負け組だった俺と制限されたチートスキル

根宮光拓

第六話 脱出劇

「俺の背に乗れ」

 カインはこちらに背を向け、腰を落とす。
 確かにこの状況ではそれ以外に選択肢はないのだが、まさか高校生にもなって背負われるとは思っても見なかった。

 少し気恥ずかしさがあり、若干の戸惑ったが、やはりここはそれしかなく俺は背に乗った。

「よし、さっさと脱出するぞ」
「あの、どうやって?」

 ここの監獄はかなり広い。
 それに俺を背負いながら、他の看守に見つからないで進むなんてほぼ不可能に思える。

「安心しろ、他にも潜り込んでいる奴らがいる」

 カインが言うにはどうやらこの監獄には他にも革命軍の人がいるようだ。さっきどこかへ行ったのも、その人と相談しに行ったのかもしれない。それを聞くと少しは安心した。
 それにしてもスパイにこうも容易く重要な施設を任せるなんて、この国の管理職はまともな審査をしていないらしい。さっさと潰れてしまえばいいのに。

 この国の連中に呆れを抱いていると、カインの足が止まった。
 耳を澄ますと、かなり近い距離で足音が聞こえてくる。今の所は壁を隔てているため、見られることはないだろうが、もしチラリとでも見られようものなら、即拘束され、さらなる罪を着せられること間違いない。

「仕方ねえか」

 カインがそう呟くのが聞こえた。
 そして決心したかのように、一つ息を吐き、カインは壁から飛び出し一直線の道を走り出す。

「安心しろ、俺には隠密のスキルがある」

 カインが小さな声で俺に告げる。

名前  カイン・ドルミム
スキル 隠密 調剤 聞耳 暗視

 真偽スキルで嘘は言っていないことは分かっていたが、確認の意を込めて、俺はカインのスキルを鑑定した。
 そこには見事なまでに、スパイとして働くに適したスキルが並んでいる。革命軍とやらの人材の使いどころは、スパイを意図もたやすく侵入させるこの国を軽く超えている。
 本当この国の底も知れるというものだ。

「よし、そろそろ合流地点だ」

 カインのスキルに関心している間に、脱出に関わってくれる仲間との目的地へと到着したようだ。一度たりとも姿を見られずにここまで来られるというのは、本当にすごいとしかいいようがない。

 しかしここはどこだ?

 早速到着した場所を確認すると、そこは地上というわけではなく、地下道への入り口と言った方が正しい。
 そしていくつかの鉄格子通り道を隔てるようにあった。

「ここから出られる」


 確かに今思えば、人の出入りが激しいであろう地上から出るなんて無謀にも程がある。それゆえの裏道というやつだろう。

「シンギル、そこか?」
「ああ、カイン、よく来たな」

 そこで待っていたのは、カインよりも若干小柄な男性だ。名はシンギルと言うらしい。
 念のために鑑定スキルを使ってみるも、

名前  シンギル・ガルノスト
スキル 隠蔽

 隠蔽スキルを持っていたため、見ることは不可能だった。
 そりゃあスパイ業をしているんだったら、隠蔽を持っていたって何らおかしくない。

「そいつが?」
「ああ、異世界人だとさ」
「そうか……良くやったな」

 シンギルがその髭の生えた顔で俺を覗き見る。

「手はずは?」
「万事良好だ、そうだな、代わりに俺がそいつを背負おうか?」
「そうだな……助かる」

 この会話に俺の入る余地はなく、為されるがままにシンギルの背へ移される。
 その後シンギルが地下道とこの施設を遮っていた鉄格子を開き、カインが様子見とばかりに先へ進んだ。

 暗闇の中突き進むカインの背を見ながらシンギルの背に乗る俺。

 完全にお荷物と化していて、とても居心地が悪い。
 でも今は人に頼らなくちゃ俺は何もできない。
 とてももどかしかった。

「そういえばシンギル、アインはどうした?」

 カインはそう何気ない質問をシンギルへ飛ばした。
 どうやら彼以外にも仲間がいるらしい。

「アインは、いつも通り任務を全うしてるはずだ【偽】」

 え?

「そうか、それならいいんだ」

 まて、今確かにスキルが……

 その疑念を抱いた直後、シンギルが歩みを進め、カインの傍まで近づいた。

 嫌な予感が込み上げる。

「あのシンギルさん」

 そこで俺は思い切ってシンギルへ声をかけた。

「何だ?」

 一瞬だけ、ピクッと体が反応し硬直するシンギル。
 しかしすぐさま何事もなかったかのようにこちらへ声を投げかけた。

「あの……」

 しまった、焦りのあまり話題も何も考えていなかった。

「無事に到着できますかね?」

 そんな俺の問いに、シンギルといつの間にかこちらを向いていたカインが怪訝そうな顔を作った。

 ああ……社交性はこちらの世界でも必須能力だったか。

 でも残念ながら俺がそれを磨くには環境が悪すぎた。
 それについては悔やんでも悔やみきれない。

「急に不安になったか?」

 変な質問を言った俺。だがそれでも優しい声をかけてくれたのはカインだ。

「あ……はい」
「そうだよな……まあ安心しな、俺はもちろんそのシンギルだってかなり強いんだ」

 カインは俺に笑顔を向けて励ましてくれた。
 だが今はそのシンギルが怪しい。
 その励ましはあまり俺の心の不安を晴らせてはくれなかった。

「俺たちが居れば目を瞑っていても脱出できるさ【偽】」

 ハハハと笑うカイン。

 スキルが発動したため、心臓が跳ね上がったが、今の会話の流れでは何もおかしなことはない。
 俺を励ますために嘘をついただけだ。

 一定の会話が終わり再び歩みを進める俺たち。

 今の俺ははっきり言ってお荷物だ。立てもしない役立たず。
 だが出来ることはある。


「シンギルさんはどうして王権に反抗を?」

 口は動くのだ。

「カインさんとは仲が良いんですか?」

 なら徹底的にシンギルの注意をこちらに引く。

「あの、これから行く場所ってどこなんですか?」

 何度も何度も。

「スパイ歴何年なんですか?」

 まあほとんどの質問は無視され、代わりにカインが答えていたが。

「えっと……」
「おい」


 そうして話題の引き出しが無くなったところで、とうとうシンギルから苛立った声が飛んできた。

「何を焦っている?」
「えっと……」

 もちろん本心を言うわけにもいかず、しどろもどろになる俺。
 それを聞いていたカインも不思議そうな顔でこちらをのぞき込んでいる。

 まずい、このままじゃ俺の方が怪しい奴になってる。

「不安で仕方なくて……」

 そう言い、あくまで貧弱キャラを演じ続けた。
 その言葉にシンギルは困った顔をし、カインと目を合わせる。

「そうだなぁ、シンギル、お前が先に行ってくれ。コウスケは現状最後尾だ、不安に感じるのも仕方ないだろう」
「……あ、ああ、そうだな」

 偶然だったが、カインが背後に回ることになった。シンギルは少し嫌そうな顔をしたが、ここで不審な動きをするわけにもいかないはずなので、素直に前へ進み出る。
 これならシンギルがカインを背後から襲うことは出来ない。

「……ふう」

 思わず安堵の息が大きく漏れる。
 その俺の呟きに、シンギルとカインが再度こちらに顔を向ける。
 そして何か気を使ったのか、シンギルがこちらに声をかけてきた。

「そうだカイン、さっき彼が言ってた質問に答えてあげればいい」
「質問?」
「何だ? 自分から質問しておいて忘れたのか?」
「あ、いや、覚えています」

 シンギルからの問いかけに、不審がられないように慌てて弁解する。

「これからどこに行くか? ですよね」
「ああそうだ」

 俺はホッと息を吐き、シンギルから話のバトンを受け取ったカインの言葉を待った。

「……とある酒場だよ【偽】」
「え?」
「どうした?」

 俺は慌てて口を結ぶ。

 俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
 本当の敵は……

「シンギルさん! 危ない」
「何? ぐあっ!」

 いつの間にか、目と鼻の先まで接近していたカインが、俺を背負っていたシンギルの肩に短剣を突き刺していた。
 倒れるシンギル。
 もちろん俺もそのまま倒れ込んだ。

「おいおいコウスケ、何で折角シンギルを殺れるチャンスだったってのに……」
「カインさん……」

 倒れ込んだ俺の頭上にあったカインの顔は、今までの表情とは打って変わって、ぎらついた目を見せる裏切り者の顔があった。

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