『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

50節

 ある平原の中にポツンと建っている城がある。その城は今は荒れ放題だが、誰かが定期的に掃除しているのか、気が付くと綺麗になっている。
 そして、その城から稀に笑い声が聞こえてくると言う。誰も住んでいないはずなのに、どこからか笑い声が聞こえてくると言うことで、そこは若者たちの度胸試しの定番の場所になっている。若者たちは声が聞こえるとその場所に行ってみることが多いのだが、行った彼らは誰かに殴られたのか、傷を負って帰ってくることが多い。しかし、誰も誰に殴られたのか覚えていないらしい。気絶でもさせてその間に放り出したのか?でも、それだと達人レベルの人ではないと出来ない。でも、そんなことをする人がこの街にいるのだろうか?
 裏庭の真ん中には墓らしきものが二つ立っている。そこには綺麗に咲いた花が見られる。誰かが置いたのか、墓の前には花束が置かれている。それに、木も、草も、綺麗に剪定されている。やはり誰かがここで何かしているのではないかと若者たちは言う。しかし、街の老人たちは、
「あそこに住んでいる奴はもう一人もおらん。だが、誰かが住んでいたことは確かだ。もしかしたらその人達の魂がこの世に未練を残してまだ彷徨っているのだろう」
と、言って若者たちを驚かしている。
 城の中には名前が書いてある部屋がある。『ヒイ』、『フウ・ミイ』、『ヨウ』、そして『ミナ』と。他にも名前が書かれた部屋があるのだが、その他の部屋の名前は誰かの悪戯で名前が削れている。その各部屋は綺麗に整頓されており、まるでさっきまで誰かが使っていたような雰囲気を醸し出している。その部屋を荒らしても次の日には、もう綺麗になっていると言う。
 城中の窓はピカピカに磨かれている。まるでさっき拭いたように。ひと昔前ではここを掃除していた人達がいたようだ。
 街の若者たちは知らないのだ。この城にいた、吸血鬼とその召使いたちの事を。街のある老人はこう言う。
「あそこは私が昔住んでいた城です。主は突然消えてしまい、二度と戻ってきませんでした。でもその主が帰ってくると信じて、最後まであそこを掃除し続けた女性がいます。その女性の名前は『ミナ』。主だった吸血鬼が愛し、愛された女性です。今となっては吸血鬼など、絵本の中にしか出てこない存在ですけど、昔はいたんですよ?」
 その老人の名前はヒイ。あの城の部屋に刻まれている名前と同じだ。彼女がそう言うのだから間違いないのだろう。
 彼女は老衰で、つい最近この世を去った。そして、あの城を知る者は誰もいなくなった。たった一人の男を除いては……

「……全く、また荒れているな」
 男はそう言って箒を持ち、部屋を掃除し始めた。もう誰も使ってはいない部屋だが、彼には思い出のある部屋なのだろう。
「……っとマジでこえー。何かいそうじゃん?」
「ちょっと止めてよ、ここはもう廃墟になっているはずでしょ。私たち以外誰もいないって」
「……またか」
 男はそう言って箒を片付けると、声のする方向へ向かって行った。そして、その声の主たちを殴って気絶させると城の外へ放り出した。
「やれやれ……これでは四六時中見張っていなければいけないな……」
 男はさっき持っていた箒をまた持ち、掃除を再開し始めた。各部屋を丁寧に掃除し、荒らされた絨毯や布団を縫った。
「これでしばらくは大丈夫だろう……」
 男は裏庭に出た。そして大きなはさみを使い、庭に咲いている花の茎や、木の枝を剪定し始めた。切った木の枝や、花が落ちる。それを掃除するのも彼の仕事だ。そして、周り全部を切った後、それらを掃除し始めた。空が暗く、前も満足に見えないが、彼には見えているのだろう。的確に木の枝を見つけてはある場所に回収している。
 全部回収し終えると、男はそれに火を点け、サツマイモを中に入れた。炎が辺りを照らす。
「……そろそろか……」
 男は出来上がったサツマイモを持って、一人で食べた。しかし、その量は多い。とてもじゃないが一人で食べきれる量ではない。男は自分の分だけの焼き芋を食べると、一つの墓に焼き芋を供えた。
「……お前も食うんだ……美味いぞ」
 墓に語り掛けるが、返事は返ってこない。それもそうだ。そこには死人しかいないのだから。しかし、気が付くと焼き芋はどこかに消えている。
「……主と一緒の方がよかったか……」
 そう言って墓にもう一つ焼き芋を供える。すると、また消えている。これは一体どういうことなのだろうか。だが、男はそれを不思議がらなかった。まるで当たり前のように残りの焼き芋を自分のカバンの中に入れた。
 そして、彼は城の門の側に立ち、今も見張っている。誰も来ないその城を……

「『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く