外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

22話 トラブル

「ダイゴロー絶対また来てくれるよな!?」

「ああ、必ずまた来る! それまで皆を頼むぞ!」

 バルトとガッシリと握手をする。ちょっと震えているので泣きそうになる……

「ダイゴロー! ユキミー! 言っちゃヤダー!」

「メリナ! 昨日皆で決めただろ……!」

「だってぇ……」

 ユキミも皆を愛おしそうに抱きしめて別れを惜しんでいる。
 全員すっかり風邪の症状は回復した。
 ライラさんもすっかり綺麗になってその美猫ぶりを取り戻していた。
 周囲の森の動物たちも少しづつ回復して、元気になったバルトが狩りによって獲物を得ることも多くなった。
 まだ新たな獣人などは訪れていないが、この世界で『病付き』と呼ばれてしまった人はみな集団から追放されてしまう。少しづつでも人が増えてくれれば、そして正しい知識と治療を受けて、少しでも幸せに暮らして欲しい。俺はそう願わずにはいられなかった。

「ダイゴロー! 俺! これ読んで立派な医者になる!!」

 最期にバルトに言われた言葉が一番嬉しかった。
 後ろ髪をひかれる思いで村を後にしてもとの道へ戻る。
 ユキミは鼻歌を歌いながら歩いているが、耳はペターンと倒れて寂しそうだ。

「さて、次の街はパリトン、交易によって栄えている大きな街だぞ」

 ネズラースが気を使ってか珍しく話を振ってくる。
 普段ネズラースは頭の上でぶつぶつと考え事やらをしている。
 言葉に出るところは俺と似ているらしい。

「ちょうど湖も見えてきましたね……」

 森に囲まれた道の向こうに美しい水面がキラキラと輝いている。
 この湖をぐるっと迂回した反対側に次の目的地、交易都市パリトンがある。
 木々が途切れて湖の全景が見えるようになると、対岸にある街の巨大さがはっきりと見て取れるようになる。

「凄いですね! ファイランドも小さい街では無いですが、あの街は、都市だ!」

 思わずその光景に興奮してしまって大きな声を出してしまう。

「パリトンはこの大湖 ノーズから海へと流れる大河による水上輸送、それにほぼ大陸の中央に位置するせいで幾つもの大道がこの街で交差する。
 各地から集められた物資はここで取引され、また各地へと運ばれていく。
 そういった商業の中心都市、それがパリトンだ」

 ネズラースが珍しく饒舌に説明してくれた。
 かなり大きな湖の対岸にありながらも、街全体を囲まれた城壁、湖にせり出した港どれもはっきりと見て取れる。近づいたらどれほどの大きさになるかは想像がつかないほどだ。

「ここから湖を迂回した街道を歩いて2日、一度か二度は宿を取らないとね」

「村でのダイゴローのご飯もライナさんのご飯も好きだったニャ、でもここの湖沿いに有る宿場町の川魚料理は食べる価値があるって言ってたニャ!」

 大きな湖の周囲にはいくつかの宿場街も形成されている。
 それだけ人の往来が多いのだろう。

「とりあえず、日が傾いてきたら宿を探し始めるとしよう」

 やろうと思えば魔法強化で超スピードで疾走ることも出来るが、今は旅を楽しんでいる。
 いざという時に魔力不足なんてなったら笑えない。

「そういえばユキミ。助けを求める声って聞こえないの?」

「うーん、たぶんとしか言えないにゃ。
 ライラ達からは聞こえてこなかったから、聞こえなくなったのか、緊急じゃないと聞こえないのか……全く謎ニャ」

「そうなると、基本的には街ごとに聞き込みをしたりして情報を集める感じになるかね?」

「そういうことになるニャ、まぁそう簡単にはこの間みたいに厄介事に巻き込まれるなんてことは無いのニャ!」

「助けてください!!」

 最速のフラグ回収を見た。俺は確かに……

「な、何ニャ!? いきなり……」

「冒険者の方とお見受けします! どうか助けてください!
 息子が、息子が山賊に攫われてしまったのです!」

「ニャ!?」

『ダイゴロー、今、助けを求める声が聞こえたニャ、たぶんこの依頼緊急ニャ!』

 ユキミから念話が来る。
 そうなると出来る限り急いだほうがいいだろう。
 俺はユキミに助けを求めているハムスター顔の女性に詳しい話を聞く。

「ちっ……」

 俺が話しかけようと近づいたら露骨に嫌な顔して舌打ちされた。
 忘れてた……あれ、視界がゆがむ……

『ユキミ……頼む……』

『ご愁傷様ニャ……』

「息子さんはどこに連れて行かれたのにゃ?」

「あのマズール山を根城にしているアブセス山賊団に!」

「アジトは分かっているのかにゃ?」

「このあたりでは有名で、あの大きな岩場の下に洞窟があって、そこが奴らのアジトです!
 お願いします! 息子を助けてください!」

「わかったニャ! すぐに行ってくるニャ!
 お母さんはパリトンの街の衛兵にも連絡をしておいて欲しいニャ!」

「ああ! ありがとうございます!
 この御礼は必ず! 私はそこの宿の女将をしているシーズです、何かあればその宿にお願いします!」

「わかったニャ!」

『と、言うことで行くニャ! ダイゴロー泣いてないで、話聞いてたかニャ?』

『大丈夫……、早く助けてあの冷たい目線を消してやるんだ……』

 俺とユキミは肉体強化魔法を使って宿の裏のマズール山へと通じる獣道を駆け上がる。

『こんなに人の往来の多い場所で、良く人さらいなんてするニャ……』

『さっきの宿、結構門構えが立派だから、身代金目的の誘拐の可能性もあるよね。
 けど、山賊なんて居るんだ……』

『山賊、盗賊、湖賊、まだまだこの世界にはそういったものがたくさんいる。
 魔物に野獣に魔獣。この世界は平穏ではないのだよ』

『あの兄弟みたいな存在が、生まれるんだもんね……』

『ダイゴロー、その山賊の一味っぽいのがいる』

 ユキミがさっと木の陰に隠れる。俺も続いて隠れる。
 息を潜めて道の先を伺うと確かに人影が有る。
 斧みたいな武器も持っているし、なんというか見た目が善人ぽくない。

『人間みたいだね……こんなこと言うと怒られるかもだけど、人殺しはしたくないんだけど……』

『こんな奴ら気絶させて縛っておけばいいニャ』

『それに獣人相手だと俺戦えないよね?』

『たぶん、薄まってると思うぞ、とんでもない二日酔いになったぐらいの気分になるだけで済むはずだ』

『なるだけって、それじゃ足手まといになるじゃない。
 ユキミ、基本的に獣人の相手は頼む。
 俺は基本人間を無力化する!』

『わかったニャ!』

 念話でタイミングを合わせて一気に接近する。
 相手の人数は3人。人間3人だ。

「な、なんだおまえぶげぇ……!」

 みぞおちにいい感じで入った。そのまま動揺している二人の顎を掌底で叩きつける。
 膝からがくーんと潰れる二人。なんとかうまく行った。

『一応魔法もかけておくニャ』

 魔法による眠り、これで明日までぐっすりと眠っておいてもらう。
 武器とかをうばって蔦で出来たロープで縛り上げておく。

「結構本気で殴ったけど、初めてだ人を殴ったの……」

 なんか、緊張していたからかあまり感触も感じなかった。
 でも、腹部の感触は好きになれない……

「人を殴るより、獣人を救う手で有りたいな……」

 そういう世界では無いので難しいかもしれないけど、俺はそう願う。 

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