外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん
18話 出発
「ほら、もう行くよー?」
「まったくバカ猫は何してるんだ?」
おれの頭の上がネズラースの定位置になっている。
彼は魔法生物に近いそうで、頭のなかで動いてても特に気にならなくて助かる。
食事は取るようだけど、排泄は必要ないんだって。
お陰で朝目が覚めたら頭上が大惨事。なんてことはない。
「待つニャー……昔と違っていろいろ朝の準備に時間がかかるんニャー」
一生懸命跳ねる髪の毛を押さえながらユキミが宿から出てくる。
以前とは違って今はほぼほぼ人間なので、お腹も減れば睡眠も必要、動けば疲れるし、寝癖も付けば肌も荒れる。
最初の頃はずっとグチグチとうるさかったが、やっと受け入れてきたところだ。
俺達は『穢』来襲からこの街で過ごしていた。
ベグラースの館という拠点は失い、転移魔法も使えない。
ユキミによる探査も近距離でないとわからないそうだ。
今後は旅をしながらの手探りの功徳になる。
まぁ、往診専門獣医みたいなものだ。
ファイラントの街は急速に復興している。
ダンジョンは前の俺の魔力で一度満たされているせいで、モンスターの発生も非常に穏やかになっている。
ボーナスタイムみたいなものだが、次の満月はあと3週間後なので、最深部まで行っても宝はない。
途中の宝をほとんど取らなかったので、それを目当てに冒険者たちはダンジョンへと潜っている。
土木魔法や、建築魔法があるので町並みの復旧のスピードは日本より早い。
前の力があればささっと直すんだけど、今の俺にはそんな魔法は使えない。
簡単な探査くらいしか出来ないが、この世界では手に入らない超音波、生化学検査、レントゲンというかCTやMRIみたいな真似事が出来るんだから俺にとっては十分過ぎる。
ただ、以前みたいに魔法で体内をいじるなんてことは出来ない。
これからは以前のように手術や投薬によって治療をする。まぁそれが俺にとっては当たり前だ。
アイテムボックスには大量の処置道具が詰まっている。
ララを助け、べグラースの館で寝た一晩で俺の知識を元にユキミが用意しておいてくれた。
つながりがあって知識を共有していたから、今後魔法以外の継続治療で必要だろうからというユキミの素晴らしいファインプレーだ!
今でも獣人の医者、人の医者はこの世界にいるそうだ。
俺はそういう人達に少しでも進んだ治療を提示していく、そういう仕事もしていかないといけない。
以前みたいに困っている人のところにポーンとワープするわけに行かないからだ。
傷や怪我は回復魔法があるが、ウイルスや癌なんかは不治の病扱いになっているものも多そうだ。
やることは山積み、出来ることからこつこつとだ。
「しかし、ダイゴローは馬鹿ニャ! あの宝があれば一生遊んで暮らせたのニャ!
旅だって高級馬車で快適な旅が待っていたのニャ!」
「仕方ないだろ、元はといえばこの街がこんな状態になったのもベグラースのせいなんだから……」
俺はダンジョン制覇の宝を街の復興に寄付した。
少しだけ装備を整えたり、旅の準備の路銀にもらったけど……
お陰でギルドから冒険者の証ももらえた。
今後の旅の身元を証明する証になる。
冒険者としてのランクはB+、ダンジョン制覇するとSSは間違いないそうだけど……
今の俺は前の力はない。日本にいたときとほとんど変わらない。
本来のギルドでの昇格テストを受けさせてもらい、このランクと認められた。
まぁ、B+ってのも結構凄いらしいんだけど。
「おーい! ダイゴロー!!」
街の出口に嬉しいことに見送りの人達が集まっていた。
緑の風の皆さんに、ギルドマスター、町長、それにお世話になった宿の人、たくさん食事した酒場のマスター、それに街の人々も多く集まってくれている。
「気をつけていけよ!」
「ダイゴロー殿、街の復興全力を尽くす! また戻ってきたら必ずよってくれ!
本当にありがとう!!」
「街の救世主の門出だ! 盛大にやるぞ!」
マスタフさんの合図で空に花火まであがる。
こんなに祝福されたことは、生まれてこの方一度もない……
「なんだ、また泣いているのかダイゴローお主は本当に泣き虫じゃのー」
ウォーさんにからかわれてしまったが、本当に嬉しい。
「これ、道中で食べなさい」
マスターが保存食一式と弁当を渡してくれる。
「みんな、ありがとう! それじゃぁ行ってきます!」
俺は何度も振り返り街の人達が見えなくなるまで手を振り続けた……
「もう、疲れたニャ……」
歩きだして3時間ほどでユキミが文句を言い始める。
森の中の道を最初、興味深そうに大はしゃぎしたりするからだよ……
「ほら、ユキミもう少しちゃんと歩いてよ……ユキミだって冒険者だろー、しかもランクAの……」
「私は僧侶としての能力でランクAニャ、肉体労働が専門じゃないニャ……」
いや、肉弾戦でもAランクになれるって太鼓判押されてただろ……
言い返したいがぐっと堪える。
へそを曲げられても面倒くさい……
ユキミは可愛らしい外見と違って、中身は猫そのものだ。
気分屋で、めんどくさがりで、そのくせ甘え上手で、可愛くて……
勤勉さは力と一緒に『穢』に吸い取られたかのようだ……
「そしたら地図によるともう少し行くと湖が見えてくるから、そこで昼食にしよう」
「!! マスターのお弁当ニャ! わかったニャ! ほらほらダイゴロー早く早く!!」
だらんとたれていた尻尾がピンと立つ。まったく現金なやつだ……
「ダイゴロー、バカ猫にも伝えろ。敵意だ」
頭上から助言される。
「ユキミ! 気をつけて! 敵襲かも!」
「フニャ?」
俺の声と同時に森から何かが飛び出してくる!
「猫?」
猫型獣人と言うやつか、ユキミはほぼ人で猫耳と尻尾だけだが、本来のネコ型獣人は猫の顔で腕なんかも毛でふさふさ、するどい爪と素早い動きで、冒険者にも多くいた。
「食料を寄越せ!!」
敵の数は5人、厄介なことに前後を挟まれている。
「お前らはすでに囲まれている! 諦めて食料を寄越せ!」
「食料なら町へ行けば買えるだろ! なぜわざわざこんな手段を取る?」
「うるさい!! 俺達『病付き』だ! 街へは入れてもらえない!!
ああ、なんだ貴様はイライラする!! さっさと食料を寄越せ!!」
さらっと酷いことを言われた。泣きたい。
確かにこの獣人はやせ細っているし、目も血走っている、というか炎症を起こしているな。
さらに、鼻声だし妙によだれが多い、時折口を痛そうにもしている。
「なぁ、君たちは何人居るんだ? 皆同じ症状なのか?」
「ごちゃごちゃうるさい! さっさと……」
「大事なことだ! ちゃんと答えてくれ、そうすれば食料を分けてもいい。
言っておくが、俺はB+、そっちのユキミはAランクの冒険者だぞ?」
「A!? やばいよニーちゃん!」
背後の獣人が明らかに動揺した声をあげる。
「ば、ばかカルラ! 堂々としていろ! ハッタリだ!」
「ハッタリじゃ、ない……ニャ!!」
ユキミが魔法の仕上げに入る。
森から伸びていた蔓がゆっくりと獣人達の足元に広がって、一気に身体に巻き付く。
これで5人共完全に行動不能だ。
「な、なんだこれ!?」
「ニーちゃん助けてー!」
落ち着いてみると目の前で交渉していた獣人以外まだ若そうだ。
5人を縛り上げて一箇所にまとめる。
するどい爪で蔦を切られないように気をつけて拘束している辺りは流石だ。
「いつの間に! お前ら打ち合わせしてないじゃないか! ずるいぞ!」
「ふふふ、俺らにも色々あるのだ」
まぁ、ユキミと俺とネズラースは繋がっているんだ。
簡単に言えば念話みたいなことが出来る。
『本当の敵』の耳と目は世界中にあるらしい、俺達は今のところ相手にはされていないから平気だけど、『本当の敵』についての会話や行動をすればすぐに見つかってしまう。
偶然できたこの繋がりだが、この繋がりによる念話は目や耳を欺ける。
俺らには非常に重要な能力だ。
ちょっと離れるとすぐに使えなくなってしまうんだけどね。
「さて、そしたらちゃんと話を聞かせてもらおうか。
さっきも言ったけど、場合によっては食事を分けてもいいからさ」
俺は縛り上げた5人に優しく問いかける。
「うるさい! 不愉快なんだよお前の声は!」
泣きたいのをこらえて、診療開始だ。
「まったくバカ猫は何してるんだ?」
おれの頭の上がネズラースの定位置になっている。
彼は魔法生物に近いそうで、頭のなかで動いてても特に気にならなくて助かる。
食事は取るようだけど、排泄は必要ないんだって。
お陰で朝目が覚めたら頭上が大惨事。なんてことはない。
「待つニャー……昔と違っていろいろ朝の準備に時間がかかるんニャー」
一生懸命跳ねる髪の毛を押さえながらユキミが宿から出てくる。
以前とは違って今はほぼほぼ人間なので、お腹も減れば睡眠も必要、動けば疲れるし、寝癖も付けば肌も荒れる。
最初の頃はずっとグチグチとうるさかったが、やっと受け入れてきたところだ。
俺達は『穢』来襲からこの街で過ごしていた。
ベグラースの館という拠点は失い、転移魔法も使えない。
ユキミによる探査も近距離でないとわからないそうだ。
今後は旅をしながらの手探りの功徳になる。
まぁ、往診専門獣医みたいなものだ。
ファイラントの街は急速に復興している。
ダンジョンは前の俺の魔力で一度満たされているせいで、モンスターの発生も非常に穏やかになっている。
ボーナスタイムみたいなものだが、次の満月はあと3週間後なので、最深部まで行っても宝はない。
途中の宝をほとんど取らなかったので、それを目当てに冒険者たちはダンジョンへと潜っている。
土木魔法や、建築魔法があるので町並みの復旧のスピードは日本より早い。
前の力があればささっと直すんだけど、今の俺にはそんな魔法は使えない。
簡単な探査くらいしか出来ないが、この世界では手に入らない超音波、生化学検査、レントゲンというかCTやMRIみたいな真似事が出来るんだから俺にとっては十分過ぎる。
ただ、以前みたいに魔法で体内をいじるなんてことは出来ない。
これからは以前のように手術や投薬によって治療をする。まぁそれが俺にとっては当たり前だ。
アイテムボックスには大量の処置道具が詰まっている。
ララを助け、べグラースの館で寝た一晩で俺の知識を元にユキミが用意しておいてくれた。
つながりがあって知識を共有していたから、今後魔法以外の継続治療で必要だろうからというユキミの素晴らしいファインプレーだ!
今でも獣人の医者、人の医者はこの世界にいるそうだ。
俺はそういう人達に少しでも進んだ治療を提示していく、そういう仕事もしていかないといけない。
以前みたいに困っている人のところにポーンとワープするわけに行かないからだ。
傷や怪我は回復魔法があるが、ウイルスや癌なんかは不治の病扱いになっているものも多そうだ。
やることは山積み、出来ることからこつこつとだ。
「しかし、ダイゴローは馬鹿ニャ! あの宝があれば一生遊んで暮らせたのニャ!
旅だって高級馬車で快適な旅が待っていたのニャ!」
「仕方ないだろ、元はといえばこの街がこんな状態になったのもベグラースのせいなんだから……」
俺はダンジョン制覇の宝を街の復興に寄付した。
少しだけ装備を整えたり、旅の準備の路銀にもらったけど……
お陰でギルドから冒険者の証ももらえた。
今後の旅の身元を証明する証になる。
冒険者としてのランクはB+、ダンジョン制覇するとSSは間違いないそうだけど……
今の俺は前の力はない。日本にいたときとほとんど変わらない。
本来のギルドでの昇格テストを受けさせてもらい、このランクと認められた。
まぁ、B+ってのも結構凄いらしいんだけど。
「おーい! ダイゴロー!!」
街の出口に嬉しいことに見送りの人達が集まっていた。
緑の風の皆さんに、ギルドマスター、町長、それにお世話になった宿の人、たくさん食事した酒場のマスター、それに街の人々も多く集まってくれている。
「気をつけていけよ!」
「ダイゴロー殿、街の復興全力を尽くす! また戻ってきたら必ずよってくれ!
本当にありがとう!!」
「街の救世主の門出だ! 盛大にやるぞ!」
マスタフさんの合図で空に花火まであがる。
こんなに祝福されたことは、生まれてこの方一度もない……
「なんだ、また泣いているのかダイゴローお主は本当に泣き虫じゃのー」
ウォーさんにからかわれてしまったが、本当に嬉しい。
「これ、道中で食べなさい」
マスターが保存食一式と弁当を渡してくれる。
「みんな、ありがとう! それじゃぁ行ってきます!」
俺は何度も振り返り街の人達が見えなくなるまで手を振り続けた……
「もう、疲れたニャ……」
歩きだして3時間ほどでユキミが文句を言い始める。
森の中の道を最初、興味深そうに大はしゃぎしたりするからだよ……
「ほら、ユキミもう少しちゃんと歩いてよ……ユキミだって冒険者だろー、しかもランクAの……」
「私は僧侶としての能力でランクAニャ、肉体労働が専門じゃないニャ……」
いや、肉弾戦でもAランクになれるって太鼓判押されてただろ……
言い返したいがぐっと堪える。
へそを曲げられても面倒くさい……
ユキミは可愛らしい外見と違って、中身は猫そのものだ。
気分屋で、めんどくさがりで、そのくせ甘え上手で、可愛くて……
勤勉さは力と一緒に『穢』に吸い取られたかのようだ……
「そしたら地図によるともう少し行くと湖が見えてくるから、そこで昼食にしよう」
「!! マスターのお弁当ニャ! わかったニャ! ほらほらダイゴロー早く早く!!」
だらんとたれていた尻尾がピンと立つ。まったく現金なやつだ……
「ダイゴロー、バカ猫にも伝えろ。敵意だ」
頭上から助言される。
「ユキミ! 気をつけて! 敵襲かも!」
「フニャ?」
俺の声と同時に森から何かが飛び出してくる!
「猫?」
猫型獣人と言うやつか、ユキミはほぼ人で猫耳と尻尾だけだが、本来のネコ型獣人は猫の顔で腕なんかも毛でふさふさ、するどい爪と素早い動きで、冒険者にも多くいた。
「食料を寄越せ!!」
敵の数は5人、厄介なことに前後を挟まれている。
「お前らはすでに囲まれている! 諦めて食料を寄越せ!」
「食料なら町へ行けば買えるだろ! なぜわざわざこんな手段を取る?」
「うるさい!! 俺達『病付き』だ! 街へは入れてもらえない!!
ああ、なんだ貴様はイライラする!! さっさと食料を寄越せ!!」
さらっと酷いことを言われた。泣きたい。
確かにこの獣人はやせ細っているし、目も血走っている、というか炎症を起こしているな。
さらに、鼻声だし妙によだれが多い、時折口を痛そうにもしている。
「なぁ、君たちは何人居るんだ? 皆同じ症状なのか?」
「ごちゃごちゃうるさい! さっさと……」
「大事なことだ! ちゃんと答えてくれ、そうすれば食料を分けてもいい。
言っておくが、俺はB+、そっちのユキミはAランクの冒険者だぞ?」
「A!? やばいよニーちゃん!」
背後の獣人が明らかに動揺した声をあげる。
「ば、ばかカルラ! 堂々としていろ! ハッタリだ!」
「ハッタリじゃ、ない……ニャ!!」
ユキミが魔法の仕上げに入る。
森から伸びていた蔓がゆっくりと獣人達の足元に広がって、一気に身体に巻き付く。
これで5人共完全に行動不能だ。
「な、なんだこれ!?」
「ニーちゃん助けてー!」
落ち着いてみると目の前で交渉していた獣人以外まだ若そうだ。
5人を縛り上げて一箇所にまとめる。
するどい爪で蔦を切られないように気をつけて拘束している辺りは流石だ。
「いつの間に! お前ら打ち合わせしてないじゃないか! ずるいぞ!」
「ふふふ、俺らにも色々あるのだ」
まぁ、ユキミと俺とネズラースは繋がっているんだ。
簡単に言えば念話みたいなことが出来る。
『本当の敵』の耳と目は世界中にあるらしい、俺達は今のところ相手にはされていないから平気だけど、『本当の敵』についての会話や行動をすればすぐに見つかってしまう。
偶然できたこの繋がりだが、この繋がりによる念話は目や耳を欺ける。
俺らには非常に重要な能力だ。
ちょっと離れるとすぐに使えなくなってしまうんだけどね。
「さて、そしたらちゃんと話を聞かせてもらおうか。
さっきも言ったけど、場合によっては食事を分けてもいいからさ」
俺は縛り上げた5人に優しく問いかける。
「うるさい! 不愉快なんだよお前の声は!」
泣きたいのをこらえて、診療開始だ。
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