『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

46節

 私はミラを預け、お嬢様の元に戻った。
「ミラを預けてきたか?」
「はい、確かに」
「そうか、では行くぞ。もう後戻りは出来ん。死んでも後悔はするな」
「はい!」
「エリザ、奴らは今どこにいる?」
「ここから東へ二十五キロメートルと言ったところですね。今ならまだ街へ進行するのを食い止められます」
「そうか」
 お嬢様はそう言って私の手を掴むと地面を蹴り、すごい速さで走った。周りの建物や木が一瞬で見えなくなる。これがお嬢様が話していた吸血鬼の力……!私はそれに圧倒されていた。
 数分後、お嬢様が立ち止まった。
「ここだ、奴らが来る……!」
 目的の場所に着いたのだろう。私はお嬢様から譲り受けた不死殺しの剣を持った。久しぶりに剣を持つので、手が震えている。するとお嬢様は私の手に手を置いた。
「心配するな。必ず勝つ。ミラの為にお前の為に、皆の為に」
「はい!」
 しばらくすると、地平線の向こうで何かが動いた。それは……体の色が毒々しい色に変わっていた人……いや、人だったものだ。
「夜明けはまだ数時間後か……ミナ、その剣を思う存分振るえ。あいつらには効果的だ。何のためらいもなく、冷静に殺せ」
「わかりました」
 私が覚悟を決めるまで少し時間があった。この戦いに勝たなければ皆が死ぬ。それだけは避けなければ……!
 奴らが私たちの元へ近づいて来た時、私たちは動き出した。
 まずお嬢様が前列の屍をなぎ倒していく。それに続いて妹様も同じくなぎ倒していく。私はお嬢様たちの攻撃から外れた屍を斬った。肉が斬れる音、骨を断つ音。どれもが不快に感じた。でも、やらなければこちらが殺られる!
 お嬢様たちは順調に屍たちを殺していく。だが、その数は減ることがない。いくら倒しても次々に襲い掛かってくる。キリがない!
 すると、屍たちは動くのを止めた。何が起きているんだ……?お嬢様の方を見ると、お嬢様も妹様も止まっていた。そう……あいつがいたのだ。
「久しいな、カーミラ。そしてエリザ」
「また貴様と会うことになるとは思わなかったぞ」
「それはこちらも同じだ。お前に斬られた我が半身はもう動かん。その痛みをどれほどの間、耐えてきたか、貴様にわかるまい」
「ああ、わからんよ。お前が苦しんで死ぬことが私たちの願いだ」
「そうです、貴方はしてはいけないことをしてしまいました。もうすぐ、世界の均衡が崩れます。その前に貴方を倒します」
「ハッ!昔と変わらずカーミラと対象的な喋り方をするな、エリザ?カーミラも少しは見習え」
「誰が貴様の為に言葉遣いを変えるか。私は私らしく生き、そして死んでやる」
「そうです。貴方には関係のないことです。大人しく、この大地の栄養となりなさい」
「出来損ないどもが……!舐めた口をききやがって……!」
 父親の吸血鬼は怒りが頂点に達したのか、今までの貴族のような喋り方をしなくなった。
「お前達をぶっ殺す!たとえ我が怒りが届かなくてもお前達に最大級の苦しみを味合わせてやる!」
 そしてお嬢様と妹様、あの男の戦いが始まった。
 最初にお嬢様が爪で奴を斬る。だが、それは簡単にかわされてしまった。続いて妹様も同じく爪で攻撃する。避ける暇がなかったのか、妹様の爪はあいつの右腕に刺さった。しかし、
「馬鹿め!」
そう言って奴は妹様の爪を折った。
「ぐっ!」
 爪を折られた妹様は残った爪を使って距離を取った。だが、あいつには効いていないようだ。
「やはりこんなものか。半分人間が混じっているだけあって、動きも攻撃も遅い。何故私は前回お前に負けたのだろうな、カーミラァ?やはり、お前にはあの剣が必要だな。今なら取ってきても構わんぞ。私を殺せるものならな!?」
「その口を永遠に閉ざしてやろう。最後の言葉はそれでいいのか?」
「貴方はお姉様の力の前に屈したのです。それが理解出来ないとは……頭の中がおかしくなったのではないのですか?」
「ほざけ!」
 また攻撃が始まった。私の目ではよく見えないが、三人ともものすごい速さで攻撃を繰り出しては避ける、その繰り返しだと思う。
 戦いの激しさは増す一方だ。三人の攻撃で周りの屍たちが次々と倒れていく。戦いは私がいるところにも及んだ。
 私は間一髪で三人の攻撃をかわすと、そのすごさに圧倒されていた。吸血鬼同士の戦いはこんなに激しいものなのか……人間では勝てない。そう実感させられる。
 三人の動きが止まった。お互い爪で攻撃を弾いている。だが、お嬢様たちの爪はあの男に届いていない。
「ぬるいな。やはりお前たちは半端者だ。あの日、大人しく私に殺されておけばよかったものの」
「私たちは貴方に殺される為に産まれてきたのではありません。人間の暖かさ、化け物としての存在、そして世界の広さをこの目に焼き付ける為に産まれてきたのです!」
「ハッ!戯言を!」
 そしてまた戦いが始まった。今度は相手も本気になったのだろうか、戦いの速さが増している。お嬢様たちは何とか攻撃をかわしているが、それもいつまでもつか……
「どうした!?動きが遅くなってきたぞ!私を殺すのだろう!?」
「言われなくても楽にしてやる!」
 妹様が奴の顔に向かって爪で刺そうとした。しかし、それもかわされてしまった。
 そして、再び攻防戦が始まった。三人の戦いで巻き込まれた屍たちはもう立ち上がってこない。屍の数が減って来た。
 その時間、数十秒経った頃だろうか。周りの屍は綺麗に全て倒れた。あと残ったのは三人だけだ。
 油断したのか、お嬢様の体に傷がつく。そこから流れる血は辺りに飛び散った。妹様も同じ様に傷がついている。でも、あの男は絣傷一つ負っていない。
「楽しいがもう、そろそろ終わりにしよう」
 その言葉が聞こえた瞬間、妹様の腹に奴の左手が突き刺さった。妹様の口から血が出た。
「ぐほっ……!」
「エリザ!」
「ふん、あっけないものよ。やはり半端者だな」
「おのれ!」
 お嬢様は爪で奴の左腕を斬った。
「そんな攻撃が効くか!」
 奴の腕はすぐに治った。いや、再生した!
「この程度の傷も回復出来ないとは……やはりお前にはあの剣が必要だな?」
「そんなものいらん!」
「だが、そうしないと私は殺せんぞ?あの剣を持っているのはあの女か……?」
「ッ!」
 お嬢様の顔色が変わった。妹様は奴の手から必死に抜けようともがいている。だが、もがけばもがくほど妹様の腹に奴の腕が埋まっていく。
「エリザ、もう止めろ。無駄だ。お前はもう助からん。私に殺されたのだ」
「それでも……生きている間は……!」
「ふん、下らん」
 そう言って、吸血鬼は妹様を地面に放り投げた。腹から勢いよく奴の腕が抜ける。その間に妹様の血が勢いよく飛び出る。
「……ハァッ!」
 妹様はその場から動かなかった。動けなかったのだろうか。
「エリザ……!」
「お姉様……どうか……」
 妹様はそう言うと、もう喋らなかった。怒りに身を任せたお嬢様は奴の首を狙った。だが、避けられた。
「お前の攻撃は直線的だ。間合いさえわかれば簡単に避けれる。そんなこともわからずにこの私と戦っていたのか?」
「やかましい!」
 お嬢様は爪で奴の左腕を狙っている。だが、奴の腕には届かない。
「お前は言っても聞かない奴だったな。あの女のように」
「私をあの女と一緒に……するなぁ!」
 お嬢様の攻撃が奴の左腕に当たった。
「今だ!」
 爪で奴の手首を切断した。
「だからお前は半端者なのだ……」
「何!?」
 奴は再生した腕でお嬢様の腹を殴った。
「ぐはっ……!」
 お嬢様が大きく吹き飛ばされる。ここから五十メートルと言ったところか。
「さて……最後はお前だ……」
 奴はお嬢様を殺したと思って私に近づいてきた。後ろにいるお嬢様は何とか体制を立て直そうと必死になっているが、腹に受けたダメージが大きいのか中々立ち上がれなかった。私は剣を持った腕が震えていて満足に戦えない……絶対的な死が目の前にある……!

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