ぼっちの俺、居候の彼女
act.13/親友だよ
リビングに3人と穏やかなBGMを鳴らすmp3プレーヤーが置いてあった。
四角いローテーブルの中央にはプレーヤーと茶請けに饅頭が皿の上に乗っており、俺と美頭姫、津月が眺めている。
「ではでは、お二人の馴れ初めをお聞かせ願おうか」
なんのキャラだかわからないが、伊達メガネを掛けた津月はフレームをクイッと上げて話を切り出した。
俺と美頭姫の出会いを聞きたいらしいが、ふむ……。
「1週間ぐらい前に、教室で突然、俺んちに居候させて欲しいって頼んできて、それから居候する理由は解消させたんだけど、なんとなく一緒に暮らしてる。以上」
「馴れ初めから今日までのことは、そのくらいだよね」
俺の話に美頭姫も納得して頷く。
思った以上に語る事が無いし。
「えー……それでは質問です。お二人は、交際しているので?」
「してねーよ」
「……私はして欲しいんだけどな?」
「ふざけんな、お前と付き合ったら今度は1500万じゃ済まされねぇ、ああ恐ろしい」
「うぅ……」
1500万という単語を出すと、美頭姫は俯いて黙り込んでしまう。
しかし津月は逆に、何かが閃いたようだった。
テーブルに手をついて立ち上がり、俺に向けて指をさす。
「とっしぃー! お金で女の子を買うなんて、見損なったよっ!!」
「そうか。じゃあ帰っていいぞ」
「えっ!? 否定しないの!? 本当に買ったの!!?」
「まぁそんな感じ」
コップを手に取り、麦茶を口に含む。
驚愕で石像のように固まった津月に、美頭姫がフォローを入れた。
「ツッキー、あのね……利明はうちの借金を肩代わりしてくれたの。利明は最低なんかじゃないからね?」
「……ほほう。借金の肩代わり、そう……。とっしぃーは女の子に甘いからねぇ〜、下心満載だったりして……」
「下心あったらお前ら2人、とっくに襲ってるわ」
『!!?』
2人して赤面し、口をわなわなさせながら自分の体を抱きしめていた。
だから興味ねぇつってんだろ。
「津月はさ、これからどうすんの?」
ここらで話題を変えてみる。
アイドルをやめたコイツの今後が少し気になった。
しかし津月は自分を抱きしめ、くねくねしながら
「イヤん、とっしぃー……これからは私とずっと一緒、2人で濡れ合う生活を送るなんて……」
なんか妄想を垂れ流していた。
どうやら壊れてしまったらしい。
「……美頭姫。お前も、これからどうすんだよ? うちに居るんだろうけど、暇ならなんかすれば?」
「そうね。試験が終わるまでに考えとくよ」
美頭姫は素直に検討してくれるようだ。
津月みたいに妄想爆発しないらしく、流石成績のいい女は違う。
それからはもう、ただの駄弁大会で、世間話や津月のアイドル裏事情なんかを聞いたりして時間を潰した。
「実は私、作曲できません!」
と、シンガーソングライターアイドルは堂々と宣言する。
美頭姫は驚いていたが、俺は知っていた。
というかそもそも、曲作りには様々なスキルがいるので、アイドルみたいな歌と踊り、津月なら作詞もしなければならず、作曲の腕を磨く余裕などない。
「そ、そうなの? もし本当なら、凄いスキャンダルになるんじゃ……」
「もうアイドルやめたも〜ん♪ テレビには何回かお呼ばれするかもしれないけどね。曲の方は実際、マネージャーがプロの人から買ってたらしいよ? ハンドルネームはえみえみっていう人みたい?」
「えみえみ……?」
何かわかったのか、美頭姫が目だけ俺に向ける。
なんだよ、俺はメイメイさんだぞ。
meimeiの子音を入れ替えてemiemiにするとか、英語覚えたての中学生じゃあるまいし。
「あーあっ、どーせならとっしぃーに作曲して欲しかったなーっ。マネージャーがさ、ただの高校生の実力なんて信用出来ない、だって。私だって高校生なのにな〜……」
「…………」
津月の愚痴を聞くと、また美頭姫が睨んでくる。
匿名でマネージャーに作曲させてくださいってサンプル贈ってオーケー貰ったなんて、そんなことあるわけないだろ。
俺がプイッとそっぽを向くと、美頭姫が俺の頭を鷲掴みする。
こめかみに爪が食い込んでめっちゃ痛いです。
「なんですか美頭姫さん、やめてください」
「……しょーじきに言えば、許してあげるよ?」
「TPOを弁えたまえ、俺がそれを言うにはまだ早すぎる」
「……。はぁっ。利明はそうやって女の子の気持ちを弄んで生きていくんだね。酷いよ、ほんと」
「遊んでません遊んでません。だから手を離して血が出そうっ!」
必死に頼むと、漸く手を離してもらえた。
いてぇ……指で触ったら、爪痕めっちゃ残ってるし。
「……どうしたの?」
何も知らない津月は目をパチクリさせ、俺たちを見て居るのだった。
無垢って良いな……。
○
なんだかんだで夕暮れ時になる。
飯食ってくか聞けば、津月は日が沈むまでに帰りたいらしい。
でも今は彼女も一人暮らしらしく、家の場所を聞けば、ここから歩いて5分の駅に近いマンションらしい。
送って送ってとうるさく、家に美頭姫を残して俺は津月と一緒に外に出る。
茜色の空と黄色い夕日、澄み渡った空は今日も綺麗で風は少し冷たかった。
メガネをし、髪を解いた津月と並んで道を歩く。
住宅街のため、人通りも車の通りも少なく、静かな道のりだった。
「なんで嫌われるようなことしてるの?」
突然、津月は空を見ながら尋ねてきた。
嫌われるような――誰に対して?
決まってる、妹だ。
「お前、俺とは連絡絶ってたくせに、揚羽とは連絡取ってたんだな」
「……揚羽ちゃんが、兄さんは最低な人だって、相談してきたよ。母親が病気でいつ死ぬかわからないのに、逃げ出したって。でも、利明はあの頃からちっとも変わってない、人を救うために生きている人。人の幸せを喜べる人だった。私がとっしぃーに連絡しなかったのはね、聞いてもはぐらかされるって、わかってたから。それに、もし私が聞いたら、絶対揚羽ちゃんに言っちゃうもん……」
「…………」
ポンッと、寂しげな顔をする津月の頭に手を置いた。
よしよしと頭を撫でると、小さな彼女はクスリと笑う。
「なぁに、とっしぃー?」
「いや……お前にまで気を遣わせて、悪いと思ってな。お前は紛れもなく俺の親友だよ、サンキュ」
「親友だよ。そうじゃなきゃ、此処に戻ってこなかった」
そう言って彼女は、人差し指で俺の心臓部に手を当てる。
それは言い過ぎだと思い、俺はその手を払う。
「此処ってどこだよ、俺の心にお前なんて居ねぇぞ」
「うわっ、酷い! 超絶美少女の私を心の片隅にも置いてないなんて!」
「自分で美少女って言うなよ。台無しだぞ?」
「ふふんっ。だって事実だしー♪」
満面の笑顔を見せる彼女につられて俺もまた笑う。
なんだかんだで、周りの奴に俺は恵まれてるのかもしれない。
父は税理士、親友は元アイドル、資格をたくさん持ってる勉強家。
後は揚羽が俺を好きでいてくれれば、文句ねぇのに。
「……ねぇ、とっしぃー」
「あん?」
「うちに上がって行かない? お茶ぐらい出すよ?」
「今日はやめとくわ。美頭姫が文句言いそうだし」
「……私より、美頭姫ちゃんを取るの?」
上目遣いで、もともと無い距離を1歩踏み出して首を傾げる津月。
可愛い仕草だった。
流石は元アイドルというか、男がグッとくる態度を心得ている。
「俺は、誰も取らねぇよ。最近の女子は肉食過ぎてうんざりしてるんだ」
「え〜? じゃあツッキー、草食になるお☆ サラダだーーーい好き!」
「おう。今度うちでメシ作ってやるから、その時また遊びに来い」
「うむっ! その時は録音機材一式持っていくから、一曲作ろうねっ!」
「……元アイドルと曲作り、だと? これは儲け話の予感――」
バシッと脳天にチョップを貰う。
力が弱いのか、あまり強くなかった。
こんなに痛くないと、かえって反応できず、無言になる。
すると津月と目が合い、なんだかおかしくなって、2人で笑い合った。
そして、確信する。
「やっぱお前、友達止まり――へぶっ!!?」
言い終える前にビンタを喰らう。
それから津月はプンスカ大股歩きで帰って行った。
○○○
帰ってくる頃には日が暮れていた。
旧友と再会したせいか、創作意欲が湧いて曲のイメージとリズムを次々と作り出し、パソコンに保存して行く。
美頭姫は相変わらず、ローテーブルで勉強していた。
今日はアイデアが出るからと食事は出前か何かで済ますよう伝えると、彼女は悲しげに、そう、とだけ呟いてヘッドホンを付けていた。
怒らせるようなことをしたつもりはないが、機嫌を損ねているようだった。
女心は秋の空というし、そのうち元に戻るだろう。
俺は20時半まで打ち込みをし、ひと段落すると上着を手に取った。
今日もメシは無いし、コンビニに行こう。
今日はアイツがシフト入ってる日だし。
「美頭姫〜」
リビングに出て彼女の名をいうも、ローテーブルに手を置く彼女はカリカリとシャーペンを走らせるばかりで、視線はノートに釘付けだった。
そういえばヘッドホンをしてるんだった、めんどくせぇ。
トントンと彼女の肩を叩くと、美頭姫は普段俺がするような仕草でヘッドホンを首に掛け、俺の顔を覗く。
「どうしたの?」
「コンビニ行ってくるけど、なんか欲しいもんあるか?」
「コンビニ? 甘いものが欲しいかなぁ……。板チョコとか、グミとか、美味しそうなの」
「こんな時間から食うと太るぞ?」
「その言葉、私以外の女の子に言ったらブン殴られてるよ? 私も本当はブン殴りたいけど、大人なので我慢しますっ」
暴力振るわない日がない女がなんか言ってる。
まぁ頼まれたからには買ってこよう。
「にしても、熱心に勉強してたな。さてはお前、優等生だろ」
「学年首位を争うぐらいには、優秀だよ? ふふん、惚れても良いのだぞ?」
「わーほれたー。じゃあ行ってくる」
「…………」
背中を向けた瞬間、肋骨あたりを殴られた。
結局殴るんじゃないか……と思ったが、美頭姫も元気なようで安心するのだった。
四角いローテーブルの中央にはプレーヤーと茶請けに饅頭が皿の上に乗っており、俺と美頭姫、津月が眺めている。
「ではでは、お二人の馴れ初めをお聞かせ願おうか」
なんのキャラだかわからないが、伊達メガネを掛けた津月はフレームをクイッと上げて話を切り出した。
俺と美頭姫の出会いを聞きたいらしいが、ふむ……。
「1週間ぐらい前に、教室で突然、俺んちに居候させて欲しいって頼んできて、それから居候する理由は解消させたんだけど、なんとなく一緒に暮らしてる。以上」
「馴れ初めから今日までのことは、そのくらいだよね」
俺の話に美頭姫も納得して頷く。
思った以上に語る事が無いし。
「えー……それでは質問です。お二人は、交際しているので?」
「してねーよ」
「……私はして欲しいんだけどな?」
「ふざけんな、お前と付き合ったら今度は1500万じゃ済まされねぇ、ああ恐ろしい」
「うぅ……」
1500万という単語を出すと、美頭姫は俯いて黙り込んでしまう。
しかし津月は逆に、何かが閃いたようだった。
テーブルに手をついて立ち上がり、俺に向けて指をさす。
「とっしぃー! お金で女の子を買うなんて、見損なったよっ!!」
「そうか。じゃあ帰っていいぞ」
「えっ!? 否定しないの!? 本当に買ったの!!?」
「まぁそんな感じ」
コップを手に取り、麦茶を口に含む。
驚愕で石像のように固まった津月に、美頭姫がフォローを入れた。
「ツッキー、あのね……利明はうちの借金を肩代わりしてくれたの。利明は最低なんかじゃないからね?」
「……ほほう。借金の肩代わり、そう……。とっしぃーは女の子に甘いからねぇ〜、下心満載だったりして……」
「下心あったらお前ら2人、とっくに襲ってるわ」
『!!?』
2人して赤面し、口をわなわなさせながら自分の体を抱きしめていた。
だから興味ねぇつってんだろ。
「津月はさ、これからどうすんの?」
ここらで話題を変えてみる。
アイドルをやめたコイツの今後が少し気になった。
しかし津月は自分を抱きしめ、くねくねしながら
「イヤん、とっしぃー……これからは私とずっと一緒、2人で濡れ合う生活を送るなんて……」
なんか妄想を垂れ流していた。
どうやら壊れてしまったらしい。
「……美頭姫。お前も、これからどうすんだよ? うちに居るんだろうけど、暇ならなんかすれば?」
「そうね。試験が終わるまでに考えとくよ」
美頭姫は素直に検討してくれるようだ。
津月みたいに妄想爆発しないらしく、流石成績のいい女は違う。
それからはもう、ただの駄弁大会で、世間話や津月のアイドル裏事情なんかを聞いたりして時間を潰した。
「実は私、作曲できません!」
と、シンガーソングライターアイドルは堂々と宣言する。
美頭姫は驚いていたが、俺は知っていた。
というかそもそも、曲作りには様々なスキルがいるので、アイドルみたいな歌と踊り、津月なら作詞もしなければならず、作曲の腕を磨く余裕などない。
「そ、そうなの? もし本当なら、凄いスキャンダルになるんじゃ……」
「もうアイドルやめたも〜ん♪ テレビには何回かお呼ばれするかもしれないけどね。曲の方は実際、マネージャーがプロの人から買ってたらしいよ? ハンドルネームはえみえみっていう人みたい?」
「えみえみ……?」
何かわかったのか、美頭姫が目だけ俺に向ける。
なんだよ、俺はメイメイさんだぞ。
meimeiの子音を入れ替えてemiemiにするとか、英語覚えたての中学生じゃあるまいし。
「あーあっ、どーせならとっしぃーに作曲して欲しかったなーっ。マネージャーがさ、ただの高校生の実力なんて信用出来ない、だって。私だって高校生なのにな〜……」
「…………」
津月の愚痴を聞くと、また美頭姫が睨んでくる。
匿名でマネージャーに作曲させてくださいってサンプル贈ってオーケー貰ったなんて、そんなことあるわけないだろ。
俺がプイッとそっぽを向くと、美頭姫が俺の頭を鷲掴みする。
こめかみに爪が食い込んでめっちゃ痛いです。
「なんですか美頭姫さん、やめてください」
「……しょーじきに言えば、許してあげるよ?」
「TPOを弁えたまえ、俺がそれを言うにはまだ早すぎる」
「……。はぁっ。利明はそうやって女の子の気持ちを弄んで生きていくんだね。酷いよ、ほんと」
「遊んでません遊んでません。だから手を離して血が出そうっ!」
必死に頼むと、漸く手を離してもらえた。
いてぇ……指で触ったら、爪痕めっちゃ残ってるし。
「……どうしたの?」
何も知らない津月は目をパチクリさせ、俺たちを見て居るのだった。
無垢って良いな……。
○
なんだかんだで夕暮れ時になる。
飯食ってくか聞けば、津月は日が沈むまでに帰りたいらしい。
でも今は彼女も一人暮らしらしく、家の場所を聞けば、ここから歩いて5分の駅に近いマンションらしい。
送って送ってとうるさく、家に美頭姫を残して俺は津月と一緒に外に出る。
茜色の空と黄色い夕日、澄み渡った空は今日も綺麗で風は少し冷たかった。
メガネをし、髪を解いた津月と並んで道を歩く。
住宅街のため、人通りも車の通りも少なく、静かな道のりだった。
「なんで嫌われるようなことしてるの?」
突然、津月は空を見ながら尋ねてきた。
嫌われるような――誰に対して?
決まってる、妹だ。
「お前、俺とは連絡絶ってたくせに、揚羽とは連絡取ってたんだな」
「……揚羽ちゃんが、兄さんは最低な人だって、相談してきたよ。母親が病気でいつ死ぬかわからないのに、逃げ出したって。でも、利明はあの頃からちっとも変わってない、人を救うために生きている人。人の幸せを喜べる人だった。私がとっしぃーに連絡しなかったのはね、聞いてもはぐらかされるって、わかってたから。それに、もし私が聞いたら、絶対揚羽ちゃんに言っちゃうもん……」
「…………」
ポンッと、寂しげな顔をする津月の頭に手を置いた。
よしよしと頭を撫でると、小さな彼女はクスリと笑う。
「なぁに、とっしぃー?」
「いや……お前にまで気を遣わせて、悪いと思ってな。お前は紛れもなく俺の親友だよ、サンキュ」
「親友だよ。そうじゃなきゃ、此処に戻ってこなかった」
そう言って彼女は、人差し指で俺の心臓部に手を当てる。
それは言い過ぎだと思い、俺はその手を払う。
「此処ってどこだよ、俺の心にお前なんて居ねぇぞ」
「うわっ、酷い! 超絶美少女の私を心の片隅にも置いてないなんて!」
「自分で美少女って言うなよ。台無しだぞ?」
「ふふんっ。だって事実だしー♪」
満面の笑顔を見せる彼女につられて俺もまた笑う。
なんだかんだで、周りの奴に俺は恵まれてるのかもしれない。
父は税理士、親友は元アイドル、資格をたくさん持ってる勉強家。
後は揚羽が俺を好きでいてくれれば、文句ねぇのに。
「……ねぇ、とっしぃー」
「あん?」
「うちに上がって行かない? お茶ぐらい出すよ?」
「今日はやめとくわ。美頭姫が文句言いそうだし」
「……私より、美頭姫ちゃんを取るの?」
上目遣いで、もともと無い距離を1歩踏み出して首を傾げる津月。
可愛い仕草だった。
流石は元アイドルというか、男がグッとくる態度を心得ている。
「俺は、誰も取らねぇよ。最近の女子は肉食過ぎてうんざりしてるんだ」
「え〜? じゃあツッキー、草食になるお☆ サラダだーーーい好き!」
「おう。今度うちでメシ作ってやるから、その時また遊びに来い」
「うむっ! その時は録音機材一式持っていくから、一曲作ろうねっ!」
「……元アイドルと曲作り、だと? これは儲け話の予感――」
バシッと脳天にチョップを貰う。
力が弱いのか、あまり強くなかった。
こんなに痛くないと、かえって反応できず、無言になる。
すると津月と目が合い、なんだかおかしくなって、2人で笑い合った。
そして、確信する。
「やっぱお前、友達止まり――へぶっ!!?」
言い終える前にビンタを喰らう。
それから津月はプンスカ大股歩きで帰って行った。
○○○
帰ってくる頃には日が暮れていた。
旧友と再会したせいか、創作意欲が湧いて曲のイメージとリズムを次々と作り出し、パソコンに保存して行く。
美頭姫は相変わらず、ローテーブルで勉強していた。
今日はアイデアが出るからと食事は出前か何かで済ますよう伝えると、彼女は悲しげに、そう、とだけ呟いてヘッドホンを付けていた。
怒らせるようなことをしたつもりはないが、機嫌を損ねているようだった。
女心は秋の空というし、そのうち元に戻るだろう。
俺は20時半まで打ち込みをし、ひと段落すると上着を手に取った。
今日もメシは無いし、コンビニに行こう。
今日はアイツがシフト入ってる日だし。
「美頭姫〜」
リビングに出て彼女の名をいうも、ローテーブルに手を置く彼女はカリカリとシャーペンを走らせるばかりで、視線はノートに釘付けだった。
そういえばヘッドホンをしてるんだった、めんどくせぇ。
トントンと彼女の肩を叩くと、美頭姫は普段俺がするような仕草でヘッドホンを首に掛け、俺の顔を覗く。
「どうしたの?」
「コンビニ行ってくるけど、なんか欲しいもんあるか?」
「コンビニ? 甘いものが欲しいかなぁ……。板チョコとか、グミとか、美味しそうなの」
「こんな時間から食うと太るぞ?」
「その言葉、私以外の女の子に言ったらブン殴られてるよ? 私も本当はブン殴りたいけど、大人なので我慢しますっ」
暴力振るわない日がない女がなんか言ってる。
まぁ頼まれたからには買ってこよう。
「にしても、熱心に勉強してたな。さてはお前、優等生だろ」
「学年首位を争うぐらいには、優秀だよ? ふふん、惚れても良いのだぞ?」
「わーほれたー。じゃあ行ってくる」
「…………」
背中を向けた瞬間、肋骨あたりを殴られた。
結局殴るんじゃないか……と思ったが、美頭姫も元気なようで安心するのだった。
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