終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

デート

「やっぱり右肩の傷も右手の火傷もなくなってるな」

ハルトは自分しかいない部屋の中で右肩と右手を確認して独り言を呟く。

どうやら異世界と現実世界を行き来することで負った傷を治すことが出来るらしい。だが、転移した時に精神的な痛みが襲ってくると。


なるほど・・・・・使える・・・・・のか?


と考えていると自分の空腹に気が付く。 

「腹減ったな」

独り言を呟いて部屋着のまま部屋から出る。宿から出て、人通りの多い通りを歩く。通りには屋台や、お洒落なカフェなど様々な店が並んでいる。少し歩き続けるとパン屋を見つけた。

パン屋で麺パン・・・・・細い麺を挟んだパンとクリームパンを購入する。


部屋に戻った後、麺パンを口に運ぶ。麺――トマトの様な味の麺をパンに挟んだ物だ。

次はクリームパン。クリームパンを1口噛じる。

「うっ・・・・・?!」

クリームが白い?!・・・・・ホイップクリームかよ!カスタードクリームが入ってるかと思っていたクリームパンはホイップクリームの入ったパンだった。

パンを食べ終わると扉を叩く音が部屋に響く。

扉を開けると目の前には金髪の少女――リゼッタが立っていた。

・・・・・?!
ハルトは驚いて声も出なかった。何故ならリゼッタの体に傷が見当たらなかったからだ。

「おはようございます」

「あ、うん。おはよう」

とリゼッタと挨拶を交わす。

「てか、体は大丈夫なのか?」

「あ、はい。私昔から傷が早く治る体質なんです」

ピンクのハートの模様が入った黒の半袖と膝の上まである赤と黒のチェックのスカート、足に黒タイツを身に付けてている。服から出ている手は傷がひとつもなく、白くて綺麗だった。

「ハルトも傷が見当たりませんが?肩の傷は結構深そうに見えましたけど?」

「あ、ああ。俺も傷が早く治るんだよ」

「そうなんですね。同じ体質なんて・・・・・運命のイタズラみたいですね」
 
「う、うん。そうだね」 

「そ、それで、今日はどうする予定ですか?」

「とりあえず酒場に集まりたいな」

と会話を続けて皆と酒場に集まる事にして、一緒に皆を探す為に宿を出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最初、リゼッタの王城へ向かった。

「なんかハルトに家を見られるのは恥ずかしいです」

「そうか?城なんだからそんな事ないんじゃないのか?」

「そういう問題ではないです」

と話しながら歩くと王城に着いた。

「・・・・・デカくない?めっちゃデカいんだけど」

目の前に建つ物凄く大きい城。ハルトは門の前で城を見上げていた。

「では、マレートを呼んできますね」

と言って門を通り過ぎて奥へと歩いていく。


少しすると、薄い白の花柄の服に膝まである青のスカートを履いた女性――マレートがリゼッタと一緒に出て来た。

首から白い三角巾で左腕を支えている。

「ハルト。肩は大丈夫なのか?」

「ああ。大丈夫だ」


その後、3人で酒場に向かう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

酒場は多くの人で賑わっていた。酒場にはラメトリアとアデルータの姿もあり、探す手間が省けた。空いているテーブルの椅子に座る。ラメトリアとアデルータもカウンターからテーブルの方に移ってくる。

ラメトリアはピンクの服に足首までのズボンを履いている。

アデルータは灰色の半袖に深い緑と青のミニスカートを身につけている。

「ギガントサウルス討伐の報酬として、100ゴールドを受け取った。1人20ゴールドでいいよな?」

そう言って100ゴールドの入った皮袋をテーブルの上に置く。

皆がそれぞれ20ゴールドを取っていき、残りの20ゴールドを手に取る。



「あの・・・・・」

アデルータが口を開いた。

「ん、どうしたの?」

「・・・・・私も仲間に入れて欲しい」

「・・・・・・・・・・いいぜ。いいに決まってるだろ」

「・・・・・また女性ですねー」

とリゼッタが愚痴を吐く。それを無視して

「これからよろしくな」

と手前に手を出す。その手をアデルータが取り、握手をする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

マレートの左腕が治るまで魔獣との戦闘は、なしになった。

暇だなー・・・・・どうしよう

と考えてると右肩を叩かれる。振り向くとアデルータが立っていた。

「今日、この後予定ありますか?」

「いや、無いけど」

「良かった」

「え?」

「あ、なんでもないです」

とアデルータは顔を赤くして、慌てて誤魔化す。

「・・・・・2人で出かけませんか?」

え?まじ?
今までの人生で女の子と二人っきりで出かけたことのないハルトは
正直焦った。

アデルータと・・・・・出かける?

・・・・・それって・・・・・・・・・もしかしてデート?!

「べ、別にいいけど」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


建物の陰からハルトとアデルータのやりとりを覗いている少女――リゼッタ。


「アデルータに先を越された」

独り言を呟く。

どうしよう。ハルトになんて声をかけようか迷っていたら・・・・・

少しだけアデルータとハルトのことを監視しよう!と自分に言い聞かせる。アデルータとハルトが並んで歩き出したのを確認して、バレないようにこっそり歩き出す。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アデルータと一緒に色々な店を回った。アイテム屋で足りなくなった物を調達したり、服屋でアデルータの私服を選ばされたり・・・・・

アクセサリーショップで可愛いハートのネックレスをアデルータにプレゼントした。

「ありがとうございます」

「いや、いいよ」

人生初デートにハルトも浮かれていた。デート中にハルトの腕にしがみついてくるアデルータ。腕に柔らかい感触が。

「ちょ、おいアデルータ・・・・・」

「いいじゃないですか。今だけは特別です」

他人から見たら本物のカップルにしか見えないよな。と思いながらアデルータと歩く。

確かにアデルータは可愛い。こんな子が彼女なら幸せだろう。

でも、ハルトには・・・・・

頭に浮かぶ2人の少女の顔。そこにアデルータも加わるとなると少し罪悪感が残る。


昼食を取るために少しお洒落なレストランに入る。ハルトはハンバーグオムライス、アデルータはミートとクリームの両方の味を楽しめるダブルスパゲティを注文した。

テーブルに運ばれて来た料理はどちらの料理も美味しそうだった。


「質問いいか?」

とハルトがアデルータに聞く。

「はい」

「前から気になってたんだけど、この世界って異種族っているんだよね?」

ハルトの質問を聞いた瞬間、アデルータの手が止まる。

「・・・・・はい、いますよ。リゼッタから聞きましたけど、本当に記憶がないんですね」

「・・・・・うん、そうなんだ」

皆に嘘をついている事にも罪悪感を感じる。

「人族は他の種族とは仲が悪いです。昔に戦争をしてから関係は崩れています」

「ふーん」

お互いに料理を食べ終わって、レストランからでる。


「ハルトさん。私、行ってみたい所があるんですけど・・・・・」

「ん?いいよ」

「ホントですか?ありがとうございます」

アデルータは嬉しそうに笑顔になって、ハルトの腕を引っ張る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アデルータに連れて来られた場所は若い男女が沢山いる少し大きい公園だった。緑が多くて、公園の中央に噴水がある。

公園のベンチには若い男女が一緒に座って会話を楽しんだり、公園の隣にあるクレープ屋のクレープを食べたりしている。

「・・・・・ここは?」

「えっと・・・・・」

アデルータは頬を赤くして喋ろうとしない。

まあ、いわゆるデートスポットってことか。


「・・・・・えっとクレープ食べる?」

「・・・・・はい」

アデルータの赤い顔を見ているとこっちも顔が赤くなってくる。

公園から出て、クレープ屋まで歩く。シークレットクレープ!中になにが入ってるかは誰も知らない・・・・・
と書いてある立て札が店の前に立っている。

クレープ屋でシークレットクレープを2つ買う。アデルータの所まで急ぎ足で戻って、クレープを1つ渡す。近くにあるベンチに腰を下ろして、色とりどりのフルーツにチョコと生クリームがかかったシークレットクレープにかぶりつく。

なし、バナナ、メロン、みかん、マンゴー・・・・・といった色んなフルーツの味が口の中に広がる。


クレープを食べ終わって、沈黙の時間が流れる。

気まずいなーと思って、何か話題を探していると

「今日はありがとうございます。ハルトさんは私の恩人です。ハルトさんがあの時来てくれなかったら、私は死んでたと思います。だから・・・・・だからいつでも私を頼ってください」

「・・・・・ああ、そうするよ」

とアデルータの顔を見て言った。

「・・・・・ハルトさんは私の英雄ですから」

その言葉を聞けたことが嬉しかった。忘れていた子供の時の夢。ただそれだけのはずなのに。

・・・・・何故か・・・・・何故か目から涙が頬を伝って落ちる。

「ありがとう」

目から溢れてくる涙。それを止められずに顔を逸らす。

自分でも今の心情を理解出来なかった。ただ、ずっとその言葉を聞きたかった。そんな気がする。

自分の目から零れ落ちたその涙の理由はまだ分からない


そう。それは未だ語られない
――追憶の物語

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