終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

討伐

森林の中を移動する5つの人影。

木々を避けながら進んでいく。

「この先にギガントサウルスがいます」
葉同士が擦れ合う音が響くなか、アデルータが口を開く。

「しっかし便利だなー。敵に近づくだけで反応があるなんて」
続いてハルトも口を開く。

「私も【鉄壁の加護】を持ってますが便利ですよ」
マレートがハルトに言う。

「どうやって手に入れるの?」

「簡単に言うと鍛練と経験ですね。私の場合は3年間、ひたすら盾で魔獣の攻撃を防ぐことで手に入れました」
ハルトの問にマレートが答える

「3年かー長いな。もっと簡単に手に入るやつとかないの?」

「簡単に手に入るやつはほぼ無いと思いますよ」
とラメトリアが口を開く。

「私も加護を身に付けたいです」
リゼッタも口を開いた。

話し合いながら進んで行くなかある地点で足を止める。...近い。物凄く。あと数分もしないうちに戦闘が始まることであろう。すこし緩んだ空気を5人それぞれが集中し直す。ハルトは少しだけ深い呼吸で心を落ち着かせる。

ざわざわ――と風が吹いて葉っぱ同士が擦れ合う。他の4人に視線で合図を送る。

「・・・行くぞ!」
そう言って鞘から剣を抜いて静かに1歩踏み出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何分歩いただろうか。木の陰から向こう側を覗く。奴は寝ていた。森の中でぐっすりと。猛獣の鼾が辺りに響く。隙だらけのそいつに近づこうとする魔獣はいない。辺りは不気味なほど静かだった。右眼から血が流れている。その他にも血が流れている箇所がいくつかある。先程アデルータとの戦闘で負った傷だろう。ハルトは4人に合図を送る。

そして音を立てぬ様に静かに移動する。ギガントサウルスとの距離は数十メートル。アデルータが銃口をギガントサウルスに向けて引金を引いた。

――ドン!
 銃音が静かな森の中に鳴り響いて銃弾がギガントサウルスの横っ腹に命中する。ギガントサウルスの閉じられていた両眼の内左眼だけが勢いよく開かれる。ギガントサウルスが体を起こして雄叫びをあげる。

グワァァァァァァァァァァ

「来るぞ!」
ハルトの声に反応してマレートが盾を自分の前に突き出す。ギガントサウルスが突進をして来る。辺りの木々を薙ぎ倒してマレートの盾に激突する。

「くっ」
衝撃にマレートが必死に堪える。ハルトはマレートの後ろから素早くギガントサウルスの右側に回り込み、剣を振るった。

ドン!と次の銃音が鳴る。ギガントサウルスの左脚から血が飛び散る。

「はああああああああああ」
リゼッタが木の陰から飛び出して来る。短剣を振りかざす。恐怖を叫び声で掻き消して一生懸命に短剣を振るう姿に目を奪われる。

ラメトリアも剣を抜いてギガントサウルスの側面から攻撃する。剣に「気」を纏わせて3連撃の攻撃を繰り出す。「3連続気斬術・バルリアサード」を。
水平斬り、右斜め斬り、回転してからの突き技。


ギガントサウルスは他の攻撃に耐えながら連続してマレートの盾に頭突きする。5回目の頭突きを受けたマレートが体制を崩す。 
「くっそ!」
それを狙ったかのように6回目の頭突きがマレートを盾ごと吹き飛ばした。

「マレート!」
リゼッタが叫んでマレートが飛んで行った方向へ走り出す。ギガントサウルスはリゼッタの方へ体の向きを変えた。

――まずい。

「危ない!リゼッター!」
ハルトは叫ぶ。その声にリゼッタが後ろに顔を向ける。ギガントサウルスの突進が迫っていた。

ドドドドドドド
と地鳴りが鳴り、リゼッタの姿が消えた。ギガントサウルスは数メートル走り終え頭を上に突き出した。その動作によりリゼッタの体が空高くに舞う。「あの高さから落ちたら死ぬ」そう考えた瞬間体が動いていた。

「行ってください。ハルト!」
ラメトリアが横から走って来る。ラメトリアはハルトの後ろで停止してギガントサウルスに向き直る。ギガントサウルスは遠ざかろうとするハルトを左眼で確認するとハルトを殺す為だけに走って来る。

「スピードが違いすぎる」
ハルトは叫んだ。それもそうだ。ギガントサウルスの1歩は人間の数十歩にも及ぶのだ。

「私が防ぎます」 
そうラメトリアの声が聞こえた。

仲間の危機を感じ取り、アデルータは急いで銃弾を銃にセットして銃口をギガントサウルスの脚に向けた。銃口から発射された銃弾はギガントサウルスの足元に飛んで行った。

「外したか」
小さく呟いてアデルータは走り出した。ギガントサウルスによって倒された樹木を飛んで避けながらギガントサウルスの後ろを追う。走りながら重い銃弾をセットする。そして火の魔力を込めるために詠唱を行う。



ギガントサウルスの走りを止めるためにラメトリアは目を閉じて詠唱を行っていた。今まで使っていたのは簡単な魔法で魔法名を言うだけで使える小さな魔法だった。大きな魔法を使う為には何節もある詠唱をしなければならない。ギガントサウルスの走る音がだんだんと近づいて来る。ラメトリアの足元に魔法陣が出来上がり、水色に輝く。
詠唱が終わり、ラメトリアは目を開けて腰を屈めて手を地面に付く。

「アイスウォール!」
ラメトリアが叫んだ瞬間地面から氷の壁が創り出される。ギガントサウルスは氷の壁直前で急停止する。


空高くに舞い上がったリゼッタの体は凄い速度で落下していた。リゼッタの体が地面に打ち付けられる前にハルトがリゼッタをタイミング良くキャッチする。

「リゼッタ・・・・・・リゼッタ!」
何度も呼びかける。リゼッタの首に手の指を当てて脈の確認をする。脈は速い間隔で動いていた。

「はあ、良かった」
意識は無いが、ちゃんと生きている。リゼッタは頭から血を流し、体中傷だらけ。そんなリゼッタを抱き抱えたままマレートの姿を探す。

「マレート!マレート!」

「はい。私はここです」
マレートの声が聞こえてきて走り寄る。マレートは地面に座ってる状態だった。

「マレート!」
マレートの姿を確認出来て安心する。

「ハルト。リゼッタ様は大丈夫か?」

「ああ。なんとかな。それよりマレートは?」

「私は恐らく左腕が折れている。着地するときに左腕を強くぶつけた」

マレートの体も見る限りにボロボロだ。色々な所の鎧がヒビ割れて剥がれている。ハルトはマレートの横にリゼッタを寝かせてポーチから薬草を取り出してマレートに渡した。

「ありがとう」

「ああ。それより、体が少し回復したらここから離れるんだ。いいな」
そう言い残してハルトは走り出す。残してきたラメトリアとアデルータも心配だ。2人の無事を祈りながら走る。



アデルータはやっとギガントサウルスに追い付く。氷の壁に阻まれたギガントサウルスに銃口を向けて引金を引いた。

「火炎弾!」
アデルータの銃から放たれた銃弾は赤く燃えながらギガントサウルスに直撃する。傷口から発火してギガントサウルスの傷口周辺が燃え出す。火は周りの木々に燃え移りながら広がっていく。

グワァァァァァァァァァァ

ギガントサウルスは叫びながら体制を崩して火を消す為に地面を転がり始めた。

「アデルータ!」
ラメトリアの声がしてラメトリアの姿を探す。ラメトリアは氷の壁から走り出てきた。


ギガントサウルスは鎮火を終えて起き上がる。

グワァァァァァァァァァァァァァァァァ

恐らくド怒りだろう。そこに更に攻撃が重なる。

「うおおおおおおお」
草むらから飛び出したハルトは剣をギガントサウルスの頭に突き刺す。

グワァァァァァァァァァァァァァァァァ

更に吼えたギガントサウルスは頭を振りハルトを落とす。剣ごと地面に落下したハルトは強く腰を打つ。

「痛っ」

「大丈夫ですか?」
ラメトリアが駆け寄ってくる。それを起き上がりながら片手で制す。ギガントサウルスは口を大きく開き炎を吐く。それを剣で払う。直撃は防いだが右手に火傷を負う。ギガントサウルスの右顎にアデルータの銃弾が命中する。

「はああああああ」
ラメトリアが叫びながら飛び出して剣に氷の魔力を込めた「氷剣術・アイスキル」をギガントサウルスの左胸に撃ち込む。ギガントサウルスが大きく仰け反る。

ハルトも痛みを我慢して剣を振るう。「二重気斬術・アーク」を発動して斬りつける。剣が肉を断ち、ギガントサウルスの血が飛び散る。

グワァァァァァァァァァァ

ギガントサウルスは口を開きハルトの右肩に食らいつく。右手の感覚が無くなり剣が地面に落ちる。

「ああああああああああああ」
喉の奥から叫びを発する。

「ハルトさん!」
「ハルト!」
アデルータとラメトリアが叫ぶ。


痛い。痛い。痛い

涙が溢れる。目を閉じて痛みに耐えようとする。痛みに負けてしまいそうだ。でも、

そうだ。負けたくない。ハルトは目を開いて、左腕を地面に伸ばす。アデルータが何発も銃を撃っている。ラメトリアが連続して剣を振るっているがギガントサウルスの力は弱まらない。左手で地面を探る。そして欲しかった物を見つける。左手で剣を拾い上げる。剣の刃が小指の方に来るように持ち替える。

痛い。痛い。

痛みに負けるな!自分にそう言い聞かせて左腕に力を入れる。

「ああああああああああ」
叫びながら左腕を動かす。そして剣をギガントサウルスの左眼に突き刺した。ギガントサウルスの力は弱まり右肩にくい込んだ牙が離れていく。

グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

今までに無いくらい大きく吼えた。尻餅を着いたハルトにラメトリアとアデルータが近づいてくる。

「大丈夫ですか?」
アデルータがそう言って薬草をハルトの右肩に押し付ける。

「ぐぁぁ!」
痛い。ハルトは叫んで恐る恐る右肩を見る。血が出ている。ドバドバと。痛い。痛い。こんな傷治るのか?と思いたくなるぐらい痛い。だがそんな事を頭から追い出して、痛みに耐えながら立ち上がろうとする。

「私が、・・・・・・・・・私が時間を稼ぎます。なのでアデルータさん。ハルトを連れて逃げて下さい」
ラメトリアが口を開く。

「・・・・・・嫌よ」

「なっ、我儘を聞いてる暇はありません!」
アデルータに拒否られてラメトリアが叫ぶ。

「誰かを失うぐらいなら私も死ぬわ」

「・・・・・・・・・」

「待てよ!お前ら正気か?」

「「はい」」
ハルトの問に2人のは笑って答えた。2人がギガントサウルスに向き直る。そして走り出した。2人の背中が遠ざかって行く。


走りながらラメトリアが剣を構える。アデルータは銃弾をセットする。アデルータは立ち止まり、銃口をまだ吼え続けているギガントサウルスに向ける。

――ドン!ギガントサウルスの右腹に銃弾が直撃する。ギガントサウルスは吼えるのを辞めてラメトリアの接近に気付く。そして体を勢いよく回転させて尻尾で辺りの木々を薙ぎ倒す。鞭と化したそれをラメトリアは姿勢を低くして避けて地面を蹴った。

「はああああああああああああ」
強く叫んで突く。剣先がギガントサウルスの皮膚に薄い横線を入れていく。肉が断たれて血が飛び出る。銃弾がギガントサウルスの左脚に命中する。ギガントサウルスの左眼にはまだ剣が深々と刺さっている。恐らく嗅覚に頼って攻撃しているだろうギガントサウルスは少しずつ反応が遅くなっていた。

ハルトはまだこの場を離れる事が出来なかった。仲間を置いて逃げることなど出来るはずが無い。ただただ仲間が目の前で傷つけられる事がないように、と祈っていた。

だが、ギガントサウルスの攻撃を避けながら近接戦闘をしているラメトリアが足場を崩して倒れ込む。急いで立ち上がろうとしたラメトリアにギガントサウルスの体当たりが直撃する。ラメトリアは数メートル吹き飛んだ。ラメトリアの剣が宙を舞い、ラメトリアから離れた場所に落ちる。


「クソ!」
アデルータはギガントサウルスの注意をラメトリアから自分に移す為に走り出した。ギガントサウルスに近付きながら攻撃する。ギガントサウルスは体の向きを変えながらアデルータに近づく。アデルータはギガントサウルスの突進を右に飛んで避けて地面を転がった。そして銃口をギガントサウルスに向けた。

「死ね!」
ドン!銃弾はギガントサウルスの左脚の付け根に命中したがギガントサウルスは倒れなかった。

「そんなっ」
アデルータは涙ぐんだ目を閉じた。失敗しちゃったよロン爺――ごめんなさい。心の中で謝った。そしたら目から涙が溢れてきた。そして待った自分が食われるその瞬間を。

――だがその瞬間は来なかった。

「まだだ。まだ終わってない!」
ハルトの声が聞こえて来た。アデルータは目を開いた。

ハルトが走っていた。ハルトは地面に落ちているラメトリアの剣を拾い、ギガントサウルスとアデルータの間に入り、ギガントサウルスの牙を剣で受け止めた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ハルトは叫んで踏ん張る。剣を持つ左腕に力を入れる。「ナサ流剣術」どうしてこの剣術を使えるのかは知らないが、今はこの剣術に頼るしかない。

そして、ギガントサウルスの頭を弾いた。その瞬間、ギガントサウルスの牙が1本折れる。「三重気斬術・ヴァーティカル」力強い縦斬りがギガントサウルスに直撃する。ギガントサウルスに縦一直線の大きな切り傷が付く。

グワァァァァァァァァァァ

ギガントサウルスの尻尾での薙ぎ払いを食らい、2人とも大きく吹き飛ぶ。ギガントサウルスが体の向きを直して歩いて来る。近づいてくる。

「まだ、倒せないのか・・・・・・」
ハルトが独りで呟いく。迫って来るギガントサウルスに恐怖を感じた。ギガントサウルスの足元に小さな雷が落ちる。

「ハルトさん!」

声のした方を見る。マレートが走って来ていた。そして、その横を走る人物を見て驚く。リゼッタが微笑みながらこっちを見ていた。リゼッタが走って来る。

「私が時間を稼ぎます。体制を立て直して!」
リゼッタが横を通り過ぎるとき確かにそう聞こえた。「諦めるな」と。

「怒槌よ、我が命に従え!雷光斬!」
マレートの剣が雷に包まれて光る。バチバチと音を発生させながらギガントサウルスを攻撃する。


「私に力を・・・・・・」
リゼッタの短剣に光が走る。光の粒子がリゼッタを包み込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
リゼッタは叫びながらギガントサウルスの右側面に回り込む。そして左脚を踏み込み、短剣でギガントサウルスに斬りかかる。「単発気斬術・月光斬」光を纏った短剣の半円の様に曲がった斬撃がギガントサウルスを襲う。

グワァァァァァァァァァァ

「あれは、光魔法?」
ハルトが驚きながら呟く。

「はい。リゼッタ様の家系は光魔法が得意なんですよ。でもリゼッタ様は気を扱うのが苦手でほとんど成功した事は無いですけどね」
マレートの説明に感心する。


ギガントサウルスの体当たりを食らいリゼッタは後方に吹き飛ばされる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
リゼッタが叫びながら樹に背中から激突する。

「リゼッタ!」
ハルトはリゼッタの方へ駆け寄ろうとするがマレートに阻止される。

「リゼッタ様は私に任せて下さい」
マレートの目を見る。強い覚悟の目だ。

「わかった」
ハルトは剣を握り、走り出す。ギガントサウルスがハルトに気付いて口を開く。

「アイスヒル!」

ギガントサウルスの右脚に深く氷の柱が突き刺さる。辺りに血が飛び散り、仰け反る。氷の柱が飛んで来た方を見るとラメトリアが木に体重を任せながら立っていた。体中ボロボロだ。

ハルトはラメトリアの視界を通り過ぎて、剣に「気」を込めた。刀身が青白く輝く。「5連続気斬術・ストライクル」
垂直斬り、斬り上げ、斜め斬り、水平斬り、斜め斬りの5連続技を撃ち込む為にギガントサウルスに近づく。ギガントサウルスは体制を立て直して走り出す。突進だ。今食らえば「ストライクル」は中止されて、剣を振るう余力は無くなるかもしれない。そうなれば意味するのは「全滅」だ。


ドン!銃声が響く。
ギガントサウルスの右顎に銃弾が命中して大きく仰け反る。

「ハルトさん!」
アデルータが銃を抱えて走って来ていた。アデルータの姿を見て微笑む。

「ラストアタック頼む!」
アデルータに向かって叫んで、ハルトは地面を蹴った。


これがラストチャンスだ――


ハルトはギガントサウルスの右側に回り込んで5連続技を撃ち込む。
1撃目――
2撃目――
3撃目――
4撃目――
そして全力を振り絞り、渾身の5撃目。

グワァァァァァァァァァァ

「アデルータ!」
ハルトが叫ぶ。もう余力は無い。

アデルータは既に準備を終えていた。銃口をギガントサウルスに向けて、火属性の魔力を込めて引金を引いた。

――ドン!
銃弾は炎に包まれてギガントサウルスに向かって飛んで行く。そして、ギガントサウルスの喉に命中する。血が辺りに飛び散り、体を崩した。

地鳴りが鳴り響いく。討伐成功の狼煙をあげる。


アデルータが涙を流しながら呟いた。

「・・・・・・・・・・・・ありがとう」

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