終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

グロース森林

傭兵になって3日が経った。

依頼で貯まったお金でまず下着を買った。それから宿で着る紺色の服と軽装の胸当ての鎧、膝当て、鎧の下に着るネズミ色の服を買った。軽装備で戦うスタイルでいこうと思う。武器屋で鉄の長剣を購入した。リゼッタとラメトリアも軽装備だ。ラメトリアは紫色の服の上に胸当てを付けているが、リゼッタは高級そうな白と黒の服を着ているだけだ。マレートは重装備の鎧を付けている。全身を覆う白の鎧に長剣、そしてハルトとの決闘の時には装備していなかった大きな盾を装備している。薬草などのアイテムを入れておくポーチと薬草を含めた薬を買う。


今日も魔獣を狩るためにギルドで依頼を受ける。

ギルドの中は色々な人で賑わっている。その大半は傭兵だろう。軽装備をしている。その他には依頼を申し込みに来た人だろうか。商業服を着ている人もいる。騎士と思われる重装備の人もギルドを出入りしている。

騎士は街や国を守る者達で重装甲をしている人が多い。武器は長剣と盾を装備している。傭兵はギルドで依頼を受けて、達成したら依頼人から報酬を貰う者達で軽装備をしている人が多い。武器は人それぞれだ。依頼の中には王族や貴族が依頼人のものもあるがそういった依頼は難易度が高い。でも報酬もいいものらしい。傭兵ギルドはひとつの国にひとつある。傭兵の証明書さえ提出すればどの国でも依頼を受ける事が出来る。

この世界はひとつの広大な大陸が大半を占めている。国や街、村が沢山ある。そしてこの世界を治めているのが〈センタリード〉と言う大陸の中心にある国だ。治めていると言っても世界の平和維持に貢献しているだけた。平和維持の為の決まり事などを決めている。傭兵ギルドのシステムも〈センタリード〉が決めたものだ。〈センタリード〉には王族がいない。そのため世界に実力を認められた12人の傭兵が国を治めている。〈センタリード〉の平和維持は魔獣に対するもので、国同士の争いごとはその国同士が解決しなければならない為、戦争は起きるらしい。

3日間で得る事が出来た情報はこんなものだ


「今日はどの依頼を受けますか?」
カウンターで座っている受付けの明るい赤茶色の団子縛りをした髪の女性が話しかけてきた。彼女はナルハさん。

「うーん・・・どうしよう」
キングピッグ討伐、ウーキパ10匹討伐、ゲルムリ30匹討伐、薬草の採取、貴重な鉱石発掘、遺跡調査、洞窟探検...

どの依頼を受けるか迷っていると、ギルド内にいる4人組のおっさん傭兵団の話し声が聞こえた。

「今年もこの時期だな」

「もうそんな時期か」

「今年はどこの傭兵団が討伐するんだろうなギガントサウルスを」

「やっぱりアデルータじゃねえか?」

「あいつはソロだろ」

「ギガントサウルス・・・?」
ハルトが聞き慣れない言葉を呟く。

「ギガントサウルス。この辺り一帯の魔獣のボスですね」
ハルトの呟きにリゼッタが答える。

「そうです。毎年この時期に現れて暴れる魔獣です。新人さん」
そう言いながらハルト達の方へ歩いてきた少し背の高い女性。頭からコートのフードを被って黒っぽい茶色の薄手の服を着て、赤とピンクのミニスカートを履き、青色の小さい薔薇が付いた黒のタイツをしている彼女はエリナ。〈オルティネシア〉の傭兵ギルドの隊長だ。綺麗な茶色の長い髪をしていて、前髪によって右目が隠れている。お姉さん系の女性で胸は結構デカイ。顔も物凄く美人でハルトの好みの女性だ。

「エリナさん」
ハルトがエリナを見て呟いた後エリナが笑った。

「報酬はどのくらい出るのですか?」
マレートがエリナに聞く。

「100ゴールド位だと思いますよ。」

「ひゃ、百ゴールド!?」
エリナの答えにハルトが驚く。

「その依頼、受けません?」
ラメトリアの提案に乗ろうとしたときエリナが口を開いた。

「ごめんなさい。先約が居るの」

「先約?」
リゼッタが首をかしげた時、ギルドに1人の女性が入ってきた。茶色に近い深い緑色のショートの髪に前で真ん中のボタン1つで止めた白のTシャツに首から明るい緑色のマントをかけて、右手に火縄銃を持っている。その女性はカウンターの前まで来るとナルハに依頼書を差し出す。

依頼の内容は『ギガントサウルスの討伐』

「これ行ってくる」
その女性が口を開く。少し低めの声だ。女性がエリナの方を見る。

「気を付けてね。アデルータ」
エリナが彼女にそう言って送り出す。彼女はそのまま歩いてギルドを出ていった。


「彼女はアデルータ。ソロの傭兵よ。彼女はね昔に自分の師匠を目の前で失っているの。彼女の師匠を殺したのはギガントサウルス。その年以来毎年この時期になるとこの依頼を受けるわ。でも1度も倒せた事はない。毎年ボロボロになって帰ってくる」

エリナの言葉を聞きながらハルトはずっと出口の方を眺めていた。
 


それからハルト達はウーキパ10匹討伐の依頼を受ける。ウーキパは猿の魔獣で、現実世界の猿より1回り大きい。手足が長く、爪も長く鋭い。オルティネシア王国の周りは平原になっていて、王国の北東方向に平原を進んで行くと〈グロース森林〉と言う森に突き当たる。ウーキパはこの森に生息していて、〈グロース森林〉を通る業者の馬をも殺して喰う狂暴な魔獣だ。

 ハルトは今日3匹目のウーキパに向かって剣を斜めに振り下ろす。嫌な感触の後にウーキパが崩れる。
 リゼッタは軽い身のこなしでウーキパの攻撃を避けて短剣でウーキパを斬る。
 マレートは盾で自分とリゼッタをウーキパの攻撃から守りながら長剣で攻撃している。
 ラメトリアは剣でウーキパの攻撃を受けながらウーキパを体ごと弾いて隙が出来たところを横に剣を振る。
  4匹目のウーキパが爪でハルトを攻撃しようと襲いかかって来る。ウーキパの攻撃を前転して避けた後、空気を裂く音が聞こえた。ハルトは体をひねって剣でウーキパを斬り殺す。剣がウーキパの骨を斬る鈍い音と共にウーキパの血が全身に降り注ぐ。


ウーキパ10匹討伐を達成して、剣を腰の鞘に収める。

「これくらい余裕ならもう少し難しい依頼に挑戦してみましょう」
ラメトリアが歩きながら近ずいて来る。

「私はリゼッタ様の安全が取れれば依頼の難易度は何でも構いません」
マレートも口を開く。

「私は全然大丈夫ですよ」
そう言ってリゼッタがハルトを見る。

「そうだな。次はもう少し難しくて、報酬もいいやつにしようか」
こんなに女子と話すなんて異世界に来るまで考える事が出来なかったと思いながらハルトが答える。


グワァァァァァァァァァァ

その時、森全体に魔獣の咆哮が響く。
4人が勢いよく両手で耳を塞ぐ。

声が聞こえなくなり、警戒態勢に入る。

「・・・今の声は?」
リゼッタの質問に対して地面が激しく震動する。

「恐らくギガントサウルスの叫び声でしょう」
ラメトリアの答えにもう1度咆哮が響く。

グワァァァァァァァァァァァァァァァ

「まさか、この森にいるのか?」
ハルトがラメトリアに問う。

「はい。恐らくは」
ラメトリアの返事は直ぐに返ってきた。

「この感じは只事では無いですよ」
マレートがそう言って身を低く構える。


ドドドドドドン―――
「きゃあぁぁぁ」

木が倒れるような音と共に大地が震動して、女性の悲鳴が鳴り響いた。

「いくぞ!」
そう言い捨ててハルトは走り出した。

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