絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

テンプレと第二王女の気持ち

 俺は荒野となってしまった村の跡地の中央で手を合わせ佇んでいた。
 今の俺が出来たのは、すべてここからと言っても過言ではない、かけがえのない場所。

(父さん、母さん、村の皆。俺、元気でやってるよ。これから王都に行って、学園に通うことになると思う。また今度来たときは、土産話でも聞かせてやるよ。だから――)

「行ってきます!!」

※※※

「あ~る~こ~あ~る~こ~。わたしは~レオン~」

 俺は暢気に歌を歌いながら王都へと向かって歩いていた。
 ん? さっきまで村でしんみりした感じじゃなかったかだって?
 まあ気にするなって。そもそも、しんみりした空気とかは母さんも父さんも村の皆も好きじゃなかったし、俺がいつまでも感傷に浸ってるわけにもいかないだろ。
 結構上機嫌なのにも理由がある。
 雲一つない、晴れ渡った空。ぽかぽか陽気。王都への道を挟む木々の香り。
 絶好の散歩日和だ。散歩じゃないけど。
 さらには、ゴール地点である王都では、リリィに会える。最愛の妹に会えるんだ! 嬉しい!
 ん? シスコンだって? だからどうした、俺はシスコンだ。
 カレン? 知らない子ですね……。
 冗談はともかく、他にも楽しみはある。
 それは、学園だ。
 皆さんは、学園生活をやり直したいと思ったことはないだろうか? 俺はある。
 特に、何もなかったとも言える学生生活を送ってきた俺は、友達の勧めもあり、いわゆるオタクになっていた。そして、クラスなどによくいるスポーツ万能イケメンなどに嫉妬もよくした。
 もし、あの時、こうしていなければ俺の学生生活はもっと明るいものだったのではないかと思うこともあった。リア充学生生活を送っている自分の姿を妄想したりもした。
 そもそも、俺の性格云々はあんまり変わってないだろうし、同じような生活になる可能性は否めないが……。無理に友達を作ろうとして話しかけ、結果、引かれてしまったらどうしよう。
 あれ? 学園生活怖くなってきたぞ?
 閑話休題。
 いつのまにかネガティブになっていたので、もっと楽しいことを考えよう。
 そういや、ネット小説などではよくあることだが、こうやって移動してる時に、魔物や盗賊に襲われている馬車に遭遇したりするよな。テンプレってやつだ。

「そうそう、あんな風に……ってマジかよ!!」

 俺の視界に、魔物に襲われている馬車の姿を捉える。
 視力を魔力によって強化し、一瞬で、状況を把握する。
 魔物は、普通なら一人で相手にできるようなものではないことが一目見てわかる。
 その魔物相手に一人で戦う燃えるような赤色の髪をした女。
 あれから4年経ったがすぐに分かった。アリスだ。
 そして、その周りにはアリスの護衛だったと思わしき3人の騎士の――死体。
 俺は、無意識のうちに全力で魔物のもとへ駆け出していた。

※※※

 私は四年ほど前に、父に付き添い、国の各地を視察していた。父が、実際に自分の目で見た方が、より民のことが理解できるからだという。普段なら政略結婚をさせられるであろう、第二王女という立場の私だが、父は、そんなことは気にせずに、自分の好きな人と結婚してほしいと言う。自慢の父だ。
 そんな父と、視察で訪れたのが、ボーン村という、少し寂れた村だった。
 だが、村にいる大人や子供達の表情は明るかった。
 訪れた私たちを歓迎してくれた。
 父は村の様子を確認するために、村長に案内してもらっていた。
 私は、子供達が集まっているという広場に行き、遊ぶのに混ぜてもらった。
 そこで、私と年が近い、カレンとリリィという女の子と仲良くなれた。
 三人で子供達と遊んでいると、一人の男の子が言った。「レオン兄ちゃんとも遊びたーい」と。
 レオンとは誰だか気になった私はカレンに聞いてみたところ、私と同じシスコンであるという。
 最近ある目標が出来たと言って鍛えているらしい。
 子供達にも慕われており、私自身もある目標のために鍛えているため、レオンという男に興味が湧いた。
 そして、私は翌日の早朝に、レオンが素振りをしている場所に訪れた。
 動きを見た感じだと、まだ素人の域を出てはいなかったが、将来性を感じた。
 私はレオンに話しかけた。
 最初は少し疑うような目で見られていたが、私が第二王女だと知ると、途端に慌てだした。
 私は、硬い話し方が好きではない。だから気にしなくていいと言った。 
 今までの経験からして、これでも話し方を変えた者はいない。
 例え本人が言ったとしても、結局私は王女なのだから。
 でも、レオンは露骨に安心したといったような表情をしたあと、私にまるで仲のいい友に話しかけるように、しかも呼び捨てにして話しかけてきた。
 私は思わず笑ってしまった。
 私を王女としてではなく、アリスという一人の女の子だからだと言う。
 この時からだろうか、レオンという男のことを気になり始めたのは。
 私はこの男と戦ってみたくなった。そして決闘を申し込んでみた。
 レオンはかなり驚いていたが、説得し、渋々受け入れてくれた。
 そして決闘が始まった。
 結果は私の圧勝だった。
 私は言った。「女の私に負けるようでは駄目だ。男は強くなければ」と。
 それを聞いたレオンは、何かを決意した目をしていた。とても好感が持てた。
 そのあと、シスコン云々の話があったがそれは割愛する。
 私は子供達がレオンと遊びたいと言っていたことを教えたところ、レオンは何かを考え始め、しばらく経った後、私にある提案をしてきた。
 カレンとリリィを王都に連れて行ってあげてほしい、と。
 なんでも二人は前から王都に行ってみたいと話していたらしい。
 レオンの優しさを感じつつ、私は快諾した。
 そして、私はカレンとリリィを連れて王都への帰途に就いた。
 レオンとまた再会できたらいいな、という気持ちを胸にして。
 だが、それが叶うことは不可能となってしまった。
 ボーン村が消えた。家も村人も、そしてレオンも。
 全てが消えていた。
 私は絶望に打ちひしがれた。カレンとリリィもそれを聞いて、ただただ泣いていた。
 そしてそれと同時に、私の中に隠れていた感情に気付いた。
 私は、レオンに恋をしていたのだ、と。
 自分でもちょろいなと思ってしまう。
 でも、絶対に叶わない恋でもあった。
 そして私は少しでも気を紛らわすために、より鍛錬に励むようになった。
 学園最強と呼ばれるほどに強くなっていた。
 そして、新学期の始まる前の春休みに、ボーン村の跡地を訪れ、黙祷をした。
 これは、毎年のこの時期の慣例になっていた。
 用事を済ませた私は、馬車に乗り込み、帰ることにした。
 護衛を引き連れ、馬車に乗っていた時、悲鳴が私の耳に届いた。
 それは外にいる護衛の声だった。急いで馬車から降り、状況を確認すると、見たこともない魔物が護衛全員を殺したところだった。
 私は、恐怖心を抑え、腰にぶら下げていた剣で魔物と戦った。
 だが、魔物は強かった。
 私は必死に応戦したが、魔物が振り下ろしてきた斧を受け止めた衝撃で、しりもちをついてしまう。
 その隙を見逃すわけもなく、魔物が斧を振りかざす。思わず目を閉じてしまう。
 ここで私は死んでしまうのか。出来ればまたあいつと……。
 会いたかった――
 そして、襲ってくるであろう痛みを待っていたが、こない。
 不思議に思い、ゆっくり目を開くと、そこには、首をなくした魔物の死体と、

「大丈夫か?」

 優し気な雰囲気が漂う笑顔を浮かべ、手を差し伸べている、私が会いたいと心から願っていた少年が立っていた。



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コメント

  • 音街 麟

    こっから甘酸っぱい恋愛が╰(*´︶`*)╯

    0
  • ペンギン

    なんか、奇跡ですね!
    こうゆうのすごく好きです!

    2
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