終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

作戦前夜

男3人に襲われていた少女を少女の家に帰し、何とか事が片付いた。リゼッタに誘われて、酒場に入る。
「俺10シルバーしか持ってない」
「いいよ。私が出すので」
男として情けないと思う。
「ありがとう」
「いえ」
適当に空いているテーブル席に座り、カタログを見て安心した。どうやら普通のジュースもあるらしい。それにジュースの名前が現実の世界と全く同じだった。彼女がオレンジジュースを注文し、ハルトはコーヒーを注文する。少しして注文した物がテーブルに運ばれて来る。コーヒーに少し砂糖をいれてから口に運んだ。リゼッタもオレンジジュースを飲む。
「ところで、ハルトは強いのですか?」
彼女が口を開いた。
「いや、弱いと思う」
「思う、とは?」
「記憶喪失なんだ。この国に来る前の記憶が無いんだ」
「それは大変ですね」
「さっき初めて剣を握ったし、っていうか俺人を殺しちまったけどあれは正当防衛だよな?」
「セイトウ...防衛?」
「ああ、罰せられたりしないよな?」
どうやらこの世界に正当防衛という言葉は無いらしい。
「はい。むこうが犯罪者なので」
「そうか。良かった」
とため息を付く。
「あの、さっきの男からいろいろと事情を聞き出したんですけど、明日の昼にこの国の辺境にある建物で大掛かりな人身売買があるらしいんです。良かったら協力して止めませんか?」
「別にいいけど。やることないし」
「ありがとうございます。でも圧倒的に戦力が足りませんよね」
「うん。そうだな」
「そこであそこの席に座っている彼女に声をかけたいんですけど」
リゼッタが指した方を見ると、水色の長い髪をした1人の少女がカウンター席で飲み物を飲んでいた。
「彼女はラメトリア。剣の腕は確かですよ。結構有名なソロ傭兵ですよ」
ラメトリアと呼ばれる少女の装備は鋼色の軽装で装備の下には青紫の服と青に赤のラインが入ったズボンを着ていて、腰に剣を1本携えていた。
「俺が行ってこようか?」
「お願いします。ナンパと間違われないようにしてくださいね」
「...面白い冗談だね」
と答えを返し、席を立つ。そしてラメトリアの座っている席まで歩く。
「あの、すいません。明日って空いてますか?」
「ナンパですか?」
「...違います。ちょっと頼みたいことがあって」
リゼッタが笑いを必死に堪えているのが分かった。今思えば現実の世界で女子と仲良くなった事がない。
「別に大丈夫ですよ」
ラメトリアを連れてリゼッタの座っている席に戻る。
「女の子を誘うの下手なんですね」
「...初めてだったんだよ」
顔を赤らめて答える。
「それでは本題に入りましょうか」
1通りの事情をラメトリアに説明し終えたリゼッタはひと息ついた。
「私達3人で止められるのですか?」
とラメトリアがリゼッタに聞く。
「向こうの人数が分からないし、騎士は戦争の事があって動いてくれないとおもう。明日の昼までに暇で強い人を集めるには限界があると思う」
「あなた達はどのくらい戦えるのですか?」
とラメトリアが聞いてくる。
「俺は今日初めて剣を握った」
「大丈夫なんですか?」
「まあ、今日2人倒していますから大丈夫ですよね?まあ、死んだらその人が弱かったって事でその人のせいですし」
「まあ、全力を尽くします」
フォローしてくれてるのか分からないリゼッタの言葉に呆れながら答える。

その後、明日の11時にこの酒場に集合することになった。リゼッタに少しお金を借りて、宿をとる。
「またお金を出してもらって悪いな。その内返すから」
「それって絶対に返さない人が言う言葉ですよね。まあ、大丈夫ですよ。私、結構お金を持ってるので」
「いや、ちゃんと返すから」
とツッコミを入れた後でリゼッタとラメトリアと別れる。

「明日また人を殺さないといけないのか」
宿のベットに寝転がりながら呟く。「死にたくない」そう決心して眠りにつく。

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