絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

暗躍する何か

 俺達の班は木陰で休憩をしていたが、急にどこからともなく魔物の叫ぶ声が聞こえてきた。
 それの発信源はドラゴンだとすぐに分かった。前に戦ったことがあるからだ。
 それと同時に、脳内に伝わってくる情報。
 リリィが危ない!
 リリィに渡していたブレスレットから、リリィが危機に陥ってることが伝わってきた。俺は即座に動き出した。
 ドラゴンの出現による避難はきっとユフィさん達がしてくれる。
 咆哮が聞こえた方へ走っている途中でダルクさんと合流した。恐らくは加護の力で気付いたのだろう。
 しばらくして、ドラゴンがリリィに襲いかかろうとしている光景が目に入る。

「ドラゴンは任せろ! お前はリリィちゃんを頼む!」

 そして全速力でドラゴンの元へと向かい、飛び上がるダルクさん。

「息子の将来の嫁に、手は出させんぞおおおおおお!!」

 そう言ってドラゴン相手にドロップキックをかます。
 うん、今は非常事態だ。俺はツッコまないぞ。
 ドラゴンの相手はダルクさんに任せてリリィに話しかける。

「遅れてすまん。お兄ちゃんが来たから、もう安心だぞ。変なのも付いてるけど」

 それを聞いて安心したのか、ぺたんと地面に座り込んでしまうリリィ。
 さらに安心させるためにリリィの頭を優しく撫でながら、ダルクさんの様子を見る。

 ダルクさんはドラゴンの尻尾を掴んで、ジャイアントスイングをしていた。

 いやいやいや、貴方が腰にぶら下げてる剣はなんなんですか。なぜ素手でいく。脳筋すぎないか?

 だがそこでおかしなことが起きる。
 ドラゴンが自身の翼を魔力で硬化させ、尻尾を自ら切り離したのだ。
 これは本来ありえないことである。尻尾は振り回すことで驚異的な破壊力を持つ武器にもなるし、魔物は自らを傷付けるようなことはしないはずだからだ。

 切り離された尻尾を投げ捨て、ダルクさんが話しかけてくる。

「おいレオン! こいつなんか変だぞ!」
「親父の行動も色々変だったけどな!そいつは普通のドラゴンじゃない!魔力の流れ方が変だ!」

 先程の翼を硬化させる時に魔力を使った時にも感じたが、魔力の流れ方が自然とは程遠い。むしろごちゃごちゃしすぎている。

「とにかく様子を見ながら戦ってみる!お前はリリィちゃんから話聞いとけ!」
「死ぬなよ親父! あ、やっぱり適度に痛めつけられとけ!」
「息子からの愛で嬉しさのあまり泣きそうだ!」

 あんだけ軽口叩けるなら大丈夫か。

「リリィ、どうしてこうなったんだ」

 そう尋ねるとリリィがこれまでの経緯について話し始めた。
 俺はそれを黙って聞いていた。

「てことはクソ王子の協力者ってのがあのドラゴン……黒龍を連れてきたと思って良さそうだな」

 男の俺だからこそ分かる。恐らくクソ王子はリリィの前でドラゴンを倒して格好いいところを見せて惚れさせようとした訳だ。そして協力者にクソ王子でも倒せるほどの仔竜でも連れてこさせる予定だったのであろう。だが現れたのはあのいかつい黒龍だったと。
 だがこれにはいくつかの疑問が残る。
 なぜ協力者はあの黒龍を連れてきたのか。そしてあの黒龍はどこから連れてこられたのか。
黒龍の魔力の流れ方からして、あれは普通のドラゴンではない。
 だが考えても答えらしい答えは見つからなかった。

「久しぶりに働いたって感じだ」

 気付けば、ダルクさんが近くまで来ていた。
 向こうには絶命しているであろう黒龍が見えた。

「そう思うならもっと働いたらどうだ?」
「いやー、金だけは無駄にあるんだよなぁ。それよりもあのドラゴン倒した俺をもう少し労わってもいいんじゃないか?」
「今回の仕事のうちだろ。労わってほしいならもっと働け」
「ちゃんと普段から働いてるんだけどなぁ」
「へー。例えば?」
「夜の寝室で生命を誕生させる行いをする仕事とかな?」
「………」

 単なる下ネタじゃねぇか! 言葉に出してツッコムとめんどくさいことになりそうなので我慢する。
 ニヤニヤしていたダルクさんだが、真剣な顔つきになった。

「親子の絆を深めるのもいいが、今回の件はなんか裏で色々動いてそうな感じがするんだよなぁ」
「それは俺も思ってた」

 まるで作られたかのような魔力の流れをしている黒龍に、なぜか王子を裏切り、命の危機に晒した協力者。王子本人は逃げたのか既にこの場にいないが。

「ま、俺も気を付けておくからお前は普段通りの生活でも送っとけ」
「なんだ、急に父親らしいこと言って」
「ふざけた事ばっかり言ってないでたまにはまともな事言った方が人気が出るかなぁと。俺は主人公じゃないからな」

 人気? 一体なんのだよ。
 しかし、裏で何かが動いている、か……。
 しばらくは俺も気を張ることになりそうだ。

「後始末は俺に任せとけ。レオンは生徒達と合流しとけ」
「おう、そのまま戻ってこなくていいからな」
「最近、息子が親に対して冷たい件について」

 糞スレかな?
 ともかく戻るか。
 すると俺の手がギュッと握られた。握ってきたのはリリィだ。
 まだ恐怖が残ってるのだろうか。
 俺はリリィと手を繋ぎながら、皆の元へ戻るのだった。

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