負け組だった俺と制限されたチートスキル
第十一話 犬も歩けば棒に当たる
カノスガから分かれて数分ほど過ぎたころだろうか。
遠くで男の叫び声が聞こえて来た。
「はは、魔物の方か」
手に持った鍵をクルクル回しながら笑う。
もちろんカノスガの死に方を想像して、笑いがこみ上げていた。
自分でもそんな残虐なことを想像して笑うことに驚いているくらい、今の自分はどこか以前と違う気がした。
まあいまさら以前の弱い自分を思い出す必要も無いんだがな。
「後はカイン、お前だ」
次なる目標。
この状況を作り出した張本人であるカインを殺す、それが次の目標だ。
あの残酷な笑みを忘れることはないだろう。
俺に希望を見せておいて、絶望に突き落とすという所業を行った男。許せるわけがない。
しかし予定としてはカノスガに協力してもらいカインを呼び出すシナリオだったのだが、死んでしまったものは仕方が無い。
あいつに協力してもらわなくたって何とかなるさ。
そう思っていた。
体感として数時間。
恐らく半日くらいは経ったのではなかろうか。
だが今なお俺は森の中にいた。
というのも、今まで森の切れ目から見えていた建物がフェイクだったからだ。
それに気づいたのはそのフェイクの建物に着いたときだ。
事前に気づくことが出来なかったのは本当に残念でしかない。
俺の勘はまるで当てにならないな。
その建物は中身がないただの虚像だった。
腹が立つくらい精細に造られていただけのダミーだ。
そりゃあこんな魔物が多くいる森に研究所なんて立てないよなぁ。危ないという理由で。
「どこだよ……」
早速出鼻を挫かれた感じになった俺は思わず呟いた。
てっきり勇者までは届かなくても、カインまでならこのままさくさくと復讐をやり遂げられると思っていたのだが、やはり現実はそこまで甘くないみたいだ。
よし一端落ち着こう。
イラついていては見つかるものも見つからない。
俺は落ち着くために地べたに座り込んだ。
森であるからか、ジメジメした地面。あまり座り心地は良くなかった。
うん、返って鬱憤が溜まった。
俺はすぐさま立ち上がり地面を踏みつけた。
我ながら愚かな行為、そう思ったのだが、意外にもそれによってある一つの可能性に気が付くことができた。
「痛って」
地面が思ったより硬くて足の裏が痛かった。
当たり前のことだ。
「ん? 地面?」
あることに気が付いた俺は、すぐさま近くの木に登った。
まあ、小さい頃木登りが好きだったこともあり、中盤までは登ることが出来たが、それより先は勇気と技術が必要不可欠だった。
勇気はある、だが技術が足りない。
ならば力技で何とかしよう。
俺は半ば強引に木を登った。
登ってはズルズルと落ち、登ってはズルズルと、登ってはズルズル――
とまあ上手くはいかなかった。
そこで何が原因か、それを考えてみる。
そこで導き出された答えは、左腕だ。
こいつが重いことによって、バランスが取りにくいということに気が付いた。
だからといってロボットみたいにこの腕は取り外せない、なのでしばらく慣れるまで俺は木登りに挑戦し続けた。
そしてとうとう――
「うっしゃ!」
俺は木の頂点へと到着した。
言いようのない達成感。
俺でも出来るんだという気持ちにさせてくれる。
でも……違うのだ。
木に登ることをいつの間にかゴールにしてしまっていた。
だが違う、俺が木に登ろうと思ったのはある目的のためなのだ。
それは、
「やっぱり」
比較的高いところから、森全体を見渡すために。
そして案の定予想は的中した。
この森には森全体を監視するような高い建物がないことを。
つまり、先ほど気が付いた考えが正解である可能性が上がったということだ。
俺はせっかく登りきった木を惜しみながらも降りた。
降りることは、登るより簡単に出来た。
恐怖心を感じなければいいのだ。
生憎と今の俺に、落下死なんて恐怖は感じていない。
自分でも狂っていることには気が付いている。だがそうだとしてもその程度で恐怖を感じない自分がいることは確かだった。
「やっぱり地下だな」
そう俺が至った考えは、地下に施設があるのではないか。という考えだった。
だってどこにも建物の影が見えないのだ、そう考えるほうが合理的である。
もし魔法に透明にするものがあるなら話は変わるが、今はそれがあるかどうかも分からない。
なのでとりあえず地下に入れそうな場所を探そう。
俺はひとまず地面を歩いて彷徨った。
もちろんそんな事をしていると、目の前の注意がおろそかになり木々に頭をぶつける。
当然痛かったが、施設を見つけるためには仕方がない犠牲だ。
そう割り切ってなおも地面を見ながら俺は歩き続けた。
こうした地道な努力は嫌いじゃない。
まあ報われるかどうかは限らないけどな。
それから暗くなるまで俺は歩いた。
時々魔物に出くわしたものの、身体が健全である今なら逃げ切れられる。
戦っても良かったが、この後にカインと戦うことを考えるとあまり体力を消費するのは避けておきたかったので、逃げるに徹した、と思ったのだが、試しに一体という気分で俺は一体の魔物と対峙していた。
目の前の奴はおおかみ型の魔物。
敏捷性と共に獰猛であるので、拳が通じないイノシシ型の次に危険視していた個体である。
だけど何故か今は、そんな相手にすら余裕を感じている自分がいた。
「来い」
スッと拳を構える。
左腕は金属の義手。顎に入れば間違いなく首をへし折ることが出来るだろう。
「ガウオオオオッ」
思いのほか速い速度で魔物は俺の方へ飛びついてきた。
咄嗟に左腕で防ぐ。
ガンッ。
と魔物が俺の左腕に噛み付いた。
生憎とそこは義手。やつでも噛み砕くことは出来ない。
偶然とはいえ魔物が釣れたので、そのまま噛み付いた魔物の首に右腕を刺し込んだ。
ビクビクと痙攣する魔物。
再生されると厄介なので、そのまま首をへし折り絶命させた。
呆気ない幕切れだった。
その結末は俺に自信を与える。
過信はいけない。
今までの経験からそんなことは分かっているのだが、それにしても魔物を呆気なく倒せたことは、自分でも驚きだったのだ。
俺は思いのほか強くなったのかもしれない。
と思いあがるのも仕方がないほどに。
俺は忘れることなく魔物の肉を口にし、左腕の傷を治した。
そうしてもうそろそろ探すのにも飽きてきた頃、俺はある時思いついたスキル『鑑定』を色々な場所にかけてみよう、という作戦を実行していた。
まだスキルを使い続けることによる副作用もあまり分からないため、それの実験も兼ねていた。
すでに数箇所、鑑定を行っているが特に身体に異常は見られない。
だがこれで鑑定した場所が数えるのを面倒に感じてきたあたりから、鑑定を使うたびに目眩に似た感覚を覚えるようになる。
なるほど、これが副作用か。
俺は首を振って、その目眩を吹き飛ばす。
使うのはこれで最後にしよう。
そう思って、見つけたのが、大きな岩である。
場所的に、カノスガを置いてきたところと近い。
もしかすると……
あることを思いながら俺はその岩へと手を触れる。
触れた感じとしては何の変哲もない岩。
そこですかさず鑑定を行使する。
「『鑑定』」
グラリと視界が揺れるが、今は結果が重要だ。
名称 岩(研究施設入り口)
正解だった。
俺は再びくまなく岩を触って確かめる。
そこで見つけた。
小さな穴だ。
「ここでこれを……」
小さな穴、そこにカノスガから奪い取った鍵を差し入れてみる。
すると綺麗にその鍵は穴に吸い込まれ、途端に岩が振動しはじめ中から人一人入れるほどの空間が現れた。
ビンゴだ。
これが地下施設へ入る扉なのだろう。
「はぁ」
俺は一つ息を吐いた。
安心という意味もあるが、後悔の念もある。
だって、ここは探索し始めた場所に近いのだ。ならば最初からここに気が付いていれば、あれだけ探索することもなかったというもの。後悔しないわけがない。
だがまあ結果的には深夜を迎える前に、施設に入れたのだからよしとしよう。
俺はそう思いながら、岩から現れた空間へと足を踏み入れた。
まず現れたのは階段である。
そりゃあ地下に行くのだから、当然である。
しかしこれで確定した。これから先にあるのは、間違いなく地下施設であることが。
階段という人工物があるのがその証拠だ。
「よし」
待ち受ける困難を感じながら、俺はその脚を踏み出した。
遠くで男の叫び声が聞こえて来た。
「はは、魔物の方か」
手に持った鍵をクルクル回しながら笑う。
もちろんカノスガの死に方を想像して、笑いがこみ上げていた。
自分でもそんな残虐なことを想像して笑うことに驚いているくらい、今の自分はどこか以前と違う気がした。
まあいまさら以前の弱い自分を思い出す必要も無いんだがな。
「後はカイン、お前だ」
次なる目標。
この状況を作り出した張本人であるカインを殺す、それが次の目標だ。
あの残酷な笑みを忘れることはないだろう。
俺に希望を見せておいて、絶望に突き落とすという所業を行った男。許せるわけがない。
しかし予定としてはカノスガに協力してもらいカインを呼び出すシナリオだったのだが、死んでしまったものは仕方が無い。
あいつに協力してもらわなくたって何とかなるさ。
そう思っていた。
体感として数時間。
恐らく半日くらいは経ったのではなかろうか。
だが今なお俺は森の中にいた。
というのも、今まで森の切れ目から見えていた建物がフェイクだったからだ。
それに気づいたのはそのフェイクの建物に着いたときだ。
事前に気づくことが出来なかったのは本当に残念でしかない。
俺の勘はまるで当てにならないな。
その建物は中身がないただの虚像だった。
腹が立つくらい精細に造られていただけのダミーだ。
そりゃあこんな魔物が多くいる森に研究所なんて立てないよなぁ。危ないという理由で。
「どこだよ……」
早速出鼻を挫かれた感じになった俺は思わず呟いた。
てっきり勇者までは届かなくても、カインまでならこのままさくさくと復讐をやり遂げられると思っていたのだが、やはり現実はそこまで甘くないみたいだ。
よし一端落ち着こう。
イラついていては見つかるものも見つからない。
俺は落ち着くために地べたに座り込んだ。
森であるからか、ジメジメした地面。あまり座り心地は良くなかった。
うん、返って鬱憤が溜まった。
俺はすぐさま立ち上がり地面を踏みつけた。
我ながら愚かな行為、そう思ったのだが、意外にもそれによってある一つの可能性に気が付くことができた。
「痛って」
地面が思ったより硬くて足の裏が痛かった。
当たり前のことだ。
「ん? 地面?」
あることに気が付いた俺は、すぐさま近くの木に登った。
まあ、小さい頃木登りが好きだったこともあり、中盤までは登ることが出来たが、それより先は勇気と技術が必要不可欠だった。
勇気はある、だが技術が足りない。
ならば力技で何とかしよう。
俺は半ば強引に木を登った。
登ってはズルズルと落ち、登ってはズルズルと、登ってはズルズル――
とまあ上手くはいかなかった。
そこで何が原因か、それを考えてみる。
そこで導き出された答えは、左腕だ。
こいつが重いことによって、バランスが取りにくいということに気が付いた。
だからといってロボットみたいにこの腕は取り外せない、なのでしばらく慣れるまで俺は木登りに挑戦し続けた。
そしてとうとう――
「うっしゃ!」
俺は木の頂点へと到着した。
言いようのない達成感。
俺でも出来るんだという気持ちにさせてくれる。
でも……違うのだ。
木に登ることをいつの間にかゴールにしてしまっていた。
だが違う、俺が木に登ろうと思ったのはある目的のためなのだ。
それは、
「やっぱり」
比較的高いところから、森全体を見渡すために。
そして案の定予想は的中した。
この森には森全体を監視するような高い建物がないことを。
つまり、先ほど気が付いた考えが正解である可能性が上がったということだ。
俺はせっかく登りきった木を惜しみながらも降りた。
降りることは、登るより簡単に出来た。
恐怖心を感じなければいいのだ。
生憎と今の俺に、落下死なんて恐怖は感じていない。
自分でも狂っていることには気が付いている。だがそうだとしてもその程度で恐怖を感じない自分がいることは確かだった。
「やっぱり地下だな」
そう俺が至った考えは、地下に施設があるのではないか。という考えだった。
だってどこにも建物の影が見えないのだ、そう考えるほうが合理的である。
もし魔法に透明にするものがあるなら話は変わるが、今はそれがあるかどうかも分からない。
なのでとりあえず地下に入れそうな場所を探そう。
俺はひとまず地面を歩いて彷徨った。
もちろんそんな事をしていると、目の前の注意がおろそかになり木々に頭をぶつける。
当然痛かったが、施設を見つけるためには仕方がない犠牲だ。
そう割り切ってなおも地面を見ながら俺は歩き続けた。
こうした地道な努力は嫌いじゃない。
まあ報われるかどうかは限らないけどな。
それから暗くなるまで俺は歩いた。
時々魔物に出くわしたものの、身体が健全である今なら逃げ切れられる。
戦っても良かったが、この後にカインと戦うことを考えるとあまり体力を消費するのは避けておきたかったので、逃げるに徹した、と思ったのだが、試しに一体という気分で俺は一体の魔物と対峙していた。
目の前の奴はおおかみ型の魔物。
敏捷性と共に獰猛であるので、拳が通じないイノシシ型の次に危険視していた個体である。
だけど何故か今は、そんな相手にすら余裕を感じている自分がいた。
「来い」
スッと拳を構える。
左腕は金属の義手。顎に入れば間違いなく首をへし折ることが出来るだろう。
「ガウオオオオッ」
思いのほか速い速度で魔物は俺の方へ飛びついてきた。
咄嗟に左腕で防ぐ。
ガンッ。
と魔物が俺の左腕に噛み付いた。
生憎とそこは義手。やつでも噛み砕くことは出来ない。
偶然とはいえ魔物が釣れたので、そのまま噛み付いた魔物の首に右腕を刺し込んだ。
ビクビクと痙攣する魔物。
再生されると厄介なので、そのまま首をへし折り絶命させた。
呆気ない幕切れだった。
その結末は俺に自信を与える。
過信はいけない。
今までの経験からそんなことは分かっているのだが、それにしても魔物を呆気なく倒せたことは、自分でも驚きだったのだ。
俺は思いのほか強くなったのかもしれない。
と思いあがるのも仕方がないほどに。
俺は忘れることなく魔物の肉を口にし、左腕の傷を治した。
そうしてもうそろそろ探すのにも飽きてきた頃、俺はある時思いついたスキル『鑑定』を色々な場所にかけてみよう、という作戦を実行していた。
まだスキルを使い続けることによる副作用もあまり分からないため、それの実験も兼ねていた。
すでに数箇所、鑑定を行っているが特に身体に異常は見られない。
だがこれで鑑定した場所が数えるのを面倒に感じてきたあたりから、鑑定を使うたびに目眩に似た感覚を覚えるようになる。
なるほど、これが副作用か。
俺は首を振って、その目眩を吹き飛ばす。
使うのはこれで最後にしよう。
そう思って、見つけたのが、大きな岩である。
場所的に、カノスガを置いてきたところと近い。
もしかすると……
あることを思いながら俺はその岩へと手を触れる。
触れた感じとしては何の変哲もない岩。
そこですかさず鑑定を行使する。
「『鑑定』」
グラリと視界が揺れるが、今は結果が重要だ。
名称 岩(研究施設入り口)
正解だった。
俺は再びくまなく岩を触って確かめる。
そこで見つけた。
小さな穴だ。
「ここでこれを……」
小さな穴、そこにカノスガから奪い取った鍵を差し入れてみる。
すると綺麗にその鍵は穴に吸い込まれ、途端に岩が振動しはじめ中から人一人入れるほどの空間が現れた。
ビンゴだ。
これが地下施設へ入る扉なのだろう。
「はぁ」
俺は一つ息を吐いた。
安心という意味もあるが、後悔の念もある。
だって、ここは探索し始めた場所に近いのだ。ならば最初からここに気が付いていれば、あれだけ探索することもなかったというもの。後悔しないわけがない。
だがまあ結果的には深夜を迎える前に、施設に入れたのだからよしとしよう。
俺はそう思いながら、岩から現れた空間へと足を踏み入れた。
まず現れたのは階段である。
そりゃあ地下に行くのだから、当然である。
しかしこれで確定した。これから先にあるのは、間違いなく地下施設であることが。
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