外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

65話 地下神殿突入準備

 神殿までの道は以前の押し固めただけの道からさらに整備されていた。
 板打ちの道は非常に歩きやすく快適だ。
 初めて神殿跡まで行ったときとは比べ物にならないほど短時間で到着する。

「結構崩落したんだね……」

 地面には大きな穴が口を開けていた。

「ダイゴローはほぼ中央にいたからな……一応地盤は調査して問題ないところまで整備した。
 下への安全なルートもすでに整備してある」

 キンドゥの言うとおり木柵で穴は囲まれており、その中へ通じる階段が作られている。
 周囲には中継拠点用の切り開かれた広場があり、宿泊施設や倉庫なども準備されている。

「凄いな、これだけ準備を整えたのか……」

「キンドゥの必死に我慢してるんだけど心配で心配でしょうがなくて、正直ユキミちゃんのことも目に入らないほどダイゴローを心配していた姿見せてあげたかったわぁ……」

「ほんと、でも、一生懸命なキンドゥはカッコよかったんだぜぇ!」

「流石キンドゥ様……」

「お前らうるせーぞ!」

 そう言いながらもいつもの威厳ある尻尾はブンブンと照れ隠しに動いている。
 ありがたいことだ、俺も必死に生きた甲斐があった。
 あまりいじると怒りそうなので、その気持だけありがたく胸のうちに受け取っておく。

「それじゃぁ、侵入するぞ!」

 連れてきた部隊も準備完了。俺たちも神殿へと突入する。
 しっかりと組まれた階段は頼もしく俺たちを支えて、地下へと連れて行ってくれる。
 ひんやりとした洞窟内の空気が過去の記憶を呼び起こす。
 不思議とトラウマとかそういう感覚にならない、今回は準備が万端だから気が楽だなーなんて呑気に考えている自分に少し驚くほどだ。

「大丈夫かダイゴロー?」

「あ、うん。驚くほど大丈夫だった」

「そうか、少しでも変だと感じたらすぐ言えよ」

「キンドゥが妙に優しいニャ!」

「俺も、昔砂漠でのたれ死にそうになってな。今でも砂漠は苦手なんだ……」

「にゃ……なんか、ごめんニャ……」

「気にしないでくださいユキミ嬢、もしあれなら今度食事でも……」

「ダイゴロー何かが向かってくるぞ!」

 ネズラースの言葉で全員が戦闘態勢を取る。
 キンドゥ特製の魔力紐によって俺達は全員結ばれている。
 コレを利用すれば全員に強化をかけながらそれぞれ自由に行動できる。
 魔力繊維で作られた光ファイバーみたいな物だと理解している。

「いやー、ダイゴローと繋がっていると精霊たちが使ってくれと煩いほどだ!
 よほど好きなんだろうなダイゴローの魔力を!」

 小さな光の玉が幾つか洞窟の奥へと放たれる。
 すぐに姿を変えて地水火風各精霊の姿になる。
 一旦俺の周りをくるくる回ってから何かが向かってくる奥へと飛んでいく。

「美味しい魔力をありがとう。だとよ!」

 俺は手を振って精霊たちを見送る。
 この精霊。メッチャ優秀。

「まったく、俺がこんな大精霊術師みたいな真似ができるなんてな」

 マジさんが言うとおり、精霊術師は基本精霊の力を少し借りて魔法を行使する程度。
 直接精霊の使役ってのは非常に難しいそうです。
 よっぽど気に入られているか、大量の魔力を消費して初めて成し遂げるのが精霊召喚だそうです。
 それが、俺の強化下だと、向こうから呼べ呼べと催促されるレベルだそうです……

「お、始まったな……」

 通路の奥で炎のゆらめきや激しい振動が伝わってくる。
 精霊は戦闘力も非常に高いし、例えやられても精霊界というところに帰るだけなのでまた呼び出せる。
 魔法も使えるし、司る属性なら自然現象にも鑑賞できるというチート級キャラなのです。

「魔物だったみたいだな。もう終わったってさ」

「マジ、ネズラースも居るが一体斥候として先行させておいてくれ」

「あいよー」

 斥候係は闇精霊のシャドウ君。暗闇でも問題なく状況を把握できるし、気配を消しての移動も可能とまさに斥候としてはうってつけ。

「それじゃぁ、俺達の説明をするぞ。
 まずはこのまま下へ降りていく。一番下まで行くとたぶんダイゴローが落ちた地底河がある。
 そして、その当たりに大きな空間が存在しており、その奥には神殿へとつながる扉が発見されている」

「……もともと地下神殿だったのか……」

「かなり古い施設にも関わらず、その扉はまるで新品のような輝きを放っているそうだ。
 素材を調べようにも既存の刃では削ることもできなかった……
 ところが、オリハルコン製の剣で削ることが出来た。
 そして、その扉もオリハルコンで出来ていることがわかった。
 しかも、信じられないほどの純度のな。
 正直その扉を外して持ち帰るだけで、国家が数年持つだろうな。
 ホントに外してしまいた。あー外したい」

「キンドゥ様! 落ち着いてください!」

「あ、ああ……すまない……」

 ユキミが耳打ちしてくれたが、今回の騒動でキンドゥは資産の70%近くを使用したらしい。
 もちろん援助してくれる沢山の人も居るが、各地の人々のために使えと文字通り私財を投げ売って動き回ったらしい……
 エーテルもただみたいな値段で流通させたみたいだしね。
 俺がいない間も俺の本が売れた利益もキンドゥに渡そうとしても受け取らないし……
 ま、そういう人物だから人が集まるんだよね。

 ジグザグと移動しながらどんどん洞窟を降りていく。
 かなりの距離を降りている。
 ようやく下から水が流れる音が聞こえてきた。
 それでもまだまだ下がらないといけないことが想像できる。

「いくら水に落ちたとは言え、よく助かったな……」

「流れていない水面だったら、死んでただろうな……」

「川の部分は流れも強く、深さもかなりあるそうニャ、いろんな偶然が働いたのニャ」

「ダイゴロー様が生きてくださって本当に良かったのです」

 フィーは首に巻き付きながら優しい言葉をかけてくれる。

「まぁ、もうすぐ最深部だ。ぐっと敵が多くなるから皆気合い入れてねぇ~」

 ルペルさんは言っている内容と口調がまるで合っていないが、全員油断はない。
 今までも数回接敵したもののマジさんの精霊たちが殲滅してくれている。

「ま、今回ダイゴローのおかげで楽だからな」

「そしたら光の精霊も出しとくか」

 光の精霊はホタルみたいに周囲を照らしてくれる。
 まぁ光量はホタルとは比べ物にならない。周囲5mくらいは昼間かと思うような視界が確保できる。

「ほんと、ダイゴローは便利だな。一家に一台ほしいぜ!」

「あれが、川だ」

 キンドゥの指し示す方に光を当てるとドドドドドドドと音を立てながら濁流が激しく流れている。
 改めて見ると、ほんとよく助かったな……

「簡易的な橋もかけてある、あそこを渡れば大広間だ。そこにベースキャンプを敷く。
 そして、本格的な探索だ」

 おつきの人達はここで待機。
 扉の向こうへは俺、キンドゥ、ユキミ、ルペル、ゴーザ、マジ、ムラマサのメンバーで進む。
 マサムネはこの場を管理するために残る。

 鬼が出るか蛇が出るか、あとは出たとこ勝負だ。 



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