終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

VS騎士

決闘は宿の庭で行われる事となった。
「オルティネシア王国第二王女近衛騎士団団長マレート」
白の鎧の女性がそう名乗った。

「・・・ハルトだ。」
名前の前に異名などを付けたかったがいいものが無かったので名前だけ名乗る。

「ではこれよりマレート対ハルトの試合を始めます。」
ラメトリアの合図と共にマレートが突っ込んでくる。マレートの攻撃を剣で受ける。
キン!鍔迫り合いになりハルトの剣がマレートの剣の威力を吸収して剣の威力を上げてマレートの剣を弾く。剣を弾かれてマレートの体制が崩れたところに一撃を入れる。マレートの白の鎧に傷が入る。

「まさか貴方は・・・・・・ナサ流剣術の使い手なのですか?」
マレートが訊ねてくる。
「どうやらそうみたいだな」
ハルトが答えた瞬間マレートが地面を蹴り、距離を詰めてきた。
「ならば手加減は要らないですね」
マレートの剣が「気」に包まれる。
「はあっ!」
マレートの横斬りをなんとか剣の腹で受けるが、マレートの剣の威力によって後方まで飛ばされる。

「重てぇ」
ハルトがそう呟いているとマレートが更に距離を詰めてくる。
この世界で「気」の攻撃を防ぐには「気」を使うしかない。ハルトは体に流れている「気」をイメージして剣に纏わせる。微弱な「気」が剣を包む。剣の周りの空間が歪む。薄い膜が剣の周りを包む。この空間の歪みこそが「気」なのだろう。
「はぁ!」
マレートの気合いの入った声と共に剣が縦に振り下ろされる。剣を横にしてマレートの攻撃を受ける。鍔迫り合いになり、ハルトの剣がマレートの剣を再び弾いた。

「はぁっ!」
「くっ・・・」 
マレートの口から声が漏れる。「攻撃するなら今しかない。」ハルトは剣を強く握りしめて「気」
を剣に纏わせる。刀身が青白く輝く。「気斬術・横斬り」を繰り出して剣を勢いよく横に振り切ろうとする。
「気」を纏った剣術をこの世界では「気斬術」と言うらしい。そのような話を何処かで聞いたことがある気がする。
剣がマレートの鎧を斬る瞬間マレートの鎧が一瞬光った。そして爆発音が鳴り、土煙が舞う。

ドゴゴゴゴ

ハルトの体は後方まで吹き飛んだ。何が起こったのか分からないがマレートには傷を付けることが出来なかった様だ。ハルトの体が地面に着く。ハルトは顔を上げてマレートの方を見る。土煙が晴れた先にはマレートが当然のように立っていた。

「すみません。これで終わりです。」
マレートはそう呟くと剣の構えを変えた。剣を顔の前で縦に構える。

「唸れ雷撃!」
マレートの剣が雷に包まれる。

「か、雷!?」
ハルトは驚きの声を上げる。

「はぁぁぁぁぁ!」
マレートが地面を蹴り、剣をハルトの目の前で振る。雷光が走りハルトの体に直撃する。

「ハルト!」
リゼッタが叫ぶ声が聞こえた。ハルトは膝を地面に付く。服は黒焦げになってしまっている。これが魔法の力なのだろうか...。

「どうやら貴方には魔法耐性がほぼ無いらしい。これ以上魔法を喰らえば死にますよ?ここで諦めて下さい」
マレートがハルトの側まで歩いて来てそう言う。

この世界で死んだらどうなるのだろうか...
ハルトはそんな事を考えながらマレートの声を聞いていた。
俺は死にたくない。
俺はこの世界で生きたい。傭兵をやってみたい。
リゼッタと生きたい。ラメトリアと生きたい。
だから...

「俺はこの世界で傭兵生活して過ごすんだ。だから、だから死ねない」

「だったらリゼッタ様のことは諦めなさい!」

「嫌だね」

「何故なのです。何故そこまでリゼッタ様にこだわるのですか?」

「女の子の前でかっこ悪い姿は見せられないからな」

どうしてだろう...現実世界では女子と仲良くなったことすらないのに。
「何故かこの世界では少しだけ強くなれそうだ」そんな事を思いながら立ち上がる。

自然の雷を喰らったら確実に死ぬ。でも魔法の雷は喰らっても死ななかった。

つまり魔法は多少喰らっても大丈夫!

「はああああああああああああ」
ハルトは叫び声を上げながら剣を腕ごと後ろに引く。

「無駄なことを・・・雷鳴斬!」
マレートの剣が雷に包まれ、剣の周りに雷と共に火花が散る。剣に纏った雷の雷鳴が轟きあまりの雷鳴に耳を防ぎたい欲求に駆られるがなんとか抑えて剣に「気」を集中させる。ハルトの剣が青白く輝き、「気」を纏う。「三重気斬術・アーク」剣を後ろから前に振る突進直線斬りを三重に重ねて放つ。

マレートの雷鳴を纏った剣とハルトの「気」を纏った剣が交錯する。

「くっぅぅ、ぁぁぁぁぁぁぁ」
剣の重さに思わず崩れそうになった姿勢を立て直して、声にならないほどの声を上げる。

火花が散り、キン!と音を立ててマレートの剣が折れる。折れた刀身が空を舞う。マレートの驚いた顔が見えた。ハルトは剣を振り切った姿勢からもう1度剣を振ろうとする。姿勢は完全に崩れるが、足を1歩踏み込み立て直して剣を振る。剣先がマレートの首に触れる寸前で止める。

「勝負有りだな」
ハルトはそう言って全身から力を抜く。

「・・・・・・参りました」
マレートはそう言って折れた剣を鞘に収める。

「この勝負、ハルトの勝利」
ラメトリアがそう言うとハルトも剣を鞘に収める。

「リゼッタ様の同行を認めましょう。国王様には私から言っておきます。それと一つ頼みがあります」

「ん?なに?」 

「私も同行させて下さい」

「なっ・・・」
「ちょっとマレート!?」
マレートの頼みにハルトとリゼッタが同時に驚く。

「私はリゼッタ様の側付きの騎士です。いかなる時でもリゼッタを守る事こそが私の使命です。リゼッタ様の側を離れることは出来ません」

「分かったわマレート。ハルト・・・」

「リゼッタがいいなら何も言わないさ。それでラメトリア、お前の傭兵団に入りたい。というか経験者がいないと色々と不安があると思うしな」

「・・・分かりました。私もソロで魔獣と戦うのは限界がありますから」
ラメトリアの承諾が取れたところでハルトは地面に倒れ込む。

「疲れたー」
そう言って寝転がるハルトを見て女性3人は思わず笑った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次の日、傭兵団を組むために傭兵ギルドに申請を出した。傭兵ギルドというのはこの国の傭兵団の集まりだ。この国の依頼をこのギルドで受けて達成すれば報酬が貰える。

依頼:キングピッグ10匹討伐  
  報酬:1000シルバー

この依頼を受ける為にカウンターで受け付けを済ます。

今日この日が俺の
異世界での傭兵生活の始まりだ

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