終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

剣の才能

目が覚める。今日は戦いの日だ。今日の昼に人身売買が行われる。俺はそれを止めなければならない。俺はベットから出て顔を洗う。宿から出るとリゼッタが外で待っていた。

「おはよう」

「おはようございます」

と挨拶を交わす。リゼッタにお金を出してもらい朝食を軽めにとる。本当にリゼッタには感謝しなければならない。俺は昨日男から奪った剣を握る。「俺は今日、また人を殺さなければならない」下を向きそう考えていた。

「もしかして緊張してますか?」

と前を向くとリゼッタの顔がものすごく近くにあり、危うく互いの唇が触れそうになる。慌てて離れる。
「びっくりした」

「その元気があるなら大丈夫ですね」

俺は何度彼女に助けてもらうのだろうか。
「ありがとな」

「えへへ。どういたしまして」

彼女が死んでしまうくらいなら、彼女の事を守れるなら俺は罰せられても大丈夫だ。悪い奴らを倒す。そう覚悟を決めた。直ぐに11時となった。ラメトリアと合流して人身売買の行われる建物に向う。馬を借りて、走る。慣れない乗り心地。だがしっくりくる。3頭の馬が平原を駆ける。


建物の近くに着き、馬から降りて慎重に進む。建物の裏口まで来る事に成功した。
「中に入ったら直ぐに戦闘になると思います」

とラメトリアが忠告する。
「行きましょう」

リゼッタの合図と共に中に突撃した。目の前に男が2人。おそらく2人とも30代後半だろう。

「なんだお前ら」 

2人のうちの1人が叫ぶ。その刹那ラメトリアが腰から剣を抜き、男を斬る。そして残りの男も斬った。

「人身売買はどこで行っているのでしょうか?」

リゼッタが首をかしげる。

「隣の部屋から物音がします」

ラメトリアがそう言い、隣の部屋の入口の前まで移動する。
「準備はいいですか?」

「ああ」

「はい」
リゼッタの質問に答えて突撃した。


中には男が30人はいるだろうか。結構な数の男達と、女の子達がいた。

「なんだこいつら」

男が喋る。

「あなた達を捕らえに来ました」

リゼッタがそう叫ぶ。一瞬の沈黙の後男達の間で笑いがおこる。

「おいおい」
「なんの冗談だよ」
「その人数でかよ!」

などといった声が聞こえてくる。

「そうだな。こいつら結構いい身体してるよな。奴隷としてもいい価値が付きそうだ。おじさん達が遊んだ後に奴隷にしてやるよ。捕らえろ」

その指示と共に男達が襲いかかってくる。俺は剣を腰の鞘から抜き、構える。そして男に斬りかかる。


いったい何人殺しただろうか。何人斬っただろうか。リゼッタは短剣で戦っている。斬りかかって来る男の剣をかわして、斬りつける。ラメトリアは素早い動きで次々に斬っていく。

「こいつら強え」
「たった3人なのに」

といった声が聞こえてくる。俺も相手の剣を弾いて、斬る。

「おやおや、これは何の騒ぎかな」

男にしては高めの声が聞こえてきた。奥から丸い男が歩いてくる。頭には青色のシルクハットを乗せている。
「まさか」
と声が出る。「そんなはずはない。だって、あの人は優しかった」目の前の現実を否定したい気持ちに駆られる。奥から出てきたのは俺がこの世界で最初に出会った男である。

「ヘルビさん?」

「これはこれは。まさかこんな所で会うなんて。縁が有りますね。そう言えばあの時言ってませんでしたね。私の名前はヘルビではなく、シルーベ。奴隷商人です。本当の名前を教える訳にはいきませんでしたので名前を偽ってしまいました」

「そいつは犯罪者として色々な国から追われている男です」

ラメトリアがそう叫ぶ。

「シルーベ。あんたを捕まえる」

俺はそう叫び、シルーベに突撃しようとした。

「サレージ!!」

シルーベが叫ぶ。するとシルーベの背後から大柄で黄緑色の坊主の男が1人飛び出してきた。服装は茶色のコートに黒いズボン。その男の縦斬りを剣を横にして受け止める。

「重いっ!」

その男の剣は重く、鋭い。

「サレージ?ハルトさん。そいつは殺し屋です」

ラメトリアがそう叫ぶ。

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

俺は叫びながら奴の剣を弾いた。

「こいつ」

サレージという男は驚いた表情をしながら笑った。

「お前まさかナサ流剣術の使い手か。」

「ナ...サ...?」

サレージの問の意味が分からなかった。

「知らないのか?英雄ナサ。この世界で本物の英雄と認められるにはいくつかの条件をクリアしなければならない。そして、この世界で一番最初に女として名を上げたのがナサという女だった。ナサはこの世界で7人目の大英雄として認められた。そのナサがどうして英雄になれたのか。それは奴の剣術にあった。奴の剣術は相手の剣術の威力を吸収して自分の剣の威力に上乗せするという剣術だったという」

「何そのチート的な剣術。悪いが俺は昨日初めて剣を握った。心当たりはないな」

「そうか残念だ」

サレージが剣を振り上げる。それを左斜め下からの斬撃で防ぐ。剣と剣が交じり合う。鋭い金属音が鳴る。重いサレージの剣が急に軽くなった。俺の剣が重くなり、サレージを剣ごと吹き飛ばす。
 
「やっぱりお前、俺の威力を上乗せしてるな。」
確かに剣が重くなった。錯覚ではない。今思えば昨日の戦闘の時も今日も剣で押し負けたことが無い。意識しなくてもナサ流剣術が使えるのだろうか。

「もしかして俺、剣術の才能があるのか?」
勉強もスポーツも平均より少し下の俺が?剣術を使えるのか?もしかして俺、最強の剣士とかそんな感じなのか?

「だから異世界転移したのか?」
独り言を呟いて、何かを確信した。

「どうやらそうらしいな。無意識だけど」
サレージの言葉に反応して、サレージに斬りかかる。

「無意識か。恐ろしいな」
サレージはそう言うと笑った。

「見せてやろう。俺の本当の力を」
サレージが剣を構える。すると剣の刀身が青白く輝いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
サレージが叫ぶ。

「なんだ?」
俺は意味も分からず、とにかく斬りかかる。

「気猛斬!」

サレージがそう言い放ち、剣を振った。剣と剣が交じり合った瞬間、吹き飛ばされたのは俺自身だった。
押し負けた?なんで?

「まさか気を使えるのですか?」
リゼッタが叫ぶ。

「まずい」
ラメトリアがこっちに走ってくる。それを数人の男達が防ごうとする。

「気?なんだそれ?」

俺の疑問に答えたのはサレージだった。
「やはり知らないらしいな。気とは誰の体にも流れているエナジー。ただ普段は眠っている状態だから普通の人間はその存在を感じること無く一生を終える。この世界において、気を使えることと使えないことには天と地ほどの差がある。まあ、騎士や傭兵は使えて当たり前だがな」

そんな力があったのか。

「つまり気の使えないお前では俺を倒せない訳だ。ということでさっさと死ね」
サレージの追撃。とっさに剣で防ぐ。が俺の体は更に吹き飛び、壁にぶつかる。嫌な音と共に剣にヒビが入った。

「クソ!」

サレージが歩いてくる。
「ハルトさん!」
「逃げて!ハルト!」
ラメトリアとリゼッタの声が聞こえる。
「じゃあな」
サレージが剣を振り上げ、振り下ろす。それを剣で必死に防いだ。途端剣が砕ける。そして一撃を左肩にくらう。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
血が飛び散る。痛い。剣が俺の肉を斬る感触。いや、痛みで感覚など無い。

死ぬ。痛い。死にたくない。痛い。痛い。痛い。
目に涙を浮かべながらサレージの腹に蹴りを入れた。サレージが数メートル吹き飛ぶ。俺はこの場から逃げようとして移動する。
痛みで立つことができない。地面を這いながら移動する。

「どこに行く?」
背後からサレージの声が聞こえた瞬間俺は殺気を感じて右に転がった。さっきまで俺が居たとこのに剣が振り下ろされる。俺は上半身を起こし、サレージに向き合った。サレージは次の攻撃に入ろうとしていた。とっさに手を伸ばしおそらく人身売買の男が使っていた剣を拾い上げる。そして気の纏った剣を受け止めようとするが、剣は砕け散り、俺はまた吹き飛ばされる。

嫌だ。死にたくない。
もう左肩は感覚がない。俺の血が止まることなく溢れ出る。体が寒くなってきた。
俺はこんな所で死ぬのか。死んだら元の世界に戻れるのかな?そんなことを考えながら、自分の死を待つ。直に振り下ろされるであろう剣を。
意識が遠くなる。視界が狭まる。
背後で金属音がしたような気がした。
音が遠ざかり、世界から切り離された暗い場所に俺は1人でいる。そんな感じがした。


「ハルト」
少女の声が聞こえる。何度も助けてもらった少女の声。結局、俺は彼女に何もしてあげられなかったな。
「ハルト!」
その声を最後に何も聞こえなくなった。

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