絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

ソフィの過去

 私は気が付いたら見知らぬ部屋にいた。頭には何かを付けられており、目の前には白衣を着た男がいた。

「こいつも不良品・・・か。処分だな」

 不良品。なぜか私はその言葉に恐怖を感じて、男を突き飛ばして逃げ出した。
 当然地理が分からなかったからガムシャラに走り続けた。
 そして一旦落ち着く為に近くにあった部屋へと逃げ込んだ。
 だがその部屋には地獄のような光景が広がっていた。

 事切れた子供達の死体が山積みになっていた。

 私はそれを見て、抑え切れない怒りを覚えた。まるで、家族を殺されたかのような。

 その瞬間、部屋の扉が開いた。
 入ってきたのは、白衣の男だった。

「逃げることが出来るとは。お前は中々知能が発達しているようだな。少し中身を見させてもらうか」

 男がそう言いゆっくりと近付いてくる。子供の死体など気にせずに。もしここで捕まってしまえば私も死んでしまうのか。殺されてしまうのか。

「こ、ないで……来ないでっ!」

 上手く声が出せなかったが、私はそう叫んだ。
 すると男が吹き飛び、壁へと叩きつけられていた。

「ぐっ、魔法まで扱えるとは……しかもこの威力……見たい! お前の中が見たいっ!」

 私は無意識に魔法を発動していたらしく、それを受けた男は這いずりながらも私の方へと再び近付いてくる。

 逃げるなら今しかない。
 そう思って私は駆け出した。部屋を出て、ただひたすらに。
 走って走って、さらに走って。
 気が付いたらいつの間にか外に出ていた。
 しかし疲労や飢餓などにより動くことすら困難になって私は倒れ、意識を失った。

 そして意識を取り戻した私は、ベッドの上で目を覚ました。
 傍には夫婦らしき男女がいた。
 どうやら倒れている私を助けてくれたらしく、身寄りが無いようなら今後も世話をしてくれるという。
 しかし私はその夫婦の話に集中出来ていなかった。
 部屋に備え付けられていた鏡。そこに映る私。

 私の容姿は、死体となっていた子供達と瓜二つだった。

 私は理解した。
 不良品という言葉。私と同じ容姿の子供達。白衣を着た研究員と思わしき男。

 私は造られた存在なんだ、と。

 子供達の死体を見て湧いた感情である怒り。それは本当に家族を殺されたからこその怒りだった。私と同じで造られた存在である子供達は家族のような存在だ。
 そんな家族が、無残に殺されていく。

 許せない。絶対に許せない。私が絶対に止めてやる。
 もう家族を失わない為にも。

 私の名前はソフィに決まった。私が名前を聞かれた時に、なぜか頭に浮かんだからだ。
 そうして私は拾ってくれた人達にお世話になりながら、自身を鍛え始めた。全てはあの男に復讐を、報復をするために。

 同時にあの男の所在を探し始めた。裏の情報屋にも協力を求めたりもした。しかし見つからずに、幾年かが経過した時、一つの情報が手に入った。

 王都付近で、怪しい男を見かけたと。

 あまりにもあやふやな情報だったが、何も手掛かりがなかった私にはそれだけで充分だった。

 そして私は王都へ来て、学園へと入学した。学園でより己を鍛え、あの男を消すために。

 その時の私はあまりにも無愛想であり、更には誰にも負けぬ程に強くなっていた。
 案の定私に勝てる者がいなかった中で、アリスに出会った。
 私はアリスに負けを喫し、悔しさのあまり何度も挑むようになっていた。

 その時からだろうか、戦うのが楽しいと思い始めたのは。

 アリスという友人が出来、純粋に実力を競い合う。復讐のために鍛えてきた私には分からなかった、互いを高めあうという楽しさ。
 私のこの口調もアリスのものが移ってしまったのだろうな。

 そして二年生となり、レオンに出会った。そこにはアリスでも敵わない、圧倒的な強さがあった。
 それを見て、私もいつかアレを超えることが出来るのだろうかとワクワクした。

 そしてレオンとアリスと鍛錬をするようになってから、毎日が楽しくなっていた。
 私は腑抜けてしまっていた。

 そんな時、学内最強決定戦にて襲撃者に言われた言葉。

『人形』

 そうだ。私は普通の生物ではない。あくまでも造られただけの、まさに人形。
 私はその言葉を聞いて、本来の目的を思い出した。
 そしてその日の夜に、私の元に届いた情報。
 王都近くの森にある洞窟にて、研究所らしき施設を発見したと。

 本来の目的を思い出した直後に分かるとは。
 私は研究所襲撃の決行日を夏休みの初日にすることにした。
 それまでに、腑抜けてしまった私を鍛え直す。

 そして決行日が訪れ、私はここに来て目的を達成果たした。
 この男を殺すことで、負の連鎖を断ち切れたんだ。






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