終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

番外編――騎士との話合い

――数日前に時は遡る


オルティネシア王国の大通りにあるカフェで鎧に身を包んだクリーム色の髪の少女と、この世界では珍しい黒髪の少年が対称に座っている。

鎧の少女――マレートはテーブルの上のカップを手に取ると、自分の口までそれを運び、一息付く。

そんな少女を見て、黒髪の少年――ハルトは

「・・・・・悪いな。買い物に付き合わせて」

と口を開く。

「いえ」

とだけ少女は返す。


ハルトとマレートの周りには紙袋が幾つか置いてある。

「どんな物を買えばいいか迷ってな」

「・・・・・別に、誘うなら私じゃなくてもよかったんじゃないですか?」


「・・・・・うーん」

ハルトは顎に指を当てて、眉をひそめて考える。


「・・・・・まあ、リゼッタ様が王族関係の用事で誘えなかったのは察しますが、何故私なんですか?」

「・・・・・まあ、マレートとは1回二人っきりで話してみたかったんだよ」


その言葉にマレートは頬を少し赤らめて俯いた。

「・・・・・そんな事を言わないで下さい。アデルータやリゼッタ様が嫉妬してしまいますよ」


「・・・・・女の嫉妬は怖いって言うしな・・・・・ところで、マレートはいつからリゼッタの近衛騎士団に?」


少しこの場の空気を茶化しながら、質問する。


「リゼッタ様が5歳の時です。」

「へぇー・・・・・」

とハルトは感心してから違和感に気が付く。

「ん?ちょっと待って、マレートって今何歳か聞いてもいい?」

と掌を前に出す。

「・・・・・女性に歳を聞くなて、男性としてはどうかと思いますよ。と意地悪しても、なんの得にもなりませんね。・・・・・コホン、18です」

と咳払いしてから答えた。

「・・・・・」

「ふふ、そんな驚いた顔してどうしたんですか?」

とマレートは笑顔で聞いてくる。



「・・・・・いや、マジで?何歳から騎士って務まるんだ?」


「本来なら千を超える努力が必要です・・・・・でも、私は特別なんです。代々、私の家系はこの国を守る騎士を務めてきました。その中でも、私は特別だった。同年代の子たちが必死で努力する中、私はなんの努力も無く、騎士になった。父親の権力と才能だけで・・・・・それが私なんです」


「・・・・・才能?」

「・・・・・はい。偽りの才能です。ただ、幼い頃に盗賊団を捕らえたという功績と子供にしては大人顔負けの剣の腕があった・・・・・それだけです」


途端に目の前の彼女の表情が暗くなる。

「・・・・・剣の・・・・・才能」

とハルトが呟いてマレートが顔を上げた。

「・・・・・ある人が言ってました。この世には世界に愛され、神に愛され、天に愛された人間とそうではない人間が存在していると。
産まれたその瞬間に力を与えられたものとそうではないもの・・・・・この世界は不条理で不公平、人は産まれながらにして平等ではない」 


「・・・・・それはきっと正しい事なんだろうな。それで、偽りの才能というのは?」

「・・・・・私に剣の才能なんて無いのです。ただ、産まれた環境に恵まれただけ・・・・・私は幼い頃から父親の、騎士達の戦う姿を見ていた。目に焼き付いたその姿が私の強さなんです。他人の上手いところを掠めとって集めただけで、これは私の才能じゃないんです・・・・・・・偽りの才能なんです」


ハルトは目の前のカップに入ったコヒーに似た飲み物を口へと流す。


そして、カップをテーブルに置いて


「・・・・・偽りでもいいんじゃないか?」

「え?」

マレートは驚いたようにして声を出す。

不意を突かれた

そんな感じだ。

「いや・・・・・例え偽りの才能だったとしても、その力で大切な人を守れるなら、きっとその才能に頼ってもいいんだよ」


「・・・・・・・・・」

「・・・・・きっと、俺も同じ様なものだしな」

ハルトは空を見上げる。

自分に与えられたもの力

「ナサ流剣術」

きっと、これもハルトにとっては、偽りの才能。

女性の英雄、ナサが生み出した――恐らく、何千、何万と数えられない程努力した上に完成したであろう「努力の結晶」とも呼べる力をなんの代償も無しに簡単にハルトが使っていい筈が無いのだ。


「・・・・・そう、ですね。この数十年間、共に育ってきたリゼッタ様を守る事が私の望みであり、リゼッタ様の望みを叶えることこそが私が努めるべき事だ。その為ならば、何を犠牲にしたって構わない」


マレートの眼に強い信念が宿る。


「そうだな。期待してるからな」

と微笑む。

「そろそろ時間ですし、帰りますか」

と言ってマレートは立ち上がる。


気が付くと、日が沈み始めていた。オレンジ色の光に少女の顔が照らされる。

鎧が光を反射する。

反射光に目を細めながらカップを手に取り、残りを一気に飲み干す。


そして、カップをテーブルに置いて、荷物を持って立ち上がる。

「そうだな」

少年と少女は代金を払い、揃って店を出る。




まだこの時は、あの決別の時が来るなど思いもしなかった。


夕日の光が優しく少年と少女の後ろ姿を照らす。

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