それは全てヤンキー先生が作ったルールが原因だった。

「この鬼ごっこは魔法は好きなだけ使っていい。しかしレオン、お前は駄目だ。結界で山を囲ってあるし死にはしないから安心しろ」

 死にはしないけど当たれば普通に痛いんだよなぁ……

 そういうわけで逃げ回っているわけなんだが、野郎共が今までの恨みとばかりに魔法を俺に飛ばしながら追いかけてくる。
 わざと捕まってさっさと終わらせようとも考えたんだが、そうするとペナルティがあるらしいので真面目に逃げる。

「レオン! さっさと捕まって楽になれ!」
「うるせぇ! お前が昨日こっそりと女子生徒の水着姿見て興奮してたってシェリーちゃんに伝えるぞ!」
「レオン逃げてええええ!! 超逃げてえええええええ!!!」

 そんな馬鹿マルクとのやりとりもあったが、このままでは埒が明かない。
 どこか制限時間まで隠れられるような場所はないのか?

 その時

「レオン君! こっち!」

 俺を呼ぶ声がしたため、そっちへ全力で向かうと、地面からひょっこりと顔を出しているミーナを発見した。
 どうやら穴を掘ったらしく、俺はその穴へ飛び込んだ。
 俺が入った直後、ミーナは何か板のようなものを穴の上に置いて蓋をした。

「ここにいれば安全だよ」
「助かったが……鬼が協力してもいいのか?」
「しちゃ駄目なんてルール無いしね。それに……」

 ミーナが俺の胸へと飛び込んで、顔をすりすりと擦り付けてくる。

「レオン君に甘えたかったから……ね?」

 なにこの可愛い生き物。愛でていい?いや、愛でる。
 片手で頭を撫でつつも、もう片方の手で尻尾を梳くようにしてやる。
 気持ちよさそうに目を細めるミーナ、マジやばい。

「甘えられるのは大歓迎だが……急にどうしたんだ?」
「嫉妬……かなぁ。朝になるとカレンちゃんかアリス先輩の匂いが強くなってる時があるし、ソフィ先輩とは楽しそうに鍛錬してるし、暇な時は基本的にはリリィちゃんかクーちゃんに構ってるし」

 匂いは……まぁそういう事をした後なわけで。鍛錬も日課だし、クーとリリィはつい可愛がっちゃうんだよなぁ。
 でもそうか、ミーナには寂しい思いをさせてしまってたのか。

「罪滅ぼしとかそういうわけではないが……俺にしてほしいことって何かあるか?」
「……なら合宿から帰ったら、僕もカレンちゃんやアリス先輩と同じことをしてほしいな」

 それってつまり……そういうことだよな?夜のお誘いってことだよな?

「分かった。だから今は好きなだけ甘えてくれ」
「! うん!」

 約束を交わした俺達は、制限時間がくるまでイチャイチャしたのであった。

※※※

 そして昼休憩を挟んで午後となった。
 午後の内容はというと、一言で言えば、ただただ武器を振るだ。

 要するにひたすらそれぞれの武器の型で素振りをする。
 これは強化合宿ではなく、選抜者を選び出すための合宿なので、基本的には力を試すような内容となっている。
 なんでも振ってるところを見ればその者の実力が分かるとかなんとか。
 皆はブン!ブン!と空気を切る音を響かせつつ、チラチラと俺の隣にいるクーを見てくる。

「パパ~楽しいね~」
「パパはドキドキして仕方ないよ……」

 クーがなぜか一緒に素振りをしているのだ。
 これが小さい子供が慣れないものをえいっ!えいっ!と可愛く振り回してるだけなら微笑ましいんだが……

「なんだろう、双大剣とでもいうのかこれ? 音までやばいんだが」

 クーは大剣を両手に持って振り回している。しかもブン!じゃなくてブォン!という音とともに。
 幼女がやってると思うと物凄くシュールな光景だ。

 前にクーの実力を試すためにも、暇そうにしていたマルクに声をかけて戦ってもらった。
 その際にクーはママと一緒がいいと普通の双剣を使っていたが、マルクの大剣を見てクーもあれがいいと言い始めたのだ。
 娘の頼みとあらばと俺はクーに大剣を渡してみたが、首を振られたので何となくもう一本渡したところ笑顔を浮かべた。
 そして誕生したのが幼女が大きい剣を二本振り回す光景。
 この子は一体どこへ向かっているのだろう。

 そんなこんなで午後の内容が終わった。

※※※

「レオン隊員、任務の説明を始めるぞ」
「了解」

 合宿二日目の夜。今は入浴の時間である。
 そんな時間に俺とマルク隊長がしようとしていること。それは女体観察任務女湯覗きである。
 いや、本当は俺はやりたくなかったんだぞ?でも親友が死地に向かおうとしているのに、それを見過ごすことなんて出来なかったんだ。

「まず、女湯は外にある露天風呂だ。高い柵に囲まれているが、事前のリサーチによって気付かれない程度の覗き穴があることが分かっている」
「流石隊長変態
「だろう? だが柵のところには見張りの先生がいる。これをどうにかしなければならない。何かいい案はあるか?」
「いい案ねぇ……お?」

 俺達がいるのは宿泊施設のロビーである。そこで一人の知り合いを発見。

「ロウガ先輩!」
「あ? ……お前かよ、何の用だ?」

 そう、ミーナと学内最強決定戦でぶつかったロウガ先輩である。
 脳筋なこの人ならきっと……

「実は親父が昔使ってたらしいバルディッシュが、ここの女子風呂の更衣室の床下に隠されてるらしいんですよ。俺は要らないんでよかったら先輩がもら「サンキューな!」ってくだ……」

 俺の話を最後まで聞く前に走り去っていったロウガ先輩。これでよし、と。

「レオン隊員、今のは?」
「まぁ待ってれば、いや、聞けば分かるよ」

 そしてしばらく待つと

「キャー! 変態よー!」
「違う! 俺はただ床下に用がぐへっ!」
「何事だ! ロウガ! なぜ男のお前が女子風呂の更衣室にいる!」

 ふむ、どうやら成功したみたいだな。

「こういう訳だ。さて、見張りの先生があっちに対応してる間に任務をこなすか」
「お前……」

 なぜか隊長にジトーっとした目で見られたが気にしないことにして、覗きスポットへと向かった。

 そして無事到着。見張りもいないようだ。

「ほらここだ。小さな穴があるだろう? 隊長として、先に隊員に譲ってやる」
「隊長……ありがとうございます! レオン隊員、一足先におとこになります!」
 
 隊長のやらし……やさしさに感動しながら、俺は穴を覗いた。
 しかし、湯気のせいで何も見えない。視界一面真っ白である。

「隊長! 湯気で何も見えません! どうしましょうか!?」

 俺は隊長に指示を求める。
 しかし何も返答はなかった。

「隊長! 一体何が……!?」

 全く返答が来なかったので、何かあったのかと振り返るとそこにはなぜか倒れている隊長の姿、そして――


般若カレンが立っていた。

 はい死んだー。
 ごめん、皆……俺はここまでみたいだ……

「部屋にいないと思って探してみたら……こんな所で何をしてたのかしら?」

 あれは絶対に何をしていたか分かってる。そもそも分かってなかったら隊長は倒れていないはずだ。

「そのー、見張りの仕事を先生に任されまして……」
「ふーん。その穴から女湯を覗くのが仕事なのね」
「あはは、変わった仕事ですよね……」
「そうね、うふふ。……死んでね?」

 隊長、駄目みたいです……来世でもまた一緒に……

「諦めるなレオン隊員! お前はここで終わってはいけないんだ!」

 隊長……!?
 気付けば、俺を断罪するために近付いてきていたカレンの足を隊長が掴んでいた。

「俺が足止めをする! お前は逃げるんだ!」
「隊長……俺は、あなたの事は忘れません!」

 隊長の想いを胸に、俺は走り出す。絶対に逃げ切るんだ!!

「レオン隊員……グッドラック」
「さっさと離しな……さい!」
「ぎゃああああああああああああ!!!」

 隊長の断末魔の叫びを背に、俺は走り続ける。
 どこか……どこか隠れられる場所は?

「ここだ!」

 俺は直感でここが安全だと感じ、一つの部屋に飛び込むようにして入る。

「……え?」

 思わず呆けたような声を出してしまう俺。
 俺が入った部屋には

 上下共に下着姿のリーゼリットさんがいた。

 リーゼリットさんも俺がいることに気付き時が止まってしまったかのように、ただ見つめ合う時間が続く。意外と大きいな、うん。
 そして、状況が段々と分かってきたのかリーゼリットさんはぷるぷると震え始め、そのまま右手を振り上げた。

 隊長……すいません、任務失敗です……

 リーゼリットさんの全力であろうビンタを思いっきりくらった俺は、そのまま意識を失った。



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