ぼっちの俺、居候の彼女
act.27/支配少女
転校生がやってきて3日、そのうち1日を俺は休み、今日は登校した。
夏の音楽祭で得た収入は思いのほか少なく、次のビッグイベントであるM13秋に向けたサークル活動にメンバー一同躍起になっている。
それでもまぁ、輝流のおかげでノーパソを持ち込んでも俺も何も言われないから作業できるし、教室で1人、俺はヘッドホンを付けながらパソコンの画面を見ていた。
気持ちのいい朝だなぁ、しかも学校でパソコン付けてて良いなんて最高だろ……とか思っていると、俺の前に2人の男が現れる。
両方知人だし、片方本当は女だし、コイツらは名前で呼んだ方がわかりやすいな。
俺はヘッドホンを外し、2人の顔を見た。
「なんだよ一弥、輝流?」
「なんだよ、じゃねーよ。お前、教室が見えねぇのか?」
「?」
一弥は鬼気迫る表情で言ってるが、俺にはよくわからん。
教室を見渡すと、人が一箇所に集まっている。
その中心に居たのは、確か転校生だった黒髪の女だ。
「モテるねぇ、あの子」
「アレはモテてるんじゃないんだよ」
輝流が俺の言葉を否定し、机に座って来る。
そして俺のパソコンに手をやり、メモ帳を開いて文字を打った。
片手で逆向きに文字を打つ彼女にさすがと言ってやりたかったが、俺はパソコンに映された文字を見て言葉を失った。
〈みんな洗脳された〉
短く書かれたその言葉の意味の深刻さはすぐに理解できた。
しかし、意味がわからない。
アイツはこの学校に来て3日のはずだ、それでクラスのほとんどを洗脳だと?
〈どういうことだ?〉
俺もメモ帳に文字を打つ。
輝流はエンターを押して改行し、答える。
〈彼女は口調や仕草が不気味だった。だからみんな彼女を怖れた。実際昨日、彼女は男子生徒に靴を舐めろとクラスの中で命令し、他のクラスメイトとかを巻き込んで従わせた。それからは彼女の独壇場で、手当たり次第クラスメイトを友達呼ばわりして、周りを固めて、今では誰も逆らえなくなってる〉
〈なんでだよ、寧ろみんなでアイツイジメればいいじゃん〉
〈無理だよ。彼女は仲間内で独自のルールを作ってる。裏切り者には制裁を、だから誰も言い出せない〉
〈へぇ……〉
なんだか、とんでもない奴が転校してきたみたいだ。
人を巧みに操るマインドコントロール術、しかも妖しい感じの美女。
でも俺には関係ないしな。
「ほっとけよ。俺達は俺達だ。高徳者の俺達が、アイツと関わるか?」
「利明、お前はいつから悟りを開いたんだ」
「思い上がりも甚だしいよねーっ!」
2人揃ってバカにしてくる。
コイツらホント失礼……。
朝のHRが始まるまで俺達は無難に会話をして過ごし、バカを言い合って居た。
その姿を、あの女が見ているとも知らずに――。
○
放課後――今日は会議だ。
また今度3人で何かしようということで、中身を決めたいのだ。
近場だとあの黒髪女が居て落ち着かないだろうと予想し、俺達は一駅離れた駅近ファミレスでテーブルを1つ占領する。
「ボクはパフェだけ食べれればいいや……利明くんの奢りで」
「テメー俺より金持ってんだろ。お前が奢れ、俺はドリンクバーだけで構わん」
「じゃ、俺は利明に奢ってもらうか」
「テメーら……」
目の前に座る、聞く耳持たない2人に向けて顔をしかめるも、身長差のある男子2人は笑うのだった。
そのうち片方、本来ならスカートを履く奴は甘党で、女の子っぽさがあった。
女だと思えば普通に輝流は可愛いし、一弥は気にならんのだろうか?
「おい一弥、テメー随分と輝流と仲良いじゃねぇか。もしや付き合って――」
「ボクは男だよ? そんな事ないから」
「そうだぞ利明、何を言ってるんだ」
「…………」
どうやら、輝流が本当は女である事は禁句らしい。
そんならもういいや……。
俺はドリンクバーだけ、輝流はパフェ、一弥は一番高いステーキ定食をライス大盛りで頼むのだった。
一弥……いつかブン殴るからな……。
「……でさぁー、ボクとしては、黒針香弧をブッ潰したいんだよねー」
「誰だよソイツ」
「……利明くんってば、本当に人の名前覚えないよね。あの転校生だよ、サードウェーブの人」
「転校生か。けど、サードウェーブってなんだよ」
知らない単語が輝流の口から飛び出し、俺は一弥の方に回答を求めた。
彼は億劫そうに俺の目を見て答える。
「ザ・サードウェーブ……1969年に米国の高校で行われた化学実験だ。クラス全員に同一の知識とルールを与えると、そのクラスは2日でそのルール通りに動く兵士になる。ルールは細かく、見出すものには例え友達同士でも遠慮なく制裁を与え、さらには他クラスにまで勧誘を行う始末……。転校生の黒針がやってるのはそれだ。狭い空間で同一知識を与える集団心理。ただ、おそらく彼女の作るルールはそこまで非道じゃないだろう。日本の警察は賢いから、少し事件性があれば調査に来るはずだしな」
長い説明だったが、噛み砕いて考えると、昔あった化学実験と黒針がやってる事は同じって事だ。
説明を聞き終えると、輝流がクスリと笑う。
「さしずめ女王様なんだよ、黒針は。人を丸め込むなんて、やり方を知ってれば簡単さ。ボクはもちろん、やろうと思えば一弥くんにもできる。けどボクらは、ゴミを寄せつけるなんて自分を汚す真似しないから」
「でも潰したいんだよな? って事は、輝流にとってあの女は驚異なのか?」
「全然そんな事はないよ? もう彼女のスマフォと自宅PCに不正して脅せる情報はゲットしたし。ただ、やっぱり気持ち悪いじゃん? あの子は転勤族だからすぐ転校するんだろうけど、それまでボク達以外のみんなが彼女の奴隷、別世界なんだよ。ウザいから潰そー♪」
笑顔で酷い事を言う輝流だが、丁度パフェが来て花が咲くように眩しい笑顔を見せるのだった。
そんなこんなで3人意見を出し合い、黒針を潰すプランを20分経らずで練り上げるのだった。
目の前の2人が天才過ぎるせいで俺は殆ど何も言わなかったが、勝手に潰してくれと思っていた。
△
それから1ヶ月が経った。
この間、俺達3人に何かがあった訳ではない。
ただ、クラスが元に戻っただけだ。
教師にすら恐れられる存在の輝流、成績優秀スポーツ万能の一弥、彼等は残り1年ちょっとの中学校生活をどうするか、一人一人に問いただしたのだ。
そして、黒針に付き従わないなら輝流がネット危害を加えない事を約束させ、黒針との関係を絶たせていった。
洗脳がまだ3日目だった事が功を成したようで、クラスには平穏が訪れる。
結果として、黒針は孤立した。
建設的な関係の友人が居なかったこと、マインドコントロールを避けられる事から、誰も彼女に話し掛けなかった。
それは俺達でさえ、そうだ。
「……なんだか可哀想だよな」
ポツリと俺が呟くと、その意図を瞬時に察した輝流が俺の頭を掴む。
「何しやがる」
「利明くんは筋金入りのお人好しだからそう思うのかもしれないけど、もしボク達がクラスメイトを助けてなかったら、どうなってたかわかる? 彼等は1ヶ月マインドコントロールを受けると数年元に戻らず、若くて大事な時期を棒に振ってしまう。この国の若者がダメになって困るのはボク達なんだ。それがわかんないの?」
「だからって友達欲しがってる奴がぼっちになるのは見てらんねー。俺みたいになりたくてぼっちやってたのと違うなら、なおさらな」
俺は輝流の手をどけ、立ち上がった。
後ろから制止する声が聞こえる。
でもあえてそれを無視し、俺は黒針の前に立った。
「黒針、お前――俺と友達になれよ」
思えばこの言葉が全ての元凶だったのかもしれない。
この時から春のあの日まで、あっという間に感じたんだ。
△
11月――俺は輝流達と遊ぶ一方で、彼等と居ない時は黒針に積極的に話し掛けた。
初めは輝流達とつるむ俺を警戒して居たが、俺は俺だと理解してくれて、一緒に帰ったりするようになった。
輝流と一弥は俺を止めたが、一弥は俺の事を諦めて何も言わなくなった。
しかし、輝流はずっと俺に、黒針と接近するのをやめろと言い続けた。
何故そこまで頑なに彼女を拒むのか――いや、そうじゃなかったんだ。
輝流は俺に、他の女子と話して欲しくないだけどと、一弥から教えられて、彼女の気持ちにも気付く。
でも俺は津月にすらまともな返事を返せなかったんだ。
津月を差し置いて輝流の気持ちに応えてやる事も出来ないし、自分の気持ちがどうかもわからなかった。
そして――3月。
黒針からも告白を受けてしまい、俺はどうしたらいいか、わからなくなってしまった。
夏の音楽祭で得た収入は思いのほか少なく、次のビッグイベントであるM13秋に向けたサークル活動にメンバー一同躍起になっている。
それでもまぁ、輝流のおかげでノーパソを持ち込んでも俺も何も言われないから作業できるし、教室で1人、俺はヘッドホンを付けながらパソコンの画面を見ていた。
気持ちのいい朝だなぁ、しかも学校でパソコン付けてて良いなんて最高だろ……とか思っていると、俺の前に2人の男が現れる。
両方知人だし、片方本当は女だし、コイツらは名前で呼んだ方がわかりやすいな。
俺はヘッドホンを外し、2人の顔を見た。
「なんだよ一弥、輝流?」
「なんだよ、じゃねーよ。お前、教室が見えねぇのか?」
「?」
一弥は鬼気迫る表情で言ってるが、俺にはよくわからん。
教室を見渡すと、人が一箇所に集まっている。
その中心に居たのは、確か転校生だった黒髪の女だ。
「モテるねぇ、あの子」
「アレはモテてるんじゃないんだよ」
輝流が俺の言葉を否定し、机に座って来る。
そして俺のパソコンに手をやり、メモ帳を開いて文字を打った。
片手で逆向きに文字を打つ彼女にさすがと言ってやりたかったが、俺はパソコンに映された文字を見て言葉を失った。
〈みんな洗脳された〉
短く書かれたその言葉の意味の深刻さはすぐに理解できた。
しかし、意味がわからない。
アイツはこの学校に来て3日のはずだ、それでクラスのほとんどを洗脳だと?
〈どういうことだ?〉
俺もメモ帳に文字を打つ。
輝流はエンターを押して改行し、答える。
〈彼女は口調や仕草が不気味だった。だからみんな彼女を怖れた。実際昨日、彼女は男子生徒に靴を舐めろとクラスの中で命令し、他のクラスメイトとかを巻き込んで従わせた。それからは彼女の独壇場で、手当たり次第クラスメイトを友達呼ばわりして、周りを固めて、今では誰も逆らえなくなってる〉
〈なんでだよ、寧ろみんなでアイツイジメればいいじゃん〉
〈無理だよ。彼女は仲間内で独自のルールを作ってる。裏切り者には制裁を、だから誰も言い出せない〉
〈へぇ……〉
なんだか、とんでもない奴が転校してきたみたいだ。
人を巧みに操るマインドコントロール術、しかも妖しい感じの美女。
でも俺には関係ないしな。
「ほっとけよ。俺達は俺達だ。高徳者の俺達が、アイツと関わるか?」
「利明、お前はいつから悟りを開いたんだ」
「思い上がりも甚だしいよねーっ!」
2人揃ってバカにしてくる。
コイツらホント失礼……。
朝のHRが始まるまで俺達は無難に会話をして過ごし、バカを言い合って居た。
その姿を、あの女が見ているとも知らずに――。
○
放課後――今日は会議だ。
また今度3人で何かしようということで、中身を決めたいのだ。
近場だとあの黒髪女が居て落ち着かないだろうと予想し、俺達は一駅離れた駅近ファミレスでテーブルを1つ占領する。
「ボクはパフェだけ食べれればいいや……利明くんの奢りで」
「テメー俺より金持ってんだろ。お前が奢れ、俺はドリンクバーだけで構わん」
「じゃ、俺は利明に奢ってもらうか」
「テメーら……」
目の前に座る、聞く耳持たない2人に向けて顔をしかめるも、身長差のある男子2人は笑うのだった。
そのうち片方、本来ならスカートを履く奴は甘党で、女の子っぽさがあった。
女だと思えば普通に輝流は可愛いし、一弥は気にならんのだろうか?
「おい一弥、テメー随分と輝流と仲良いじゃねぇか。もしや付き合って――」
「ボクは男だよ? そんな事ないから」
「そうだぞ利明、何を言ってるんだ」
「…………」
どうやら、輝流が本当は女である事は禁句らしい。
そんならもういいや……。
俺はドリンクバーだけ、輝流はパフェ、一弥は一番高いステーキ定食をライス大盛りで頼むのだった。
一弥……いつかブン殴るからな……。
「……でさぁー、ボクとしては、黒針香弧をブッ潰したいんだよねー」
「誰だよソイツ」
「……利明くんってば、本当に人の名前覚えないよね。あの転校生だよ、サードウェーブの人」
「転校生か。けど、サードウェーブってなんだよ」
知らない単語が輝流の口から飛び出し、俺は一弥の方に回答を求めた。
彼は億劫そうに俺の目を見て答える。
「ザ・サードウェーブ……1969年に米国の高校で行われた化学実験だ。クラス全員に同一の知識とルールを与えると、そのクラスは2日でそのルール通りに動く兵士になる。ルールは細かく、見出すものには例え友達同士でも遠慮なく制裁を与え、さらには他クラスにまで勧誘を行う始末……。転校生の黒針がやってるのはそれだ。狭い空間で同一知識を与える集団心理。ただ、おそらく彼女の作るルールはそこまで非道じゃないだろう。日本の警察は賢いから、少し事件性があれば調査に来るはずだしな」
長い説明だったが、噛み砕いて考えると、昔あった化学実験と黒針がやってる事は同じって事だ。
説明を聞き終えると、輝流がクスリと笑う。
「さしずめ女王様なんだよ、黒針は。人を丸め込むなんて、やり方を知ってれば簡単さ。ボクはもちろん、やろうと思えば一弥くんにもできる。けどボクらは、ゴミを寄せつけるなんて自分を汚す真似しないから」
「でも潰したいんだよな? って事は、輝流にとってあの女は驚異なのか?」
「全然そんな事はないよ? もう彼女のスマフォと自宅PCに不正して脅せる情報はゲットしたし。ただ、やっぱり気持ち悪いじゃん? あの子は転勤族だからすぐ転校するんだろうけど、それまでボク達以外のみんなが彼女の奴隷、別世界なんだよ。ウザいから潰そー♪」
笑顔で酷い事を言う輝流だが、丁度パフェが来て花が咲くように眩しい笑顔を見せるのだった。
そんなこんなで3人意見を出し合い、黒針を潰すプランを20分経らずで練り上げるのだった。
目の前の2人が天才過ぎるせいで俺は殆ど何も言わなかったが、勝手に潰してくれと思っていた。
△
それから1ヶ月が経った。
この間、俺達3人に何かがあった訳ではない。
ただ、クラスが元に戻っただけだ。
教師にすら恐れられる存在の輝流、成績優秀スポーツ万能の一弥、彼等は残り1年ちょっとの中学校生活をどうするか、一人一人に問いただしたのだ。
そして、黒針に付き従わないなら輝流がネット危害を加えない事を約束させ、黒針との関係を絶たせていった。
洗脳がまだ3日目だった事が功を成したようで、クラスには平穏が訪れる。
結果として、黒針は孤立した。
建設的な関係の友人が居なかったこと、マインドコントロールを避けられる事から、誰も彼女に話し掛けなかった。
それは俺達でさえ、そうだ。
「……なんだか可哀想だよな」
ポツリと俺が呟くと、その意図を瞬時に察した輝流が俺の頭を掴む。
「何しやがる」
「利明くんは筋金入りのお人好しだからそう思うのかもしれないけど、もしボク達がクラスメイトを助けてなかったら、どうなってたかわかる? 彼等は1ヶ月マインドコントロールを受けると数年元に戻らず、若くて大事な時期を棒に振ってしまう。この国の若者がダメになって困るのはボク達なんだ。それがわかんないの?」
「だからって友達欲しがってる奴がぼっちになるのは見てらんねー。俺みたいになりたくてぼっちやってたのと違うなら、なおさらな」
俺は輝流の手をどけ、立ち上がった。
後ろから制止する声が聞こえる。
でもあえてそれを無視し、俺は黒針の前に立った。
「黒針、お前――俺と友達になれよ」
思えばこの言葉が全ての元凶だったのかもしれない。
この時から春のあの日まで、あっという間に感じたんだ。
△
11月――俺は輝流達と遊ぶ一方で、彼等と居ない時は黒針に積極的に話し掛けた。
初めは輝流達とつるむ俺を警戒して居たが、俺は俺だと理解してくれて、一緒に帰ったりするようになった。
輝流と一弥は俺を止めたが、一弥は俺の事を諦めて何も言わなくなった。
しかし、輝流はずっと俺に、黒針と接近するのをやめろと言い続けた。
何故そこまで頑なに彼女を拒むのか――いや、そうじゃなかったんだ。
輝流は俺に、他の女子と話して欲しくないだけどと、一弥から教えられて、彼女の気持ちにも気付く。
でも俺は津月にすらまともな返事を返せなかったんだ。
津月を差し置いて輝流の気持ちに応えてやる事も出来ないし、自分の気持ちがどうかもわからなかった。
そして――3月。
黒針からも告白を受けてしまい、俺はどうしたらいいか、わからなくなってしまった。
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