『ミナ』 ~吸血鬼に愛された人間~

しげぞうじいさん

36節

 しばらく経ったある日、ヒイさんから重大なことを告白された。皆食堂に集まってヒイさんからの話を待っていた。すると、食堂奥から一人の男性が現れた。
「皆さん、私たち結婚することにしました。大変身勝手なことだと思いますが、それでも私たちは一緒に暮らしたいのです。どうか、よろしくお願いします」
 そう言って二人は頭を下げた。
「よかったなヒイ!めでたいことだ!」
 お嬢様は拍手をして二人を祝った。それに続いて皆も拍手した。
「ありがとうございます」
「式は裏庭でやろう!あそこならちょうど花も咲いているころだ。祝いの場所にはうってつけだ!」
「そうですね、あそこなら場所も完璧です」
「よし、そうと決まったら李に剪定をさせよう。式はいつにするんだ?」
「それはまだ決めていなくて……」
 二人は嬉しそうに照れている。良かった、ヒイさん。幸せそうだ。
 それから李狼に門番の仕事より裏庭の剪定をやるようにとお嬢様が言い、李狼は裏庭の準備に取り掛かった。
 お嬢様は行動が早くて、式に必要なドレスも用意した。何でも旅していた頃に手に入れた貴重な物らしい。私たちに一度も見せたことが無いほど貴重な物をお嬢様はヒイさんの為に手入れをしていた。とても楽しそうに。
 式の準備は着々と進み、後は男性の家族や親戚、友達を呼ぶだけになった。呼びに行くのはお嬢様直々に行くことになった。私もそれに付いて行き、皆にお願いした。皆優しい人達だったので快く了承してくれた。
 そして式の当日、二人は結婚式にふさわしい服装に着替えて、裏庭に行くだけだ。ドレスの着付けはお嬢様自身がやってくださり、お嬢様曰く、
「あんな綺麗なもの、中々見れるもんじゃないぞ」
だと。よっぽど綺麗なんだろう。
 裏庭には先に新郎がスタンバイしていた。花嫁がいつ来るのか、皆ドキドキしながら待っていた。そしてついにヒイさんがやって来た。
 ……すごく綺麗だ。つい見惚れてしまうほどに。純白のドレスに黒髪がよく似合っている。お嬢様の着付けは完璧だった。まるでどこかの女神様を想像させるぐらいだった。
 ヒイさんが新郎の元にゆっくりと近づいていく間、皆ヒイさんに祝福の言葉を送っていた。
「ヒイさん、おめでとう!お幸せに!」
「末永くお幸せに!」
 祝福の言葉を受け取る度にヒイさんは嬉しそうな表情を浮かべている。皆に手を振って新郎の元に行った。神父の役はお嬢様が自分でやりたいと言ったので、お嬢様に任せることになった。
「あー、ゴホン。新郎、貴方はこの新婦を永遠に愛すると誓うか?」
「はい、誓います」
「では、新婦。貴女はこの新郎を永遠に支え続けることを誓うか?」
「はい、誓います」
「よろしい。では指輪の交換を」
 指輪?そんなもの用意していたっけ?でも、二人の手には指輪が握られている。きっとお嬢様が用意した物なのだろう。
 二人はお互いの指に指輪を通して、
「では誓いの口づけを」
そして、口づけを交わした。
 その瞬間、皆から盛大な拍手が送られた。拍手をと同時に祝いに言葉も。
「今ここに新たな夫婦が誕生した。これからどんな苦難があっても二人で乗り越えるように」
 そう言うとお嬢様は涙を流した。
「お嬢様、ここは泣くところじゃないですよ?」
「わかっている……だから嬉しいんだ……あんなに手がかかった自分の娘のような存在が自立していくのが……!」
 ヒイさんは泣いているお嬢様をなだめている。でも、その顔はとても嬉しそうだ。
 二人は裏庭からゆっくりと出て行った。それを私たちは見送り、最後まで祝福した。
 二人は街に住むことになり、式を終えたヒイさんは荷物を整理して、お嬢様に、
「今までありがとうございました。お嬢様のお蔭で私は今まで生きることが出来ました。この御恩は一生忘れません」
と言った。お嬢様は涙を浮かべながら、
「お前がいなくなると寂しくなる……だからたまにでいいからここに帰ってこい」
とヒイさんに言葉を送った。
 ヒイさんが出て行く間、お嬢様は泣くのを我慢していた。
「お嬢様、泣いていてはだめですよ。ちゃんと見送らないと」
「ああ……わかっている。でもな……自然に涙が出てくるんだよ……」
 ヒイさんは姿が見えなくなるまで手を振り続けた。私たちもヒイさんに手を振った。そして姿が街に溶け込むと、お嬢様は大泣きした。
「よかった~!ヒイが結婚して本当に良かった~!」
「私たちも嬉しいです……今度時間があるとき、ヒイさんの子供時代の事を教えてくださいね、お嬢様?」
「ああ!話してやるさ!私の気持ちが少しでもわかるようにな!」
 お嬢様はしばらく城の外で泣き続けた。城へ戻っても、お嬢様は部屋に籠り、泣いていた。その泣き声は城中に響き、私たちもつられて泣き出すほどに。

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