負け組だった俺と制限されたチートスキル
第二十五話 こちらの問題
アルトの手にはいつの間にか黄金の剣が握られていた。
金髪で金色の瞳を持つアルトにはお似合いの剣である、が俺の見た限りアルトが剣を隠し持っていた事実はなかった。それもあれほど輝いている剣をそう見逃すわけもない。
その間にも目で追うのがやっとのスピードで剣を打ち合っている二人。
俺が入る間はほんの少しも無かった。
施設を出た頃を思い出すと、結構浮かれていたことが分かる現実だ。こんなハイレベルの戦いに入ろうとも思えない。
世界は広いなぁ、何て他人事に考えてしまう程である。
しかし話はそう単純ではない。
本来なら勉強のために逐一観察し学ぶか、はたまた厄介ごとに関わる事にならないように逃げるかの二択を取っていた。だが今はその選択肢を簡単に取ることが出来ない。
勇者、その言葉が関わっている限り、俺はただ黙っている事など出来ないのだ。
しかしこの戦いの中には入れない。止めることなどもってのほかだ。
ではどうするか、そう問われても、何もする事がない、それが現状だった。
そう歯がゆい思いをしながら俺は目の前で行われている戦いを見ていた。
ふと、目の端にアルトが引き連れてきた男の集団が目に入る。
誰もかも目の前の戦いに目を奪われており、「あいつ何者だ?」「勇者様と互角に!?」なんて、呟いていた。そのことからやはりあの戦いはこの世界でも十分ハイレベルの戦いになるのだ。
それだけでも安心した。
もしこの戦いでもまだまだ本気じゃない、なんて言われていたら、きっと俺は自信をなくしていただろうから。
そんな感想を抱きつつ、その集団の中にある顔を見つける。
俺がこの世界で知っている顔など高が知れている。
「カイン……!」
憎きその名を吐き出す。
間違いなくあいつだ。
俺をあの地獄に入れた張本人。俺を希望から絶望に突き落とした男。
俺はすぐ傍で行われいる戦い、お構いなしに、ズカズカとカインの元へ歩み寄っていった。
今は身の安全よりも、目の前の男にしか注意がいかない。
そうして目の前にたどり着いた。
「何だ?」
カインはまだ俺が誰だか分かっていないようで、怪訝そうな顔で俺を睨む。
そりゃあ、黒髪、黒眼が赤く変色したのだから、すぐに分かるわけもないか。
「久しぶりだな」
「……誰だ」
一層眉間の皺が寄るカイン。
魔人族の知り合いなんてそういないと思うが、それでも数人ほどはいるのだろう。二度と返ってくることのない知り合いとして。
それにそもそもこいつはそういう役目も担っていたのだ。俺をそうしたように。
「コウスケだよ、覚えてないか?」
俺を俺として知られないまま殺すのも面白みに欠ける。
「コウスケ……だと?」
カインの顔つきが変わる。
この世界で日本の名前は珍しいはずだ。覚えていても不思議はない。
「ああ、覚えてないか?」
殺意を噛み締めながら言葉を紡いでいく。
今下手なことをされると、うっかり手が出そうなくらいには、興奮していた。
「あぁもちろん覚えているさ」
そんなカインの言葉。
続けて、
「あの間抜けな異世界人のことだろ?」
憎たらしい笑みを浮かべてそう言いきった。
ははは、変わらないな。
お陰でこっちも元通りになれそうだよ。
アルトのせいで腐りかけてた復讐心がな。
「ははは、正解だよ」
確かにあの頃の俺は間抜けで、愚かで、救いようのない馬鹿だった。
積極性に欠け、死を感じるだけで怖気づく。
そんな奴が復讐なんて大それたこと出来るわけがない。
「お前、本当にあのコウスケか?」
カインの目が訝しんでいた。
確かに疑うだろうよ。
自分でもこの変化には驚いているんだから。
「そうだなぁ、あのコウスケではないかもしれないなぁ」
「っち」
わざとらしい言い回しにカインが舌打ちを発する。
少しあの男に似てしまったのだけは、反省点だ。
「さて、話を進めましょう」
「なんだよ」
「カインさん、どうしてあなたはこんなところにいるんですか?」
恐らくとてつもなく冷めた笑みを浮かべて、俺はカインにそう言った。
かつての自分の口調を出来るだけ真似て。
「お前に関係あんのか?」
「俺に関係ないんですか?」
この里が魔人研究の共同体で、しかもカインがいるのであれば俺はかなり関係している。
「関係ねえっつってんだろ!」
ついには怒鳴りだした。
ありゃ、周りの人たちがあの戦いじゃなくてこっちに注目し始めちゃったよ。
「分かりましたよ、関係ありませんでした」
まあ正直どうでもいいことなので、引いておく。
「カノスガはどうした?」
次はこちらが質問する番とばかりにカインからそんな言葉を受けた。
自分は答えなかったくせに、他人には答えろというのか。なんとも勝手な奴だ。
「え? どうなったと思うんです?」
「……答えろ」
動物のように低い声を出して威嚇し告げるカイン。
「殺した、といって信じますか?」
「信じられないな」
「なら信じなくてもいいです」
俺はそう言ってゆっくりとあの黒い剣を鞘から抜く。
相変わらず不気味なほど真っ黒な剣身である。
すると見る見るうちにカインの表情が変わっていった。
「お前……なんでそれを!」
「カノスガさんも同じような事を言ってましたよ、死ぬ間際に」
「この、クソ野郎が!」
「そのままお返しします」
まさかカインにクソ野郎呼ばわりされるとは思ってなかった。
確かに俺は自分でも人間として最低ラインにいるとは思っているが、こいつ以下はないだろ……流石に。
「お前ら! こいつを殺せ!」
突然そう叫んだカイン。
初めは戸惑っていた男達だが、カインと俺を交互に見て、事情を察したのか、次第に手に持つ武器を構え始めた。
なるほど、あの男の情報どおり、この里は屑の集まりだったわけか。
あのアルトも含めて。
「はっ、謝るなら今のうちだぞ?」
強がりなのが見え見えだ。
明らかにあいつはこの剣を見て、ビビッている。実際に周りの男達を前線に出させ、自分は後ろに回っている。
つくづくクソな男だ。
まあそのお陰で心置きなく殺せるのだが。
「来いよ、ゴミ共」
剣を肩に担ぎ、子どもでも分かる挑発を言い放つ。
そうすると何と簡単に男達が釣れる釣れる。
初めに飛び掛ってきた男。そいつの武器は鎌だ。
まず剣と比べてリーチが違う。
こいつは突きで喉を貫き殺した。
次は左右から男二人。
一人は槍で、もう一人は確かフォークという農具。
どちらもリーチが長く厄介だが、まあ結果は分かるだろう。
俺は一歩下がる事でその二人の突きをギリギリで避けた。
目の前で交差する槍とフォーク。
俺はその二つを掴み、それぞれの進む方向へ押し込んだ。
見事に突き刺さる槍とフォーク。
二人して仲良く死んだ。
次は前後から。
今度はどちらも剣で、バランスが良い。
目の前の男が剣を振るった。
俺はその剣を黒剣で防ぎ、後ろからの攻撃は仕方なく左手の義手で防いだ。
当然痛いだ、致し方ない。
目の前の男、そいつは見る見る黒に侵略されていく自分の剣を見て怖気づき、後ろの男は、俺の腕が剣で斬れないことを見て戸惑っていた。
初めに後ろの男をそのまま左腕で殴り飛ばし、目の前の男は逃げたので追わない。
「こいつ……」
俺の見事な殺戮劇にカインが感想を漏らした。
それを賛辞としてありがたく受け取る。
「もう少しマシな奴はいないのか?」
それは挑発でも強がりでもなく本音だ。
あまりにも手応えがない。もちろんあの二人のような化け物ほどとは思っていない。だがそれでも同じ人として生を受けているのだから、もう少し生きる力は強いものとばかり思っていた。
しかし何だこれは。
弱い、脆い。
本当に俺はこんな雑魚どもにやられたのか?
甚だ疑問である。
「クソッ、お前らしっかりやりやがれ!」
呆れ。
しっかりやるもなにも、自分の命がかかっているのだから、不真面目にやつやつなんているわけもないのに、その支持はどうなんだ。
再び襲い掛かってくる有象無象。
剣で弾き、体で避け、拳で殴る。
剣で切り裂き、足で蹴り、義手で防ぐ。
出来うる限りのパターンを行使し、俺は文字通り蹂躙した。
「一体なんなんだよ……」
いつの間にか俺を見る視線が化け物を見るかのようなな視線に変わっていることに気づく。
おいおい、化け物なら俺じゃなくて、あそこでやっている奴らだろ。
と呆れながら状況確認。
しかし多いな。
結構やったつもりだが、まだまだいる。
さてどうするか。
普通に殺戮しても楽しくない。
だが下手に動いてミスをすれば、人数で圧倒的に劣るこちらが不利だ。
幸い今は俺が一人で数人殺した事で相手方の動揺の色が見られるため、優位に進められるだろうが……
俺はチラリとあの男とアルトの戦いを見た。
問題はあっちだ。
ちょくちょくだがアルトがこちらに参戦しようとしてきているのが先ほどから分かっていた。
その考えは到底理解できない。
何故他人のために自分の身の危険を負ってまで助けようと行動するのか。
もちろん得はあるだろう。しかし死んでしまっては何も残らないのだ。
それとも栄誉の死を望んでいるのだろうか。
俺にはアルトの意図がまるで分からなかった。
いくら俺が理解できなくても、現実としてそのような行動に出ようとしているアルトがいるという事実は変わらず、それは今、既の所であの男が邪魔をしているため、こちらアルトは入ってこられていないが、次第にあの男が押され始めているようにも見える。
気のせいだと思いたいが、実際剣のスペックが違うようにも見えるのだ。
アルトが使うのはあの黄金の剣。
見るからに高価そうで、格式も高そうだ。
対してあの男が使うのは、何の変哲もないただの鉄製の剣。
素人目でしか物は言えないが、見るからに普通の剣である。
丁度目の前で転がっている里の人の剣と比べても差し支えないくらいだ。
あいつ、自分の実力に驕って武器は雑に選んでたんじゃないだろうな。
可能性は無くはない。
現にあの剣はあの男の実力についていけていない気がするのだ。
ぶつかる何度目か分からない二人の剣。
けたたましい音。
しかし今度はそれだけでは済まなかった。
あの男の剣が折れたのだ。
金髪で金色の瞳を持つアルトにはお似合いの剣である、が俺の見た限りアルトが剣を隠し持っていた事実はなかった。それもあれほど輝いている剣をそう見逃すわけもない。
その間にも目で追うのがやっとのスピードで剣を打ち合っている二人。
俺が入る間はほんの少しも無かった。
施設を出た頃を思い出すと、結構浮かれていたことが分かる現実だ。こんなハイレベルの戦いに入ろうとも思えない。
世界は広いなぁ、何て他人事に考えてしまう程である。
しかし話はそう単純ではない。
本来なら勉強のために逐一観察し学ぶか、はたまた厄介ごとに関わる事にならないように逃げるかの二択を取っていた。だが今はその選択肢を簡単に取ることが出来ない。
勇者、その言葉が関わっている限り、俺はただ黙っている事など出来ないのだ。
しかしこの戦いの中には入れない。止めることなどもってのほかだ。
ではどうするか、そう問われても、何もする事がない、それが現状だった。
そう歯がゆい思いをしながら俺は目の前で行われている戦いを見ていた。
ふと、目の端にアルトが引き連れてきた男の集団が目に入る。
誰もかも目の前の戦いに目を奪われており、「あいつ何者だ?」「勇者様と互角に!?」なんて、呟いていた。そのことからやはりあの戦いはこの世界でも十分ハイレベルの戦いになるのだ。
それだけでも安心した。
もしこの戦いでもまだまだ本気じゃない、なんて言われていたら、きっと俺は自信をなくしていただろうから。
そんな感想を抱きつつ、その集団の中にある顔を見つける。
俺がこの世界で知っている顔など高が知れている。
「カイン……!」
憎きその名を吐き出す。
間違いなくあいつだ。
俺をあの地獄に入れた張本人。俺を希望から絶望に突き落とした男。
俺はすぐ傍で行われいる戦い、お構いなしに、ズカズカとカインの元へ歩み寄っていった。
今は身の安全よりも、目の前の男にしか注意がいかない。
そうして目の前にたどり着いた。
「何だ?」
カインはまだ俺が誰だか分かっていないようで、怪訝そうな顔で俺を睨む。
そりゃあ、黒髪、黒眼が赤く変色したのだから、すぐに分かるわけもないか。
「久しぶりだな」
「……誰だ」
一層眉間の皺が寄るカイン。
魔人族の知り合いなんてそういないと思うが、それでも数人ほどはいるのだろう。二度と返ってくることのない知り合いとして。
それにそもそもこいつはそういう役目も担っていたのだ。俺をそうしたように。
「コウスケだよ、覚えてないか?」
俺を俺として知られないまま殺すのも面白みに欠ける。
「コウスケ……だと?」
カインの顔つきが変わる。
この世界で日本の名前は珍しいはずだ。覚えていても不思議はない。
「ああ、覚えてないか?」
殺意を噛み締めながら言葉を紡いでいく。
今下手なことをされると、うっかり手が出そうなくらいには、興奮していた。
「あぁもちろん覚えているさ」
そんなカインの言葉。
続けて、
「あの間抜けな異世界人のことだろ?」
憎たらしい笑みを浮かべてそう言いきった。
ははは、変わらないな。
お陰でこっちも元通りになれそうだよ。
アルトのせいで腐りかけてた復讐心がな。
「ははは、正解だよ」
確かにあの頃の俺は間抜けで、愚かで、救いようのない馬鹿だった。
積極性に欠け、死を感じるだけで怖気づく。
そんな奴が復讐なんて大それたこと出来るわけがない。
「お前、本当にあのコウスケか?」
カインの目が訝しんでいた。
確かに疑うだろうよ。
自分でもこの変化には驚いているんだから。
「そうだなぁ、あのコウスケではないかもしれないなぁ」
「っち」
わざとらしい言い回しにカインが舌打ちを発する。
少しあの男に似てしまったのだけは、反省点だ。
「さて、話を進めましょう」
「なんだよ」
「カインさん、どうしてあなたはこんなところにいるんですか?」
恐らくとてつもなく冷めた笑みを浮かべて、俺はカインにそう言った。
かつての自分の口調を出来るだけ真似て。
「お前に関係あんのか?」
「俺に関係ないんですか?」
この里が魔人研究の共同体で、しかもカインがいるのであれば俺はかなり関係している。
「関係ねえっつってんだろ!」
ついには怒鳴りだした。
ありゃ、周りの人たちがあの戦いじゃなくてこっちに注目し始めちゃったよ。
「分かりましたよ、関係ありませんでした」
まあ正直どうでもいいことなので、引いておく。
「カノスガはどうした?」
次はこちらが質問する番とばかりにカインからそんな言葉を受けた。
自分は答えなかったくせに、他人には答えろというのか。なんとも勝手な奴だ。
「え? どうなったと思うんです?」
「……答えろ」
動物のように低い声を出して威嚇し告げるカイン。
「殺した、といって信じますか?」
「信じられないな」
「なら信じなくてもいいです」
俺はそう言ってゆっくりとあの黒い剣を鞘から抜く。
相変わらず不気味なほど真っ黒な剣身である。
すると見る見るうちにカインの表情が変わっていった。
「お前……なんでそれを!」
「カノスガさんも同じような事を言ってましたよ、死ぬ間際に」
「この、クソ野郎が!」
「そのままお返しします」
まさかカインにクソ野郎呼ばわりされるとは思ってなかった。
確かに俺は自分でも人間として最低ラインにいるとは思っているが、こいつ以下はないだろ……流石に。
「お前ら! こいつを殺せ!」
突然そう叫んだカイン。
初めは戸惑っていた男達だが、カインと俺を交互に見て、事情を察したのか、次第に手に持つ武器を構え始めた。
なるほど、あの男の情報どおり、この里は屑の集まりだったわけか。
あのアルトも含めて。
「はっ、謝るなら今のうちだぞ?」
強がりなのが見え見えだ。
明らかにあいつはこの剣を見て、ビビッている。実際に周りの男達を前線に出させ、自分は後ろに回っている。
つくづくクソな男だ。
まあそのお陰で心置きなく殺せるのだが。
「来いよ、ゴミ共」
剣を肩に担ぎ、子どもでも分かる挑発を言い放つ。
そうすると何と簡単に男達が釣れる釣れる。
初めに飛び掛ってきた男。そいつの武器は鎌だ。
まず剣と比べてリーチが違う。
こいつは突きで喉を貫き殺した。
次は左右から男二人。
一人は槍で、もう一人は確かフォークという農具。
どちらもリーチが長く厄介だが、まあ結果は分かるだろう。
俺は一歩下がる事でその二人の突きをギリギリで避けた。
目の前で交差する槍とフォーク。
俺はその二つを掴み、それぞれの進む方向へ押し込んだ。
見事に突き刺さる槍とフォーク。
二人して仲良く死んだ。
次は前後から。
今度はどちらも剣で、バランスが良い。
目の前の男が剣を振るった。
俺はその剣を黒剣で防ぎ、後ろからの攻撃は仕方なく左手の義手で防いだ。
当然痛いだ、致し方ない。
目の前の男、そいつは見る見る黒に侵略されていく自分の剣を見て怖気づき、後ろの男は、俺の腕が剣で斬れないことを見て戸惑っていた。
初めに後ろの男をそのまま左腕で殴り飛ばし、目の前の男は逃げたので追わない。
「こいつ……」
俺の見事な殺戮劇にカインが感想を漏らした。
それを賛辞としてありがたく受け取る。
「もう少しマシな奴はいないのか?」
それは挑発でも強がりでもなく本音だ。
あまりにも手応えがない。もちろんあの二人のような化け物ほどとは思っていない。だがそれでも同じ人として生を受けているのだから、もう少し生きる力は強いものとばかり思っていた。
しかし何だこれは。
弱い、脆い。
本当に俺はこんな雑魚どもにやられたのか?
甚だ疑問である。
「クソッ、お前らしっかりやりやがれ!」
呆れ。
しっかりやるもなにも、自分の命がかかっているのだから、不真面目にやつやつなんているわけもないのに、その支持はどうなんだ。
再び襲い掛かってくる有象無象。
剣で弾き、体で避け、拳で殴る。
剣で切り裂き、足で蹴り、義手で防ぐ。
出来うる限りのパターンを行使し、俺は文字通り蹂躙した。
「一体なんなんだよ……」
いつの間にか俺を見る視線が化け物を見るかのようなな視線に変わっていることに気づく。
おいおい、化け物なら俺じゃなくて、あそこでやっている奴らだろ。
と呆れながら状況確認。
しかし多いな。
結構やったつもりだが、まだまだいる。
さてどうするか。
普通に殺戮しても楽しくない。
だが下手に動いてミスをすれば、人数で圧倒的に劣るこちらが不利だ。
幸い今は俺が一人で数人殺した事で相手方の動揺の色が見られるため、優位に進められるだろうが……
俺はチラリとあの男とアルトの戦いを見た。
問題はあっちだ。
ちょくちょくだがアルトがこちらに参戦しようとしてきているのが先ほどから分かっていた。
その考えは到底理解できない。
何故他人のために自分の身の危険を負ってまで助けようと行動するのか。
もちろん得はあるだろう。しかし死んでしまっては何も残らないのだ。
それとも栄誉の死を望んでいるのだろうか。
俺にはアルトの意図がまるで分からなかった。
いくら俺が理解できなくても、現実としてそのような行動に出ようとしているアルトがいるという事実は変わらず、それは今、既の所であの男が邪魔をしているため、こちらアルトは入ってこられていないが、次第にあの男が押され始めているようにも見える。
気のせいだと思いたいが、実際剣のスペックが違うようにも見えるのだ。
アルトが使うのはあの黄金の剣。
見るからに高価そうで、格式も高そうだ。
対してあの男が使うのは、何の変哲もないただの鉄製の剣。
素人目でしか物は言えないが、見るからに普通の剣である。
丁度目の前で転がっている里の人の剣と比べても差し支えないくらいだ。
あいつ、自分の実力に驕って武器は雑に選んでたんじゃないだろうな。
可能性は無くはない。
現にあの剣はあの男の実力についていけていない気がするのだ。
ぶつかる何度目か分からない二人の剣。
けたたましい音。
しかし今度はそれだけでは済まなかった。
あの男の剣が折れたのだ。
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