終わりゆく世界の代英雄
エルフ
「・・・・・ありえない」
と夏虫色のポニーテールのエルフの少女――エルミアはそう呟いた。
今、エルミアは矢を放って〈プーロ森林〉の方へ走って来ている者を殺そうとしている。
だが、その少年はエルミアの放った矢を剣で弾いて攻撃を防いでこちらに走って来ている。
尖った矢先に剣をタイミング良く当てて弾くなどもはや常人の域を超えている。
認めたくない。人族が自分たちエルフより優れていることなど・・・・・
「・・・・・絶対殺してやる」
と呟いて矢に風を纏わせて矢を射る。矢は風の魔法により加速して空気を切り裂き飛んで行く。
だがその少年はまた矢を弾いた。
しかも段々動きがアクロバティックになってきている。
・・・・・・・なら私の本当の力を
・・・・・・・エルフの力をなめないで!
エルミアは風の力を強めて矢を射る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
矢が飛んで来る。その矢を左斜め上に飛んで剣を右下から斜め上に斬り上げて弾く。
「はぁっ!」
金属音がなり、矢が減速してゆっくり地面に落ちていく。
ハルトは着地後、直ぐに地面を蹴って更に森までの距離を詰める。
また空気を切り裂くような音を耳が捉える。そして視界に飛んで来る矢を捉える。
・・・・・これは・・・・・オーバーミス?
と内心で呟く。飛んで来た矢はハルトの上をを軽く越えて後ろに飛んで行く。
もしかして、マレートやリゼッタたちを?
と思ったが、矢の勢いが足りていない。と思って無視する。
少し走った時、後ろで強い風が吹いた様な音がした。
ハルトは咄嗟に後ろを振り向く。
数秒前に狙いを外してハルトの上を飛んでいった矢が減速して地面に落ちる瞬間、風の回転で矢の向きが180度変わる。
矢先は完全にハルトの方を向いている。そして更に矢を纏っている風が強まり、矢は加速してハルトの頭めがけて飛んで来る。
ほんの数メートル後ろから矢が射られた様に矢は加速する。
「まじかっ」
とハルトは体を捻って体の向きを進行方向の逆に向ける。咄嗟に右腕を動かして剣を回転させて剣の腹、横の面で矢を受ける。
右手に衝撃を感じて、風の力で体ごと後方――森の方向へ数メートル吹き飛ばされる。
「うわっ」
と声が漏れる。
そのまま地面を転がる。
風で矢の軌道を変えやがった。この先にある森の方を向く。
ハルトは地面を蹴って加速する。また矢が飛んで来る。その矢はハルトより右前に大きくズレて落ちる。
が、またしても矢先が地面に接する瞬間矢が纏っている風が弾けて矢の向きが変わる。ハルトを真横から矢が襲う。
ハルトは体を捻って剣の腹で矢を受ける。数メートル左に吹き飛ぶ。
「っがっ!」
声が漏れる。
地面に体が落ちる。そしてその場所めがけて飛んで来る矢が2本。
  
ハルトは驚く。
動け!
と脳内で命令を出して飛び起きる。辛うじて2本矢を避けるが、その避けた先にも矢が1本飛んで来る。
その矢を避けることも剣で弾くことも出来ずに左肩に刺さる。
「ぐっ・・・・・」
と声が漏れる。左肩から血が流れる。
痛い。
が、痛みに耐えて矢を肩から引き抜く。
その矢を地面に投げ捨てる。
「クソかよ・・・・・」
思わず声が出てしまう。
また、矢が飛んで来る。今度は真っ直ぐにハルトの頭を狙って。
走り出してその矢を避ける。矢が地面を抉る。
また、矢が飛んで来る。次は左に大きくズレて・・・・・
そしてまたしても矢は地面に落ちる直前で向きを変える。右に軌道を変えて飛んで来る矢をハルトは左脚で地面を蹴って右に大きく飛ぶ。
ハルトから見て左側から真っ直ぐ飛んで来る矢をに対して右に大きく飛ぶ事で少し時間が生まれる。
そう。その矢に正確に反応する時間が・・・・・
左から迫る矢先を狙って剣を横にスイング。
剣の刃は矢先を捉えて弾く。着地して地面を蹴って走り出す。
これで左右からの攻撃は攻略。
また矢がオーバーで飛んで来る。ハルトは走り続ける。矢はハルトを越えて、地面に落ちる直前で方向を180度変える。迫る矢に対してハルトは体を捻って右回転斬りで矢先を弾く。
そこに矢が真っ直ぐ飛んで来る。左斜め上からの斬り下げで矢を弾く。
4連続で飛んで来る矢を水平斬り、右脚を踏み込んで右斜め斬り上げ、左脚を踏み込み左脚を軸に横に回転して前に大きく踏み込んで水平斬り、2歩踏み込んで背中から大きく垂直斬りで弾く。
1歩踏み込んで地面を蹴る。もう1歩更に踏み込んで地面を蹴る。
真っ直ぐに飛んで来る3本の矢を右脚を軸にしての回転斬り、水平斬り、左脚踏み込んでの斬り捨てで弾く
 
まだだ――
もっと・・・・・
もっと速く反応しろ・・・・・
視界は広く・・・・・素早く反応・・・・・動け、動け、動け、動け
飛んで来た矢はハルトより数メートル手前に落ちる。地面直前で風が弾けて矢がバウンドしたように矢の方向を変えて飛んで来る。
ハルトの脳裏にバウンドしたボールが浮かぶ。
直ぐに意識を切り替える。・・・・・反応!
左斜め下から剣を斜めの方向へ振り上げる。剣先で矢の側面を捉えて矢の軌道を変える。火花が散って、矢の刃が剣の刃を削っていく。
ハルトが軌道を変えた矢はそのままハルトの後方へ
〈プーロ森林〉まであと何メートルだろうか・・・・・恐らくもう100メートルを切っているだろう。
森の1番外側に立つ樹木の枝に人影を見つける。
「・・・・・アイツか」
と呟いて更に走る。
左右に分かれて2本の矢が放たれる。その矢は地面直前で風の力で直角に曲がると、ハルトめがけて飛んで来る。
右側から迫る矢を剣で弾く。左側の矢が腕に刺さる。
痛みを感じる。肉が貫かれ、血が溢れる。
それでも止まらない
目の前で放たれる3本の矢。1本目を垂直斬りで弾く。2本目の矢が右腹に刺さる。痛みを感じる。それでも勢いを止めずに走る。
3本目の矢を左脚で地面を蹴って右に避ける。体に刺さった矢を左手で引き抜いて捨てる。
約50メートル手前。
木の上から放たれた矢は風の力を纏っていなかった。これまでの矢とはスピードが異なっていてハルトは剣を水平に振るうが、タイミングがズレて振り切った後の右腕に刺さる。
「・・・・・ぐっ」
声が漏れる。
ハルトが更に近付いた所で木の上の人影は森の中に逃げる。枝から枝へ飛んで移動している。
ハルトも森の中に入る。数歩走った所で左脚で地面を蹴る。
体を捻って剣を左斜め下へ。それから「気」を纏わせて斜めに斬り上げて斬撃を飛ばす。
「気斬術・エアスラッシュ」を放つ。放たれた斬撃は木々を避けながら飛んでいき、人影が飛んで次の樹木の枝に着地する瞬間の枝を斬る。
「きゃぁぁぁぁぁ」
と女性の声が森に響きながら落下していく。
ハルトは人影が落ちた場所に向かう為に走り出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は馬鹿だ
最後の矢・・・・・奴を殺せたはずなのに。近距離からの狙撃、わざと矢に魔法を纏わせなかった。
相手のミスを誘った攻撃。エルミアは頭を狙って矢を射った。
けど、殺せなかった。狙いは外れて奴の右腕に刺さった。
私が殺すことを躊躇ったから一族が奴に殺されてしまう。家族が友人が仲間が・・・・・
エルミアは後悔した。そして呪った・・・・・自分の心の弱さを
足音が近付いて来る。木々の葉が風によって擦れる音と人間が近付いて来る音。
私はきっと殺されるだろう
・・・・・死にたくない
足音がエルミアの顔の近くで止まる。目から涙が零れる。エルミアは目を閉じた。
「・・・・・えっと、大丈夫か?」
と男性の声が聞こえた。
何を言ってるの?さっさと殺せばいいのに
「・・・・・頭打ったのかな」
などと呟いてエルミアの周りを行ったり来たりする。
「・・・・・・・・」
エルミアはそっと起き上がる。少年はエルミアのことを見つめる。
「・・・・・ころ――」
「・・・・・綺麗だ」
エルミアは驚いた。「殺せば」と言いかけたエルミアに対して、異種族なのにも関わらず、少年はエルミアのことを「綺麗」だと言った。
目の前にいる少年から今まで会った、どの人間とも違う何かを感じ取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハルトは目の前にいる少女――エルフの姿を見て驚いた。
薄い肌色、尖った耳、夏虫色の綺麗な髪に茶色のような金色の眼は輝いている。
顔は一言で言うなら「美しい」玲奈先輩といい勝負、いやもしかしたらそれ以上かもしれない。
緑色の薄手の長袖に緑の切れ目の入った少し短めのスカート。スカートから伸びる白い脚。脚には緑のタイツを身に付けている。
胸は結構大きめで、長袖は胸元が空いている。肩からケープを羽織っている。
そんなエルフを見て、ハルトは思わず「綺麗だ」と呟いてしまった。
「・・・・・そんなこと・・・・・貴方は私を殺しに来たんじゃないの?」
エルフの少女は小さく呟いた。
「・・・・・え?殺さないけど?」
とハルトが言うと少女は驚いた。
「・・・・・うそ!」
「・・・・・嘘じゃない!何か困っているなら話を聞くよ」
「・・・・・人間に話すことなんて・・・・・何も・・・・・ない」
明らかに困り果てている彼女の表情。
「俺は目の前で誰かが困っている時、手を差し伸べられる様な英雄になりたいんだ!だから君を見捨てたりはしない。話を聞くよ」
とハルトが言う。
エルフの少女はじっとハルトの目を見てある事に気が付く。
それは【囁きの加護(木)】が起きていないことである。
エルフ族や森に対して悪意のある者が森に入ると、森の中が騒がしくなり、木々が囁くのだ。風に葉を揺らして「奴は悪者、危険が迫っている」と囁く。
木々が目の前の人間に反応していない。森の中は静かなままだ。
エルフの少女は口を開く。
「・・・・・今日、人間の傭兵団がこの森にエルフを殺しに来るって情報を手に入れたんです」
「・・・・・傭兵団?」
確かに武器や防具がまとめ買いされて品数が少ないと話を聞いた。
異種族と人間の仲が悪いとも話を聞いた。
恐らく目の前の少女の話は本当だろう。全てを信じられる訳ではない
でも・・・・・
ハルトはどうするべきなのか迷った。ハルトは人間だ。ここで人間と戦ってもいいのか?
子供の頃、夢は英雄になりたいだった。その夢を思い出してなるべくその夢から外れないように行動してきた。
自分の中にある「正義」
それは自分が思い描く英雄の姿だ。困っている人を救け、人の為に働き、自分の命を賭けて誰かの為に闘う。弱い自分に打ち勝ち、自分を犠牲にする。誰かに出来ない事を成し遂げてそれでもひたすら闘い続ける。
ハルトの思い描く英雄の姿――ハルトの憧れる英雄。
終わりなどない。英雄は生涯最後まで諦めることなく誰かの為に立ち続けて闘い続ける。
英雄とは人智を超えた奇跡を起こす者である。
自分より他人のことを優先させる。
誰かの為に闘い、誰かを救う。
それが英雄だ。
・・・・・それならばハルトがとるべき行動は一つしかない
困っている人が目の前にいる。それもエルフで物凄く美人でプラス胸も大きい。
男なら救うべきは目の前の少女なのではないか?
英雄ならば困っている人を見て見ぬ振りをしない。見捨てたりしない。
「ごめんなさい。私は行かないといけないので」
エルフの少女が立ち上がる。服についた土を払って落とす。エルフの少女が立ち去ろうとした時ハルトがそれを止めた。
「・・・・・俺が、俺達がなんとかする」
「えっ?」
少女がその場に立ち尽くす。
「俺はハルトだ。よろしくな」
「・・・・・・・・エルミアです。よろしくお願いします」
少女は少し戸惑ってから口を開いた。
ハルトの正義。人も異種族も関係ない
ならば俺は・・・・・
少年、ハルトは闘う。目の前の少女――エルミアを救う為に
人間に・・・・・そう、人間に反抗するのだ。
異種族を救う為に人間を裏切る。
それがハルトの生き方だ。
・・・・・きっとこれがハルトの思い描く英雄になる為の正しい判断だと思っていた。
・・・・・・・・・・まだこの時は
と夏虫色のポニーテールのエルフの少女――エルミアはそう呟いた。
今、エルミアは矢を放って〈プーロ森林〉の方へ走って来ている者を殺そうとしている。
だが、その少年はエルミアの放った矢を剣で弾いて攻撃を防いでこちらに走って来ている。
尖った矢先に剣をタイミング良く当てて弾くなどもはや常人の域を超えている。
認めたくない。人族が自分たちエルフより優れていることなど・・・・・
「・・・・・絶対殺してやる」
と呟いて矢に風を纏わせて矢を射る。矢は風の魔法により加速して空気を切り裂き飛んで行く。
だがその少年はまた矢を弾いた。
しかも段々動きがアクロバティックになってきている。
・・・・・・・なら私の本当の力を
・・・・・・・エルフの力をなめないで!
エルミアは風の力を強めて矢を射る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
矢が飛んで来る。その矢を左斜め上に飛んで剣を右下から斜め上に斬り上げて弾く。
「はぁっ!」
金属音がなり、矢が減速してゆっくり地面に落ちていく。
ハルトは着地後、直ぐに地面を蹴って更に森までの距離を詰める。
また空気を切り裂くような音を耳が捉える。そして視界に飛んで来る矢を捉える。
・・・・・これは・・・・・オーバーミス?
と内心で呟く。飛んで来た矢はハルトの上をを軽く越えて後ろに飛んで行く。
もしかして、マレートやリゼッタたちを?
と思ったが、矢の勢いが足りていない。と思って無視する。
少し走った時、後ろで強い風が吹いた様な音がした。
ハルトは咄嗟に後ろを振り向く。
数秒前に狙いを外してハルトの上を飛んでいった矢が減速して地面に落ちる瞬間、風の回転で矢の向きが180度変わる。
矢先は完全にハルトの方を向いている。そして更に矢を纏っている風が強まり、矢は加速してハルトの頭めがけて飛んで来る。
ほんの数メートル後ろから矢が射られた様に矢は加速する。
「まじかっ」
とハルトは体を捻って体の向きを進行方向の逆に向ける。咄嗟に右腕を動かして剣を回転させて剣の腹、横の面で矢を受ける。
右手に衝撃を感じて、風の力で体ごと後方――森の方向へ数メートル吹き飛ばされる。
「うわっ」
と声が漏れる。
そのまま地面を転がる。
風で矢の軌道を変えやがった。この先にある森の方を向く。
ハルトは地面を蹴って加速する。また矢が飛んで来る。その矢はハルトより右前に大きくズレて落ちる。
が、またしても矢先が地面に接する瞬間矢が纏っている風が弾けて矢の向きが変わる。ハルトを真横から矢が襲う。
ハルトは体を捻って剣の腹で矢を受ける。数メートル左に吹き飛ぶ。
「っがっ!」
声が漏れる。
地面に体が落ちる。そしてその場所めがけて飛んで来る矢が2本。
  
ハルトは驚く。
動け!
と脳内で命令を出して飛び起きる。辛うじて2本矢を避けるが、その避けた先にも矢が1本飛んで来る。
その矢を避けることも剣で弾くことも出来ずに左肩に刺さる。
「ぐっ・・・・・」
と声が漏れる。左肩から血が流れる。
痛い。
が、痛みに耐えて矢を肩から引き抜く。
その矢を地面に投げ捨てる。
「クソかよ・・・・・」
思わず声が出てしまう。
また、矢が飛んで来る。今度は真っ直ぐにハルトの頭を狙って。
走り出してその矢を避ける。矢が地面を抉る。
また、矢が飛んで来る。次は左に大きくズレて・・・・・
そしてまたしても矢は地面に落ちる直前で向きを変える。右に軌道を変えて飛んで来る矢をハルトは左脚で地面を蹴って右に大きく飛ぶ。
ハルトから見て左側から真っ直ぐ飛んで来る矢をに対して右に大きく飛ぶ事で少し時間が生まれる。
そう。その矢に正確に反応する時間が・・・・・
左から迫る矢先を狙って剣を横にスイング。
剣の刃は矢先を捉えて弾く。着地して地面を蹴って走り出す。
これで左右からの攻撃は攻略。
また矢がオーバーで飛んで来る。ハルトは走り続ける。矢はハルトを越えて、地面に落ちる直前で方向を180度変える。迫る矢に対してハルトは体を捻って右回転斬りで矢先を弾く。
そこに矢が真っ直ぐ飛んで来る。左斜め上からの斬り下げで矢を弾く。
4連続で飛んで来る矢を水平斬り、右脚を踏み込んで右斜め斬り上げ、左脚を踏み込み左脚を軸に横に回転して前に大きく踏み込んで水平斬り、2歩踏み込んで背中から大きく垂直斬りで弾く。
1歩踏み込んで地面を蹴る。もう1歩更に踏み込んで地面を蹴る。
真っ直ぐに飛んで来る3本の矢を右脚を軸にしての回転斬り、水平斬り、左脚踏み込んでの斬り捨てで弾く
 
まだだ――
もっと・・・・・
もっと速く反応しろ・・・・・
視界は広く・・・・・素早く反応・・・・・動け、動け、動け、動け
飛んで来た矢はハルトより数メートル手前に落ちる。地面直前で風が弾けて矢がバウンドしたように矢の方向を変えて飛んで来る。
ハルトの脳裏にバウンドしたボールが浮かぶ。
直ぐに意識を切り替える。・・・・・反応!
左斜め下から剣を斜めの方向へ振り上げる。剣先で矢の側面を捉えて矢の軌道を変える。火花が散って、矢の刃が剣の刃を削っていく。
ハルトが軌道を変えた矢はそのままハルトの後方へ
〈プーロ森林〉まであと何メートルだろうか・・・・・恐らくもう100メートルを切っているだろう。
森の1番外側に立つ樹木の枝に人影を見つける。
「・・・・・アイツか」
と呟いて更に走る。
左右に分かれて2本の矢が放たれる。その矢は地面直前で風の力で直角に曲がると、ハルトめがけて飛んで来る。
右側から迫る矢を剣で弾く。左側の矢が腕に刺さる。
痛みを感じる。肉が貫かれ、血が溢れる。
それでも止まらない
目の前で放たれる3本の矢。1本目を垂直斬りで弾く。2本目の矢が右腹に刺さる。痛みを感じる。それでも勢いを止めずに走る。
3本目の矢を左脚で地面を蹴って右に避ける。体に刺さった矢を左手で引き抜いて捨てる。
約50メートル手前。
木の上から放たれた矢は風の力を纏っていなかった。これまでの矢とはスピードが異なっていてハルトは剣を水平に振るうが、タイミングがズレて振り切った後の右腕に刺さる。
「・・・・・ぐっ」
声が漏れる。
ハルトが更に近付いた所で木の上の人影は森の中に逃げる。枝から枝へ飛んで移動している。
ハルトも森の中に入る。数歩走った所で左脚で地面を蹴る。
体を捻って剣を左斜め下へ。それから「気」を纏わせて斜めに斬り上げて斬撃を飛ばす。
「気斬術・エアスラッシュ」を放つ。放たれた斬撃は木々を避けながら飛んでいき、人影が飛んで次の樹木の枝に着地する瞬間の枝を斬る。
「きゃぁぁぁぁぁ」
と女性の声が森に響きながら落下していく。
ハルトは人影が落ちた場所に向かう為に走り出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は馬鹿だ
最後の矢・・・・・奴を殺せたはずなのに。近距離からの狙撃、わざと矢に魔法を纏わせなかった。
相手のミスを誘った攻撃。エルミアは頭を狙って矢を射った。
けど、殺せなかった。狙いは外れて奴の右腕に刺さった。
私が殺すことを躊躇ったから一族が奴に殺されてしまう。家族が友人が仲間が・・・・・
エルミアは後悔した。そして呪った・・・・・自分の心の弱さを
足音が近付いて来る。木々の葉が風によって擦れる音と人間が近付いて来る音。
私はきっと殺されるだろう
・・・・・死にたくない
足音がエルミアの顔の近くで止まる。目から涙が零れる。エルミアは目を閉じた。
「・・・・・えっと、大丈夫か?」
と男性の声が聞こえた。
何を言ってるの?さっさと殺せばいいのに
「・・・・・頭打ったのかな」
などと呟いてエルミアの周りを行ったり来たりする。
「・・・・・・・・」
エルミアはそっと起き上がる。少年はエルミアのことを見つめる。
「・・・・・ころ――」
「・・・・・綺麗だ」
エルミアは驚いた。「殺せば」と言いかけたエルミアに対して、異種族なのにも関わらず、少年はエルミアのことを「綺麗」だと言った。
目の前にいる少年から今まで会った、どの人間とも違う何かを感じ取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハルトは目の前にいる少女――エルフの姿を見て驚いた。
薄い肌色、尖った耳、夏虫色の綺麗な髪に茶色のような金色の眼は輝いている。
顔は一言で言うなら「美しい」玲奈先輩といい勝負、いやもしかしたらそれ以上かもしれない。
緑色の薄手の長袖に緑の切れ目の入った少し短めのスカート。スカートから伸びる白い脚。脚には緑のタイツを身に付けている。
胸は結構大きめで、長袖は胸元が空いている。肩からケープを羽織っている。
そんなエルフを見て、ハルトは思わず「綺麗だ」と呟いてしまった。
「・・・・・そんなこと・・・・・貴方は私を殺しに来たんじゃないの?」
エルフの少女は小さく呟いた。
「・・・・・え?殺さないけど?」
とハルトが言うと少女は驚いた。
「・・・・・うそ!」
「・・・・・嘘じゃない!何か困っているなら話を聞くよ」
「・・・・・人間に話すことなんて・・・・・何も・・・・・ない」
明らかに困り果てている彼女の表情。
「俺は目の前で誰かが困っている時、手を差し伸べられる様な英雄になりたいんだ!だから君を見捨てたりはしない。話を聞くよ」
とハルトが言う。
エルフの少女はじっとハルトの目を見てある事に気が付く。
それは【囁きの加護(木)】が起きていないことである。
エルフ族や森に対して悪意のある者が森に入ると、森の中が騒がしくなり、木々が囁くのだ。風に葉を揺らして「奴は悪者、危険が迫っている」と囁く。
木々が目の前の人間に反応していない。森の中は静かなままだ。
エルフの少女は口を開く。
「・・・・・今日、人間の傭兵団がこの森にエルフを殺しに来るって情報を手に入れたんです」
「・・・・・傭兵団?」
確かに武器や防具がまとめ買いされて品数が少ないと話を聞いた。
異種族と人間の仲が悪いとも話を聞いた。
恐らく目の前の少女の話は本当だろう。全てを信じられる訳ではない
でも・・・・・
ハルトはどうするべきなのか迷った。ハルトは人間だ。ここで人間と戦ってもいいのか?
子供の頃、夢は英雄になりたいだった。その夢を思い出してなるべくその夢から外れないように行動してきた。
自分の中にある「正義」
それは自分が思い描く英雄の姿だ。困っている人を救け、人の為に働き、自分の命を賭けて誰かの為に闘う。弱い自分に打ち勝ち、自分を犠牲にする。誰かに出来ない事を成し遂げてそれでもひたすら闘い続ける。
ハルトの思い描く英雄の姿――ハルトの憧れる英雄。
終わりなどない。英雄は生涯最後まで諦めることなく誰かの為に立ち続けて闘い続ける。
英雄とは人智を超えた奇跡を起こす者である。
自分より他人のことを優先させる。
誰かの為に闘い、誰かを救う。
それが英雄だ。
・・・・・それならばハルトがとるべき行動は一つしかない
困っている人が目の前にいる。それもエルフで物凄く美人でプラス胸も大きい。
男なら救うべきは目の前の少女なのではないか?
英雄ならば困っている人を見て見ぬ振りをしない。見捨てたりしない。
「ごめんなさい。私は行かないといけないので」
エルフの少女が立ち上がる。服についた土を払って落とす。エルフの少女が立ち去ろうとした時ハルトがそれを止めた。
「・・・・・俺が、俺達がなんとかする」
「えっ?」
少女がその場に立ち尽くす。
「俺はハルトだ。よろしくな」
「・・・・・・・・エルミアです。よろしくお願いします」
少女は少し戸惑ってから口を開いた。
ハルトの正義。人も異種族も関係ない
ならば俺は・・・・・
少年、ハルトは闘う。目の前の少女――エルミアを救う為に
人間に・・・・・そう、人間に反抗するのだ。
異種族を救う為に人間を裏切る。
それがハルトの生き方だ。
・・・・・きっとこれがハルトの思い描く英雄になる為の正しい判断だと思っていた。
・・・・・・・・・・まだこの時は
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